今回は古典的名著「道は開ける」(D・カーネギー著)をお勧めする内容になります
誰でも日々悩みに直面して生きています。長い人生において悩みはつきものであり、程度の差こそあれ、悩みのない人なんていないでしょう。また、悩みというほどのものではないとしても、気分が落ち込んだり、何となくふさぎ込んで元気が出ないときというのはどうしてもあるものです。そのため、それらに対する有効な対処法を身につけておくことは大事なことです。今回の記事では、そのような悩みに対処するための1つの方法として、古典的名著「道は開ける」(D・カーネギー)をぜひ参考にして欲しいとお勧めするものです。
「道は開ける」とはどんな本か?
まず「道は開ける」(D・カーネギー)はどんな本かということからお話しします。この本は初版が1944年にアメリカで「How to Stop Worrying and Start Living」のタイトルにより発行されました。そのタイトルのとおり、悩みをストップさせ人生をスタートさせるための具体的な方法が書かれた本で、世界各国で翻訳され邦訳は300万部突破と言われる世界的ロングセラーかつベストセラーです。カーネギーの本は「道は開ける」と「人を動かす」という2冊が二大名著とされており、どちらも自己啓発書の古典的名著として本屋さんのビジネス書コーナーには必ずと言っていいほど置いてあるような本です。そのため、読んだことはないとしても、知らない人はいないかもしれません。
内容としては、生きていくうえで誰もが直面する悩みに対して、これでもかこれでもかというほど事例をあげて具体的な対処法が書かれています。古い本なので紹介されている事例の中には今から見ると実感がわかないものがないわけではありませんが、それでも悩みに対する対処法としては普遍的なことが述べられており、現在読んでも違和感は全くありません。違和感がないどころか、むしろ書かれていることは当然すぎて目新しい印象はないかもしれません。この点については著者のカーネギーは次のように書いています。
◆本書にはことさら目新しいことは書いてないけれども、普段ならば人があまりしないことが書かれている。なぜなら、取り立てて新しいことを学ぶ必要などないからだ。私たちはすでに、どう満ち足りた人生を送ればよいのかを知っている。(中略)私たちにとって問題なのは無知であることではなく、無行動であることに他ならない。この本の目的は太古より語られてきた根本的な真理を再び分かりやすい形で書き直し、あなたが行動に移すことができるよう揺さぶり起こすことである。
(出典)「道は開ける」(D・カーネギー)
◆正直に言おう。もしかすると、私が皆さんの仕事の悩みを半減させるのは無理かもしれない。だれにも不可能なのだ。結局は、できるのは皆さん自身だけである。私にできるのは、世間の人々がどのようにして半減させたかを紹介することだけである。それから先は、皆さん次第なのだ!
◆しかしながら、知識は実践されて初めて威力を発揮する。また、本書の目的も、皆さんに目新しい何かを教える点にあるのではない。本書の目的は、皆さんが既にご承知のことを思い出していただき、それを何らかの行動で実践していただくように叱咤激励する点にあるのだ。
つまり、カーネギーがこの本で首尾一貫して言いたいのは、「悩みを克服した人の例をたくさん紹介するけど、実はそんなことは言われなくてもみんな知っているよね。でも実際に行動に移す人は少ない。重要なのは知っているかどうかではなく行動・実践すること。そして、それはあなた次第であることを忘れずに!」ということです。本書を読んだ結果、ありきたりなことしか書かれていなかったとの感想を抱いただけの人には、実行することこそが重要なのだと強調しておきます。
「道は開ける」はどんな人に読んで欲しいか?
何かに悩んでいてその解決のためのヒントを求めている人にはぜひ本書を読んで欲しいです。悩みの種類やその人が置かれている状況によって胸に響くフレーズなどは変わってきますが、いずれにしても読むたびに気づきをもらえる本です。真剣に悩んでいる人が読むと、解決策についてのヒントやきっかけが見つかるはずです。
ところで、悩むという状態について、カーネギーは次ように説明しています。
悩むというのは、常軌を逸して無益な円のまわりをグルグルと回ることだ。
(出典)「道は開ける」(D・カーネギー)
カーネギーはさらに「悩む必要はない。(中略)問題の本質を見きわめ、冷静にそれを処理」すればいいとも指摘します。本書を読んだからと言って常に冷静に問題を処理できるかどうかは分かりませんが、少なくとも円のまわりをグルグルと回っているだけの状態よりはマシです。悩みを完全に克服できないとしても、どうしていいか分からずグルグル回るだけから一歩前進するだけでも気が楽になります。本書から得たヒントやきっかけをもとに自分なりに対処法を工夫し実践することで悩みが扱いやすくなるのは確かでしょう。
「道は開ける」の中で紹介されている必ず役に立つ3つの考え方
今回の記事では「道は開ける」の中で紹介されている悩みに対する対処法のうち知っておくと必ず役に立つと思われる3つの考え方を紹介します。
なお、「道は開ける」は第八部まで28章と実話31編(創元社文庫版)からなる相当な分量の本です(なお角川文庫の新訳版だとパート9まで30章とパート9・実話32編で構成される)。今回の記事では第一部・第二部に書かれている3つの考え方しか紹介しませんが、このほかにも胸に響く名言・フレーズやエピソードが満載です。斜め読みでもよいのでぜひ通して読んでみて欲しいです。
それでは、3つの考え方を紹介します。
(考え方その1) 悩みに直面したときに最初にすること
1つ目は、悩みに直面したら何はともあれ次の3つのことをしておくと冷静に対処できるよという考え方です。
上記の「①起こり得る最悪の事態は何か?と自問すること」と「②やむを得ない場合には、最悪の事態を受け入れる覚悟をすること」は、悩みに対する対処法としてだけではなく、危機における心構えとしてもとても重要です。この2つをしておくからこそ「無益な円のまわりをグルグルまわる」状態から脱して、無用な迷いから解放されるのです。
この点については第28回目の記事(有事では初動対応で勝負が決まる)の中の「最悪に備え落ちる場所をあらかじめ決めておき、最悪の場合には思い切って飛び降りる」という項でも同様の話しをしています。ぜひご確認ください。
(考え方その2)悩みに対処する際の4つのステップ
2つ目は、悩みに対処するための4つのステップという考え方です。
考え方としては基本的にOODAループと同じなのですが、カーネギー氏は特に「決断と実行こそが重要」との思いを強く持っているような気がします。それは、例えば次のようなフレーズからも感じとれます。
◆(中略)私は決断に達することがいかに大切であるかを知った。はっきりとした目標を決めることができず、いつまでたっても考えがまとまらずに堂々めぐりを繰り返す。それが人間の神経をずたずたにし、生き地獄へと追いやるのだ。明確な決断に達すれば、即座に苦悩の五割が消え失せ、その決断を実行に移すと同時に、残りの四割が蒸発する。
(出典)「道は開ける」(D・カーネギー)
◆特筆すべき点は、第三の欠くべからざる法則「何かの行動で示すこと」という面を最優先させていることだ。私たちが行動でもって示さなければ、真相の究明や分析もすべて空念仏に等しい - まさにエネルギーの消費でしかなかろう。
◆「ひとたび決断を下し、あとは実行あるのみとなったら、その結果に対する責任や心配を完全に捨て去ろう」(中略)。要するに、事実に基づいて慎重に決断したならば、行動に移れということだ。(中略)一度自分を疑い出したら、また別の疑いが生じてくる。もはや肩ごしに後ろを振り返ってはならないのだ。
◆問題をある限度以上に考え続けると、混乱や不安が生じやすい。それ以上調べたり考えたりすれば、かえって有害となる時機がある。それが決断をし、実行し、そして絶対に振り向いてはならない時期なのだ。
いずれにしても、悩みへの対処でも危機への対処でもOODAループ同様の4つのステップで対応することが大事です。
なお、OODAループについては第3回目の記事(できる人が徹底しているOODAループとは?)と第28回目の記事(有事では初動対応で勝負が決まる)において詳細に説明しています。ぜひご確認ください。
(考え方その3)問題と解決策を検討するうえで次の問いと答えを書き出す
3つ目は、悩み(問題)と解決策を検討するうえで次のような問いと答えを書き出すとよいという考え方です。
ここで注意して欲しいのは「③いくとおりの解決策があって、それらはどんなもの
か?」というステップを忘れないことです。冷静さや慎重さを欠いていると、このステップを飛ばしてしまい、いきなり④の解決策に進んでしまうことがよくあります。深い検討をすることなくパッと思いついた解決策を衝動的に採用してしまうことはままあるものです。そうならないように、まずは考えられる選択肢をすべて洗い出して検討することが大事です。
この点に関連しては第35回目の記事(問題直面時の対応で分かれる部下の5つのタイプ)でも説明したのですが、 問題に対して1つの解決策しか検討していないのか、問題に対して考えられる複数の解決策を比較検討しているのか、の違いは大きいです。ぜひ35回目の記事も合わせてお読みください。
最後にご紹介のみ(「道は開ける」は複数の出版社から異なる版が出ています)
「道は開ける」は複数の出版社から異なる版が出ています。どれがお勧めというほどの違いはありません。ここではいくつかをご紹介しておきますので、自分が読みやすいと感じる版でお読みください。
◆「道は開ける(新装版) 単行本」(香山 晶 (翻訳))創元社
上記は最も古い邦訳で、私が最初に読んだのはこの単行本版でした。文庫本版やキンドル版も出版されておりこちらもお勧めです。私は単行本版・文庫本・キンドル版の3つとも持っています。それぞれ若干ですが訳が異なっていたりします。
上記は比較的新しく翻訳されたバージョンです。こちらの本には、先に紹介した創元社の本では収録されていない29章と30章が掲載されています。私はこちらのバージョンも持っています。
◆「【決定版カーネギー】道は開ける:あらゆる悩みから自由になる方法 単行本」(東条 健一 (翻訳)新潮社
上記は本屋で立ち読みしただけなのでコメントはありません。
◆「超訳 カーネギー 道は開ける エッセンシャル版」(弓場 隆 (翻訳))ディスカヴァークラシック文庫シリーズ
読みやすく編集されており入門書としてはいいかもしれません。しかし、この1冊で終わらせず、編集されていないオリジナルの文章(創元社か角川文庫版か新潮社版か)でも読んで欲しいです。
◆「齋藤孝が読む カーネギー『道は開ける』 (22歳からの社会人になる教室2) 」(齋藤 孝 (著))創元社
齋藤先生が分かりやすく編集・解説したバージョンです。こちらも入門書としては良いのですが、この1冊で終わらせず、編集されていないオリジナルの文章(創元社か角川文庫版か新潮社版か)でも読んで欲しいです。
◆「13歳から分かる! 道は開ける カーネギー 悩みを解決するレッスン」(藤屋伸二 (監修)) 日本図書センター
小学生でも理解しやすい形にまとめたものです。お子様が最初に読む本としてはお勧めです。
◆「How to Stop Worrying and Start Living(ペーパーバック)英語版」(Dale Carnegie)
英語(原書)で読むのならこのバージョンがお値段もお手頃でお勧めです。日本語の翻訳版と見比べながら読んでみると英語の勉強にもなります。
今回のまとめ
悩みを抱えていて解決策に向けたヒントを探している人に名著「道は開ける」(D・カーネギー)をぜひお勧めします。
世の中にはたくさんの自己啓発本が出版されており私も色々な本を読みましたが、結局いつもこの本に戻ってしまいます。いつまでも支持されロングセラーとなっているのも納得できます。