分析とは
今回のテーマは「分析」です。より深い分析するためにどんなことを考えるべきなのかということを構造化した図を見ながら説明していきます。今日の記事ではその構造図を示した分析の総論で終わりですが、次回以降で分析の各論を説明していく予定です。なお、今回の記事は7回目の記事(どんな場面でも通用する質問(問い)の構造)で紹介した問いの構造図(全体見取り図)の中の「⑥どのように起きたのか?(解釈・意味・構造化)」を紐解いた内容になっています。
ところで、どんな仕事をしていても「なぜだろう」「どうすればいいのだろう」などと考えない人はいないはずです。そうやって考え始めている人は、すでに「分析」という世界に足を踏み入れています。「分析」についての定義は人それぞれかもしれませんが、例えば、「分析」という文字が持つ意味から次のような説明をしている人もいます。
「分析」は、「分(ふたつに切り分ける)」と「析(木を斧で細かに切り分ける)」からなり、合わせて「複雑な内容や要素をふくみ、全体としてひとつになっている状態を、大小さまざまに分け、その素性を明らかにすること」という意味になります。ひとことで言えば「解きほぐすこと」です。(中略)
(出典)「深く読む技術」(今野雅方) (注)ハットさんが一部太字にした。
解きほぐして、事態の全体像や核心となる事柄の意味を明らかにすることが目標になります。
(中略)分析していったあげくに行きづまったときには、まず「事態の全貌が収まる枠」を見つけることが課題になります。(中略)
その「枠」ないし「枠組」をもう少し詳しく表すと、「分析対象とした現実の事態を構成する、多種多様な要素の織りなす連関全体がおさまる範囲」と言い表すこともできます。(中略)
大切なことが「事態の全貌がおさまる枠」とその「核心」の発見であることには変わりがありません。
「分析」の本質を突いた説明で、特に「分析」の目標(太字部分)を意識しておくことはとても大切です。
ただし、「分析」の定義としては長いので、ここではもう少し簡潔にコンサルタントである後正武氏の定義を借りることにします。
分析とは、「物事の実態・本質を正しく理解するための作業」の総称
(出典)『意思決定のための「分析」の技術』(後正武)
ちなみに、上記に引用した後正武氏の本(『意思決定のための「分析」の技術』)は名著中の名著で、分析について考えてみたい人には必読の書です。私はこの本を読んでから分析に対する考え方が体系化されました。もちろんこの本を読んだだけで実際の分析力が飛躍的に向上するわけでもないし、分析のテクニック的な内容だけでいえばもっと良い本はたくさんあります。しかし、考え方の面で、私はこの本から多くの刺激を受けました。それ以来、私は後氏の本のエッセンスを「分析の構造図」として整理して時折見返すようにしています。
今回の記事ではこの「分析の構造図」を共有させてください。
分析の考え方の構造図
『意思決定のための「分析」の技術』から分析の考え方を構造化しました
後正武氏の本(『意思決定のための「分析」の技術』)から考え方のエッセンスを私なりに構造化したのが下記の図です。
上記図は、分析をするうえでの重要な次のような考え方を構造図で表したものです。
(1)重要でない領域なら初めから分析なんてやらない方がいい。
(2)分析のスタートは全体像を把握すること
(3)分析の二大手法は、「分けること」と「比較すること」
(4)比較するときの代表選手は「時系列で比較すること」
(5)分析の個別手法として「構成要素を考える」「プロセスを考える」「変化・ばらつき・例外値を考える」の3つ覚えておくとよい
(6)分析のゴールとして体系化・構造化・モデル化を目指すこと
なお、実は本の中では、後氏が書かれたオリジナルの別の図が序章に記載されています。ここで紹介する図としてはそれでもよかったのですが、自分が活用する上では普段から自作バージョンを使っているため、今回も私の自作バージョンで説明させてください。後氏のオリジナルの図とは形状は異なるものの、分析に対する考え方そのものには大きな違いはないと認識しています。
分析では単なる手法ではなくて根底にある考え方(思想)が大事
どんな分野でも仕事のできる人は、体系的に学んでいなくとも実戦の場で積み重ねてきた経験を自分のノウハウ(武器)として蓄えています。自覚的であるか無自覚であるかは別にして、揺るぎないノウハウ(武器)を身に着けた人がその道のプロと呼ばれるのです。後氏は、このノウハウ(武器)のことを「確固たる技術」と呼び、『意思決定のための「分析」の技術』の中では次のように書いています。
後氏は『物事を進めていく上で、「人の能力」に占める「技術の大切さ」を考えるようになったのは、1973年、フィレンツェのウフィッツィ美術館で一人の学生と出会った時にさかのぼる』と振り返ったうえで、出会ったイタリア人画学生から『「センス」や「感覚」は、技術の裏づけがなければ実らない。(中略)(そして)技術は蓄積と伝達が可能なものだ』というヒントをもらった。それ以来、
「技術の大切さというわずかなヒントを得ただけで、私の物事を見る力、考える幅が大きく変わったのである。
(出典)『意思決定のための「分析」の技術』(後正武) (注)ハットさんが一部太字にした。
後年、コンサルタントになり、未知の業種、未知の会社の新しい課題や、いろいろな経営上の問題に取り組んで、分析・問題解決・実行プログラムの策定を業とすることになって、私はあらためてまた「技術の意義」を考えるようになった。人が見ると、一見「驚くような発想や鋭い分析」も、実は、そのかなりの部分は「技術として整理し、習得し、自覚して使いこなせるようになれる」ものなのである。「能力」として考えるととてつもなく見えることも、技術として学び、実用すると、身につく場合が多い。問題のとらえ方や物事の核心をつく能力が飛躍するのである。(中略)
分析を学び、そこに手法や技術があることに気づいたからには、それを体系化し、伝達する役割を、私は担うべきなのではないか。(中略)
本当のノウハウは、チームで作業し、OJTでなければ伝えがたいところも多いが、「全体の体系」と「考え方の骨子」は一応整えたつもりである。(以下省略)
後氏の考えに従えば、「技術」とは、「天賦の才能・能力」に対比されるものであり、それは学習し実用することにより身に着けることができるものです。つまり、誰でも訓練次第で技術を身につけることが可能で、訓練すればいわゆる凡人であっても能力のある人と同じように切れ者になれるというのです。生まれつき切れ者ではない私にはとても希望をもらえる考え方です。しかしながら問題は、その技術をどうやって訓練するかです。ここで大切なことは、個々の手法ではなく、「全体の体系」と「考え方」です。ここを間違えると、いくら訓練しても切れ者にはなれないので留意が必要です。
とかく目の前の上達にこだわり、些末な手法(テクニック)を覚えることを優先してしまいがちですが、大事なのは根本にある考え方なのです。これから後氏の『意思決定のための「分析」の技術』を読んで勉強する方には、くれぐれもこの点を心にとめてお読みになることを強くお勧めいたします。
なお、大前研一氏のあまりにも有名な名著「企業参謀」にこんな一節があります。一流のプロを目指す全ての方に意識して欲しい言葉です。
前作「企業参謀」において、うかつにも、私は「手法」と見誤られるものにかなりのページをさいた。私はそれを参謀の「道具」と呼び、実際その使い方を記述した。意図したものは、道具の使い方そのものではなく、道具を使って行うところのプロセスの記述とプロセスの奥にあるものの考え方の記述であった。
(出典)「続企業参謀」(大前研一) (注)ハットさんが一部太字にした。
数多くの読者からノウハウを公開してくれてありがとうと感謝された。ごく少数の読者は、ものの考え方の記述が非常に参考になった、と言ってくれた。本書は、この少数派の人々を対象としている。
今後それぞれの項目ごとに説明予定です
今回紹介した分析の構造図だけでは正直何のことやらよく分からないでしょう。今回の記事では構造図の紹介で終わりですが、今後それぞれの項目ごとに説明していく予定です。
今回のまとめ
「分析」では考え方が大事です。全体がどんな要素から構成されているのか、核心となっている事は何なのか、それがどんな意味を持っているのか、のように根本的に考えること。
おすすめ図書
1998年に出版されているので最近の本ではないし、その後続々と分析に関する新しい本が出版されているので、今更なんでこの本をおすすめするのかと思う方もいるかもしれません。確かに最近では分析に関する良書も多いのですが、それでもなお、分析に関する本としては本書を最初に読んで欲しいのです。何回も読み返していくうちに、ちょっとした油断するとさっと読み飛ばしてしまうようなフレーズにも含蓄に富んだメッセージが込められていたことに気がつきます。社会人経験がまだ浅い人に変なクセがついて思考が固まってしまう前にぜひ読んで欲しい本です。
「数学的思考トレーニング 問題解決力が飛躍的にアップする48問」(深沢真太郎)
タイトルだけ見ると数学がテーマのようにみえるこの本を分析の考え方の参考書として推薦するには理由があります。本書では、数学的思考を「定義」「分解」「比較」「構造化」「モデル化」の5つの思考法に整理していますが、これは後氏が『意思決定のための「分析」の技術』で言っていることと内容的に変わりがありません。タイトルからすると分析とは関係のない本のように思えますが、書かれている内容は分析の考え方そのものです。考え方が分かりやすく説明されており、新書サイズで簡単に読める本なので、後氏の本を読む前にまずこの本を読んでおくと分析に対する考え方の理解が容易になると思います。
分析の各論については今後説明していきます。