今回は「『失敗の本質』から学ぶ」の第3回目で「成り行きに任せるな」という話しをします。
第74回から「『失敗の本質』から学ぶ」というテーマで連載しており、私が「失敗の本質」を読んで肝に銘じていること(8つ)を順にご紹介しています。今回は2番目「成り行きに任せるな」についてお話しします。
今回お伝えしたいことを最初に要約すると…
今回お伝えしたいことを最初に要約すると、「失敗の本質」では日本軍の失敗要因として、次の点を指摘しています。
◆日本軍は成り行き任せの作戦を多用して失敗したこと。
◆その背景には、日本軍がいつも短期的な視点でしかものを考えていなかったことが挙げられる。言い換えると、いつも大きな展望を欠いていたこと。
◆結果として、兵力の逐次投入、補給・兵站の軽視、コンティンジェンシー・プランの欠如などの問題が露呈したこと。
図にすると次のとおりです。
以下では「失敗の本質」で書かれている具体的な指摘のいくつかを紹介します。
「失敗の本質」で指摘されている「短期決戦の戦略志向」
日本軍の失敗要因として「失敗の本質」で指摘されていることの一つに、短期決戦の戦略志向があります。例えば、次のような指摘です。
短期決戦の戦略志向
(出典)「失敗の本質」野中郁次郎他
日本軍の戦略志向は短期的性格が強かった。日米戦自体、緒戦において勝利し、南方の資源地帯を確保して長期戦に持ち込めば、米国は戦意を喪失し、その結果として講和が獲得できるというような路線を漠然と考えていたのである。連合艦隊の訓練でもその最終目標は、太平洋を渡洋してくる敵の艦隊に対して、決戦を挑み一挙に勝敗を決するというのが唯一のシナリオであった。しかし、決戦に勝利したとしてそれで戦争が終結するのか、また万一にも負けた場合にはどうなるのかは真面目に検討されたわけではなかった。
日本は日米開戦後の確たる長期的展望のないままに、戦争に突入したのである。
ところが、この戦略の短期志向性は個々の作戦計画とその実施のなかにも明らかに反映している。開戦冒頭のハワイ奇襲攻撃にしても、陸上のタンクや工場などの諸施設には手をつけずに、第一撃の攻撃だけで引き揚げている。単なる後知恵にすぎないとも思われるが、第二撃の攻撃が行なわれなかったことへの批判もある。こうした一過性の攻撃戦法は、その後日本海軍が多くの海戦のなかでしばしば見せたものであった。(中略)
(出典)「失敗の本質」野中郁次郎他
長期的な展望を欠いた短期志向の戦略展開という点では陸軍も例外ではなかった。それは、随所で見られた兵力の逐次投入に如実に表われている。ノモンハンでは初動における投入兵力が過小であり、その後も兵力の逐次投入が行なわれた(以下略)
海軍においてでさえ、(中略)南方要地の占領・確保 (第一段作戦)後の第二段、第三段作戦は実質的にはなきに等しかった。
(出典)「失敗の本質」野中郁次郎他
もちろん日本軍が短期決戦を志向した背景には物量的劣勢などの事情もあったと推測されます。そのことが心理的にも影響を及ぼしていたのかもしれません。「失敗の本質」の中でも次の記述があります。
(中略)日本軍には、悲壮感が強く余裕や遊びの精神がなかった。これらの余裕のなさが重大な局面で、積極的行動を妨げたのかもしれない。南雲艦隊が真珠湾攻撃において第二次攻撃をせずに帰投したこと、三川艦隊が第一次ソロモン海戦で米輸送船団を見過ごしたこと、栗田艦隊がレイテ海戦で米輸送船団を攻撃せずに反転したことなど、どこかで資源的制約に基づく「艦を沈めてはならない」という消極性が目につくのである。つまり、これぞと思う一点にすべてを集中せざるをえず、次が続かなかった。そのために、既存の路線の追求には能率的ではあっても、自己革新につながるような知識や頭脳や行動様式を求めることが困難だったのではなかろうか。
(出典)「失敗の本質」野中郁次郎他
とにかく事情はあったにせよ、先の展開を考えて最終ゴール(落とし所)まで想定することはなく、成り行き任せの出たとこ勝負だったという印象がぬぐえません。 まとめると次のようになると考えます。
教訓としては成り行きに任せず出口戦略を意識しておくこと
日本軍の失敗と同じ轍を踏まないためには、先人たちの次の言葉を常に胸に刻んでおくことが大事です。
十分に終わりのことを考えよ。まず最初に終わりを考慮せよ。
(出典)「レオナルド・ダ・ヴィンチの手記」レオナルド・ダ・ヴィンチ
前に進む時は、必ず後ろに退がることを考えよ。手をつけるときには、まず引くことを考えよ
(出典)「菜根譚」洪自誠
ちなみに、日本軍と相対した米軍は実に先々のことまで想定して戦っており、ため息が出るほどですが、このことは何も第二次世界大戦の時ばかりではなく、湾岸戦争でも同じだったようです。湾岸戦争でロジスティックの総指揮をとった米陸軍中将・パゴニス氏は自著で次のように書いています。
ある計画を実行しようとするとき、私はたいてい事前に関係者全員を集めて、集団で予行演習をするように努めている。集合するのは、部隊内で関係するすべての職務部門の代表者で、状況におけるすべての不確定要素を洗い出し、徹底して討論する(中略)。発生する可能性のある問題をすべて調べ、具体的な解決策を導き出すように努力するのである。(中略)
(出典)「山・動く」W.G.パゴニス
「砂漠の嵐」作戦の期間中とその直後にジャーナリストからよく聞かれた質問にこういうのがあった。「最も驚いたことは何か」。それを私は「準備していなかったことは何か」という意味に受け取った。その点では、私はいつもジャーナリスト泣かせだった。正直に、驚いたことは何もない、と言えたからだ。 うまくいかなかったことがないというのではない。むしろ、うまくいかなかったことは少なくなかった。 解決策となりうる方法を議論していなかった問題はなかった、というのが真相だ。(中略)予測できなかったことはほとんどなかったため、常に成り行きを把握できていたのである。
こんなに先々のことまで考えている相手に対して成り行き任せの戦法が通用しないのは当然です。日本軍が負けたのは国力の差は当然としても、このような考え方の違いも要因としてあったと思い知らされます。
今回のまとめ
◆成り行きに任せるな(出たとこ勝負で戦うな)
◆最初に終わりまでの道筋と結果を明確に想定しておけ(出口戦略の明確化)
◆「なんとなく」とか「とりあえず」などの漠然とした見込みは失敗確率が高まる
◆ちなみに日本軍の失敗要因は下記のとおり
「成り行きに任せるな」というフレーズは、第35回目の記事(問題直面時の対応で分かれる部下の5つのタイプ)のおすすめ図書として紹介した「パーキンソンのビジネス金言集 129」(C・パーキンソン、M・ルストムジ)にも書かれていて、私の好きなフレーズの1つです。