名著「失敗の本質」から学ぶ(危機での決断は「Yes」か「No」か迅速にしろ)(全9回の9回目) #82

マネジメント

今回は「『失敗の本質』から学ぶ」の第9回目で「危機での決断は「Yes」か「No」か迅速にしろ」という話しをします。

 第74回から「『失敗の本質』から学ぶ」というテーマで連載しており、私が「失敗の本質」を読んで肝に銘じていること(8つ)を順にご紹介しています。今回は8番目「危機での決断は「Yes」か「No」か迅速にしろ」についてお話しします。なお、今回が最終回です。

今回お伝えしたいことを最初に要約すると…

 今回お伝えしたいことを最初に要約すると、「失敗の本質」では日本軍の失敗要因として、次のような背景から決断遅れがあったと指摘しています。

 以下では「失敗の本質」で書かれている具体的な指摘のいくつかを紹介します。

「失敗の本質」で指摘されている「決断遅れが状況悪化を招いた事例」

 有事(危機)では迅速な決断が求められますが、日本軍では往々にしてそれができず、その結果として被害が拡大するという事態が生じています。「失敗の本質」では次のようなことが指摘されています。

 「失敗の本質」ではいくつかの具体例が示されていますが、それらをすごく大雑把にまとめると次のようになります。

 ここでは典型例としてノモンハン事件を紹介します。ノモンハン事件に関する作戦中止までの時間的な流れは下記のようになっています。これを読むと、5月末時点で中央では攻撃中止(戦線不拡大)の方向が決まっていたにもかかわらずそのことをはっきり言わないから現地軍は攻撃を続行し、9月3日になってやっと中央は攻撃中止を命令し作戦がストップすることになります。なんでこんなことになってしまったのだろうかというやり切れない気持ちで一杯になり、とても気が滅入ります。
【ノモンハン第二次事件の時間的流れ】

(注:「失敗の本質」に記載の説明をもとにハットさんが表形式に整理した)

 「失敗の本質」によれば「作戦終結という重大局面に至ってもなお微妙な表現によって意図をそれとなく伝えるという方法がとられた」とのことですが、こんな緊急時においてまで遠回りな言い方で伝えて「あとは察してくれ」というのはあまりにも無責任です。こんなことで死んでいった将兵たちの気持ちを思うと居たたまれません。この点は「失敗の本質」の中でも下記のように糾弾しています。当然です。

 なお、上記以外にも「失敗の本質」ではレイテ海戦・インパール作戦などでの決断の遅れを具体例で指摘しています。ぜひ原書でお読みください。

教訓としては「危機での決断は「Yes」か「No」か迅速にしろ」ということ

 日本軍の失敗と同じ轍を踏まないための教訓としては、危機(有事)での決断は「Yes」か「No」か迅速にしろということです。この点に関しては危機管理の専門家である佐々淳行氏の次のアドバイスをぜひ肝に銘じておくべきです。
 まずは佐々氏の主張を私が要約した図を示し、そのあとで佐々氏のオリジナルの文章を紹介します。

 以下は佐々氏が自著で書いていることを紹介します。少し長い引用になりますが、この考え方は必ず役に立ちますので、ぜひ読みください。

 危機(有事)での決断のプレッシャーは経験した人しか分からない厳しいものです。決断から逃げ出したくなるのも当然です。しかしながら、トップリーダーにはそれは許されません。それが嫌ならリーダーを辞任すべきです。

コーヒーブレイク

【「失敗の本質」で使用している分析枠組み(フレームワーク)が役に立つこと】
 今回の記事では取り上げませんでしたが、「失敗の本質」の第3章では、日本軍がなぜ環境適応に失敗したのかを分析しています。この分析で使用している枠組み(フレームワーク)が組織の問題点を考えるうえでなかなか役に立つ優れものです。そこで、このコーナーでは「失敗の本質」で使用されている分析枠組み(フレームワーク)を紹介しておきます。
 「失敗の本質」では図解として掲載されていますのでオリジナルは原典をご覧いただくとして、ここで紹介するのは私が自分なりにアレンジしているバージョンです。下記図がそうです。

「失敗の本質」に記載の図を参考にハットさんが作成

 上記フレームワークは、組織の問題点や課題を探る際に、具体的な構成要素のどこを検討すべきかのヒントになります。
 ちなみに第22回目の記事(「マッキンゼーの7S」で大局的に考える)で紹介したフレームワーク「マッキンゼーの7S」も基本的に同じです。

「経営参謀の発想法」(後正武)に記載の図をハットさんが改変

 今回紹介した「失敗の本質」提示のフレームワークの方は、さすが学者が考えた分析枠組みだけあって理論的に精緻に考えられています。一方で、「マッキンゼーの7S」の方は各構成要素の関係が若干未整理であるものの簡便で覚えやすいです。そのため、それほど精緻な理屈にこだわらなくてもいい場面では、まずは「マッキンゼーの7S」を使って分析することをお勧めします。つまり、まずは「マッキンゼーの7S」を使って概観を把握のうえ分析し、さらに論点を掘り下げる時に「失敗の本質」提示のフレームワークで使って考えるというような進め方がいいでしょう。
 いずれにしても、今回はフレームワークのみならず「失敗の本質」第3章そのものをご紹介しませんが、とても参考になることが書いてあり、組織改革・組織変革に興味のある方には示唆に富む内容になっています。機会があればぜひお読みください。

今回のシリーズの総まとめ(74回から82回まで全9回)

 74回から82回(今回)までの全9回にわたり、私が「失敗の本質」を読んで教訓として肝に銘じていることを紹介してきました。長いシリーズなのでまとめとして各回の簡単な要約を記載しておきます。

第74回(全9回の1回目)「失敗の本質」から学ぶ(総論)

 74回では、私が「失敗の本質」を読んで教訓として肝に銘じているのは次の8つだという話しをしました。

第75回(全9回の2回目)戦略と作戦目的の明確化と関係者での共有の徹底

 75回では、何事を始めるにしても最初に次の点を徹底しておくことが重要だという話しをしました。

第76回(全9回の3回目)成り行きに任せるな

 76回では、日本軍の失敗要因として大きな展望に欠けていたこと、また教訓として成り行きに任せてはいけないことをお話ししました。

第77回(全9回の4回目)精神論ではなく具体的な方法論を指示しろ

 77回では、リーダーは「精神論ではなく具体的な方法論を指示しろ」という話しをしました。

第78回(全9回の5回目)常に複数の選択肢を用意しておけ

 78回では、日本軍はワン・パターンの作戦で失敗したこと、教訓として常に複数の選択肢を用意しておくことが大事だと説明しました。

第79回(全9回の6回目)現場に丸投げするな

 79回では、中央(本部)は決して現場に丸投げをしてはいけないこと、現場に丸投げが横行するといずれ組織が崩壊することをお話ししました。

第80回(全9回の7回目)チーム一丸で戦え。スタンドプレーは認めるな。

 80回では、日本軍が総合力で戦わなかったこと、人材登用では「語気荒く積極策を強く主張する人」を重用し、その人たちが失敗しても甘い評価だったことをお話ししました。

第81回(全9回の8回目)同じ失敗を繰り返すな(失敗から組織的に学べ)

 81回では、日本軍では組織的学習を軽視していたことをお話ししました。

第82回(全9回の9回目)危機での決断は「Yes」か「No」か迅速にしろ

 82回(今回)は、日本軍の失敗要因として決定的に重要な場面での決断の遅れが挙げられること、教訓として危機(有事)での決断は「Yes」か「No」か迅速にしろという話しをしました。

 今回は「失敗の本質」という本から私が個人的に教訓としていることを全9回にわたって紹介しました。長いシリーズにお付き合い頂いた方にはお礼を申し上げます。どれか一つでも参考になれば幸いです。

ハットさん
ハットさん

このシリーズは今回で終わりです。

今回の一連の記事を読んで興味の湧いた方は「失敗の本質」の原書をぜひ読んでみてくださいね。

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