要約のための6つのテクニック #40

報告書作成(文章作成も含む)

今回の記事では要約のための6つのテクニックを紹介します

 どんな仕事でも新人の頃に担当させられる業務というのは面倒に感じる作業が多いものですが、その中の1つに様々な情報をまとめる作業(要約の作成)があります。例えば、「昨日の会議のポイントをまとめておいてね」とか、「今回の事案のエッセンスを要約しておいてね」のように求められたり、「長文の報告書から経営者向けサマリー(エグゼクティブサマリー)を作成しておくように」と指示されることはよくあることです。このような指示に対して、今までの学生時代に情報を「要約する」とか「まとめる」とかいうノウハウを意識的に身につけていないと、最初のうちは戸惑う人もいるでしょう。もちろん中には学生時代にノートのとり方が抜群にうまい人が稀にいて、そういう人は社会人になってからもあまり苦労はしません。しかし、多くの人は今までそのような訓練を意識的にしてきていないことが多いので、社会人になってからそれぞれが工夫して身につけていくことになります。
 今回はそのような人に1つのアドバイスとして「要約のための6つのテクニック」をご紹介します。

要約のための6つのテクニック

 今回の記事で紹介したい要約のためのテクニックは次の6つです。

(出典)「知の編集術」(松岡正剛)をベースにハットさんが改変・図式化

 以下ではそれぞれ順に説明します。

ダイジェスト(縮約)

 ダイジェスト(縮約)というのは、映画や小説などのダイジェスト版をイメージしてもらうといいでしょう。例えば、2時間以上ある映画やスポーツの試合などを3分程度のダイジェスト版にした映像をテレビ番組などで見たことがあるでしょう。あれがダイジェスト(縮約)です。要すれば、一定のストーリ(文脈)は保ちつつ、ポイントになるシーンだけを編集して短くしたものです。ストーリー(文脈)を生かしつつ短く切り詰めるだけなので、ある程度慣れてくれば作業自体は難しいものではありません。ただし、どこを切り取って短くするかはセンスが問われます。熟練の手にかかればオリジナルよりも面白くて分かりやすい、なんてこともあります。

アウトライン(目次)

 アウトラインによる要約というのは、全体の骨格となる要点(ポイント)を目次や箇条書きのような形でまとめたものです。ストーリー(文脈)という観点でまとめたものではなく、あくまで要点(ポイント)をという観点でまとめているのが特徴です。コツはキーワードやキーセンテンスを意識的に把握することです。このコツを日頃から心がけていれば、アウトラインによる要約は比較的簡単な作業と言えます。

図解化(ビジュアル化)

 重点項目や重点シーンを図とか絵にして、パッと見に理解できるように要約するのが図解化(ビジュアル化)です。1枚か2枚の絵とか図で示すことができれば、概要を瞬時にイメージしてもらえる可能性が高いので、とても有効なまとめ方の一つです。
 注意すべきは、ビジュアル化された図・絵を見せられると、あとからよくよく冷静に見返すとイマイチ分からないような図でも、見た瞬間は何となく分かったような気にさせられてしまうことも多々あるという点です。このことを悪用して確信犯的に図解化(ビジュアル化)でごまかしてくる人もいます。この点に騙されないようにしなければいけません。

構造化

 全体がどんな要点(ポイント)から構成され、それぞれがどんな関係性にあるのかを構造化するまとめ方が「構造化」というテクニックです。すでに紹介した「アウトライン」や「図解化」では個々の構成要素間の関係性が整理されていないので、全体がどういうメカニズムにあるのか、どういう因果関係にあったのか、どんな構造なのか、などの関係性は不明です。そのため、要点(ポイント)は理解できても、意味合いなり解釈までは分かりません。しかしながら、「構造化」されていれば分析まで終わったも同然なので、報告を受ける側からするととても助かります。
 したがって、仕事での要約作業をする場合には、「構造化」をゴールとすべきです。なお、「構造化」されたものが「図解化(視覚化)」もされているのが理想です。

 ところで、「構造化」ということに関して「知の編集術」(松岡正剛)という本にある次のフレーズは常に心にとめておくべき考え方です。ここでご紹介させてください。

◆編集でいちばん大事なことは、さまざまな事実や事態や現象を別々に放っておかないで、それらの「あいだ」にひそむ関係を発見することにある。そしてこれらをじっくりつなげていくことにある。
◆いずれにしても自分なりに重点が拾えたら、これらを少しでもならべなおすことが大事だ。これは「関係づける」ということである。重点をそのまま放っておかないで、多少ともならべなおすこと、編集術ではそのことが重要になる。

(出典)「知の編集術 発想・思考を生み出す技法」(松岡正剛)

 上記引用で「編集」となっている箇所を「要約」と読み替えても意味合いは同じです。

会話形式

 会話形式による要約というのは、表現形式として会話のスタイルで内容をかいつまんでまとめることです。例えば、次のようなイメージです。

 これを応用すれば、報道番組などでよくみられる司会者と解説者の掛け合いというスタイルもできます。さらに図解なども同時活用すれば短時間で要点を伝えることも可能ですが、成功するかどうかはシナリオの巧拙にかかっています。

ニュース形式(5W1H)

 ニュース形式とは、ニュース番組で見られるように5W1Hをメインに事実を淡々と伝えるスタイルです。このスタイルでは、例えば「きょう未明、北朝鮮がミサイルを発射し日本のEEZ内に着弾しました。現在のところ具体的な被害はありません」のように事実しか伝えないので、背景・文脈・今後の影響・意味合いなど分からないことが多く、速報として結論のみを伝えるような場面以外では使いづらいでしょう。
 上司から「昨日の契約どうなった?」と質問されたときに「受注しました」と結論だけを速報で伝えることが何よりも重視される場面はもちろんありますが、たいていの場合、もう少し詳細な要約を伝えないと報告を受けた側が情報不足で判断を誤りかねません。

 以上が要約をするための6つのテクニックでした。これらを知っておくだけでも、どのスタイルで要約すれば適切なのかについての作戦を立てることができます。無計画に要約作業をするよりもはるかに有効ですからぜひご活用ください。

(補足)情報を読み取るうえで文脈を大切にして欲しいこと

 今回紹介した要約のための6つのテクニックは、「知の編集術」(松岡正剛)という本から引用しました。この本には、要約のための6つのテクニックだけではなく、情報を読み取るうえで参考にしたいフレーズが随所に書かれています。今回特に強調したいのが「文脈の大切さ」です。ここでその一部を紹介させてください。

◆(中略)編集は「文脈」(context)を重視する。通訳も一字一句にこだわると、かえって文脈を見逃してしまう。
 ふつうは文脈というと、文章に書かれた意味の流れをさすことが多い。けれども私は文脈をもっともっと広くみていて、会話や出来事や状況に流れている情報的な脈絡をすべて「文脈」とよんでいる。この文脈をできるかぎり生かした状態で編集をすることがたいせつなのである。
◆(中略)だから文脈は、企画を立てる時にも段取りをつけるときにも、事態のアトサキにも事件の経緯にも、さらには思い出にも印象にもあらわれる。とくに思い出は、文脈がほろ苦いままに結晶化してしまっているほどである。何かが順番に起こっていれば、そこにはたいてい文脈があるといっていい。
◆そこで編集術ではつねづね文脈に気をつける。
◆「情報は文脈でできている」

(出典)「知の編集術 発想・思考を生み出す技法」(松岡正剛)

 なお、文脈や前後の流れの大切さについては10回目の記事(実態を問う質問(背景を問う))で詳しく解説しております。興味のある方はどうぞお読みください。

今回のまとめ

◆要約をするためのテクニックとして次の6つの方法がある。
◆それぞれの特徴を理解して、状況に応じて使い分けるとよい。

おすすめ図書

「日本語練習帳」(大野晋)

 著者の大野氏は言わずと知れた国語学の大家ですが、なぜ著名な国語学者の書いた本書が今回の記事テーマである「要約」のおすすめ図書になるのか訝しく思われた方もいるかもしれません。しかし、きちんとした理由があります。
 本書は、そのタイトルのとおり日本語が上達するためのいくつかの指南をしてくれます。その中で著者は、文章を上達させたいなら新聞の社説を縮約(=ダイジェスト化)する練習をするようにアドバイスします。例えば、1400字で書かれた原文を400字に「縮約」することを指示します。 
 さらにそのうえで400字に「縮約」した文章を今度は200字に「要約」するように練習させます。なお、ここで注意して欲しいのですが、著者は「縮約」と「要約」を異なる意味として次のように明確に区別しています。

縮約:
要約することや要点を取ることではなく、地図で縮尺というように、文章全体を縮尺して、まとめること。

要約:
要約とは場合によって、文章そのものを読み手が作り変えなくてはならないものです。縮約と要約とは違う。

 いずれにしても、上記練習は文章上達に有効であるばかりか、読解力と要約力のレベルアップにも役に立ちます。そういう意味で、今回の記事テーマである「要約」に関した推薦図書として紹介しています。
 なお、今回の記事テーマとは直接的な関係はありませんが、日本語のレベルアップという観点でも本書はたいへん勉強になります。特に助詞の「が」と「は」の使い分けなどは参考になりました。まだお読みでない方はぜひご一読をお勧めします。

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「知の編集術」(松岡正剛)

 本書は、39回目の記事(アブダクションという思考法)でもご紹介した編集工学研究所所長・松岡正剛氏が書いた編集術の入門書的な内容の本です。
 今回の記事で紹介した要約のための6つのテクニックも本書の考え方を参考にしていますが、それ以外にも情報を整理編集するという観点で有益なことがたくさん書かれています。今回の記事本文では「文脈の大切さ」に関するフレーズだけを紹介しましたが、それ以外にも、例えば「情報の分母と分子」という考え方が紹介されており、この点は情報を考えるうえで大いに役に立ちます
 本書は6章から成る本ですが、3章まででもいいのでお読みいただきたいです。情報の考え方・解釈・編集などに関心がある方には得られるところ大です。

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ハットさん
ハットさん

文章を読むときにキーワード・キーセンテンスに線を引くクセをつけるといいですよ。
なお、要約作業をするときにはパレートの法則(80対20の法則)も意識してください。パレートの法則については26回目の記事(社会を生き抜く「段取り力」)で説明しています。ぜひ参考にしてください。

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