成果物評価の基本はQCD。その注意点は? #49

マネジメント

今回は「成果物を評価する際の基本であるQCD」についてお話しをします。

 どんな仕事においても成果が求められます。だからみな頑張って成果を生み出そうと努力するのですが、自分では大きな成果を生み出したつもりでも結果的に周囲から評価されていなかった、なんてことのないようにしたいものです。そのため、成果を生み出す前に、そもそも成果はどんな観点で評価されるのかということを意識しておくことが大事です。
 成果の評価基準は、仕事の種類や置かれている状況や評価者の考え方によっても変わりますが、多くの仕事で共通している観点としてQCDがあります。QCDとは、①品質(Quality)、②コスト(Cost)、③納期限(Delivery)の3つを指します。今回はこのQCDの留意点についてお話しします。

QCDを考える際の留意点

 QCDとは、①品質(Quality)、②コスト(Cost)、③納期限(Delivery)の3つを指します。仕事の成果がこの3つの観点で評価されるということにはそれほど違和感はないでしょう。成果物は大前提として品質が悪ければ評価されないし、品質が高いからといってコストがかかり過ぎてもダメだし、提供されるまでの時間(納期)が遅すぎでも問題です。ともすると、QCDの3つの項目それぞれがすべて重要ですね、と短絡的に考えてしまいがちなのですが、現実はそんなに単純ではありません。品質はそこそこでいいからコストを安くすることが評価のポイントになることもあるし、コストはいくらかかっても構わないから納期最優先で一刻も早く提供することが評価の最重要ポイントになることもあります。
 そこで留意点としてあげたいのは下記事項です。
【QCDの留意点】
①QCDそれぞれの項目を単独で考えないで、相対的なバランスの中で考えること。
②QCDの各項目は、それを実現するために必要となる時間(投入する時間)との関係でも考えておくこと

 理想を言えば、QCDのすべてが完璧でありたいし、真面目な人ほどそれを実現しようと頑張ってしまいます。しかし、現実的には、すべてを完璧にするなんて無理だし、また状況によって何を優先すべきなのかは大きく変わってくるので、いつもいつもすべてを完璧にする必要もありません。それゆえQCDは相対的なバランスの中で考えることが重要なのですが、問題は何を優先させ、何を犠牲にするかという判断が難しいことです。さらにその見極めもさることながら、分かっていても実行するには勇気も要ります。
 ここまでの説明を整理すると次の図解のようになります。とにかくポイントはQCDを相対的なバランスの中で考えることです。言い換えると、どういう背景・前提・状況のもとでそれを実現させるのかを考えるということです。第48回目の記事(情報には分母と分子がある。特に分母に注目すること)と同様な言い方をすれば、分母を意識するということです。

QCDのうち評価者が最も評価するポイントと度外視してよいと考えているポイントを事前に把握しておくこと

 先ほどQCDは相対的なバランスの中で考えることが重要だが、問題は何を優先させ、何を犠牲にするかという判断が難しいと書きました。この点についての補足説明です。
 QCDの優先順位を決定するにあたっては、当然ですが評価者が何を重視しているのかを見誤らないようにしなければなりません。ケースによってはこの点を評価者本人に直接確認することができるかもしれませんので、その場合には事前によくよく話し合って確認しておくことが大事です。また、なかには評価者自身があまり深く考えていない場合もありますが、その場合には積極的にこちらから優先順位を明示してあげましょう。
 さらに重要なことは、何の出来を優先するなら何の出来は悪くても我慢してね、という合意を事前にしっかりと取り付けておくことです。そうしないと後から「品質はいいけど、値段が高すぎるんだよね」とか「納期は早くていいんだけど、お値段がちょっと高くないですか?」のように難癖をつけられかねません。そんなことになったら一生懸命頑張ったのにやりきれないです。明確な合意まではとれないにしても、こちらからあらかじめ「納期を優先するならコスト度外視でやりますからね」のような宣言はしておきましょう。事前にくぎを刺しておけば、後々の交渉もやりやすくなります。

コーヒーブレイク

【判断基準のない人に対する対応】
 記事本文で書いたように評価者自身がQCDのどれを優先すべきかの判断基準を持っていない場合があります。それどころか、QCDに限らずそもそも判断基準を持っていない人というのは存在します。そういう人が相手だと何かにつけて厄介ですが、この点に関する対応としてとても参考になる文章があります。プレゼンに関する本からの紹介なので、今回のテーマであるQCDとは関係ないのですが、とても面白い内容なのでここで紹介させてください。

◆判断基準の把握
(中略)
 ところが一方、「判断基準や優先順位を(そもそも)持たない」という人が存在するのも事実です。たとえば優柔不断で、自分の判断基準を持てない人がいます。このような人に対して説得力のあるプレゼンテーションを行うのは非常に難しいと言えます。
 こんなケースがありました。ある会社で、新規事業を起こしたいということでお手伝いをしていたのですが、最初の話では新規事業として取り上げるか否かは、ROI(投資金額に対してどれだけリターンが期待できるかの比率)と、既存事業とどれだけシナジーが見込めるかで決める、というお話でした。十分それらの基準を満足するものとして、ある案件を提案したところ、売上で見たときの事業の規模が小さいということで押し返され、また練り直して持っていくと、「どうもわが社らしくない」と押し返され、一体何が本当の判断基準なのかと問い質さざるを得ませんでした。
 しかし翻って、自分はすべての物事に判断基準を持っているのか、と問われれば、決してそうではないのも事実です。一般的には、1つひとつの細かい日常の些事については判断基準など持たずに生きている場合の方が多いのではないでしょうか。たとえば、結婚相手を選ぶときに、何を判断基準にしているか。転勤を命じられたときに、それに応じるか応じないかをどう判断するのか。人生のうえで、仕事上で、人は判断を迫られる場面に次々と遭遇していながら、ではその1つひとつのケースについて厳密に判断基準に基づいて行動しているかといえば、案外そんなことはない。整合性のない判断をしていることも多いと思います。
 話をプレゼンテーションの場面に戻せば、オーディエンス側が判断基準を持っていないという可能性も非常に高いのです。そのような判断基準を持たないオーディエンスをいかに「説得」するか、そうしたケースも想定してプレゼンテーションに臨まないと、なかなか相手を説得するということがうまくいかないわけです。(以下省略)

◆判断基準のない人
 一方で、判断基準を持たない人、判断基準を持てない場合、というケース が存在します。 たとえば、就職説明会の場を想定してみましょう。 学生に対してリクルーターが「うちの会社はいい会社です」と説得にかかる。すると、まず「いい会社」の定義が重要になります。 しかし、一般的に言って「いい会社」とは、給料が高い会社なのか、社会的に有名な会社なのか、休暇がたくさんある会社なのか、仕事が楽な会社なのか、ほとんど判断基準は千差万別です。学生の方も、就職ということを最近考え始めたばかりで、何を判断基準にして「いい会社」を選べばいいのか、判断基準を持つこと自体が難しいような状況があるわけです。
 このような場合に、 先手を取ってこちらから判断基準を与えてしまうという戦法があります。 たとえば 「就職情報で有名なR社のアンケートによれば、 “給料が高い” “やり甲斐のある仕事が提供される” “職場の人間関係がよい” ことが学生さんの求めている会社の条件のようですね」などと言いながら判断基準を与えてしまえば、学生は「そうか、他の人たちはそのように考えているんだ、たしかにそうかも知れないな」とこの判断基準になびいてしまいます。そこで、会社説明会を行う企業のリクルーターが、 「わが社はまさに、 “給与” “やり甲斐” “人間関係” の点で、他社と比べて優れています」と強調すれば、学生を誘うモチベーションになります。 つまり判断基準を持たない人には、こちらからそれとなく 「判断基準」を与えてあげる。 これが、プレゼンテーションを効果的に行う秘訣なのです。(以下省略)

(出典)「プロフェッショナル・プレゼンテーション」(土井哲、高橋俊介)

 要すれば、判断基準を持っていない人に対してはこちらから先手を打ってうまく誘導してあげることも必要だということです。もちろん相手がとても優柔不断である場合、あの手この手で説得してもなかなかうまくいかないかもしれませんが、試してみる価値はあります。

 今回はQCDの留意点について書きました。今後のご参考になれば嬉しいです。

今回のまとめ

◆自分の仕事の成果を正しく評価してもらうためには、QCDそれぞれの項目を単独で考えないで、相対的なバランスの中で考えること。
◆QCDの各項目は、それを実現するために必要となる時間(投入する時間)との関係でも考えておくこと
◆QCDのうち評価者が最も評価するポイントと度外視してよいと考えているポイントを事前に把握しておくこと

ハットさん
ハットさん

何かの作業をする前に、そもそも最終成果はどんな観点で評価されるのか、ゴールはどこにあるのかを確認しておくことが失敗を減らすコツの1つです。そのことに関連して、第33回目の記事(最初にアウトプット(成果物)を想定すること)も合わせてお読みください。

また今回のQCDを考える時だけでなく、いつでも相対的な関係性の中で物事を考えるクセをつけておくといいですよ。

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