議論の能力を高めるための反論の技術 #5

論理的思考・議論術

議論の能力を高めておくことは仕事をする上で必須

 仕事をしていると毎日誰かと議論の連続です。ちょっとした企画について議論するとか、業務改善について議論するなど日常茶飯事です。そのため仕事をしていくうえでは、議論のための一定の能力・スキルを身に着けておくことが必須です。そして手っ取り早く議論の能力を高めるには簡単なコツがあります。それは反論の技術を身に着けることです。

 そこで、今回は議論の能力を高める反論の技術について説明します。

始めに伝えておきたい議論の鉄則(勝っても負けてもいけない)

 今回のテーマである反論の技術の説明をする前に伝えておきたい大事なことが2つあります。それは、

①議論では相手を徹底的に言い負かしてはいけない
②議論では相手に言い負けてもいけない

ということです。
 つまり、議論をする際には勝ってもいけないし負けてもいけないということです。相手との関係を常にフィフティ・フィフティの状態にしておくことが理想です。議論をしていると主張と主張が対立し、お互いに感情が高ぶってヒートアップしてくることがあります。しかし、冷静に考えれば、単に見解が相違しているだけです。議論で相手を徹底的に言い負かすことなどは厳に慎むべきです。相手を言い負かした瞬間は痛快で気分が高揚しますが、長い目で見ると、人間関係がうまくいかなくなり、いずれ必ず痛い目に会います(私は何度も経験しており実証済みです)。この点は「交渉の7つの要素#4」の記事の中で紹介した橋下徹氏の著作からの引用「交渉は握手で終わる」と同じことです

コーヒーブレイク

反論の技術を身に着けよう

 今回のテーマである反論の技術は、議論で相手に言い負けないためにとても大事なスキルです。しかしここで注意して欲しいのは、今回説明する反論の技術は、相手が繰り出す滅茶苦茶な根拠や理屈に為すすべもなく言い負かされることを避けるためのスキルであるということです。何でもかんでも反対を言って強弁するための技術ではありません。相手の主張が真っ当な根拠や理屈に基づいていない場合に、そのことを指摘して、きちんとしたより良い議論に戻るように指摘する技術です。

 ところで、反論の技術を身に着けると議論の能力が高まります。それは、相手の主張のもとになっている根拠や理屈に敏感になり、結果として、主張とそれを支える根拠や論理の一貫性・関係性について深く考えるクセがつくからです。反論の技術で習得した考え方が習慣化すると、自然と論理的に考える能力が高まり議論の能力も向上するのです。

反論の技術の具体的な方法

相手の根拠(データ)または理屈(ロジック)に対して反論する

 一言で反論の技術といっても、具体的にどんな方法で反論すればいいのでしょうか。それは簡単です。反論するときには、まずは相手の根拠(データ・事実)または理屈(ロジック)に対してのみ反論すればいいのです。言い方を変えると、相手の主張に対してはすぐに反論してはいけません。このことを徹底して習慣化してください。これをイメージ図で表現すると下記のようになります。

簡単な例で説明すると

 相手の根拠(データ)または理屈(ロジック)に対してのみ反論するというのは、具体的にどのように反論すればいいのでしょうか。簡単な例で説明させてください。

例えば、次のよう主張があったとします。

  • 主張今年のドラゴンズは優勝しない
  • 根拠(データ・事実)4月の成績は負け越している
  • 理屈(ロジック)スタートで出遅れると挽回できない

 なにも意識せずに議論してしまうと、ともすれば「いやいや、今年はドラゴンズが優勝する」などと相手の主張に真っ向から反対の主張で反論したくなります。あるいは逆に「確かに今年のドラゴンズは優勝しない」と賛成意見で盛り上がるかもしれません。自分の意見がどちらだとしても、相手の主張に対する自分の意見はいったん保留して、相手の根拠と理屈のみに注目して反論するのがここで推奨している反論の技術です。イメージは下記のような感じです。

主張・根拠が同じだからといって理屈が同じとは限らない

 ところでここで1つ注意して欲しいことがあります。それは、主張・根拠(データ・事実)が自分と同じだからといって、理屈まで自分と同じとは限らないということです。言い方を変えると、相手の主張には賛成でも、相手の理屈には賛成できないということもあり得えるということです。

 今回の例でいえば、「今年のドラゴンズは優勝しない」という相手の主張には賛成なのですが、その理屈は「スタートで出遅れると挽回できない」からではなく、そもそも「戦力ダウンし他チームに地力で劣る」からなのかもしれません。

 もし相手の主張にだけ注目して反論または賛成するというスタイルをとると、反論の場合には「いやいや今年のドラゴンズは優勝する」と反対意見を言い張って議論が平行線をたどることになるし、逆に賛成意見の場合には議論はそこで終了してしまい議論の能力が磨かれることはありません。

 議論の能力を高め相手に言い負けない力をつけるためには、とにかく相手の根拠と理屈にだけ反論するクセをつけることが大事です。根拠と理屈に「反論」という言い方が大袈裟ならば「突っ込みを入れる」くらいの気持ちで構わないのですが、ポイントは、とりあえず相手の主張はあっさりと聞き流して、根拠と理屈の部分に対して全神経を集中して聞くことです。

今回のまとめ

議論では相手の根拠(データ)または理屈(ロジック)に対して反論するクセをつける

メモ

議論のやり方に関しては第8回目の記事(生産的な議論をするための「トゥールミン・モデル」)の記事でも説明をしています。ぜひ本記事と合わせてお読みください。

おすすめ図書

「反論の技術 その意義と訓練方法」(香西秀信)

今回説明した反論の技術は、香西氏の本著作からさわりの部分だけを紹介しただけなので、反論の技術についてもっと詳しく学びたいという方は、ぜひこの本を読むことを強くお勧めします。本書は議論の能力を磨こうとする人には必読の書です。名著として名高くあまりにも有名なので、議論の技術に関心のある人たちの間では知らない人はいないかもしれません。しかし、もしもまだお読みでない方がいれば、ぜひ一度お読みください。議論の能力が格段に上がると自信をもって推薦いたします。

ちなみに、香西氏が書いた本はこれ以外にもたくさんあり、すべてがお勧めできる良書です。本来であれば香西氏にはもっとたくさんの本を書いて欲しかったのですが、残念なことに50代という若さでお亡くなりなりました。そのため今後の新作を願うことはかないません。心から残念でなりませんが、幸い香西氏は多くの本を書き残してくれました。議論の技術に関心のある方は、今回紹介した本以外の著作も味わってみるようお勧めいたします。

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ハットさん
ハットさん

議論の最中に「根拠と理屈と主張」の3つを構造化したイメージを思い浮かべるといいよ。慣れないうちは紙に書き出してみてね。

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