苦境を乗り越えるための4C(Commitment、Control、Challenge、Connectedness)#2

危機管理

困難の連続である人生をどうやって生き延びるか?

 誰の人生にも言えることですが、人生は困難の連続です。もちろん人生では良いこともたくさんあるのですが、良いことだけに終始する人生はそうないでしょう。長い人生では困難な状況に直面する場面も必ずあります。私も今までの人生で何度となくもうダメだと絶望する場面に遭遇し、その都度打ちのめされてきました。それでもなんとかここまで生き延びてこられたのは、4つのC(以下「4C」という)という考え方のお陰です。この「4C」の考え方に出会わなければ、今ごろ私は生きていないと言っても過言ではありません。ぜひ多くの方にこの「4C」の考え方を知ってもらい、人生で遭遇する様々な困難を乗り越える支えにして欲しいと思います。

「4C」とは、Commitment、Control、Challenge、Connectedness のこと

 それでは「4C」とは何でしょうか。それは苦境を乗り越える時に自分を支えてくれる次の4つの言葉の頭文字です。

  • Commitment 
  • Control
  • Challenge
  • Connectedness

まず3Cとは何か?

 上記4Cの基礎になっているのは、ニューヨーク市立大学の心理学者スザンヌ・C・コバサ氏が提唱した3Cです。そのため、まずは3Cから説明させてください。
 コバサ氏は、シカゴ大学での研究時代に企業経営者・幹部・弁護士など社会的地位を持つ人々を対象に次のような調査をしました。


◆多大なストレスにさらされながらも、健康を維持し、かつ好調な業績を維持している人がいる。この人たちに共通してみられる特徴的なパーソナリティは何か?

 この調査の結果、ストレスに耐えながら成果を出している人には共通の3つの要素があることが分かりました。それが、Commitment (コミットメント)、Control(コントロール) 、 Challenge(チャレンジ)という3つのCです。以下では3つのCを順に説明します。

Commitment (コミットメント)とは?

 コミットメントとは、自分が強くかかわっていることを自覚することです。簡単にいえば、他人事ではなく自分事として覚悟することです。自分の問題として受け入れる覚悟といってもいいでしょう。
人は困難に直面しても、その困難を自分の問題として認識せずに他人事としてとらえ、冷ややかに距離をおいて対応したり、当事者意識を欠いた評論家的なスタンスに終始することがあります。しかしながら、危機においても元気で乗り切る人は、そんな当事者意識を欠いた態度とは無縁で、問題を自分事と認識して自らが解決するしかないとの覚悟・信念を持ってことに臨みます。この姿勢こそがCommitment (コミットメント)です。
 なお、コミットメントに関連して言いたいことがあります。それは「覚悟」という言葉の意味です。「覚悟」という言葉は日常会話でも頻繁に使います。例えば「覚悟をきめた」というような言い方をします。私は、「覚悟」という言葉を「それをすることによって何かを失うとしたら、何を失うことになるのかを自分自身で明確にして受け入れること」という意味合いで使っています。この説明だけでは分りにくいと思うので1つ例を挙げます。例えば、「このプロジェクトを何が何でも最後までやりきる覚悟を決めた」というのなら、何が何でもやりきることの代償として最悪何を失うのかを明確にして、その結果を自分で受け入れると決めることを指します。失うものは、家族との時間であったり、趣味の時間であったり、睡眠時間であったり、その状況によって異なりますが、いずれにしても覚悟するということは、代償として何かを失うことを受け入れる決断をすることだと理解しています。
 覚悟を持ってやった結果、最悪失敗したら、信頼を失うのか、現在の職位を失うのか、それともクビになり職を失うのか。とにかく失うものを明確にして受け入れる決断をすることが覚悟です。逆に言えば、最悪の事態が発生したときに何を失うのかを受け入れていない覚悟なんて、それは覚悟とは言わないと思っています。
 決断の段階で、最悪の場合にはこれを失うとの覚悟を持っておくと、困難な状況でも決してブレることなく乗り越えることができます。これがまさにコミットメントだと思っています。

Control(コントロール)とは?

 Control(コントロール)とは、自分がコントロール出来ることと出来ないことを区別して、自分がコントロール出来ることに集中することを言います。人はとかく自分では何ともならないことについてまでクヨクヨと悩んでしまうものですが、自分ではコントロール出来ないこと、如何ともしがたいことについては、潔く気にしないようにすることでが高いストレスの中で生き延びるコツなのです。

Challenge(チャレンジ)とは?

 Challenge(チャレンジ)とは、文字どおり挑戦する姿勢のことです。挑戦は、言うほど簡単なことではありません。なぜなら、人はややもすると保守的になり、挑戦するどころか逆に現状維持にとどまってしまう傾向があるからです。よほどの事情がない限り、何かに向かって挑戦するためには強固な意志・決意が必要です。新しいことや難しいことに挑戦する場面では特に顕著ですが、ごくありふれた事柄について挑戦し、やりきる場合でも困難さが伴います。人生では、当たり前のことを当たり前にやり続けなければならないことも多いのですが、悲しいことに人間の弱さから、面倒だとか、どうせやっても無駄だとか、そんなネガティブな気持ちが勝ってしまいチャレンジを放棄してしまうことも日常茶飯事です。
 先ほどControl(コントロール)の項で説明したように、自分がコントロール出来ることに集中することは大事なことです。しかしながら、出来ることに集中する前に、そもそも出来ることにチャレンジできるかどうかという別の問題があるのです。

3Cに追加された四番目のC、それがConnectedness

 これまで3Cについて説明してきましたが、この3Cにもう一つのCを追加しようと提唱した人がいます。医学博士のマーク・J・タガー氏です。タガ-氏は、四番目のCとしてConnectedness(コネクテッドネス)の追加を提唱しました。Connectedness(コネクテッドネス)とは、人間関係・周囲の人たちとのつながり、絆のことです。人はたった一人で生きているわけではありません。困難に直面しても家族や仲間たちと助け合いながら乗り越えていくのです。人との絆を大切にすることは危機を乗り越える秘訣の一つなのです。

4Cを要約すると

 4Cをまとめると次のようになります。苦境を乗り越える際には必ず支えになってくれる言葉です。

4Cの考え方を具体的にどのように使えばいいか?

 冒頭で私がここまで生き延びてこられたのは、4Cの考え方のお陰だと書いたのですが、困難な状況において4Cを具体的にどのように活用すればいいのでしょうか。ここでは極端なケースを使って説明してみましょう。

 唐突なことを言い出して戸惑うかもしれませんが、仮に自分が遭難し洞窟に閉じ込められたケースを想像してみてください。例えば、2018年にタイで12人のサッカーチームのメンバーと1人のコーチが洞窟に閉じ込められ遭難するという事故がありました。映画化もされていますし、ウィキペディアでも「タムルアン洞窟の遭難事故」とのタイトルで詳細に説明されていますので、ご記憶にある方もいらっしゃることでしょう。もし自分がこの事故の当事者の一人だったらと想像すると考えただけでも恐ろしいことです。しかし、今回は4Cの使い方をイメージしてもらうために、あえて極端な事態で考えてみたいのです。

 もしも自分が洞窟事故で閉じ込められたリーダーだったら、4Cのそれぞれの要素ごとにどのように考えるでしょうか。

 まずCommitment (コミットメント)。洞窟に閉じ込められた状況は絶望的で泣きたくなりますが、単に泣くだけでは何も事態は好転しません。これが現実なのだと冷静に受け止めて自分で何かをすると決意するしかないのです。最悪の場合に失うものは命かもしれないとの覚悟を持ちつつも、まずは自分で状況を切り開くと決意するところから始めるしか助かる道はありません。

 次にControl(コントロール)。こんな状況では出来ることなんて何もないと絶望してしまうかもしれませんが、冷静に考えると、出来ることがまったくないわけではありません。最終的に助かるかどうかは別として、出来ることはあります。例えば、生き延びるための水を探すとか、地上に通じているルートがないかを探すとか。もしかしたら、出来ることは祈ることしかないかもしれません。とにかく、いま出来ることが何なのかを冷静に考えることです。

 出来ることが見つかったら、次はChallenge(チャレンジ)です。仮に出来ることがあるとしても、絶望の淵にいる人間にとっては、そんなことをしたところでどうせ助からないという気持ちになってしまいます。挑戦する気力もわいてきません。当然です。しかしそれでも自分を信じて挑戦する以外には生き延びる道はないのです。

 そして最後にConnectedness(コネクテッドネス)。もしも仲間がいれば、一人ではなく仲間と力を合わせて知恵と勇気を振り絞るのです。そうすることによって生き延びる確率は格段に上がります。どうやって仲間の力を結集していくのかを考えることが重要になります。

 以上、苦境に直面した際の4Cの具体的な活用の仕方を極端な事例で説明してみました。

 ところで、こんな風に4Cで考えたからといって、困難を常に乗り越えられるかどうかは分かりません。ただ一つ言えるのは、やみくもに頑張るよりも4Cの要素ごとに分解して、どの部分でまだ改善余地があるかを考えて努力した方が道が開ける可能性は高まると思うのです。日常から4Cで考える癖をつけておくと、いずれ必ずやその考え方が自分を救ってくれる日が来ると確信をもってアドバイスいたします。

今回のまとめ

人生で直面する困難を乗り越えるうえでは、4Cの考え方が必ずあなたを救ってくれる。

メモ

【苦境の乗り越える4Cと似た考え方に「首尾一貫感覚(SOC)」があります】
 今回の記事で紹介した4Cという考え方と似た考え方として「首尾一貫感覚(SOC)」という考え方もあります。「首尾一貫感覚(SOC)」については第41回目の記事(首尾一貫感覚(SOC)で不安を軽くする)で説明しました。「首尾一貫感覚(SOC)」についても、不安なとき苦しい時に自分を救ってくれる考え方としてお勧めします。どうぞお読みください。

おすすめ図書

「ストレスをパワーに変える!」(マーク・J・タガ-著)
 今回の記事で紹介した4Cについては、この本の序章に簡単な説明があります。序章だけでも目を通すことをぜひお勧めします。

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ハットさん
ハットさん

ちなみに4Cについては、ネットで「レジリエンスの4C」とか「心理学 コバサ 4C」などのキーワードで検索するとたくさんの記事がヒットします。4Cについてもっと知りたいという方はぜひネットで検索してみてね。

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