今回は報告書作成の際に事前に考慮すべきポイントについて説明します。
どんな仕事でも管理職レベルになると何らかの報告書を作成する機会が格段に増えます。例えば、社長や取締役から「あの件を調査して役員会で報告するように」とか、事業部長から「部長会で報告するように」のような指示があります。多くの場合、口頭レベルの報告だけでなく、書面での報告も必要になります。この書面のレベルは様々です。ワードによって作成された数百ページレベルの報告書のこともあれば、パワポで作成された数十枚のスライドのこともあれば、2枚~3枚レベルのスライドの場合もあります。今回の記事では、最終的に作成する報告書などの成果物をそのレベルを問わずアウトプットと言うことにしますが、そのアウトプット(成果物)作成に向けて考慮すべきポイントについて説明します。
最初にアウトプット(成果物)を想定すること
今回の記事の結論から申し上げると、報告書を作成するときには最初にアウトプット(成果物)を想定することから始めるべきです。この考え方を示したのが次の図です。
ここで注意して欲しいのは、何も考えずに作業を開始すると、とりあえず調べるという作業(例えばネットで検索したり本を調べたり)から始めてしまうこと、すなわちインプットの作業から開始してしまうことが圧倒的に多いのですが、ゆめゆめインプットから始めてはいけないということです。
この記事は学生や新人社会人の方を対象に書いているのであえて振り返っていただきたいことがあります。学生の頃、何かのテーマについてレポートを提出せよという課題が課されたことがあったと思うのですが、そんなときに多くの学生がとる行動は、まずはインプットから始めることだったのではないでしょうか。インプットから始めた場合、最終的にどんなアウトプットになるかは出来上がってみないと分かりません。アウトプット(成果物)はあくまでも結果論として出来上がるものなので、たとえてみれば、ゴールを決めずに船出したものの、どこに到着するのかは潮の流れと風向き次第みたいな感じです。
このやり方だと、ものすごくレベルの高いレポートが出来上がるのか、それとも逆にレベルの低いレポートが出来上がるのかは運任せみたいなところがあり、高いレベルでの成果物が生み出される確率があまりにも低すぎるやり方だと考えています。作業時間も作業工数も余裕がある状況ならこのやり方でも大きな問題は生じないかもしれませんが、通常仕事の場合には、時間的にも工数的にも予算的にも様々な制約があるため、できる限り確率の高い作戦を立てて、より高いレベルの成果を出さなければなりません。そのためには、まずアウトプット(成果物)として具体的にどんな内容のどの程度のレベルを想定しているのか、という確認から始めなければなりません。それが明確になれば、インプットとして必要な事項も、プロセスとして必要になる作業も決まってくるのです。
なお、「Output(アウトプット)→ Input(インプット)→ Process(プロセス)」の順で考える考え方をそれぞれの頭文字をとって「OIP思考」と呼ぶ人もいます。OIP思考に関して説明した本があるので紹介してこの項を終わりにします。
▽OIP思考をしよう
(出典)『「超・思考力」入門』(西村克己)
◆OIP思考はアウトプット思考
OIP思考とは、アウトプット思考のことである。 O(Output)はアウトプット、I(In-put)はインプット、 P(Process)はプロセスの意味である。 OIP思考は、O・I・Pの順番を意識して考える思考である。すなわち、一番めにO(アウトプット=成果物)、二番め I(インプット=入力)、三番めにP(プロセス=やり方、方法、手段)を考える思考である。 アウトプット(O)とは、最終的に求められている、完成された状態の報告書、ハード、 ソフトなどである。到達すべき目標であり、成果物ともよばれる。英語でいうと、ファット (What)である。
インプット(I)とは、アウトプットを作成するために必要な材料や資源になるものであ る。調査分析などの場合、情報資源がインプットになる。また、組立工場などの場合、インプットは材料になる。
プロセス(P)とは、どういうやり方をするのかという、方法や手段である。また、日常 の日々の経営活動そのものもプロセスである。工場では生産活動である。英語でいうと、ハ ウツー (How to) である。
わたしたちは、新しい仕事(新しい課題や目標の達成など)を始めるとき、「どういうやり方をしたらいいのだろうか?」と悩むことが多い。また、この課題は非常に難しいとか、 実施するのは大変だとか、思いをめぐらすであろう。しかし、「どういうやり方をしたらいいのだろうか?」という問題は、実はプロセス(P)について悩んでいるのである。やり方は手段や方法であるから、プロセスは後から考えたほうがよい。プロセスを考える前に、まず、アウトプット(O)を先に考えるほうが賢明である。
なぜアウトプットを先に考えるのか。必要以上のアウトプットを出すことは、必要以上の労力を使うということ、つまり必要以上の経営資源を浪費するということである。目的の遂 行という観点で見た場合、不必要なアウトプットを出すことは無駄である。効率性を低下さ せる原因になる。すなわち、目標達成に必要最低限のアウトプットを求めることも、限られた経営資源を効果的に活用するための重要な考え方なのである。
新しい仕事を始める際には、アウトプットを整理することから始める。アウトプットが整理できたら、次にインプットとして必要な資料や材料を明らかにする。 最後にプロセスとし て、やり方や手段を考えることが効果的な手順である。
アウトプットをイメージするうえでは、中身と見せ方の2つについて想定しておくこと
先ほど「報告書を作成するには、最初にアウトプット(成果物)として具体的にどんな内容のどの程度のレベルを想定しているのか、という確認から始めなければならない」旨の説明をしました。アウトプットのイメージを持つというのは、具体的には中身(内容)の話しと見せ方(見栄え)の話しの2つがあります。それぞれで留意すべき点を要約すると次のようになります。
私は会計士として34年間それこそ数えきれないほど報告書を作成してきました。それぞれ作成する場面もレベルも内容も様々でしたが、共通して常に念頭に置いていたのは、プロとして顧客から報酬を頂いて報告書を作成している以上、ありきたりで面白くもない報告書、何の気づきもない報告書、一言でいえば「冴えない報告書」は決して作成しないようにするということです。報告書の読み手に対して、最低でも次のどれかを与えるものでないと価値がないと厳しく自戒していました。
①驚き(インパクト)
➡「まさか。びっくり」と感じさせる
②知見(インサイト)
➡「へー。なるほど」と感じさせる
③新たな疑問(懸念・課題)の提示
➡「今まで気にもかけていなかったけど、この点を新たに知りたい」と感じさせる
そうするためには、アウトプットのイメージを考えるときの構想とかアイデアが何よりも大事になります。そのため一人で考えるのではなく、常に複数の仲間や部下とブレストを何度も繰り返して、絶えず構想を練り続けることを心がけていました。
何年も同じ仕事を続けているうちに業務に精通することはいいことなのですが、一方でマンネリ化してしまい毎回同じようなパターンの冴えない報告書を作ってしまうベテランがどんな分野にもいるものです。そういう人にならないために今回の記事が参考になれば嬉しいです。
今回のまとめ
報告書を作成するときには最初にアウトプット(成果物)を想定することから始めること
おすすめ図書
今回お勧めする上記の本はすでに絶版になっており入手困難ですが、とても良い本なのでこの機会に紹介させてください。今回の記事本文の中では本書から「OIP思考」について説明した箇所の引用をしましたが、それ以外にも仕事全般にわたって活用できる有益な考え方やフレームワークが分かりやすく説明されています。本書は今回の記事のテーマである報告書作成のために書かれた本ではありませんが、報告書の構想を練るときにアイデアのヒントをくれる本です。
本書そのものは1999年10月に出版された本なので、古本として手に入れるしか読む方法はありません。しかしながら、著者の西村氏は思考術関係の本を多数書かれているので、似たような内容で現在も新刊として出版されている別の本もあると思われます。書店で西村氏の本を見かけた際には中身を確かめてみてください(詳しく調べたわけではないので明確に言い切れなくて申し訳ございません)。いずれにしても、西村氏の本はどのジャンルでも概して易しく書かれていますので、思考術一般にかかわる入門書をお探しの方には西村氏の関連書籍をお勧めいたします。
レオナルド・ダ・ヴィンチの名言「十分に終わりのことを考えよ。まず最初に終わりを考慮せよ。」をお忘れなく。