分析手法(構成要素・プロセスで考える、変化に敏感になる)#16

分析力・問題解決力

今回のテーマは分析手法(構成要素・プロセスで考える、変化に敏感になる)です

 12回から「分析」を行う際に留意しておく考え方について説明をしています。今回のテーマは、分析の手法である「構成要素・プロセスで考える、変化に注目する」についてお話しをします(なお今回の記事は、12回記事「分析を行う際の考え方(総論)」から続いています)。

前回までのおさらい

 まずは前回までの説明を簡単におさらいしておきましょう。

12回目から後正武氏の本(『意思決定のための「分析」の技術』)から分析のエッセンスを私なりに構造化した下記図に従って分析の考え方を説明しています。

前回までは次のような説明をしました。

<12回目の記事:分析を行う際の考え方の総論>
「分析」では考え方が大事です。全体がどんな要素から構成されているのか、核心となっている事は何なのか、それがどんな意味を持っているのか、のように根本的に考えること。

<13回目の記事:「①大きさの程度と重要度」を考える」>
分析に限らず何をするにしても、まずは重要性の高いものから優先順位をつけるクセをつけること。その優先順位に従って事を進めること。ゆめゆめ思いついた事から始めない。
重要性を判断する際には次の5つの観点を意識すること。
 ①量的重要性
 ②質的重要性
 ③広範性
 ④発生可能性(確率)
 ⑤緊迫度・緊急度

<14回目の記事:「分析における「全体の把握と絞り込み」」>
分析では、実態(現象・事象・事実・データなど)を把握するだけでなく、全体との関係性や意味合いを読み解き、実戦で役に立つ分析結果を導き出すことが重要です。ポイントは次の4点です。
①分析はなんらかの形で経営判断に役に立つ結果を導くこと
②分析は事実(データ)をスタートとすべきだが、その意味合いを全体像(母集団全体)との関係で読み解いて、経営判断に役立つ情報を提供すること
③全体像(母集団全体)から問題点を絞り込むためには、母集団を切り分ける「切り口」が重要になること
④よい切り口は見つけるためには、仮説が必要なこと

<15回目の記事:「比較なくして分析なし(そもそも考えることの本質は比べること)」>
比較なくして思考なし。どんなことでも比較するクセをつける。
比較では「類似」と「差異」に意識すること。
分析で「比較をする」際に留意すべき4つの事項
①漠然と比較するのではなく、どんな状況・条件の下で比較しているのかを明確に意識すること
②要素ごとに同じ条件の下で比較すること(アップル・ツー・アップルによる比較)
③時系列で比較すること(トレンド・歴史的流れで比較する)
④キレのある「軸」で比較すること

 今回の記事では、上記構造図の「④構成要素で考える」「⑤プロセスで考える」「⑥変化・ばらつき・例外を考える」について説明します。

分析の2つのアプローチ(構成要素を考える方法とプロセスを考える方法)

 前回までの記事で説明したように、分析では次のような考え方が重要でした。
①分析対象の個別事象について実態(事実やデータ)を把握すること(憶測でものを言うな)
②常に全体感を把握すること
③全体像からキレのある「切り口」で個別事象の問題を絞り込むこと
④要素ごとの比較によって差異性と類似性を明確にし、その意味合いを読み取ること

 今日の記事では、上記の考え方を前提に実際に分析するときの2つのアプローチを説明します。

 そもそも仕事において分析をする目的は、何かの問題が発生していたり課題感があって、それに対する今後の対策を考えるためです。知的好奇心を満たすために分析をしているわけではありません。どのような原因で問題が発生していて、今後どうすればいいのか、あるいは現在置かれている環境がどういう状況にあって、このままだとどういう状況になってしまうから今後どうすればいいのか、などを検討するために分析をしています。そのためには分析の結果として、少なくとも次に点が明確になっていないと今後の対策を検討することはできません。言い換えると分析のゴールは最低でも次の点を明らかにすることです。
【分析の最低限のゴール】
①問題が発生しているメカニズムの解明
②問題発生状況の構造化(全体や各要素との関係性や重要性などを構造化)

 上記①②を目指して、問題がどんな原因で発生しているのか、どんな事情があるのか、どこを改善すればいいのか、などを検討していくわけですが、この検討の進め方に次の2つのアプローチがあります。
 ①構成要素から考えるアプローチ
 ②プロセスから考えるアプローチ

 以下ではこの2つのアプローチについての留意点を説明します。

構成要素を考える方法とプロセスを考える方法(設例による説明)

「①構成要素から考えるアプローチ」と「②プロセスから考えるアプローチ」のそれぞれをイメージしてもらうために簡単な設例で説明させてください。次のような設例で考えてみます。

【設例】
 飲食店の経営をしており、「おいしい料理を提供するために改善すべきこと」というテーマで分析をすることになったとします。

 分析の進め方として簡単なのは、「②プロセスから考えるアプローチ」なので、まずはこちらから説明させてください。

「②プロセスから考えるアプローチ」のイメージ

 このアプローチは、起きている事象・事実とその背景などを現状のプロセスに沿って一つ一つ丹念に確認していく方法です。
 例えば、今回の設例において次のようなプロセスがあるとしたら、そのプロセスごとに業務の実態を確認し、どこに改善すべき課題があるのかなどを探ります。

 この方法は現実の業務プロセス(業務フロー)に忠実に沿って確認していく方法なので、作業としても取り掛かりやすいですし、課題の把握がしやすいという利点があります。そのため私も実務的には最初にこのアプローチで分析することが多いのは確かですが、このアプローチでは次の点に十分注意しなければならないとも考えています。
 ①このアプローチで発見される課題は、表層的なことが多いこと(根本課題が見つからない)
 ②対応策も対症療法のレベルにとどまり、本質的な解決につながらないことが多いこと

 そのため、スタート段階では「②プロセスから考えるアプローチ」で分析を始めたとしても、どこかの段階からは「①構成要素から考えるアプローチ」に移行した方が根本原因の特定や本質的な解決策にたどり着く可能性が高いと認識しています。

 それでは「①構成要素から考えるアプローチ」とはどのような方法でしょうか。

「①構成要素から考えるアプローチ」のイメージ

 構成要素から考えるアプローチでは、次のようなことを先に考えます。
  ①その概念を成立させている構成要素は何か?本質となる要素は何か?
  ②構成要素別に何が問題なのか?
  ③構成要素間の関係性は?

 今回の設例の「おいしい料理を提供するために改善すべきこと」という分析だったら、そもそも「おいしい」が成立するための構成要素は何か、ということから考えます。もちろん正解があるわけではありませんが色々な観点から考えた結果、例えば「おいしい」という概念を成立させるためには次のような構成要素が必要だとしましょう。そうすると、これらの構成要素ごとに、理想的にはどうあるべきなのに、現在の実態はどうなっているのか、そしてそのギャップをどのように改善していくのか、などのように検討することになります。
【「おいしい」の構成要素の具体例(その1)】

 上記の構成要素で検討してみると、仮に料理の「見た目」に問題があっておいしく感じられないという実態が判明したとします。そうすると、解決策としてあるべきなのは「盛り付け方法」であったり、「料理を引き立たせる器の美しさ」なのかもしれません。そのような状況の時に、もしも「②プロセスから考えるアプローチ」で分析した段階では「食材の調達」プロセスに改善の余地ありと診断されていたらどうなるでしょうか。当然「食材の調達」プロセスでの改善策を検討することになるはずですが、実は「食材の調達」プロセスにおける問題点を改善をしたところで、根本的なおいしさの改善という点ではあまり意味のない打ち手になってしまう可能性もあるのです。そう考えると「構成要素から考えるアプローチ」で進める方が根本的な解決策につながる可能性が高く効果的と言えます。
 ただし、実際にこのアプローチを採用しようとすると次の点で大変苦労することがあります。
 ①そもそも実務では構成要素が何かということ自体が明確でないことが多いこと
 ②各自の判断基準や価値感によって構成要素の内容が左右されることもあること
 ③構成要素が何かを特定すること自体が一大テーマとなりえ、さらにその作業は相当な議論と時間が必要になる可能性があること

 ここでは、構成要素自体が明確でないケースがあることを実感してもらうために、「おいしい」が成立するための構成要素の例で説明しましょう。「おいしい」の構成要素について、先ほどと異なり次のように考えることも可能です。
【「おいしい」の構成要素の具体例(その2)】

 上記は、実はミシュランガイドの評価基準なので、必ずしも「おいしさ」の構成要素ではないかもしれません。しかしだからといって、「おいしい料理を提供するために改善すべきこと」という分析のときに、上記構成要素を使って分析をしたとしても違和感を感じない人もいるでしょう。つまり、何が言いたいかというと、「構成要素から考えるアプローチ」を採用する場合には、構成要素の共通認識がないと各自が独自の視点から好き勝手な分析をしかねないということなのです。この点をうまく克服できるのであれば「構成要素から考えるアプローチ」はとても有効な方法です。
 説明が長くなりましたので、ここまでの内容をまとめておきましょう。

ここまでを整理すると…

 課題認識などを進めるうえで2つのアプローチがあります。この2つをうまく使い分けながら本質に迫った分析をしたいものです。

考え方留意点
構成要素から考えるアプローチ◆その概念を成立させている構成要素は何か?(本質となる要素は何か?)
◆構成要素別に何が問題なのか?
◆構成要素間の関係性
◆本質的な解決策や原因分析にたどり着く可能性が高い。だから、構成要素があらかじめ認識できているのであれば、このアプローチでうまくいくことが多い。
◆実際に最初からこのアプローチで進めるのは結構厄介
プロセスから考えるアプローチ◆対象がどんなプロセスから構成されているか?
◆プロセスのどこに問題があるのか?
◆作業を進めやすいし、それなりに解決策も見つけやすい。
◆ただ、解決策が対症療法になり、本質的に解決に繋がらない危険性がある。
◆分析のスタート段階ではプロセスから考えるアプローチで進めるしかない場合も多い。しかし、それでも頭の中では構成要素のアプローチも考え続けておくこと

変化・ばらつき・例外を考える

 今回の記事では、もう一つ重要な話をします。それが分析構造図の「⑥変化・ばらつき・例外を考える」についてです。と言っても、内容的に特別なことを説明するわけではありません。
 ここで言いたいことは次のことだけです。
◆変化・例外値・特異点にはとにかく敏感になれ
◆変化・例外値・特異点の背後に貴重な情報(プラス面・マイナス面どちらのケースもあり)が隠れていることが多い

 この点に関しては、会計監査をいう業務に長年にわたって従事し、ちょっとした変化から異常点や不正を発見する仕事をしてきた者として強くアドバイスしたいのですが、わずかな変化や異常点・特異点を見逃さないことは、何かを分析をするうえでも、監査をするうえでも、もっと大げさに言えば経営をする立場でも決定的に重要です。ただし「言うは易し」で、実際にちょっとした変化に気がつくには少なくとも次の2つの点に常に注意しなければなりません。
①平素から観察を欠かさず、普段の状態をよく知っていること(変わる前を知っているからこそ変わったことが分かる)
②変化したそのタイミングで気がつくこと(だいぶ時間が経過してから気がつく人は多いが、それでは手遅れになることが多い)

 普段からボーっと見てないで、常に油断することなく注意深く観察する態度を保持しておくしかありません。意識しなくてもできるように体に沁み込ませておくこと、おそらくこれしか方法はありません。しかしこんなアドバイスをいわれても、急にできるようになることはまずありません。結局のところ、自ら痛い思いをして失敗を重ねるしか身に着ける方法はないと痛感しています(私はそうでした)。長い社会人生活の中では、何度となくあの時あの変化に気がついてさえいれば、とか、あの時この異常値を問題にして深追いしておけば、と臍を噛むことがあります。誰しもそうやって少しずつ変化や異常値に対する感度が研ぎ澄まされていくのです。不幸にしてその能力を高める途中で再起不能な失敗をしないとも限りませんが、そうならないためにも、人生の先輩としては、繰り返しになりますが、次のアドバイスを強調しておきたいのです。

◆平素から些細なことも観察しておき、ちょっとした変化や異常値・例外値・特異点に敏感になること

 普段から感度を高めておくことは分析のときだけではなく、仕事で生き抜くうえでも必須と言っていいでしょう。

 なお、今回の記事では心構え的な説明に終始し、具体的な手法の説明は省略しました。私自身は手法を覚えるよりは心構えや考え方を自分の中に沁み込ませることの方が重要だと考えているからです。手法だけ身に着けても、心構えや考え方が沁みついていなければあまり役に立ちません。後氏の本(『意思決定のための「分析」の技術』)には具体的な手法もたくさん解説されていますので、これを学ぶ人も多いと思いますが、くれぐれもこの点には留意して欲しいと願っています。
 最後に「変化」に関して一言だけ。「変化」に敏感になるということは、突き詰めると常に「比較」の意識を持っているということです。15回目の記事で説明した「比較なくして分析なし」は、変化に敏感になることと繋がっています。この点に関連して安宅氏の「イシューからはじめよ」の中から参考になる文章を紹介してこの項目の説明を終わりにします。

変化
(中略)結局、変化であっても「何と何を比較したいのか」という軸の整理が重要になる。

(出典)「イシューからはじめよ」(安宅和人)

今回のまとめ

①ある現象(または概念)を根本から理解しようとすればその現象の構成要素は何と何で、それがどういう構造を持っており、構成要素間でどのように関連しているかを考えないといけないこと(構成要素から考えるアプローチ)。
②そうは言っても分析のスタート段階では現象を業務プロセスなどに沿って理解していく方法も現実的であること(プロセスから考えるアプローチ)。
③最終的には各構成要素間の関係や問題発生のメカニズムを明確化すること
④平素から些細なことも観察しておき、ちょっとした変化や異常値・例外値・特異点に敏感になること

おすすめ図書

「問題解決ができる! 武器としてのデータ活用術 高校生・大学生・ビジネスパーソンのためのサバイバルスキル」(柏木吉基)

書名のタイトルからデータサイエンスとか統計のようなデータの具体的分析手法を説いた本のように想像する人もいるかもしれませんが、そうではありません。データの意味を考えるとはどのようなことかを教えてくれる良書です。考え方を教えてくれるという意味においては後氏の『意思決定のための「分析」の技術』とコンセプトは近いかもしれませんが、読んでみると両者はテイストが全く異なり、どちらが良い悪いのは話しではなく、好みがはっきり分かれると感じます。私の場合には自分が会計士という立場であり、コンサルタントである後氏の置かれた立場と極めて似通った状況があったため、後氏の本には共感することばかりでした。しかし、人によってはむしろ柏木氏のこの本の方が共感できるという人もいるでしょう。後氏の本はちょっと読みにくかったという方には、こちらの柏木氏の本をおすすめします。

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『イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」』(安宅和人)

あまりにも有名なベストセラーですから私がすすめるまでもなく既にお読みになった方も多いかもしれません。この世に分析や問題解決についての良書は多いのですが、あえて3冊だけに絞るとしたら、①後氏の『意思決定のための「分析」の技術』、14回目の記事で紹介した②高田氏と岩沢氏の共著「問題解決」、そして③安宅氏の本書を私は強くおすすめします。ただし、読む順番は、①→②→③、すなわち安宅氏の本書を最後にして、総復習的に読んだ方が本書の理解度が高くなるような気がします。なぜなら、安宅氏の本は簡易な表現で書かれているので易しい本だと誤解されやすいのですが、初心者には意外とハードルが高いと思うからです。もちろんいきなり本書から読んでも全く構いませんが、何回か繰り返し読んで欲しい本です。

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ハットさん
ハットさん

「一葉落ちて天下の秋を知る」の心構えを忘れずに。

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