今回は「その道のプロだけが持っている気づきの力」という話しをします。
どんな分野でも経験値を重ねたプロと呼ばれる人は、鋭い観察眼を持っています。素人なら見逃してしまうような小さなことでも一流のプロなら気がつきます。そこが一流のプロと素人との大きな違いでもあり、素人からすれば「一流のプロはやっぱりすごいな」と感嘆し、ときには訳が分からずマジックのようにも思えてしまいます。しかし逆に言うと、素人でも一流のプロがどこに着目していたのかという点さえわかれば、訳が分からずただただ驚くという段階からは卒業できます。
したがって、その道の一流のプロを目指すのなら、一流のプロがどんな視点で何を観察しているのか、言い方を変えると、一流のプロが心がけている気づきの力がどこにあるのかという点を学び続けることが大切です。今回はそんな話しをします。
今回の記事で伝えたいことを先に要約すると…
今回の記事で言いたいことを要約して図示すると次のようになります。

言うは易しで実際に身につけるとなると大変です。何年も努力を続けるしかありません。今回の記事では少しでも参考になればと考え、以下で野村克也氏とシャーロック・ホームズの言葉を紹介します。
野村克也氏が教える「気づきの力」
一流のプロが持つべき「気づきの力」を身につけるうえで、最初に知っておいて欲しいのが野村克也氏の次の言葉です。
どの道を生きるプロでも、それを生業(なりわい)にしている者は、素人とは違う「視点」を持っている。
(出典)「人生に打ち勝つ野村のボヤキ」野村克也(注)ハットさんが一部太字にした。
仕事をする上で武器になるのは、まず「プロとしての視点」である。その視点を強化することが、観察力、洞察力を高めることにつながる。
プロとは、人が気づかないことに気づく者を言う。
気づくが、他人と同じ程度であるうちはプロではない。
1つのものを見て、いかに人より気づけるか、気づけるようになったか。気づきもまた、情報収集の1つであって、仕事に生きてくる。
気づきこそ、プロとしての経験値なのだ。(以下略)
野村克也氏はかねがね観察力の重要性について説いていましたが、それを分かりやすく説明してくれているのが上記文章です。どんな分野であれ一流のプロを目指しているのならば常に心に留めておきたい言葉です。
シャーロック・ホームズが勧める観察力
先ほど紹介したとおり、野村克也氏は「プロとしての視点が重要だし、その視点を強化することが観察力を高めることにつながる」との趣旨のアドバイスをしてくれていますが、さらに別の観点からも観察力を高めるための言葉を紹介します。それが名探偵シャーロック・ホームズの言葉です。
◆「君はただ眼で見るだけで、観察ということをしない。見るのと観察するのとでは大ちがいなんだぜ。」
「ボヘミアの醜聞」(シャーロック・ホームズの冒険)コナン・ドイル
◆「(中略)心で見ないからだ。眼で見るだけなら、ずいぶん見ているんだがねぇ。僕は十七段あると、ちゃんと知っている。それは僕がこの眼で見て、そして心で見ているからだ。」
ホームズは「ただ見るだけではダメ。意識的に観察しろ」と言います。さらに、「眼で見るだけではなく心で見ろ」とまで言うのですが、「心で見ろ」とまるで「星の王子さま」のサン=テグジュペリのようなことを言われても、具体的にどうすればいいのか途方にくれます。幸いホームズは次のようなアドバイスもしてくれています。
「わからないのは見えないのじゃなくて、不注意だからさ。見るべき場所を見ないから、それで大切なものをすべて見おとすのさ。袖口やおや指の爪や靴の紐が、どれほど重要なものであるか、どんなに暗示に富んでいるか知れやしないのだぜ。君はあの女の外見から何を知りえたか、それをいってみたまえ。」
「花婿失踪事件」(シャーロック・ホームズの冒険)コナン・ドイル(注)ハットさんが一部太字にした。
「初歩的な推理にすぎないよ。推理家が、はたから見ると驚くような効果をあげるのは、推理の根拠となる小さな事柄を、はたのものが見落とすからだが、これもその一例だ」
「背の曲った男」(シャーロック・ホームズの思い出)コナン・ドイル(注)ハットさんが一部太字にした。
「心で見ろ」という精神論と違って、「プロなら見るべき場所を意識して小さな事柄を観察しろ」と言ってもらえれば、かなり具体的にイメージできるようになります。それは野村克也氏が言う「プロとしての視点」で観察することと同じです。とにかく「プロとしての視点」を意識して観察するということを、自ら経験を重ねていくか、他人の経験値を盗んでいくしかないということです。短期間で簡単に身につくものではありませんが、常に意識し続けていくことが大事です。
最終的には、どんな分野でプロになるにしても次のようことができるレベルの力を身につけられるようにしたいものです。
「今回の事件の最大の難点は」とホームズは教訓的な口調でいった。「証拠がありすぎたことです。大事なことが、無関係なものの陰にかくされてしまっていました。提出されたあらゆる事実から、本質的と思われるものを抜き出して、ちゃんとつなぎ合わせ、出来事のこの驚くべき連鎖を再構成しなければなりませんでした」
「海軍条約文書事件」(シャーロック・ホームズの思い出)コナン・ドイル(注)ハットさんが一部太字にした。
ご参考:「プロとしての視点」を身につけると・・・
ご参考として申し上げると、「プロとしての視点」を持って観察するという練習を継続的に続け一定のレベルにまで達すると、素人から「さすがプロは違う」といって驚かれたり、プロとしてリスペクトされる日が必ず来ます。もちろん手品の種と同じで種明かしすれば「なーんだ」ということになる可能性もあるのですが、種を知らない素人から見ると凄いことのように見えるのです。この点に関連してホームズは下記のようなことを言っています。
◆「(中略)だがワトスン君、僕はこの事件については、もうこれ以上話さないよ。手品師がいちど種をあかしてしまうと、人気がぱったりなくなるだろう。僕だってあんまり仕事のやり口を知られてしまうと、ホームズも結局はおなじ人間にすぎないと、君が思いだすだろうからね。」
「緋色の研究」コナン・ドイル(注)ハットさんが一部太字にした。
◆「諸君には、すべてが不思議にみえるにちがいない。それはなぜかというと、諸君が最初の出発点で、眼前に転がっていたにもかかわらず、たった一つの真の手がかりを理解しなかったからです。私はさいわいにして、それをつかみえた。」
べつに素人から驚かれることが目的ではありません。高いレベルで仕事ができるようになりたいだけです。とはいえ、周囲から一目置かれるのであればそれに越したことはありません。
【経験を重ねると言っても漫然と繰り返しただけではダメ】
経験値を重ねることに関連して、私が戒めとしている話しをここで紹介させてください。通常は年数を重ねるごとにプロの視点が強化されるはずですが、ただ漫然と経験を繰り返しているだけの人にとっては、何年経ってもプロの視点が強化されることはありません。そのことを肝に銘じるために私は下記の文章を定期的に読んでいます。
何年も前のことであるが、ある生産現場で製品の品質を向上し不合格品を減らすという課題を与えられた技術者2名と仕事をしたことがある。2人合わせて40年以上の実務経験があると、少なくとも2人は豪語していた。短期間の調査の後2人は、機械に高精度ペアリングを組み込めば問題は解決するという結論に至った。
(出典)戦略思考学 創造的問題解決の手法(ハーベイ・ブライトマン)大前研一訳(注)ハットさんが一部太字にした。
前にも似たような問題をこの方法で解決し成功したというのが、2人の主張であった。2人は高精度のベアリング発注し4ヶ月の納期を待つこととなった。上司に品質向上プロジェクトの進み具合をきかれると、ベアリングさえ届けばもう問題は解決ですと答えていた。(中略)
ついにベアリングが届き機械に組み込まれた。しかし品質改善は見られなかった。この結果を見た人が、2人の技術者には合わせて40年の経験があるのではなく、1年の経験を40回繰り返しただけではないのかとひやかした。
どうせ40年の実務経験を重ねるなら「1年の経験を40回繰り返しただけ」の人と言われないようにしたいものです。以上、私が定期的に読み返す文章の紹介でした。
今回のまとめ
◆どの道でも一流と言われる人は「プロとして視点」を持って観察している。
◆他人と同じレベルの観察力にとどまっているうちはダメ。

おすすめ図書
「シャーロック・ホームズの冒険」(コナン・ドイル、延原 謙 (翻訳))
「シャーロック・ホームズの帰還」(コナン・ドイル、延原 謙 (翻訳))
名探偵シャーロック・ホームズのシリーズは誰でもいちどは読んだことがあるでしょう。小説として読んでももちろん面白いのですが、ここでは仕事術の観点で紹介させてください。ホームズの言葉(セリフ)を仕事術という観点だけに注目して読んでいくと、ものの考え方や意思決定・リスク管理という点でとても役に立つフレーズが満載です。読むときの注意点は決してストーリー展開を追わず、ひたすたホームズの発言(セリフ)だけに注目して欲しいのです。ホームズシリーズを読むと、ついつい結末が気になってしまい、気がつくと内容に没頭してしまいがちです。しかし、仕事術を学ぶという観点で読むときには、ホームズの発言(セリフ)だけを追うという固い決意で臨んでください。そうすると、マーカーを引きたくなる箇所が多数見つかります。ホームズシリーズは新潮文庫でいえば10冊出ておりどの本でもいいのですが、ここでは上記2冊を紹介しました。
ちなみに第43回目の記事(プロは「(あって当然なのに)そこに無いものは何か?」に注目する #43)でも「シャーロック・ホームズの思い出」(コナン・ドイル)を紹介しています。このときには「ホームズから学んだ仕事術をいずれまとめて記事にしたい」と書いたのですが、今回の記事はその一環で書いています。
なお、ホームズシリーズはいろいろな出版社から出ており、それぞれで訳も微妙に異なります。私は新潮文庫版で買い揃えたので上記でも新潮文庫を紹介していますが、新潮文庫にこだわる必要はありません。


ホームズシリーズのうち「緋色の研究」とか「四つの書名」といった長編は、小説としてもかなり面白いです。ついストーリー展開が気になって夢中になって読んでしまいますが、それは仕方がないです。だから、せめて2回目・3回目に読むときは仕事術だけに専念してくださいね。

