今回は問題解決に向けた議論の前にすべきこととして「関係者の目線(認識)合わせ」という話しをします
今回の記事は問題解決に関連したテーマとして、関係者で目線を合わせることの重要性についてお話しします。
どんな仕事をしていても問題が認識されれば、その問題をどのように解決すべきかの検討が行われることになります。問題解決は、たいていの場合、現状分析からスタートします。この分析に関しては12回目の記事(分析を行う際の考え方(総論))から17回目の記事(分析のゴール(メカニズムを明らかにして構造化する))で説明しました。
今回の記事で説明するのは、12回目から17回目の記事で説明したような分析の具体的な手法の話しではありません。問題解決に向けた議論の大前提として、関係者間で目線が合っていない状態でいくら議論をしたところで意味がないですよ、だから目線を合わせるところから始めましょう、という提案をしたいのです。
ところで「問題」の定義とは
今回の記事のテーマである関係者の目線合わせの話しをする前に、「問題」という言葉の意味について説明させてください。この記事では、「問題」とは、「あるべき姿(TO BE)」と「現状・実態(AS IS)」との「ギャップ」と定義します。図にすると下記のとおりです。
ここで注意して欲しいのは、「問題」というのは「あるべき姿」を持つことによってはじめて認識されるということです。「現状・実態」だけからは「問題」は認識されません。「あるべき姿」がイメージされていない人からすれば、「現状」に何の問題も不満も感じていないはずです。
ところで、日常「あの人は問題意識が高い」とか「あの人は常に問題意識を持っている」というような言い方をすることがあります。この問題意識を持つということは、本来どうあるべきなのだろうか?という「あるべき姿」をイメージして、その姿と「現状」との間に「ギャップ」があるかを考えることです。言い方を変えれば、問題意識の高い人とは、常に「現状の姿」で満足せずに「あるべき姿」「理想の姿」はもっと高いレベルにあるはずだと考えている人なのです。つまり、問題意識の感度の高さは「あるべき姿」のレベルによって左右されます。この点はとても重要ですので、常日頃から意識しておくことをお勧めします。
関係者で何についての目線(認識)を合わせるのか
先ほど「問題」とは、「あるべき姿(TO BE)」と「現状・実態(AS IS)」との「ギャップ」と定義しまた。この定義には異論がないとしても、実社会での実際の「問題」認識は、人によってかなり異なってきます。なぜなら、「あるべき姿(TO BE)」も「現状・実態(AS IS)」も、人によって目線(認識)が合っていないからです。だから、「問題」について議論をするためには、まずは関係者の目線合わせから始めましょう、というのが本記事で提案したいことです。
関係者間で目線を合わせる際には「標準」レベルも確認しよう
関係者間で目線を合わせることの意味をより具体的に実感して欲しいので下記のような図で説明させてください。
先ほど人によって「あるべき姿(TO BE)」も「現状・実態(AS IS)」も目線(認識)が合っていないと言いました。具体的に言えば、上記図のように、Aさん・Bさん・Cさんの認識がそれぞれ違っていると、目線(認識)を合わせることろから議論をしない限り議論がいつまでもかみ合わないのです。そこで、関係者の目線を合わせるところから議論を始めるわけですが、ここでもう一つお勧めしたいことがあります。それは、「あるべき姿(TO BE)」と「現状・実態(AS IS)」との間に「標準」というレベルを設定して議論することです。
これらのことを理解してもらうために、分かりやすい例で説明しましょう。例えば、あるスポーツチームの実力アップを目指して議論する場合、「あるべき姿」として、いきなりオリンピック代表レベルを目指すのか、まずは国内の全国大会出場レベルを目指すのか、市大会レベルを目指すのか、によって議論は変わってきます。
また、一足飛びに「あるべき姿」を目指すのではなく、少なくとも「標準」として最低限このくらいのレベルには到達したいよね、という水準がどのくらいなのかも目線を合わせておかないと今後の道筋が変わってきます。
さらに、「現状」認識も、そこそこいい線いっていると思っている人と、このままでは全然ダメと思っている人では目線が合いません。このように目線のズレを一致させるところから議論を始めることが大事なのです。
私が会計士として長年心がけてきたことの一つとして、クライアントと問題点及びその改善に向けて議論する際には、まずは社長が考える標準がどのレベルなのかを確認することでした。社長以外の幹部や担当者に対しても同様に、想定している標準レベルがどの程度なのかを確認しました。それぞれが目指しているレベルも違う状況で、こちらが良かれと思って改善策を提案しても関係者にはまったく響きませんし、意味もないからです。
この事前に目線を合わせるところから始めるということの重要さをもっと意識して欲しいというのが今回の記事で言いたかったことです。
なお、目線合わせということに関しては第20回目の記事(分かりやすい説明のための心構え)の中でも「意味(内容)の目線合わせ」について説明しています。こちらの記事も参考にしてみてください。
いずれにしても、今回の内容が皆様の参考になれば嬉しいです。
今回のまとめ
◆問題解決に関する議論をする際、いきなり改善策などの議論をするのではなく、まずはお互いの目線合わせから行うこと。
◆具体的には関係者間で想定している「あるべき姿」「現状認識」にズレがないかを丁寧に確認すること。
◆目線合わせをうまく進めるための一法として、お互いが考える「標準レベル」の認識をすり合わせるところから始めるとよいこと。
関係者間での目線は驚くほどズレていることが多いのですが、意外とこのことに気がつかないまま議論が進んでいることがあります。まずは目線が本当に一致しているのかの確認から始めるクセをつけましょう。