今回の記事では、ものを考える時の7つの視点を紹介します
今回はものを考える時のちょっとしたコツを紹介します。それは、ものを考える時に次の7つの視点を意識するといいですよという内容です。
とかく年齢が若い頃とか、仕事の経験が浅い頃などは誰しも、表層的なものの考え方しかできなくて、その場限りの思いつきによる対症療法的な考え方をしてしまいがちです。これに対して職人芸のレベルに達している熟練者は、ものの考え方が深いし広いし、重要ポイントも即座に気がつくし、新人とは比べ物になりません。新人の頃は、どうやったらあんな風になれるのだろうかと憧れるものです。私もそうでした。ところが、今回紹介する7つの視点を意識するようになってから、考え方のコツがわかったような気がします。もちろんこの7つの視点を知っただけでは不十分で、日々さまざまな経験を重ねて精進していくことが大事ですが、それでも学生や新社会人の方はこの7つの視点を意識しておくことで成長のスピードが大きく変わってくると思います。そのようなことから、今回はものを考える時の7つの視点という話しをします。
以下では7つの視点を順に説明します。
①多面的に考える
最近は「多様性」ということが1つのキーワードで、さまざまな立ち場の人の考え方を尊重することが求められます。しかし、この多様性という視点は何も最近に始まったことではなくて、昔から広く深く考えるためには必要なことでした。人はどうしても一面的なものの見方・考え方をしてしまう傾向があります。どんなものにも、どんな人にも両面があって、いいところもあれば悪いところもあるものですが、とかくある一面だけをみて判断してしまいがちです。さらに、その一面だけを見る際も、固定概念とか既存の見方にとらわれてしまうものです。同じ事象に対しても立場の違いや価値観などの違いによって感じ方や考え方はまちまちです。だからこそ多面的に考えることが重要になるのですが、問題はどうすれば多面的に考えることができるかという点です。実戦的な工夫として私が心がけているのは次の2つです。
1)物理的に見る角度を変える
2)できるだけ多くの人の意見を聞く
1)物理的に見る角度を変える
同じものでも正面から見るのか、裏から見るのかによって印象が大きく変わることがあります。意識的にさまざまな角度から見るようなクセをつけることが大事です。
2)できるだけ多くの人の意見を聞く
同じものを見ていても文化・立場・価値感・性格などの違いによって、感想や考え方は驚くほど異なります。そのため、できる限り多くの人の意見を聞くことが大事です。もちろん、いつもいつも多くの人の意見を聞くことができるとは限りませんが、そういうときでもブレストをするなどの工夫を試みるべきです。
②長期的に考える
問題点の解決策などを考える時などは、とかく目先の短期的な観点で考えてしまいがちです。もちろん緊急対応が必要な場面などでは短期的な視点は大事ですが、同時により長期的な観点でどうするのかも考えてくことが大事です。長期と言っても、人によって想定している期間は異なり、5年を長期と考える人もいれば、10年を長期と考える人もいれば、50年を長期と考える人もいます。だから、長期で考えるにしてもその時間軸を明確にして目線を合わせておくことも重要です。
③根本的に考える
考えるときに枝葉末節ではなく根本部分について深く掘り下げるべきという点に関しては誰しも異論はないのですが、いざ実行段階で本当にできるかどうかは疑問があります。例えば、会計士のように数値を扱う仕事の場合、その項目が重要かどうかはともあれ、数値としての間違いが認識されると、間違いという事実のみがクローズアップされ、枝葉末節にもかかわらず結果としてその間違いが議論の中心になってしまうことはままあることです。緻密な正確性にこだわるあまり本筋を見失う人は珍しくはありません。
このような例は政治問題などでも見受けられます。枝葉末節の議論にもかかわらず分かりやすいスキャンダルだけが注目され、根本的・本源的な議論は無視されてしまうことなんてよくあることです。自分はそうならないように注意したいものですが、そのためには、議論の対象となっている論点だけをピンポイントで考えるのではなく、その背景とか文脈なども丁寧に理解するよう心がけることが大事です。
なお、経済学者のケインズが言ったとされる次のフレーズは、ものを根本的に考えるときにいつも忘れずにいたいものです。ぜひここで紹介させてください。
私は、正確に誤るよりは漠然と正しくありたい。
(I’d rather be vaguely right than precisely wrong.)
④俯瞰的に眺める
俯瞰的に眺めるということは、すなわち全体を眺めるということです。この俯瞰的に眺めるということの重要性については、失敗学で有名な畑村洋太郎氏の本(みる わかる 伝える)の説明があまりにも的確なのでここで紹介させてください。
全体を眺めるということ
対象を把握するには、このような多角的な見方以外に対象の「全体をみる」ということも大切だ。
全体像をつかまないことのデメリットは、「群盲象をなでる」ということわざに象徴的に述べられている。 盲人たちが象に触れたとき、 自分が触った部位を象の本質だと思い、それぞれが「象とはこういうものだ」というふうに勝手なことを主張し始めたという有名な故事である。
たとえば、 象の鼻にだけ触れた人は「象は太いホースのようなの」、耳にだけ触れた人は 「象は大きなうちわのようだ」、尻尾にだけ触れた人は「象は太い筆のようなもの」と語るかもしれない。一部だけを取り上げれば、たしかに象はホースのようなものであり、うちわのようでもあり、筆のようでもある。しかし、 象の真の姿はそのようなものではない。 これらのすべてを含んだもので、これは全体をみることではじめてわかることなのだ(図1-3-②)。このことわざは、 「盲人を侮蔑(ぶべつ)しているひどいもの」という受け止め方をされるせいか、最近ではあまり使われなくなっている。しかし、ことわざの伝えていることの本質は、全体をみることの重要性あり、決して差別を助長することではない。
(出典)「みる わかる 伝える」(畑村洋太郎)
対象の一部分だけ見ても、全体としてどのようになっているかを押さえないことには、そこで得た知識の理解は、 関連がないバラバラのものになってしまう。その部分が全体の中でどのような役割を果たしているかが理解できないので、これでは問題点を発見することもできないし、当然問題を解決することもできない。
たとえば大きな事故や事件が起こると、必ず “専門家” と呼ばれる人たちがテレビなどに出てきてコメントする姿が見られる。しかし実際は「的外れなことを言っているだけ」ということも珍しくない。
彼らの問題は、視点を固定して全体をみていない点にある。つまり巨大な象の一部しかみていない場合が多いのである。だからこのような専門家の視点だけで全体像をつくりあげようとした結果、メディアの報道する中身が、ときに実態と大きくかけ離れたおかしな見方になってしまうことがよくあるのである(図1-3-③)。
少し長い引用になりました。次の2点は強調しておきます。
◆部分が全体の中でどのような役割を果たしているか
◆部分と全体との関係性
⑤潮目を読むこと
潮目を読むとは、大きな流れを見ることです。潮目を読むことを株価に例えて説明すると、日々の株価の値動きに一喜一憂するのではなく、大きなトレンドを意識することです。NHKのニュースを見ると放送の最後の方で「為替と株の値動きです」というコーナーがあって、「今日の日経平均株価は大幅に上がりました」のようなことが報じられるのですが、潮目を読むというのは、日々の瞬間瞬間の動きに気を取られるのではなく、もっと大きな動きとして全体の流れがどのように変わってきているのかを意識することです。
なお、潮目を読むということに関して、齋藤孝氏が著書の中でとても参考になることを書いています。ここで紹介させてください。
今こそ「漁師的DNA」を呼び覚ませ
(出典)「使える!孫子の兵法」(齋藤孝)
◆労力の資源配分を考えよ
「機を見るに敏」とか「潮目を読む」というと、いささか小賢しく立ち回るようで、いいイメージを持たれないかもしれない。しかし現実に、私たちの日常には「機」も「潮目」も存在する。景気には波があり、商売には繁忙期と閑散期があり、個人レベルでも仕事が集中する時と比較的暇な時がある。
ならば、その起伏に順応した方が仕事が捗るはずだ。私たちは機械ではないから、常に全力投球では疲れるし、常に低空飛行では飽きてしまう。チャンスと見れば一気呵成に攻め、不利と見れば無理をせずに耐える。そういうメリハリのある資源配分こそが、良い結果を生むのではないだろうか。
(中略)状況に応じ、変化の波に乗ることができる。
(中略)そこで重要になるのが、判断力と行動力だ。それも自ら海原に漕ぎ出して網を放つような、いわば「漁師的感覚」である。
昔から漁師は、風を読み、潮を読み、魚群を探り当ててきた。大漁になりそうなら長時間労働を厭わず、不漁と見るやさっさと漁場を変える。あるいは嵐がきそうなら早めに切り上げる。一歩間違えれば命取りになりかねない中で、一つひとつ冷静に状況判断を繰り返してきたわけだ。頼れるものといえば、長年の経験に裏打ちされた肌感覚だけだったに違いない。
(中略)
「漁師の末裔」という誇りを胸に、風を読み、潮を読み、チャンスと見るや大海原に漕ぎ出していく勇気が必要ではないだろうか。(以下省略)
⑥変化と⑦特異点に敏感になる
推理小説の中では、他の人が見逃していたちょっとした変化や異常点に名探偵だけが気がつき颯爽と事件を解決するというシーンは定番ですが、これは何も推理小説の世界で探偵にだけ求められることではありません。変化と特異点に敏感であることはどんな仕事でも重要です。
変化と特異点に敏感であるために注意すべきことがあります。それは普段(日常)の様子をよく観察していないと変化に気がつかないということです。例えば、潮目が変わったことに気がつくためには、普段の潮の流れを知らなければ変化に気がつけません。繰り返しになりますが、変化や特異点に敏感になるためには、普段から注意深く観察しておくことが必要なのです。
ところで、私は34年間会計士として監査の仕事をしてきましたが、とにかく腐心してきたのが企業の不正をいかに発見するかということです。ここで常に心がけていたことの一つが変化と特異点(異常点)に敏感になることでした。ポイントは2つあります。
1)変化・特異点がまだ小さい段階でいち早く察知すること
2)変化・特異点が生じた背景・文脈を深く探ること
変化・特異点・異常点というのは、誰が見ても目立つくらい大きなものであったり、タイミング的にだいぶ時間が経過した段階なら相当鈍感な人でも気がつきます。しかしそれでは遅いのです。ちょっとした変化が出始めた段階、もっと言えば兆候段階くらいでいち早く察知できるかどうかが勝負を分けることになります。
この項の最後に、2つの文献からとても考えさせられるフレーズを紹介します。ぜひ参考にしてください。
【いち早く変化の兆候を捉える】
(出典)「計画力を強くする」(加藤昭吉)
(中略)
「人はガンで死ぬのではない。手遅れのガンで死ぬのだ」と指摘した名医がいました。たしかにガンも初期段階で発見できれば、それほど怖い病気ではなくなってきています。
不確かさからくるリスクへの対応もまったく同じで、初期段階で兆候を察知できれば大きな危機にならないように適切な手が打てます。それには「何でもない何か」に気づくことが大切です。
予兆から未来を見る変換回路が必要
(出典)「実力派たちの成長戦略 30代、40代はビジョナリー・プロフェッショナルとなれ!」(山本真司)
観察をしていると「あれっ」と思う物事を、いろいろ見つけられる。予兆らしきものは発見する。(中略)
現実には、いろいろな現象が起きている。その中から「あれっ」と思う予兆、兆しを拾い上げる。そして変換回路の関数にかけると未来が観える。そんなふうに未来を想像しようとしている(中略)。
次の時代に起きることは、必ず、前の時代で起きていることが原因になっているものである。(中略)
変化には必ず、現在の現実の中に兆しがある。(中略)だから、小さな兆しを発見する目を鍛えようとするのである。(中略)
必ず、現在の主流をそれて動く特異点があるはずだと考える。一番簡単なコンサルティング手法は、特異点を探すことだ。利益が出てないはずのポジションにある企業で、利益が出ている。なぜかと調べると、次の攻め口のヒントが満載だ。特異点は、思いがけない発見の泉だ。(以下略)
以上、ものを考える時の7つの視点について説明しました。
今回のまとめ
◆ものを考える時に次の7つの視点を意識すること
おすすめ図書
著者の畑村氏は失敗学の大家で、失敗を教訓として生かすためのさまざまな提案をしていることで有名ですが、本書はそんな畑村氏がものの考え方の基本を分かりやすく丁寧に説明してくれます。内容的には本書のタイトルにもあるとおり「観察力・理解力・伝達力」の3つの能力を鍛えるための実践的な方法を教えてくれるものです。絵や図もふんだんに使用されており視覚的にとても分かりやすい本です。ともすれば見た目から判断して、本書の内容が初歩的なレベルのように思われてしまうかもしれませんが、そんなことはありません。考えるということに関してとても重要で本質的なことが書かれています。考えるという行為に関心がある学生や新社会人すべての方に読んで欲しい本です。
著者の安岡氏は東洋思想の泰斗として戦前戦後の政財界トップに多第な影響と示唆を与え続け、歴代総理の指南役だったともいわれた人です。そんな高名な安岡氏の著作ですから読むにあたって身構えてしまうのですが、読み始めると表現も分かりやすく、すらすら読めます。書かれている内容は高尚なことが多く、ごもっともなことです。目先の仕事に日々追われている私のような者には目がひらかれるような思いです。
それはともかくとして、今回の記事で紹介した多面的・長期的・根本的に考えるという3つの原則について私はこの本から学びました。この三原則の箇所を読むだけでも学ぶところ大でしょう。
何かを考える時に「多長根で俯瞰して、潮目と変化と特異点」と呪文のように唱えるクセをつけておくといいですよ。