できる人が徹底しているOODAループとは?#3

危機管理

今回はOODAループについて説明します

 今回説明したいのはOODAループ(「ウーダループ」と呼びます)というフレームワークです。OODAループの詳細についてはこれからじっくり説明していくのですが、まず頭に入れておいて欲しいのは次の2点です。

①できる人はみな、意識的にせよ無意識にせよ、OODAループを高速で回転させていること。
②できる人に近づくためには、OODAループを身につけ、常日頃から実践すること。

 OODAループとは、簡単に言えば、Observe → Orient → Decide → Act の4つのプロセスをループとして回転させていくという考え方のことで図示すると次のようになります。

 これだけの説明では何のことだかイメージもわかないでしょうし、OODAループに対する感情移入もできないしょう。これからじっくりと説明させてください。

普通の人が努力をする過程で味わう苦悩

 OODAループの説明をする前に、まずは普通の人が成功を目指して努力する過程で抱く悩みのお話しをさせてください。私自身の話でもあります。少し長くなるので、そんなことよりもOODAループの説明を早く聞きたいという人はこの項を読み飛ばしてしまって構いません。
 私たちの周りには、なんであんなに仕事などができるのだろうという人が必ず一人や二人はいます。仕事でも勉強でもスポーツでも、いとも簡単にこなし成果を出してしまう人です。そんな人は、状況判断も的確で、決断も速く、そして成果を出すまで徹底的にやりきってしまう。周りから見ると、あの人にはきっと天賦の才があるに違いないと思えます。例えば、プロ棋士の藤井聡太さんやメジャーリーガーの大谷翔平さんはその代表でしょう。このような天才を前にすると、自分のような凡人には同じことはどうやってもできないという諦めにも近い思いを抱きます。しかし一方で、凡人なりにも懸命に努力して少しでも天才の域に近づきたいとの思いもあり、みな必死に頑張ります。私もその連続でした。ここで問題となるのは、必死に頑張るにしてもどうやって努力をすれば天才に近づけるのかという努力の仕方です。
 できる人にはできるなりのやり方なり秘訣があるはずですから、その秘訣を学び真似るところから始めなければなりません。そのため、できる人のやり方を盗もうと必死になって観察したり、場合によっては直接本人に教えを請うたりもするのですが、多くの場合にはこれといったコツを掴み取ることはなかなか困難です。なぜなら、できる人本人がコツなど明確に意識せずにできてしまうことが多いし、ましてやそれを言語化もしてくれていないからです。この点について、作家でフランス文学者の鹿島茂氏は、自身の著作の中でこんな適切な表現で書き記しています。

たとえば、長嶋茂雄(大谷翔平の代入も可)のような不世出の大天才は、魔球のような難しい変化球をなぜ自分が打てるようになったのかということを自分ではほとんど説明できません。自然と体が動いてしまったというだけでしょう。しかし、実際には、長嶋が魔球を打てたのにはちゃんとした理由があったのです。長嶋は自分が首尾よく分析したことに気づきませんでした。分析は自動的に遂行されてしまったからです。

(出典)「思考の技術論 自分の頭で『正しく考える』」(鹿島茂)よりー

 これに関連してプロ野球名監督と謳われた野村克也氏は、天才ではない普通の人(=弱者)は次のような工夫をすべきと言っています。

弱者がいかにして強者を倒すのか(中略)。無形の力をつけること。野球は気力、体力だけで決まるわけではない。観察力、洞察力、分析力、判断力など、目に見えない力、形にならない力を駆使して闘うようにチームを仕向けた。

(出典)「人生で最も大切な101のこと」(野村克也)より

 つまりこういうことです。できる人にコツを請うてもよく分からないし、かといって野村克也氏が言うような観察力、洞察力、分析力、判断力など目に見えない無形の力を駆使しなさいとアドバイスされたとしても、具体的にどうしていいのかわからない。だから、とにかくひたすら試行錯誤を繰り返すことになります。何かの拍子にうまくいくこともないわけではありませんが、再現性のある方法論として身についていないので、次の挑戦では試行錯誤の繰り返しとなりモヤモヤした苦悩がずっと続くことになります。
 こんな悩みを解決してくれたのがOODAループです。OODAループは、野村監督が「無形の力」と呼んでいる観察・判断・決断・実行の4つプロセスを明確に分けてステップごとに意識させてくれます。私は、このOODAループの考え方を意識するようになってから、それまでは混然一体となって混乱していた頭の中をすっきりと整理できるようになりました。それ以来、OODAループは再現性のある方法論として、とても重宝しています。

OODAループとは?

OODAループの概要

 OODAループ(ウーダループ)は、意思決定と行動に関するフレームワークでアメリカ空軍のジョン・ボイド大佐により提唱されたものです。
 OODAループは、ものごとを実行するときのプロセスをObserve → Orient → Decide → Act の4つに整理して、これをループとして回転させていくという考え方です。OODAループの考え方は、緊迫した状況下で決断・実行を迫られるような状況では絶大な効果を発揮します。緊急時に決断・実行を迫られると誰でもとかくパニックになりがちです。しかし、OODAループを使って冷静に各プロセスを自省すると、どの段階で行き詰っているのかが明確になり、自分のやるべきことがはっきりします。迷子になりただただオロオロしていたような悩みから解放されます。

OODAループが理論化された背景

 OODAループは、朝鮮戦争でのアメリカ軍対ソ連軍の空中戦において、なぜアメリカ軍の方が圧倒的な戦果を上げることができたのかを考察した結果として導き出された理論です。朝鮮戦争では、アメリカ軍はF-86戦闘機、ソ連軍(及び中国軍)はMiG-15戦闘機を主力として戦いました。F-86戦闘機とMiG-15戦闘機とを比べると、F-86戦闘機の方が加速・上昇・旋回性能のいずれでも劣っていたにもかかわらず、実際の空中戦ではF-86戦闘機の方がMiG-15戦闘機の10倍もの戦果を上げたといわれています。この決定的な勝因がどこにあったのかを考察してみると、操縦士の意思決定と行動の速度差にあったと結論づけられました。F-86戦闘機のコクピットは視界が広く、相手機の機体や周囲の状況を早くかつ正確に捉えることができ、また操縦や機銃操作もMiG-15戦闘機に比べると容易であったため、より迅速な意思決定と行動をとることができたのです。これをアメリカ空軍のジョン・ボイド大佐が一般化し理論化したのが、「観察(Observe)→ 状況判断(Orient)→意思決定(Decide)→行動(Act)というOODAループ」です。
 空中戦では、一瞬の判断遅れやミスであっても命を落としかねません。また戦闘中は上官の指示を仰ぐ時間的な余裕などもありません。だからこそ、パイロットは、自らが的確な状況判断の上、迅速に意思決定をして、確実に行動をするしかありません。生き延びるためにはOODAループを高速回転させていくことが必須となるのです。

OODAループの活用方法(元サッカー選手・中村憲剛氏のインタビュー記事を題材に考える)

 先ほどの項でOODAループは空中戦を戦うパイロットが生き延びるために用いる考え方で、瞬間的な状況判断や意思決定・行動をする上で必須と説明したのですが、これは空中戦を戦うパイロットだけに当てはまるものではありません。誰しも日常生活の様々な場面で同じような緊急の決断・実行が求められます。身近な例では車の運転をしているときなどは分かり易いケースですが、それ以外にもプロジェクトで重要な決断をする場合や、病気になって手術や入院を検討している場合など枚挙にいとまがありません。
 ここでは、川崎フロンターレの元選手・中村憲剛氏が現役の頃に行われたインタビュー記事を題材にして、サッカー選手が試合中にどのようにOODAループを高速回転させて状況判断や決断をしているのかを見てみましょう。引用が少し長くなりますが、中村憲剛氏がOODAループを高速回転させてプレーをしていることがよく理解できます。

サッカーは“決断のスポーツ”だと言われる。プレーの自由度が極めて高いサッカーでは選手がピッチ上で何をするか、刻一刻と変わる状況の中で常に選択を迫られる。限られた時間の中で、いかに最善の選択を下せるか。それこそが勝敗を分けるファクターになるのだ。
中村憲剛(中略)は、1本のパスで見るものの度肝を抜く。長短を織り交ぜたパスで相手を揺さぶり、ここぞというタイミングで攻撃を加速させる。中村憲剛はなぜ、ゴールに直結するプレーを選択できるのか。
(中略)
 インタビューワーから、試合中実際に1本のパスを通したり、シュートをするという時、どのぐらいの選択肢を持ちながらプレーしているのか?と質問された中村憲剛氏は、
「それこそ、無数にしようと思えばできる。そこは難しい。開始直後なのかそれとも終盤なのか、勝っているのか負けているのか、(自分のいる)ゾーンはどこなのか……によって全部変わってくるので。(中略)常に2、3個ぐらい(の選択肢)は持っておくようにはしている」
と回答する。
 そして、プレー中はめまぐるしく状況が変わっていくがどうやって状況を把握しているのか?という質問に対しては、中村憲剛氏は
「遠くを見るようにすることです」と答えたうえで、「例えば、ピッチの真ん中にいるとしたら最終ライン、右サイドにいるとしたら左サイドの奥の方とか。そうやって遠くを見ておくと、自然と手前の方も見えるようになってくる。だから、パスをもらってサイドチェンジをしようかなと思って、そこがふさがれていたら一つ手前の空いているところにパスを出そうとか、そういうことができるようになる」
と答えている。
 さらに、インタビューワーから試合中そこまで考える時間はあるのかと問われると、
「う~ん。本当に瞬間的な判断だと思います。実際の時間からすると0.1秒とか0.2秒くらい。でも、自分としては、その時間の中でけっこう見えているという感覚はあります」
と回答している。
 また、(中村憲剛氏が)相手ゴールに背中を向けた状態で振り向きざまにワンタッチで味方にパスを出したシーンについて、インタビューワーから、いつ味方選手のことを見ていたのかを聞かれたところ、中村憲剛氏は、
「味方のエドゥアルド選手がボールを奪い味方の大島僚太選手にパスを出したが、確か、その出す前に1回チラッと見た。そこで、まず相手の最終ラインがどんな感じで、自分に来る選手がいるかを確認した。」
「この時は自分の周りに(相手の選手が)いないのがわかっていたから、パスが来れば裏へ出せるチャンスがあるなと。それでパスが出た後に、前の状況がどうなっているかを見るために首を振ったら、味方の阿部選手が相手CB2人の間に斜めに走り込んでいた。この時に、パスを出してシュートを打つという1秒後の絵が見えたのです。あとは僕がちゃんとパスを出すだけでした。」
「最初はたくさん選択肢がありますけど(最後は)『自分にマークが来てない』→『DFラインの間が空いている』→『そこにFWが走りこんで来ている』と絞っていったイメージです。」
とプレーを振り返った。
 そのプレーについてインタビューワーから、会心の決断だったのではと指摘されると、中村憲剛氏は
「そうですね。本当に自分の思い通りでした。この試合の後に『あの1本で今日の(俺の)仕事は終わった』って言っていましたからね」
と答えた。

 話は変わりインタビューワーから、海外サッカーで決断力が優れていると感じる選手は誰でしょうか?と聞かれると、
「世界トップレベルの選手たちは、(中略)いろいろなことを考えながら、その瞬間瞬間でベストな決断をしている。名前を挙げるとしたら、バルセロナのブスケッツとか、レアル・マドリーのカセミロとかでしょうか」
「ブスケッツこそが、バルセロナのサッカーの肝だと思います。何気ないパスなのだけど、2手・3手先まで考えて出しているのだというのがわかる。ブスケッツがパスを出した後に『あれはそういうことだったのか』となるのはよくあります。」
と言っていた。

 そしてインタビューの最後に、これまでのサッカー人生でどのぐらいの選択を下してきたのか聞かれると、中村憲剛氏は
「どのぐらいだろう……。数え切れないでしょうね。1試合に何回決断をしているのかもわからないですし。(以下省略)」
と答えている。

(出典)「日本最高峰のMFが教える“選択の極意” 前編(2017.09.19)後編(2017.09.21)」(北健一郎) footballistaより記事を抜粋して、一部表現をハットさんが要約・補足等の加工をした。
https://www.footballista.jp/special/37861
https://www.footballista.jp/special/37927

 この記事を読むと、中村憲剛氏が試合中にOODAループを次のように回していたことが分かります。

Observe(観察)◆ピッチの真ん中にいるとしたら最終ライン、右サイドにいるとしたら左サイドの奥の方とか。そうやって遠くを見ておく。
◆手前の方も見ておく。
◆相手の最終ラインがどんな感じで、自分に来る選手がいるかを確認。
◆自分の周りに(相手の選手が)いないと確認。
◆前の状況がどうなっているかを見るために首を振ったら、味方の阿部選手が相手CB2人の間に斜めに走り込んでいることを確認
Orient(分析・状況判断・方向づけ)◆パスをもらってサイドチェンジをしよう。そこがふさがれていたら一つ手前の空いているところにパスを出そう。
◆パスが来れば裏へ出せるチャンスがあるなと判断。
◆パスを出してシュートを打つという1秒後の絵が見える。
Decide(覚悟・決断)◆選択肢を絞り込み、あとは僕がちゃんとパスを出すだけと決断
Act(実行)◆実際に正確なパスを出した

 さらに言えば、中村憲剛氏が0.1秒か0.2秒くらいでOODAループを回していることも分かります。まさに高速回転です。観察(Observe)→ 状況判断(Orient)→意思決定(Decide)→行動(Act)というすべての段階までをわずか数秒でこなす。たとえ迅速に判断できたとしても、決断できなければ意味がないし、決断できたとしても実際に正確なパスが通っていなければ、意図したことはよかったけれど結果はダメだったと非難される結果になりかねない。決断に際して勇気もいるし相当な覚悟も問われる状況の中でも、中村憲剛氏は自信を持って決断し、そのうえ最高の結果を出した。だから中村憲剛氏のプレーは1本のパスで見るものの度肝を抜くと言われているのです。

 ところで、周囲から見れば一見天才的なプレーに見えても、こうしてOODAの各要素に分解して各段階で起きていること・考えていることを明確にしていくと、精度の高いプレーのコツが見えてくるようになります。さすがに中村憲剛氏のレベルにまで自分のプレーのレベルを引き上げるのは難しいとしても、自分が改善すべきは、判断のレベルが低かったのか、瞬時に決断できなかったことが原因なのか、それとも実行レベルで技術が伴っていなかっただけなのか、などが明確になってきます。そして、例えば決断力に問題があると分かったのなら、優柔不断で躊躇してしまう傾向が何に起因しているのかをさらに深堀りすれば根本原因を特定し改善することも可能になります。OODAループを意識することによって、実行に至るまでのプロセスのどこに改善点があるのかを明確にすることができるのです。

今回のまとめ

事に対処する際は、OODAループで考えることを常日頃から徹底すること。そうすれば、いずれ必ず高い確率で成果を出せるようになってきます。

メモ

【OODAループに関連する記事の紹介】
 OODAループに関しては次の記事にも関連した内容の説明をしました。ご関心があればぜひお読みください。
第28回目の記事(有事では初動対応で勝負が決まる)
第45回目の記事(名著「道は開ける」は人生で直面する様々な悩みへの対処法を教えてくれる)
第50回目の記事(「空雨傘紙」の4つの要素で徹底的に考える)

おすすめ図書

「OODA 危機管理と効率・達成を叶えるマネジメント」(小林宏之 著)

著者の小林宏之氏は元日本航空の機長だった人で、現在は危機管理・リスクマネジメントの専門家としてご活躍の方です。この本は、OODAループのポイントについて学ぶことができるとともにOODAループを実践するための入門書としても良書です。また、リスク管理に対する著者の経験や知見なども随所にちりばめられており、危機管理の意識を醸成するうえでも参考になるでしょう。

https://amzn.to/3SepbiH

「OODA Management(ウーダ・マネジメント)」(原田勉 著)

OODAループそのものはある意味で当たり前のことを言っているにすぎず、わざわざOODAループというフレームワークで示されてなくても、昔から実質的には同じことをやっていた、または現在もやっているという個人の人は意外に多いと思われます。例えば、宮本武蔵の五輪書を読んでも、野村克也監督の本を読んでも、OODAループという言い方こそ出てこないものの、内容的には大差ないとの印象を抱く人もいるはずです。もちろんOODAループはフレームワークとしてシンプルに整理されているがゆえに、宮本武蔵の五輪書を読んで自分で咀嚼するよりもはるかにわかりやすいのですが、個人レベルでOODAループを学ぶということに関しては、このブログで記載した図程度のイメージとネットで少々の知識を頭に入れておけば足り、正直1冊の本も読まなくても困ることはないと私は思っています。

しかしながら、OODAループを個人レベルではなく組織レベルでマネジメントの仕組みとして活用していくとなると話は変わります。本書は、OODAループを組織における仕組化という観点でマネジメントの方法として考察したものであり、その考え方や企業での事例を紹介しています。その点において参考になる1冊としてお勧めいたします。

https://amzn.to/3NXNFLC
ハットさん
ハットさん

何かで悩んでいる時もOODAの各要素のどこで引っかかっているのかを意識してみると、これから先に進むために何が必要なのかクリアになりますよ。

タイトルとURLをコピーしました