名著「失敗の本質」から学ぶ(精神論ではなく具体的な方法論を指示しろ)(全9回の4回目) #77

マネジメント

今回は「『失敗の本質』から学ぶ」の第4回目で「精神論ではなく具体的な方法論を指示しろ」という話しをします。

 第74回から「『失敗の本質』から学ぶ」というテーマで連載しており、私が「失敗の本質」を読んで肝に銘じていること(8つ)を順にご紹介しています。今回は3番目「精神論ではなく具体的な方法論を指示しろ」についてお話しします。

今回お伝えしたいことを最初に要約すると…

 今回お伝えしたいことはシンプルで、リーダーは「精神論ではなく具体的な方法論を指示しろ」ということです。

 以下では「失敗の本質」で書かれている具体的な指摘のいくつかを紹介します。

「失敗の本質」で指摘されている精神主義

過度に精神主義を誇張したこと

 日本軍の失敗要因としてすぐに思い浮かぶのは精神論に偏り過ぎていたことです。この点に関して「失敗の本質」の中で指摘されているいくつかの説明をご紹介しましょう。

 インパール作戦に際して司令官の牟田口中将が「必勝の信念」を掲げ、「なあに、心配はいらん、敵に遭遇したら銃口を空にむけて三発打つと、敵は降伏する約束になっとる」と自信ありげに命令されても、戦場でこの命令に従う将兵たちはやり切れません。また、「百発百中の砲一門は百発一中の砲百門を制するのだ」と訓話されても、実際に砲一門で砲百門に立ち向かうのはあまりにも無謀というものです。これらはまるで悪い冗談としか思えませんが、実は今でも精神論による指示は健在です。例えば、「不眠不休でやり切れ」とか「なんとか必死に頑張れ」とか、そんな精神論による号令は今でも珍しいことではありません。本当に弛んで怠けているときに言われるのならまだ納得できますが、危機に際して極限まで頑張っているときに「必死に頑張れ」などと言われると、「これ以上どうしろというのだ」と反発し、やり切れない気持ちで一杯になります。
 元プロ野球監督だった野村氏もこんなことを書いています。

 もちろん精神力も重要ではあることは認めますが、これ一つで押し通すのは無茶というものです。

空気(ムード)による支配

 精神論は命令という形だけではなく、空気(ムード)という形でも我々を支配します。「失敗の本質」では、次のような例が紹介されています。

 いったんこの状態になると、少なくても部下の方から何とかするのは困難です。その場にいる一番偉い地位にいる人(命令を下す立場にいる人)が何とか打開するしかありません。自分がその立場になったら、ゆめゆめ精神論の空気(ムード)に流されないよう厳に戒めなければなりません。

リーダーは精神論ではなく具体的な方法論を指示しろ

 結局のところリーダーがすべきは、精神論による号令ではなく具体的な方法を指示することです。そういう意味で、元プロ野球監督の野村氏の次の言葉のとおりです。

 ちなみに野村氏と同じようなことを危機管理のプロだった佐々淳行氏も次のように書いています。

 野村氏の言う「『HOW』を授けよ。戦術を授けよ。それができないものに、リーダーの資格は無い」という言葉を常に忘れてはいけません。

コーヒーブレイク

【インパール作戦 作戦決定から中止に至るまであり得ない杜撰さの連続】
 「失敗の本質」の第1章で取り上げられている6つの負け戦は、どれも読んでいて悲しいやら悔しいやら、腹の底から湧いてくる怒りの矛先の向け場もなく、やり切れなさで一杯になります。なんでこんなバカげた理由で失敗し多くの人命が失われてしまったのだろうと考えずにはいられません。とりわけ「インパール作戦」に関する記述は、あまりにも信じられないことばかりで呆然としてします。具体的記述を紹介するとキリがないのですが、それでもここではいくつかを紹介させてください。

 「よほどの僥倖がないかぎり、作戦の不成功は最初から保証されていた」作戦って、一体全体どれほど杜撰だったのかと信じられないですが、もっと信じられないのはこの作戦が決行されてしまったことです。この点については次のように書かれています。

 「人情」という言葉だけでこの杜撰な作戦の失敗要因を総括されても、あまりにもやり切れません。
 いずれにしても、インパール作戦の無謀さについてはNHK特集などのテレビ番組でも何度となく取り上げられていますので、機会があればぜひ見て欲しいです。

今回のまとめ

◆リーダーは精神論ではなく具体的な方法論を指示しろ。

おすすめ図書

「なぜ日本は敗れたのか : 太平洋戦争六大決戦を検証する」(秦郁彦)

 本書は、①太平洋戦争と日米戦略、②ミッドウェー海戦、③ガダルカナルの攻防、④インパールの悲劇、⑤レイテ海戦、⑥オキナワの死闘、の6つを「太平洋戦争六大決戦」として取り上げて検証しています。つまり、「失敗の本質」で取り上げた6つの負け戦のうちノモンハン事件を除き同じ戦いを検証しているということになります。本書の初版は1976年で、「失敗の本質」が出版されるよりもずいぶん前に出版された本であり、「失敗の本質」の巻末の参考文献にも記載されています。そんなこともあり、「失敗の本質」で書かれている主張と比較すると内容そのものに大きな違いはないのですが、違うのは指摘のトーンです。本書の方が失敗に直接関与した人物を厳しく糾弾している印象があります。一例を紹介すると次のような感じです。

 本書では、「失敗の本質」で意識的に抑制したと思われる当事者の誤判断についても、あえて踏み込んだ表現で糾弾するように書いています。それはそれで貴重です。今となっては相当に古い本なので、なかなか目にするチャンスがないかもしれませんが、もし機会があれば目を通して欲しい本です。

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ハットさん
ハットさん

一橋大学名誉教授・野口悠紀雄氏の「続・超整理法 時間編」の中にこんなフレーズがありました。

「ノウハウがないことについて精神訓話で片付けようとするのは、旧帝国陸軍以来の悪しき伝統だ」

悪しき伝統は断ち切らなければなりません。

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