課題への対処の仕方に「山登り型」と「川下り型」の2つのタイプがある #46

マネジメント

今回は、課題への対処法に「山登り型」と「川下り型(波乗り型)」の2通りあるという話しをします。

 仕事で直面する様々な課題への対処の仕方には、大雑把に言えば、「山登り型」と「川下り型(波乗り型)」の2つのタイプがあります(下記参照)。この2つはどちらが良いとか悪いとかではなく、あくまでタイプの違いであり、局面において重宝されるタイプは異なります。ただ、自分がどちらのやり方が得意なのか、あるいは不得手なのかを自覚しておくことや、現在の状況ではどちらのタイプが重視されるかなどをきちんと認識しておくことは大事です。今回の記事ではそんなお話しをします。

「山登り型」の対処法

 「山登り型」対処法というのは次のようなやり方です。

 上記である程度想像できるように、「山登り型」で重要なのは「段取り力」です。そして、「段取り力」は仕事の基本中の基本と言えます。齋藤孝氏は自著の中でこんなことを書いています。

 段取り力は、さまざまな領域で必要とされる力であるが、登山においてはとりわけ重要な力である。というのも、冬山登山のように危険な登山の場合には、この段取り力のあるなしが生死を分けることになるからだ。上村直己や長谷川恒雄といった高名な冒険家は、緻密な準備をする。実際に登山する前に、緻密な段取りを組む。(中略)
 先を読み、さまざまな危険を予測し、緻密な段取りを組むのである。それでも実際には、突然の悪天候など、不測の事態が起こってくる。そうした事態への対応力を増すためにも、的確な段取りが求められる。これは、仕事一般に求められる力であろう。

(出典)「子どもに伝えたい〈三つの力〉」(齋藤孝)

 齋藤孝氏が書いているように「山登り型」の鍵となる「段取り力」は仕事一般に求められる力であり、どんな仕事をするにしてもまずは心がけなければなりません。仕事をうまく乗り切るためには「段取り力」を必ず身につけておくべきです。この点については第26回目の記事(社会を生き抜く「段取り力」)でも説明しました。ぜひ改めてご確認ください。
 ところで、齋藤氏も指摘しているように、どんなに入念に準備をしたとしても「実際には、突然の悪天候など、不測の事態が起こって」きます。こんな時に必要となるのが、次に説明する「川下り型(波乗り型)」対処法です。

「川下り型(波乗り型)」の対処法

 「川下り型(波乗り型)」対処法というのは次のようなやり方です。

「川下り型(波乗り型)」の大雑把なイメージは上記のとおりですが、さらにここで2つの説明を紹介させてください。どちらも「川下り型(波乗り型)」の考え方を的確に説明しており、理解が深まると思います。
 1つ目は多摩大学大学院名誉教授・田坂広志氏の「戦略的反射神経」による「波乗りの戦略思考」という考え方です。

(途中省略)この「戦略的反射神経」とは、永年の体験から生み出した筆者の造語であるが、目の前の現実が予想外の展開をしたとき、状況の変化を瞬時に判断し、速やかに戦略を修正しながら、その新事業を前に進めていく能力のことである。それは「論理思考」ではなく「直観判断」の能力であり、「身体感覚」と呼ぶべきものであるが、野球に喩えるならば、「予想外の球が来たとき、体勢を崩しながらも、ヒットに持っていく反射神経」のことである。(中略)
 それゆえ、筆者は、この時代に求められる戦略思考を、「波乗りの戦略思考」と呼んでいる。
 すなわち、サーフィンというスポーツが、刻々と変化する波を、反射神経によって乗りこなしながら、目的の方向に進んでいくものであるように、これからの時代の戦略思考は、「戦略的反射神経」による「波乗りの戦略思考」に向かっていく。(以下略)

(出典)「戦略的反射神経」の時代(田坂 広志)Forbes JAPAN(2022年03月09日)(注)ハットさんが一部太字にした。

 田坂氏が「戦略的反射神経」による「波乗りの戦略思考」として説明している下記の点は「川下り型(波乗り型)」の考え方そのものです。
◆状況の変化を瞬時に判断し、速やかに戦略を修正しながら前に進めていく能力
◆刻々と変化する波を反射神経によって乗りこなしながら目的の方向に進んでいく能力

 次に紹介する2つ目は、一橋大学名誉教授で経営学者の野中郁次郎氏の著作からの文章です。「川下り型(波乗り型)」の持つ特徴が的確に説明されています。

以下に紹介するのは、ボスニア・ヘルツェゴビナ出身の米国の作家アレクサンダル・ヘモンが、『フォーチュン』誌に寄せた「スキー」という題のエッセイの一節である。(中略)
「私がスキーを愛するのは、瞬間的な即興のみで成り立っているスポーツだからだ。猛烈なスピード(たとえば、時速80キロとか)で滑りながら、刻々と状況が変わる中(雪の形状と感触とか、こちらに迫ってくる木々とか、アイスバーンとか、微妙な傾斜の変化とか)、次々と正しい判断を下していかなくてはならない。しかも一度下した判断に訂正のチャンスはない。(中略)前もっていくつかのことは決めておける。しかし、絶えずその場での変更に備えていなくてはならない。あらゆることがどんどん変わるからだ。そういう流れの中にあっては、思案したり、分析したりしているひまはない。体と心の動きを完璧に一致させなくてはならない。そうなれば、デカルト的な心身の分裂にも別れを告げられる」

(出典)「ワイズカンパニー」(野中郁次郎)(注)ハットさんが一部太字にした。

 上記に書かれている「状況が刻々と変わる中で次々と正しい判断を下していかなくてはならず、しかも、思案したり、分析したりしているひまはない」という状況は、まさに有事の状況が該当するでしょう。つまり、有事では「川下り型(波乗り型)」対処が必須です。では、「川下り型(波乗り型)」で対処するときのコツは何かというとそれはOODAループに基づいて対応することだと考えます。そのため、「川下り型(波乗り型)」対処をするためにはOODAループに熟練しておくことがとても大事です。
 OODAループについては第3回目の記事(できる人が徹底しているOODAループとは?)第28回目の記事(有事では初動対応で勝負が決まる)において詳細に説明しています。興味のある方はぜひお読みください。

大前提としての留意点(大きな方向を間違えないこと)

 ここまで「山登り型」と「川下り型(波乗り型)」の2つの対処法について説明しました。今回の記事では、この2つの方法のどちらかが重要と言いたいのではありません。使う場面によっても重視すべき方法は変わってきます。その点を念頭に置いたうえで、もう一つ留意して欲しい大事なことがあります。それは、どちらの方法を使うにしても大前提として「大きな方向設定を間違えてはいけない」ということです。
 「山登り型」で進むにしても、そもそもどの山を目指して登るべきなのか、川下りをするにしてもどの川を下るべきなのか、波乗りをするにしてもどのエリアで波乗りをすべきなのか、という大きな方向性を誤ってはいけないということです。この点に関して大前研一氏の「続・企業参謀」から示唆に富む指摘を紹介させてください。

 このことは、ボートやヨットの競技とよく似ている。(中略)
 ここでは「方向」が最も重要な要素であり、同じ努力をするなら、風向きと潮流を的確につかんでからにしよう、という基本思想がある。
 ボートは基本的には直進するので、あまり好例ではなかったかもしれないが、外洋のヨットレースにおきかえていただけば、この方向性の問題がいっそうよくわかると思う。ここでは、基本的方向の選択がきわめて重要で、極端な場合にはスタート時点では、競争相手と反対の方向に航走しはじめることだってある。この時点で、先行きに対する読みと、ある程度のリスクを甘受した英断を下さないとならない。最初から目的地が東にあるからといって、東だけを指して進んでいたのでは、リスクは少ないかわりに、勝利は遠のくだろう。

(出典)「続・企業参謀」(大前研一)(注)ハットさんが一部太字にした。

 「大きな方向性」とか「風向きと潮流」というのは潮目を読むということであり、第42回目の記事(ものを考える時の7つの視点)の中の「潮目を読むこと」で説明したとおりです。
 「山登り型」にせよ「川下り型(波乗り型)」にせよ、部分的に最適化となっていても、全体最適化の観点ではマイナスになっていることがよくあります。このような事態はゆめゆめ避けなければなりません。常に大きな方向性を意識しておくことが大事です。しかし言うは易しで、この点は渦中の立場になると視野狭窄に陥り、ついついうっかりしてしまいます。ご注意ください。

今回のまとめ

◆課題への対処法には「山登り型」にせよ「川下り型(波乗り型)」の2つがある。
◆どちらが良いとか悪いとかではなく、あくまでタイプの違いであり、局面において重宝されるタイプは異なる。
◆「山登り型」の鍵は「段取り力」で、仕事全般にわたって求められる基本中の基本
◆有事では「川下り型(波乗り型)」が必須であり、OODAループに習熟しておくこと
◆どちらのやり方をするにせよ、大前提として「大きな方向」を間違わないこと

ハットさん
ハットさん

人によって得手不得手があり、「山登り型」が得意な人もいれば、「川下り型(波乗り型)」でだけ力を発揮する人もいます。自分がどちらのタイプなのか認識して、自分の強みは上手に活かし、逆に弱みを補う手立てを考えておくといいでしょう。

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