今回の記事では不安を軽くする1つの方法として「首尾一貫感覚」という話しをします
誰しも長い人生の中では不安や苦境に直面します。もちろん不安や苦境の程度は人それぞれでしょうが、いずれにしても一生を順風満帆だけで終える人はまれでしょう。誰だって人生で向かい風の中を進んでいかなければならない場面はあるものです。そんな向かい風の中で抱く不安を軽減するコツとして「首尾一貫感覚」というお話しをします。
首尾一貫感覚(SOC)とは?
首尾一貫感覚(SOC= Sense Of Coherence)は、ユダヤ系アメリカ人の医療社会学者であるアーロン・アントノフスキー博士(1923-94)により提唱された考え方です。今回の記事では、首尾一貫感覚(SOC)の理論的背景や詳細内容までは説明しませんが、私が今回お伝えしたいのはシンプルに次の2点だけです。
①首尾一貫感覚(SOC)は次の3つの感覚からなっている
1.把握可能感:どんなことが起きるかなんとなく分かるという感覚
2.処理可能感:なんとかなるさと思える感覚
3.有意味感:意味があると思える感覚
②不安を軽減するには上記3つの感覚を高めていけばいい
まとめると次のとおりです。
以下では、どのように3つの感覚を高めて不安を解消するのかということを簡単に説明します。
なおご参考ですが、「首尾一貫感覚」についてはネットで「首尾一貫感覚」とか「SOC」と検索すると解説記事がたくさん出てきます。詳細を知りたい方はネットでも検索してみてください。
把握可能感:どんなことが起きるかなんとなく分かるという感覚
まず把握可能感覚の説明をするのですが、イメージしやすいように簡単な例を想定して説明します。
例えば、あなたが車で大事な用事に行く途中、高速道路で大渋滞に巻き込まれたとします。そのとき、渋滞が何時間続くのかが分からないとあなたは次のようなことで不安になるはずです。
・高速から一般道に降りたところで、一般道も渋滞しているかもしれない。
・次のインターチェンジで降りて一般道に切り替えるか、このまま高速で行くか、どちらがいいのか分からない。
・渋滞でノロノロ運転でも完全にストップせずに流れていれば高速の方が一般道を行くよりも早い。安易に高速を降りるかは悩みどころ。
・次のインターチェンジで高速を降りないと、その後しばらくはインターチェンジがないのでこのまま高速で行き続けるしか選択肢がなくなる。その場合に渋滞がひどくなり、車がまったく進まなくなると間に合わない。だからこのまま高速で行くのは一か八かの賭けになるかもしれない。
・それなら一般道に降りたうえで最寄り駅まで行き、そこで車は断念し、電車に乗り換えた方が間に合うのではないか。
などなど。
このように不安になるのは先行きが何も分からないからです。これが仮に渋滞が後1時間続くとしてもそのことがぼんやりとでも分かっているのならば(➡ つまり把握可能感が高い状態にあるならば)、高速で行くのは断念しようとか、今後の選択肢が選びやすくなり不安感は軽減します。
したがって、不安感を少しでも和らげるためには、先行きがどうなるかをぼんやりでもいいので分かっている感覚を持てるかどうかが重要になります。
処理可能感:なんとかなるさと思える感覚
先ほどの高速の渋滞の例で説明すると、これから一般道に降りた場合にそこでも渋滞していたとしても、最悪何時に到着するからなんとか間に合うだろうというぼんやりした感覚を持てると(➡ つまり処理可能感が高い状態にあるならば)、「まあなんとかなるさ」と思え、不安は軽減します。「まあ大丈夫」という感覚が持てるかどうかによって不安感は大きく変わってくるということです。
有意味感:意味があると思える感覚
仮に把握可能感と処理可能感の両方が持てなかったとしても、つまり、これからどうなるか分からないし、さらにこの状況が如何ともしがたいとしても、その出来事を「いい経験だ、今後の教訓として色々学べるので意味のあることだ」と思えると(➡ つまり有意味感が高い状態にあれば)、不安・不満もある程度抑えることができて目の前の困難を乗り越えやすくなります。自分にとってこの出来事がどういう意味を持つのかを考えることによって自分の受け止め方が変われば、前向きな意識を引き出せる可能性が高まるのです。
起きた出来事(渋滞の例で言えば渋滞に巻き込まれたこと)についても、またその出来事への対応がうまくいかなかったこと(渋滞の例で言えば、結果として間に合わなかったこと)についても、人生で意味のあることだと思えるかどうかによって自分の受け止め方が大きく左右されることになります。この点はとても重要なことなので強調しておきます。
3つの感覚を高めるうえでの注意点
不安になって自分の頭の中で霧がかかったように何も見えなくなっている時には、把握可能感・処理可能感・有意味感の3つの感覚のどれかを少しずつ高めるように工夫することが不安を軽くするコツです。
ただし注意すべきことがあります。「首尾一貫感覚(SOC)」の3つの感覚は、あくまでも感覚の話しをしているのであって、今後起きることを正確に予測するとか、今後本当に何とかできるかどうかを議論しているわけではありません。
先ほどの例で言えば、渋滞が今後1時間続くという見通しが正確かどうかを問題にしているのではありません。自分がそのような感覚を持てるかどうかが重要なのです。この渋滞は、後1時間は続くと見込み(➡ 把握可能感)、その上で高速でこのまま行っても間に合うと判断・決断しても(➡ 処理可能感)、結果として本当に間に合うかどうかは別問題です。
また、把握可能感と処理可能感が高まっているからといって、正しい判断・決断をする確率が高まるかどうかも別問題です。
状況によっては判断・決断の余地はなくて、選択肢として一択しかない場合もあるわけですが、その一択の道を進むとしても、不安一杯のまま進むのか、それとも、なんとかなるよねという境地で進むのかは気持ちの問題として大違いだと言っているのです。つまり、3つの感覚を意識して判断・決断することができれば、そうでない場合と比較して不安が和らぎ、精神的ダメージを負う程度(絶望の程度)が軽く済むと言いたいのです。
3つの感覚を高めたことで途中の不安感は解消したけど、結果は不幸な結末(=失敗)に終わるということもあるでしょう。ここで議論しているのは、あくまでも気持ちの持ちようを不安から解放することです。
なお、気持ちの問題もさることながら、現実的に苦境を乗り越えてどうやって生存確率(成功確率)を高めるのかという点に関しては、第2回目の記事(苦境を乗り越えるための4C(Commitment、Control、Challenge、Connectedness))に書きました。関心のある方はこちらもぜひあわせてお読みください。この4Cも今回の記事の「首尾一貫感覚(SOC)」も基本的なところで同じような考え方なのですが、4Cの方がより行動にフォーカスしており結果としての生存確率(成功確率)を高めるための現実的な対応方法との認識を私は持っています。
いずれにしても、不安な気持ちになった時には3つの感覚を意識してみてください。不安解消に効果があります。
今回のまとめ
◆不安感に襲われたら、首尾一貫感覚(SOC)の3つの感覚のうち、どこがぼんやりしているために不安になるのかを振り返り、そのぼんやり感を少しでも晴らしてやるようにすること。
◆そうすると不安感はかるくなり、迷いは少なくなります。
おすすめ図書
今回の記事で紹介した「首尾一貫感覚(SOC)」の3つの感覚について事例なども交えながら分かりやすく説明してくれる本です。「首尾一貫感覚(SOC)」についての概要を学ぶための最初の本として最適です。もちろん記事本文でも書いたとおりネットにおいても「首尾一貫感覚(SOC)」の解説記事は多数あるので、単に「首尾一貫感覚(SOC)」の考え方を知るだけだったらわざわざ本書を読まずともネット記事で事足りるかもしれません。しかし、本書では著者がカウンセラーとして経験した実際の事案なども紹介しながら3つの感覚が足りないとどんな不安が生じるのかなどの説明もしてくれているので、理解するうえで実際に即したイメージをしやすいです。
ただ、「首尾一貫感覚(SOC)」の3つの感覚は、ある意味で当たり前というか常識的な考え方で、そんなことは説明されなくても分かっているとの印象を持つ人もいるでしょう。問題は理屈ではなくてどうやって実行するのかということであって、その点を教えて欲しいと思って本書を読む人もいると思われます。残念ながら本書で具体的な方法論までは教えてくれません。結局のところ実際のやり方は一人一人が試行錯誤して工夫するしかないのでしょう。この点をあらかじめ承知したうえで、不安を解消することに関心のある方には読んでみて欲しい本です。
不安を抱いているときには漠然と悩まず、今回の3つの感覚をぜひ意識してみてね。