今回は「WHY NOT?」も考えるというお話しします
人生はミスや失敗の連続です。「なんであんなミスをしたのだろう」とか「今回もまた試合に負けてしまった」とか、そんなことは日常茶飯事で、そのたびに落ち込んでしまうのですが、クヨクヨばかりはしてられません。その都度その都度きちんと振り返り、次回に同様の失敗をしないように教訓としたうえで前に進んでいくことが大事です。その振り返りの際に有効だと言われるのは「なぜ(WHY)を突き詰めて考えること」です。例えば、改善活動で知られるトヨタの「なぜ(WHY)を5回繰り返す」は有名です。このような「なぜなぜ分析」で原因を突きとめることは重要なのですが、問題は真の原因を突き止めることは言うほど簡単ではないということです。
そこで提案したいのが今回の「WHY NOT ?」です。「WHY NOT ?」で考えるとは、簡単に言えば、ものの見方・考え方を通常と逆にして発想を広げようとすることです。こうすることで硬直した思考が柔軟になります。
それでは以下で詳細をご説明します。
「WHY NOT ?」を考えるというのはどういうことか?
トヨタ方式の「なぜ(WHY)を5回繰り返す」のように「なぜ(WHY)」と考えることの重要性を強調する人は多いのですが、「WHY NOT?」の重要性を繰り返し説いている人は私の知る限り野村克也氏をおいて他には思い当たりません。「WHY NOT?」の考え方を理解するうえでも野村氏の次の文章はぜひお読みいただきたく、まずは紹介させてください。異なる3冊の本から紹介します。
「WHY NOT?」を明確にせよ
(出典)「負け方の極意」野村克也(注)ハットさんが一部太字にした。
もうひとつ、「WHY NOT?」、すなわち「どうしてできなかったのか」を考えなければならない。「なぜ三振したのか」を突き止めたら、さらに一歩進んで、「どうして打てなかったのか」、逆にいえば「どうすれば打つことができたのか」を押さえておく。さもなければ、今後の対策として充分とはいえないのである。これは意外と見逃している人が多いのではないか。
「なぜ打たれたのか」とともに「どうして抑えられなかったのか」必ず考えた。監督になってからもそうだ。「なぜ負けたのか」と同時に、「どうして勝てなかったのか」、その原因の究明に努めた。 こうして「WHY NOT?」を探っていくと、疑問が次々に喚起されていく。
ミスは防げる
(出典)「敵は我に在り 勝つ法則に自分を生かす」野村克也(注)ハットさんが一部太字にした。
データをいかに分析するか
5W1HとWHY NOT
(中略)
このように、〈5W1H〉は重要な資料になってきましたが、私がある人から「もう一つあるよ」と教えられたのが〈WHY NOT〉なのです。これは、「打てた」あるいは「三振した」などの結果について、裏側からライトを当てることになります。
稲尾投手に三振した。「なぜ?」だけに終わってはいけません。「なぜ、打てなかっ たか(どうすれば打てたか)」が必要なのです。捕手としてメモをとるときも、同じことがいえます。投手が「なぜ、打たれたか」とともに「なぜ、抑えられなかったか」 を究明しておかなければ、今後の対策としては十分といえません。
AとBの二社が、ある契約を争ったすえ、A社が勝ったとします。「なぜ、勝ったか」より「なぜ、負けなかったか」を考えるべきです。それが、以後の戦略に大きなプラスをもたらします。
〈WHY NOT〉は、守りの哲学であります。私の場合、打者としての立場からも十分に参考になったが、それ以上に大きかったのは、投手をリードする捕手としての 資料分析に役立ったことです。
「なぜ、抑えられなかったか」は、いろいろと波及してゆく。投手の体調、疲労度、 精神状態、サインもれ、投手のクセ‥‥。いろいろと「?」が提起される。その「?」の集団を一貫して流れるものを考えぬくことです。
メモをとらなければ、一流選手にはなれない。整理もします。それをどう生かすかが、超一流への道につながります。〈WHY NOT〉こそ、その決め手なのです。
逆発想で「なぜ?」を考える
(出典)『「攻め」と「守り」の管理学 人をどうよみ、どう動かすか』野村克也(注)ハットさんが一部太字にした。
(中略)
「なぜ、勝っているか」
「なぜ、打てているか」
「なぜ、好投できているか」
この「なぜ」を知らない限り、好調は維持できないし、バランスを崩したときに立て直しに時間がかかるのは当然でしょう。しかし、本当は、それだけでは足りません。「なぜ、成功しているのか」の裏側にある「なぜ、失敗しなかったのか」に光を当ててやることが重要なのです。
香川選手が、失投を見逃さずに打っている。「だから、調子がいい」のではないのです。 「なぜ、失投を見逃さずに打てているのか」を考えることで、彼のバットスイングが解明できるでしょう。
阪神が、巨人に勝った。「池田投手が好投したから」「バース選手がホームランを打ったから」で、とどまっていては進歩はないと思うのです。「なぜ、失投しなかったのか」「なぜ、凡打に終わらなかったのか」が焦点でしょう。それを考えることで、もっと別のところに隠されている走塁のことや、中継プレーのこと、あるいは守備位置のこと・・・・・・いろんな部分がクローズアップされてくるに違いありません。
上記を踏まえて「WHY NOT ?」を考えることの意味を私なりに要約すると次のようになります。
「WHY?」だけでなく、「WHY NOT ?」もセットで考えなければ原因分析や対策立案の検討として十分ではないということです。
今回のブログでは「WHY NOT ?」の重要性を認識したうえで各自が今後実践してもらえれば目的達成です。お忙しい方はここまでで読むのをやめて構いません。しかしながら、「WHY NOT ?」を考えることが重要だとしても具体的にどんなやり方で考えればいいのかとの疑問がある方もいるかもしれません。そんな方のために私が実践している3つのパターンを以下で参考として紹介します。
「WHY NOT ?」を考えるときの3つのパターン
「WHY NOT ?」で考えるやり方については、基本的には次の3つのパターンがあると考えています。
上記3つのパターンの考え方をイメージしてもらうために簡単な例で表にしてみました。
ちなみに無条件で真反対を考えるというのは「WHY NOT ?」だけではなく、何かを発想するときに覚えておくといいコツの一つです。この点に関して世界的に有名な数学者の広中氏は次のように書いています。
真反対の考えがエネルギーを生む
(出典)「可変思考」広中平祐
「理屈なしに、真反対のことを考えてみろ」
(中略)
重要なのは「たくさんの可能性をもつ」ことだが、そういっても抽象的だから、一つの方便として、「逆のことを考える」というのが、発想の転換ということで、有効な打開策になるということだろう。
上記3つのパターンはあくまでも「WHY NOT ?」を考える時の参考にすぎず、大事なことは、野村監督も指摘しているように、「他にも気がついていない問題点があるのでないか?」という疑問を持つことです。ポイントは様々な観点から多様な問題意識を持つことですが、「問題意識をもつ」というスローガンだけでは具体的な実践につながらないので、具体的な方法論の1つとして「WHY NOT ?」で考えることを提唱しているのです。
今回のまとめ
◆「WHY」を考えるだけでは十分ではなく「WHY NOT ?」もセットで考えるべき。
◆「WHY NOT ?」を考える時には次の3つのパターンで考えるといい。
①無条件で真反対のことを考える
②自分の採用しなかった選択肢(自分がしなかったこと)を考える
③相手の立場になって考える(主語を変えて考える)
おすすめ図書
上記本は26回目の記事(社会を生き抜く「段取り力」)でも推薦した本です。この時には段取力に関する本として紹介していましたが、今回は「WHY NOT?」という観点で推薦する次第です。とはいえ、本書の中で書かれている「WHY NOT?」に関するエッセンスは本ブログ本文でご紹介しました。したがって、「WHY NOT?」を学ぶためだけであればわざわざ本書を1冊読まなくても本ブログ本文の引用箇所だけ読んでおけば足ります。ただ、本書はそれ以外にも多くの学びを与えてくれます。もしまだお読みでない方にはぜひ一読をお勧めします。
「WHY」を考える時には「WHY NOT?」の観点も忘れずに。