経営戦略の要諦は「絞り」と「集中」にある #62

マネジメント

今回は、経営戦略の要諦が「絞り」と「集中」にあるという話しをします。

 本ブログは学生さんや社会人になりたての若い方を対象として想定し、仕事術全般にわたって私が身につけたことを記事にしています。そのような背景のもとで今回の「経営戦略の要諦が『絞り』と『集中』にある」というタイトルを見ると、今回の記事は一般的な仕事術と毛色の異なる内容かもしれないと懸念される方もいるかもしれません。「経営戦略」とかいう大袈裟な言い方を耳にすると、「今まで会社経営に関与した経験もないし、正直あまり関心もない」などのような感想を抱くかもしれませんが、今回の記事はそれほど大仰な内容ではありません。「経営戦略」という言葉を大上段に捉えずに「(どんな分野でも)ゴール達成のために必要な作戦」くらいの意味で考えると、その作戦で重要なことは、やるべきことを絞って力を集中することですよ、と言っているだけです。
 ただ、この当たり前のことが会社経営という観点で議論されたとたん、どうやら忘れられてしまうのか、それとも複雑に考えすぎてしまうからなのか、結果として十分実行されていないことが多いと感じています。経営の観点でも個人のゴール達成と同じく優先順位の見極めが重要との意識を大事にして欲しく今回の記事を書きました。

今回の記事は「戦略プロフェッショナル」(三枝匡)という本がベースになっています。

 内容に入る前にまず最初に申し上げておきますが、今回の記事で紹介する考え方は「戦略プロフェッショナル」(三枝匡)という本がベースになっています。私は本書から経営戦略における「絞り」と「集中」の具体的な考え方について多くを学びました。特にセグメンテーションの考え方は秀逸で、会計士として仕事をする上でも大いに参考になりました。私は職業柄、会社経営関連の書籍をよく読みますが、その中でも三枝氏の本は断トツでお勧めです。
 今回の記事ではそのエッセンスすらご紹介できませんが、三枝氏の一連の著作についてはこの記事の最後に「おすすめ図書」として紹介しておきます。ご関心のある方はぜひご参照ください。
 なお蛇足になりますが、一橋大学教授の楠木建氏は、三枝氏を始めとする優れた経営者が書いた著作物について下記のように記しています。

 高名な楠木教授ですら「黙殺されるか、 冷笑されるか、殴られるか」なのですから、私ごときが何かを語るのもおこがましいのですが、私が三枝氏の「戦略プロフェッショナル」を読んで以来、経営だけでなくあるゆる分野で応用しているセグメンテーションの考え方を以下でご紹介します。

「経営戦略の要諦は『絞り』と『集中』にある」とはどういうことか?

まず「経営戦略」の定義についての認識合わせ

 これから「経営戦略の要諦は『絞り』と『集中』にある」ことを説明するのですが、その前に、そもそも「経営戦略」とは何かということについて認識合わせをさせてください。
 先ほど「経営戦略」という言葉を大上段に捉えずに「(どんな分野でも)ゴール達成のために必要な作戦」くらいの意味で考えてと申し上げました。確かに「経営戦略」は大雑把に言えば作戦・方針ではあるのですが、具体的にどういう作戦・方針かと言えば、「持てる資源をどのように配分するか」と考えると色々なことが理解しやすくなります。したがって、以下では「経営戦略」を「資源配分」という意味合いで用います。
 なおご参考ですが、この考え方は経営コンサルタントの後正武氏の次の主張に基づいています。

「絞り」とは「捨てること」でもある

 「経営戦略」を資源の配分と考えると、カギになるのがどこに集中して資源を配分すべきかということです。つまり「絞り」と「集中」がポイントになります。この点に関して「戦略プロフェッショナル」(三枝匡)では次のように説明されています。

 ここまでを要約したのが下記の図です。

問題はどうやって絞り込むか?

 ここまでの説明を読んだ人の中には、わざわざ「経営戦略の要諦は『絞り』と『集中』にある」などと仰々しく言われなくても、「ふーん、そんなこと学生の頃からやっているよ」とお思いの方もいるかもしれません。確かにそのとおりです。ただ、いざやるとなると結構悩ましい問題があります。どうやって集中すべき領域を絞り出すかが一筋縄ではいかないのです。

 身近な例でイメージしてみましょう。例えば、学生の頃の試験勉強を思い出してください。もし試験直前に一夜漬けで勉強するとしたら、勉強すべき項目を絞り込んで集中的にそこに注力する(いわゆる「ヤマを張る」)しかないのですが、そもそも簡単にヤマが張れるのなら苦労はしません。膨大な試験範囲の中から重点的に注力すべき項目を把握するためには、何らかの基準(軸・切り口)で絞り込んでいくしかないのですが、その基準(軸・切り口)をどうするのかが難しいのです。
 とにかく、絞り込みにはセンスや創造性も問われるし、それだけではなく経験や度胸もものを言います。一筋縄ではいかないのです。

 上記は思い付きで適当に作った例なので単にイメージとして受け止めて欲しいのですが、経営戦略を考える際にも同様に何らかの基準(軸・切り口)で市場を絞り込んでいく(これを「市場をセグメントする」という)ことになると、これは七転八倒するような大変な作業です。
 この点に関連して「戦略プロフェッショナル」(三枝匡)の中でも下記のような記述があり、その一端が垣間見えます。

 セグメンテーションの作業(切り口を探す作業)というのは、実務ではみんなでブレーン・ストーミングをしながら知恵を絞ってひねり出していくことが多いのですが、本当に「生みの苦しみ」です。この苦しみについては、14回目の記事(分析における「全体の把握と絞り込み」)でも書きました。ここで再度コンサルタントの高田貴久氏の言葉を紹介しておきます。

 ともかく「経営戦略の要諦は『絞り』と『集中』にある」ことを常に忘れないように意識しておくことが大事です。

コーヒーブレイク

【「経営戦略とは何か」という議論】
 仕事術という観点からは完全に脱線するのですが、「経営戦略とは何か」ということに関心がある人向けにもう少し踏み込んだ内容を以下に書きました。長文になるので、関心のない人は読み飛ばしてください。
 記事本文では「経営戦略」は「資源の配分」と考えました。私としては最も使い勝手が良い考え方なのですが、これ以外にも私が会計士としてクライアントと接するうえで参考になった「経営戦略」の定義をいくつか紹介しておきます。

 脱線ついでに、「経営戦略とは何か」という議論の奥深さを教えてくれるのが一橋大学教授・沼上幹氏の「経営戦略の思考法」という本です。少し長くなりますが導入部分の問題意識だけ紹介しておきます。

 以上「経営戦略とは何か」に関して大脱線しました。

今回のまとめ

◆経営戦略の要諦は「絞り」と「集中」にあることを常に意識すること
◆問題はどうやって絞り込むか。
◆結局のところ徹底的に考え抜くしかない。

おすすめ図書

①「決定版 戦略プロフェッショナル 戦略独創経営を拓く」(三枝匡)
②「経営パワーの危機―会社再建の企業変革ドラマ」(三枝匡)
③「決定版 V字回復の経営 2年で会社を変えられますか?」(三枝匡)
④「ザ・会社改造: 340人からグローバル1万人企業へ 実話をもとにした企業変革ドラマ」(三枝匡)

 著者の三枝氏は20代の頃からボストン・コンサルティング・グループのコンサルタントとして活躍し、その後数社の会社で社長として再生などを経験後、最終的にミスミで経営者になられた人です。今回の記事本文は上記①を基礎にした考え方を紹介しましたが、三枝氏の上記4部作については、経営に関心のあるすべてのビジネスマンに読んで欲しい本です。
 上記4部作のすべてとも単なる経営の解説書ではありません。ストーリー仕立てとなっており、リアルなケースで臨場感たっぷりに経営を体感できます。ストーリー仕立てにした意図について三枝氏は次のように語っています。

 このケースは、米国のビジネス・スクールの教材となっているケースとか、学者の書いた経営戦略書のケースとはかなり趣を異にしている。
 私は常々、これまでのケースには強い不満を持っていた。どれも、(中略)経営者個人の苦悩が浮かび上がってこないか、もしくは教材として必要最低限のことしか書いていないため無味乾燥か、どちらかの場合がほとんどだ。二○台が中心のビジネス・スクールの学生にはそれでも新鮮かもしれないが、経験豊かなビジネスマンが読むには全く物足りない。
 しかも、日本人のために書かれた面白い企業戦略ケースが少ないのも不満だった。単行本やマスコミに載る企業モノの読み物は、後付けで経営者を褒めそやすものが多く、途中のリスクを理論的に解析したものは少ない。そんなことが動機で、このケースが書かれたのである。
(出典)「戦略プロフェッショナル」三枝匡

 なぜこのように手の込んだ手法をとったかと言えば、第一に「客先の社名や機密を明かしてはならない」というコンサルタントの職業倫理を、この書き方であれば守れると判断した、第二に複数企業の経験をミックスすることで企業変革のテキストとして汎用性が高まると考えたからである。本書を読めば、世の経営改革プロジェクトでしばしば出現する困難な現象がかなり網羅的に出てくるはずである。
 本書は実際に起きたことが集められているという意味においてはノンフィクションであり、当事者の方々には話の部分部分で思い当たるふしがあるだろう。しかしストーリー全体を見れば、すべてが当てはまる単一企業や人物は実在しないという書き方になっている。
 その意味ではフィクションと言われても仕方がない。しかし私にとっては、どれも生々しい実体験の再現であり、作り話だと言われると悔しい気持ちになる。
(出典)「V字回復の経営」三枝匡

 今回は4部作をまとめて推薦するにとどめ、それぞれ個別の内容紹介までは致しませんが、いずれ機会があれば個別にご紹介したいと考えています。経営の疑似体験ができる本として上記4部作をお勧めいたします。

Bitly
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ハットさん
ハットさん

「絞り」と「集中」って結局のところメリハリをつけるということ。これは26回目の記事(社会を生き抜く「段取り力」)で書いたことと内容的には同じです。ただ企業経営のこととなると、市場や製品などに関する理解不足から実行できなかったりするですよね。

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