今回はマルクス・アウレリウスの「自省録」が危機を乗り越えるのに役立つという話しです。
誰しも長い人生においてはどうしようもない危機に見舞われることがあります。そんなときには何かに救いを求めずにはいられません。何に救いを求めるかはその時の状況にもよるし人それぞれですが、私の場合には本に救いを求めることが多いです。そんな本の中の1冊として紀元2世紀のローマ皇帝 マルクス・アウレリウスの書いた「自省録」を紹介させてください。
今回の記事では、危機に直面し悩んでいる方へのメッセージとして「困難を乗り越えるヒントをお探しなら騙されたと思って「自省録」を読んでみたらいかかがでしょうか?」とお伝えしたいのです。
「自省録」とはどんな本か?
①どんな本か?
「自省録」はローマ帝国の皇帝マルクス・アウレリウス(以下「アウレリウス」という)によって書かれた本です。ローマ帝国では五賢帝と呼ばれる名君がいましたが、アウレリウスはこの五賢帝の一人です。こんな大昔の人によって書かれた本なんて、イメージ的に、なんとなく取っつきづらいとお感じになるかもしれません。現に本を一見したときの印象として、今の時代から見ると分かりにくい表現や感情移入しにくい表現も多々あると感じるでしょう。だからと言って、「自省録」を読まずに一生を終えてしまうのはあまりにもったいないです。なぜなら、「自省録」には困ったとき・悩んでいるときに読むと心に響くフレーズが満載だからです。まるでアウレリウスに直接激励されているようで、自分も頑張ってみようと勇気づけられます。
②読み方のアドバイス
「自省録」は、アウレリウスが自己の内面をつぶやくように綴った言葉が前後の脈略なく書き留められています。今風に分かりやすくたとえて言うと、SNSでつぶやいた独り言を1冊の本にまとめたような感じです。そのため、小説のようにストーリー性があるわけではないし、随筆のように具体的な情景描写などもありません。そのかわり、どこから読み始めてもいいし、気に入ったフレーズだけ拾い読みするのに適しています。読みづらい箇所はどんどん読み飛ばしてしまえばいいし、順番に読む必要もありません。パラパラっとページをめくって、目に留まったフレーズだけ読んでいけばいい本なのです。そうやって気になったフレーズだけに注目していく読み方をすると、それほど苦労せずに本の世界に入っていけます。
③どんな時に読むと心に響くか?
私の個人的な感想でいえば、「自省録」は自分が平和な気持ちでいる時や特別な悩みを抱いていないときに読んでもあまり響きません。でも、悩みに悩んで八方ふさがりの時などに読むと、書かれているフレーズが急に目に飛び込んできて、とても心に響きます。ワラにもすがりたいような状況に直面した時には、騙されたと思ってぜひ「自省録」を読んで欲しいです。困難な現状を乗り越えるためのヒントを与えてくれます。
ただし注意点が一つあります。それはアウレリウスの考え方があまりにも自己に厳しすぎることです。読んでいて、さすがにそこまでは共感できないと思えるようなフレーズも結構あります。例えば「たとえ一瞬間でも、理性以外の何ものにもたよらぬこと。ひどい苦しみの中にも、子を失ったときにも、長い患いの間にも、つねに同じであること」との言葉が書かれているのですが、現在の私にはこの境地に至るのは無理です。アウレリウスの考え方はストア派哲学の系譜を継ぐものですが、この「ストア」が英語の「ストイック」の語源になったというのも大いにうなずけるところです。苦境に直面し、とことん悩んでいるときに、ここまで厳しいことを言われると元気が出るどころか逆効果になることもあるので、この点に注意しながら読むといいでしょう。
「自省録」には色々な人の翻訳版があるが、どのバージョンがお勧めか?
「自省録」は今まで色々な人によって翻訳されています。そのためどのバージョンを読めばいいのか迷うかもしれません。基本的には好みの問題なので自分がしっくりするバージョンを読めばいいのですが、長年にわたって愛されていて定評があるのは、岩波文庫から出版されている下記翻訳版です。
◆「自省録 (岩波文庫) 文庫」(マルクス・アウレーリウス、神谷美恵子 (翻訳))
私も「自省録」は上記翻訳版で読み続けてきました。ただし、人によっては若干の読みにくさを感じるかもしれません。そういう人には下記エッセンシャル版をお勧めします。
◆「超訳 自省録 よりよく生きる エッセンシャル版(ディスカヴァークラシック文庫シリーズ)(マルクス・アウレリウス、佐藤けんいち (編集翻訳)
上記は「自省録」(全編で487項目)から180項目を厳選し、翻訳文を平易な文章で表現したうえでレイアウトも分かりやすいように工夫して編集してあります。そのため現代の私たちから見ても違和感なく、とても読みやすい本になっています。もちろん厳選180項目しか載っていませんので、「自省録」の全文を読みたい人には不向きですが、初めの1冊としてはお勧めです。
「自省録」から具体的なフレーズのご紹介
私は危機に直面したときに必ずと言っていいほど「自省録」を読み直します。気に入ったフレーズにはアンダーラインを引いて繰り返し読んでいます。その箇所だけでも紹介したいところですが、あまりにも膨大なので、この記事ではほんの一部だけ紹介します。出典はすべて岩波文庫の神谷氏の翻訳版からです。
◆つまらぬことに力をそそがぬこと。
(出典)「自省録 」(マルクス・アウレーリウス、神谷美恵子 (翻訳))
◆注意深くものを読み、ざっと全体を概観するだけで満足せぬこと。
◆独立心を持つことと絶対に僥倖をたのまぬこと。
➡ 私が自省録の中で最も気に入っている言葉です。
◆ひとに説明するとき短気を起さぬこと。
◆克己の精神と確固たる目的を持つこと。いろいろな場合、たとえば病気の場合でさえも、きげん良くしていること。
◆目前の義務に苦労を感じてやらぬこと。
◆熟慮の結果いったん決断したことはゆるぎなく守り通すこと。
◆はるかかなたを予見し、悲劇的なポーズなしに、細小のことに至るまであらかじめ用意しておくこと。
◆もっとも小さなことでさえも、目的との関連においておこなわれるべきものなのである。
◆人生は一日一日と費されて行き、あますところ次第に少なくなって行く。
◆何かするときいやいやながらするな、利己的な気持からするな、無思慮にするな、心にさからってするな。
◆念頭に浮ぶ対象についてかならず定義または描写をおこなってみること。
◆いかなる行動をもでたらめにおこなうな。
◆すべての出来事は正しく起る。
◆あるがままの姿で物事を見よ。
◆君は理性を持っているのか?「持っている。」それならなぜそれを使わないのか。もしそれがその分を果しているならば、そのうえ何を望むのか。
◆いらいらするな。自分を単純にせよ。
◆すべてかりそめにすぎない。おぼえる者もおぼえられる者も。
◆変化することは物事にとって悪いことではない。
◆明けがたに起きにくいときには、つぎの思いを念頭に用意しておくがよい。「人間のつとめを果すために私は起きるのだ。
➡ 冬の寒い朝、布団から出たくないときに私はいつもこの言葉を思い出します。
◆君は自分に起ることをよろこばなくてはならない。その一つはそれが君に起ったことであり、君に処方されたことであり、当初はもっともいにしえの原因からつむぎ出された運命の糸であって、なんらかの意味で君に関係しているのであるから。
◆生まれつき耐えられぬようなことはだれにも起らない。
◆もっともよい復讐の方法は自分まで同じような行為をしないことだ。
◆正気に返って自己を取りもどせ。
◆私に起ることもその結果として生ずることなのであって、私はこれをよろこんで受け入れ、これに満足しなくてはならないのである。
◆人に助けてもらうことを恥ずるな。
◆顔に怒りの色のあらわれているのは、ひどく自然に反すること。
◆昔起った出来事をよくながめ、現在おこなわれつつあるすべての変化をながめれば、未来のことをも予見することができる。
◆なにごとか起ったときに取りみださぬこと。
◆自分の内を見よ。内にこそ善の泉があり、この泉は君がたえず掘り下げさえすれば、たえず湧き出るであろう。
◆更に非常に大きな苦痛に際しては、エピクーロスの言葉をもつて君の助けてとせよ。曰く「(苦痛は)耐えられぬものではなく、際限のないものでもない。」ただし苦痛の限界を念頭においてこれに自分の想像を加えぬことを前提とする。
◆なによりもまず、いらいらするな。
◆人生を建設するには一つ一つの行動からやっていかなくてはならない。
◆得意にならずに受け、いさぎよく手放すこと。
◆君がなにか外的の理由で苦しむとすれば、君を悩ますのはそのこと自体ではなくて、それに関する君の判断なのだ。
◆人生においては余裕を失うな。
◆あることをなしたために不正である場合のみならず、あることをなさないために不正である場合も少なくない。
◆高処から眺めよ。
◆君が他人の不忠と恩知らずを責めるときに、なによりもまず自分をかえりみるがよい。
◆すべての出来事は、君が生まれつきこれに耐えられるように起るか、もしくは生まれつき耐えられぬように起るか、そのいずれかである。ゆえに、もし君が生まれつき耐えられるようなことが起ったら、ぶつぶついうな。君の生まれついているとおりこれに耐えよ。しかしもし君が生まれつき耐えられぬようなことが起ったら、やはりぶつぶついうな。その事柄は君を消耗しつくした上で自分も消滅するであろうから。
◆ここで生きているとすれば、もうよく慣れていることだ。またよそへ行くとすれば、それは君のお望み通りだ。また死ぬとすれば、君の使命を終えたわけだ。以上のほかに何ものもない。だから勇気を出せ。
◆他人の過ちが気に障るときには、即座に自ら反省し、自分も同じような過ちを犯してはいないかと考えてみるがよい。
◆我々を悩ますのは彼らの行動ではなく、(中略)これにたいする我々の意見である。
◆適当でないことならば、せずにおけ。
◆つねにものの全体を見きわめること。
◆何事もでたらめに、目的なしにやってはならない。
◆一つ一つのものを徹底的に見きわめ、それ自体なんであるか、その素材はなにか、その原因はなにか、を検討する(以下略)
上記で紹介したフレーズはほんの一部ですが、こんな言葉が前後の脈略もなく延々と書かれています。上記の中に皆様に響く言葉はあったでしょうか。いずれにしても「自省録」の雰囲気を感じてもらえれば幸いです。
今回のまとめ
「自省録」は人生の悩みにヒントを与えてくれる本です。苦境にある時こそぜひお勧めします。
「自省録」を書いたアウレリウスも色々と悩んでいたんだなぁ、それにしても人間の悩みは今も昔も変わらないとしみじみ思います。