名著「失敗の本質」から学ぶ(総論)(全9回の1回目) #74

マネジメント

今回は名著で大ロングセラーの「失敗の本質」から学ぶというテーマでお話しします。

 ビジネスマンの間で長年にわたって人気のある本として「失敗の本質」という本があります。

 この本が出版されたのは1984年なので発刊からもう40年も経過しているわけですが、いまでも読み続けられている大ロングセラー本です。政界・経済界の有名人にはこの本を座右の書としている人も多くいます。例えば、現在東京都知事の小池氏もその一人です。

 とにかく有名な本なのでこのブログ読者の中にもすでにお読みの方も多いかもしれません。
 今回の記事では、この「失敗の本質」を読んで私が肝に銘じていることをご紹介します。なお、今回は「失敗の本質」の内容全体を紹介することを目的とはしていません。あくまでも本書を読んで私が個人的に教訓としていることを紹介することが主眼です。

「失敗の本質」はどんな狙いで書かれた本か?

 冒頭でも書いたとおり、今回の記事は「失敗の本質」という本の内容紹介を目的としたものではありません。それでもこの本がどんな狙いで書かれたのかという予備知識はあった方が今回の記事を理解しやすくなります。そこで、まずはその点を簡単に説明させてください。
 「失敗の本質」は、第二次世界大戦における日本軍の次の6つの戦いから敗因分析を行い、現代の組織にとっての教訓を導いた本です。
<「失敗の本質」で取り上げた6つの戦い>
 1.ノモンハン事件
 2.ミッドウェー作戦
 3.ガダルカナル作戦
 4.インパール作戦
 5.レイテ海戦
 6.沖縄戦

 太平洋戦争での各作戦の失敗について取り上げた本は本書以外にもあまたありますが、本書が類書と大きく異なるのは次の点にあります。

◆従来の戦史研究では、失敗の原因は当事者の誤判断や個々人の資質の問題といった個別的理由や、日本軍の物量的劣勢に求められた。しかしながら、問題は、そのような誤判断や資質の問題を許容した日本軍の組織的特性、物量的劣勢のもとで非現実的かつ無理な作戦を敢行せしめた組織的欠陥にこそあるのではないかとの問題認識を提示すること。

◆日本軍の作戦失敗例からその組織的欠陥や特性を析出し、組織としての日本軍の失敗に籠められたメッセージを現代的に解読すること

◆日本軍の失敗を現代の組織一般にとっての教訓として生かし、戦史上の失敗の現代的・今日的意義を探ろうとしたこと

 上記以外にも本書の次のような説明に着目すると、本書が多くの経済人に読まれている理由が分かるような気がします。

 なお、「失敗の本質」は次のような三章から成る本ですが、特に日本軍の組織的欠陥や特性を析出している第二章の記述が秀逸です。一つ一つの主張に「そうそう、うちの会社も同じことが起きているんだよね」という気持ちにさせられ、一気に読んでしまいます。
 一章 失敗の事例研究
 二章 失敗の本質-戦略・組織における日本軍の失敗の分析
 三章 失敗の教訓-日本軍の失敗の本質と今日的課題

 もちろん第一章で取り上げられている6つの事例について、このような悲惨な歴史があったこと、そして先人たちがこうした苦難を乗り越えてきたからこそ今の平和があることなどを知っておくべきであり、そういう意味では、現代の組織一般にとっての教訓を導くとかそういう次元とは別に、日本人であれば誰でも一度は読んで欲しい本です。

「失敗の本質」を読んで私が個人的に肝に銘じていること

 「失敗の本質」の宣伝文句を見ると「現代のあらゆる組織に向けて教訓が詰まった、今こそ読まれるべき1冊」とのフレーズが掲げられています。確かにこのフレーズは誇大ではなく、この本には教訓が詰まっています。その教訓は読者の置かれている立場や状況によっても異なりますし、必ずしも同じ感想を持つ必要はありません。ただし、ここで問題提起したいことがあります。読み終えた直後たくさんの教訓を感じたであろう読者がその後の実生活で本当にその教訓を生かしているのだろうかという点です。
 本書を読み終えた多くの人が「とても勉強になったよ」とか「興味深いことが書いてあった。とても参考になる本だね」との感想を抱くのは間違いのないところですが、そこで終わってしまってはあまりにもったいありません。読み終えた人がそれぞれの立場や状況の下で、教訓として受け止めたことを現在に生かしていかなければ、それぞれが抱えている組織の課題が良くならないと思うのです。そう言うと、「そういうお前はどうなんだ?」と問い質してみたくなるでしょう。その疑問にお応えする目的で今回の記事を書きました。

私が本書からの教訓とし仕事で肝に銘じているのは次の8つです。
①戦略と作戦目的に明確にした上で、その点の認識合わせを関係者間で徹底的にしておけ
②成り行きに任せるな(出たとこ勝負で戦うな)。必ず先の展開と最終ゴール(落とし所)を想定しておけ。
③精神論ではなく具体的な方法論を指示しろ。
④現場に丸投げするな。
⑤常に複数の選択肢を用意しておけ。
⑥チーム一丸で戦え。スタンドプレーは許すな。
⑦ 同じ失敗を繰り返すな(失敗から組織的に学べ)。
⑧危機での決断は「Yes」か「No」か迅速にしろ(時間との勝負)。

 以上8項目を図解化すると次のとおりです。

 今回の記事はここで終わりにするのですが、次回からは上記8項目について順に「失敗の本質」の中で説明されている関連フレーズや事例などをご紹介します。読者の中には「本の一部分だけを脈絡も分からず紹介してもらっても読む気がしないんだよね」という人もいるでしょう。そういう人は今回の記事で読むのを終了にして、上記8項目だけ参考にしてもらえればそれでOKです。

コーヒーブレイク

【「失敗の本質」の第二章で説明されている日本軍の失敗要因分析(戦略面と組織面)】
 今回の記事では詳細をご紹介しないのですが、「失敗の本質」の第二章で説明されている日本軍の失敗要因分析は何度でも読み返して欲しい内容になっています。戦略と組織の2つの側面に分けて米軍と対比するという形で分析されており、要約すると次のようになります。

出典)「失敗の本質」第2章の「表2-3」をもとにハットさんが若干改変

 上記を見ただけでは今一つピンとこないと思いますが、「失敗の本質」を第一章から丁寧に読んでいくと上記失敗要因のまとめ方にはとても共感できるはずです。詳細は本書をお読みいただくとして、それよりもここでご紹介したいのは次の説明です。

 注目して欲しいのは次の2点です。
①一つ一つの項目だけ見れば程度の差にすぎないこと
②しかし、一つ一つの特性が個々に無関係に存在するのではなく、それぞれの特性の間に一定の相互関係が存在すること

 この考え方はとても重要で応用が利きます。常に意識しておくべきです。
以上、「失敗の本質」の第二章のエッセンスをご紹介しました。

今回のまとめ

◆「失敗の本質」は教訓の宝庫で一度は読むべき本
◆「失敗の本質」を読んで教訓として私が肝に銘じているのは次の8つ
①戦略と作戦目的に明確にした上で、その点の認識合わせを関係者間で徹底的にしておけ
②成り行きに任せるな(出たとこ勝負で戦うな)。必ず先の展開と最終ゴール(落とし所)を想定しておけ。
③精神論ではなく具体的な方法論を指示しろ。
④現場に丸投げするな。
⑤常に複数の選択肢を用意しておけ。
⑥チーム一丸で戦え。スタンドプレーは許すな。
⑦ 同じ失敗を繰り返すな(失敗から組織的に学べ)。
⑧危機での決断は「Yes」か「No」か迅速にしろ(時間との勝負)。

おすすめ図書

「組織の盛衰-決定版」(堺屋太一)

 著者の堺屋氏は通産省を経たのち作家デビューし、経済企画庁長官も務めた人物です。本書のタイトルにもあるように、本書では、組織が生成から崩壊まで向かう過程を組織論の立場から研究し、組織の機能やこれからの組織を変革していく上で何が必要になるのかなどを論じています。
 本書では事例研究として「帝国陸海軍」の研究もしているのですが、堺屋氏はおそらく「失敗の本質」も参考にしたと思われます(ただしこれは私の勝手な推測です)。堺屋氏が日本軍の失敗要因として指摘している内容は「失敗の要因」で説明されている内容とほぼ同じなのですが、堺屋氏の説明の方がさすが作家だけあって「失敗の本質」よりも分かりやすくなっています。そのため、「失敗の本質」を読む前に堺屋氏のこの本を読んでおくと理解がスムーズになるという意味で今回推薦図書に挙げました。ちなみに、堺屋氏が指摘する日本軍の失敗要因を私なりに要約すると次のようになります。
【日本軍の失敗要因】
①成功体験への埋没
②環境へ過剰適応した結果、環境変化へ不適応となる
③内向き志向となり内部だけの多数意見(有力意見)が正義正解となる。その結果として創造性の拒否又は排除に繋がる
④外部の人材を排除した仲間意識。その結果、不適材不適所と情報の内部秘匿が起こる。
⑤個人の有能さが全体の害になり、結果としての総花主義(集中が不可能)になる。
⑥組織の揺らぎの欠如

 参考として、本書の説明がこんな感じで分かりやすいということを2つだけ紹介しておきます。

 本書には、日本陸海軍以外にも、豊臣秀吉や日本石炭産業のことなども事例として挙げており、組織改革・変革に興味のある方にはとても有益な指摘がされています。出版時期こそ古い本にはなりますが、著者の指摘は今でも古びていません。

https://amzn.to/4a2x3vb

「『失敗の本質』と戦略思想-孫氏・クラウゼヴィッツで読み解く日本軍の敗因」(西田陽一、杉之尾宜生)

 本書は「失敗の本質」の共著者の一人だった杉之尾氏が西田氏と共同で執筆した本です。杉之尾氏は本書の執筆意義を次のように書いています。

 オリジナルの「失敗の本質」が一貫して組織論の視点からアプローチしていましたが、本書は戦争の作戦面という視点でアプローチしています。そういう点において、今まで戦史研究の本に馴染んできた人にとってはむしろ本書のアプローチの方が違和感はないでしょう。分析にあたっては次のような考え方を根底に持っており、一方的に決めつけない慎重な姿勢に好感を持てます。

 いずれにしても「失敗の本質」読了後に、さらに深く研究したいという方には本書をお勧めいたします。

https://amzn.to/4cCmi4g

「『失敗の本質』を語る なぜ戦史に学ぶのか」(野中郁次郎、聞き手・前田裕之)

 本書は「失敗の本質」の共著者の一人である野中郁次郎氏に対するインタビューをまとめた本ですが、そういう意味でとても分かりやすいです。おまけに「失敗の本質」以降の野中氏の研究も語られているので、この一冊で野中氏の研究を概説的に知ることができます。
 本書の「はじめに」では、聞き手の前田氏が次のように書いています。

 とにかく簡単に読める本なので、「失敗の本質」とそれ以降の野中氏の研究成果を学ぶ際の入門書として最適です。

https://amzn.to/3TTMuA3

「失敗の本質 戦場のリーダーシップ篇」(野中郁次郎(編著))

 本書では、書名タイトルにもあるとおり一貫してリーダーシップという観点で分析がされています。本書の結論をものすごく大雑把に言えば、「リーダーは、個別具体の物事や背後にある複雑な関係性を見極めながら、社会の共通善の実現のために、適切な判断をすばやく下しつつ、みずからも的確な行動を取ることができる「実践知」を備えていないとダメだよね(なお、このようなリーダーのことを野中氏は「フロネティック・リーダー」と呼んでいます)」。そして、「日本には、そんなフロネティック・リーダーは基本的に今も昔も不在だよね」ということです。
 ちなみに、東日本大震災に付随して発生した福島第一原発事故のときの官邸の対応についても次のように一刀両断にされています。

 上記以外にも色々な個人名が挙げられてリーダーシップのダメさ加減が指摘されています。例えば、山本五十六なども「及第点はとてもつけられない」と切り捨てられています。
 いずれにしても、「人の振り見て我が振り直せ」ではないですが、他人事ではなく自分事として真剣に教訓にしなければいけないと痛感させられます。次代を担う若い方に読んで欲しい本です。

https://amzn.to/3IWUNF9
ハットさん
ハットさん

これから全9回のシリーズで「失敗の本質」という本を取り上げます。長くなりますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

なお、最終回の82回目記事の末尾に各回の簡単な要約を記載しておきました。ご活用ください。

タイトルとURLをコピーしました