今回は「一流のプロを目指すうえで参考になる4つの属性」という話しをします。
仕事を始めて間もない頃は、誰でも慣れないことの連続でしょう。自分の仕事ぶりがとてもふがいなく感じられるものです。そんなときに仕事のできる先輩や上司を見ると、頼もしいやら、早く自分もあのレベルにまで到達したいやらで、とにかく憧れます。私もそうでした。そこで、何をどのようにしたらあんな風になれるのだろうかと考えながら、仕事ができる人たちをよくよく観察していたところ、共通項として一定の属性を有していることに気がつきました。それが次の4つです。
1 気づき(Awareness)
2 説得(Persuasion)
3 概念化(Conceptualization)
4 先見力・予見力(Foresight)
今回は上記4つの属性が一流のプロを目指すうえで参考になるという話しをします。
4つの属性はサーバントリーダーの10個の属性の一部だった
一流と言われる人が共通して持っている4つの属性の内容に入る前に、1つだけ補足させてください。
先ほど「仕事ができる人たちは共通して4つの属性を有していることに気がついた」と申し上げたのですが、この説明は正確ではありません。実はたまたま「サーバントリーダーシップ」という本を読んだ際にサーバントリーダーが有する10個の属性について知り、この10個の属性のうち4つの属性は、サーバントリーダーであるかどうかにかかわらず、一流と言われる人に共通の属性だと気がついた、と言った方がより適切です。ご参考として、サーバントリーダーが有する10個の属性を紹介すると次のとおりです。
上記10の属性に関する考え方は、上司(部下を持つ人と言い換えてもいいのですが)にとってはとても大事なことです。リーダーを目指すうえでよくよく参考にすべき内容であり、10の属性のそれぞれについては「NPO法人 日本サーバント・リーダーシップ協会」のサイトでぜひ確認して欲しいです。ついでに言うと、Googleが公式ウェブサイト「Google re:Work」で発信している「優れたマネジャーの要件を特定する」の「Google マネジャーの行動規範(10個)」も考え方がとても似ています。そちらも併せて読むことをお勧めします。
ところで、今回の記事でフォーカスしたいのはこの点ではありません。今回の記事ではあくまでも4つの属性だけに限定して議論したいのです。なぜ4つに限定するのかというと、サーバントリーダーの10の属性に関して私は次のように理解しており、今回は一流を目指すうえで参考にすべき属性に焦点を絞りたいからです。
【サーバントリーダーの10の属性を次の3つに分類して理解】
1 「寄り添ってくれる人」が持っている属性(3つ)
2 「一流と称される人」が持っている属性(4つ) ➡ 今回の記事はここにフォーカス
3 「導いてくれる人」が持っている属性(3つ)
整理すると次のようになります。
以下では、一流と称されるために身につけておきたい4つの属性について話しをさせてください。
4つの属性をどのように有機的に関連付けて理解すべきか
まずは4つの属性をどのように有機的に関連付けて理解すべきかという点に関して共有させてください。私は次のようなイメージで認識しています。
一流のプロと呼ばれる人は、細かい点までよく観察していて素人では気がつかないようなことを直ぐに指摘してくれます。また、何か特別新しいことを指摘してくれない場合でも、モヤモヤした状況をすっきりと整理して、こちらの頭の中をクリアにしてくれたりもします。また、先行きが分からない中でも少し先を照らしてくれます。そしてそれらを分かりやすく言語化してくれるのです。
一流のプロを目指すならこの4つを意識しておきましょうというのが今回の記事で言いたかったことです。
4つの属性を考えるうえでヒントになるフレーズを紹介
今回の記事でお伝えしたいことは以上です。ここまでで十分と感じた人やこれ以上時間がない人はここで読むのを止めても差し支えありません。
ここから先は今一つイメージが沸かない人のために、4つの属性を考えるうえでのヒントになるフレーズを紹介します。
「気づき(Awareness)」に関するヒント
まずは「気づき(Awareness)」に関するヒントとして、名探偵ホームズとワトソン君との有名な会話をご紹介します。
◆「君はただ眼で見るだけで、観察ということをしない。見るのと観察するのでは大ちがいなんだぜ。(以下略)」
(出典)「シャーロック・ホームズの冒険」(コナン・ドイル)の「ボヘミアの醜聞」より
◆「何段?知らないねえ」「そうだろうさ。心で見ないからだ。眼で見るだけなら、ずいぶん見ているんだがねえ。僕は十七段あると、ちゃんと知っている。それは僕がこの眼で見て、そして心で見ているからだ。(以下略)」
呑気なワトソン君は普段使っている階段が何段あるのかなんて気にも留めていませんし、階段の段数だけでなく一事が万事こんな調子です。それに対してホームズはさすがです。注意深く心の眼で見ており、十七段あると知っています。「気づき(Awareness)」の大前提として単に見るのではなく注意深く観察することが大切だということを改めて教えてくれます。
「概念化(Conceptualization)」に関するヒント
「概念化(Conceptualization)」という言葉で連想すると難しいようなイメージもありますが、もっと単純に「状況を整理すること」「関係性を理解すること」「全体感を理解すること」のように考えるとイメージしやすくなります。二つの文献からヒントとなるフレーズをご紹介します。
まずは一つ目です。
かねてより、ビジネスの世界では「ビックピクチャーで考えることが重要だ」と言われたりします。このときのビックピクチャーは、「全体像」と訳されることが多いのですが、この訳語はややミスリーディングです。むしろ、ビジネスにせよ人生にせよ、本当に必要なのは「全体像」ではなく「全体図」を観ることだからです。(中略)
(出典)「知覚力を磨く 絵画を見るように世界を見る技法」神田房枝(注)ハットさんが一部太字にした。
個別の要素だけでなく、要素が置かれた環境や背景、要素間の関係性、さらにはその空白・周縁部を包括する「フィールド」にも眼を向けることで、作品の特性や価値が浮かび上がってくるからです。これこそが「全体図」を観るということです。
次は二つ目です。
ビジネスシーンにおいて「構造化」が求められる局面
ビジネスでは、「構造化する」という思考技術は、2つの局面で非常に役立つ。1つは問題解決の局面、そしてもう一つはコミニケーションの局面だ。(中略)
コミュニケーションのための構造化では、116ページで構造化の要件として挙げた2項目のうち、特に②「関係をわかりやすく整理する」に配慮する必要がある。①の段階で論点が洗い出され、検討されたとしても、理解しやすい「論理の流れ」をつくらなければ、他人にはうまく伝わらないからだ。実際、より多くの関係者に納得してもらおうとすれば、①の過程をもう一度いちど整理して、説明のためのストーリーを組み立てる必要があるだろう。
なお、(中略)「事象の構造化」→「論理の構造化」の流れは、必ずしも一方向的なものではない。実際にはむしろ、まず自分の主張を明確にするために「論理の構造化」からアプローチし、さかのぼって「事象の構造化」に思いを至らせるケースの方が多いと思われる。事象を構造化する
(出典)「MBAクリティカル・シンキング」(グロービス・マネジメント・インスティテュート)(注)ハットさんが一部太字にした。
ビジネスにおける問題やトラブルの多くは単発的なものではなく、構造的なものだ(中略)
こうした「構造」を理解せず、表層の事象のみに目を奪われて対症療法的な対応策をとっていては、問題を解決できないだろう。逆に、対象としている事象の本質的なメカニズム・構造を理解すれば、問題解決の可能性が高まる。それだけでなく、以下の点を見通しよく推定できるようになり、効率も向上する。(中略)
ところがビジネスの世界になると、頭の中に構造を描ける人は極めて少ない。理由は大きく2つ考えられる。
第一に、通常、ビジネスの世界では原因と結果が時間的、空間的に離れているため、因果関係が見えにくい。ある意思決定が複数の部門で行動を生み、その行動が他部門に影響を与え、再び新たな意思決定を呼ぶ。となると、どうしても表層的な事象に目を奪われ、一見効果的に見える対症療法を繰り返し、根底にある問題は先送りにされてしまうことが多い。
第二に、そもそも、自分や自分の所属する小集団を超えて全体をシステムとしてとらえ、イメージ化する習慣がない。これは責めるのが酷な面もある。なぜなら、学校教育でも、生活知の教育の場でも、そういう訓練や習慣化には注意が払われていないからだ。だからこそ、構造的に考えることを習慣にできれば、ライバルとの差別化の武器ともなりうる。
ジャーナリズムの有名な言葉に、「事件は構造を明らかにする」と言うものがある。すなわち、それまでにも同様な構造が存在していたにもかかわらず、何も起きないうちはそれが看過され、事件が起きて初めてその構造が白日の下にさらされ、皆を驚かすというのである。(中略)ビジネスパーソンとしては、「手遅れ」「後の祭り」にならないように、「危うい構造」には事前に気づいておきたいものだ。
なお、上記二つ目については、第17回目の記事(分析のゴール(メカニズムを明らかにして構造化する)の中での紹介したフレーズと一部重複しています。ご関心があればそちらの記事もご参照ください。
「先見力・予見力(Foresight)」に関するヒント
一流のプロならば「先見力・予見力(Foresight)」を持っておくべきだという考え方そのものには異論はありませんが、実際に「先見力・予見力(Foresight)」を一朝一夕で身につけるのは相当難しいです。そもそも天才でもない普通の人が努力して身につけられるのかという問題もあります。それでも、長年の経験と知見を生かして努力すれば凡人でもちょっと先の未来は予見可能になると信じています。そのような考えのもとで次の野村監督の言葉を読むとヒントをもらえるはずです。
「次の1球」を予測するのが、プロ。
(出典)「人生に打ち勝つ野村のボヤキ」(野村克也)
私は野球を見るとき、人の見えないものを見るのがプロだと思っている。(中略)素人に見えないものを言葉にしてやろう、と考えるわけだ。それは何か。当然「結果論」とは真逆のもの。「予測」である。(中略)よく素人からこう言われた。「ノムさんの予言はよく当たる」。予言じゃない、予測だと反論したくなる。予測とは、確かな判断基準を持っていなければできない。(中略)どの道を生きるプロでも、それを生業(なりわい)にしている者は、素人とは違う「視点」を持っている。
仕事をする上で武器になるのは、まず「プロとしての視点」である。その視点を強化することが、観察力、洞察力を高めることにつながる。
プロとは、人が気づかないことに気づく者を言う。気づくが、他人と同じ程度であるうちはプロではない。
1つのものを見て、いかに人より気づけるか、気づけるようになったか。気づきもまた、情報収集の1つであって、仕事に生きてくる。
気づきこそ、プロとしての経験値なのだ。
「素人は結果論。プロは予測」を話す。
結局のところ「先見力・予見力(Foresight)」を持つためには「素人とは違うプロとしての視点」を強化するしかないし、そのためには観察力・洞察力を高めるとともにプロとしての経験値を積み重ねていくしないのです(天才は除く)。
「説得(Persuasion)」に関するヒントとして「言語化」について考える
「説得(Persuasion)」というと色々な要素が複合的に関係してくるので身につけるうえでの難易度が一気に上がる感じがするのですが、単純に「気づき(Awareness)」と「概念化(Conceptualization)」と「先見力・予見力(Foresight)」の結果を言語化して伝えるくらいのイメージで考えると取っつきやすくなります。「言語化」と捉えると次のようなフレーズは考え方の入り口としてヒントになります。
「キーワードは言語化です。自らを問うことに慣れていない選手たちは、言うなれば、自分で考えたことを言葉にしていくことに慣れていないわけです。そのため、まずは選手たちが答えやすい『問い』を投げかけながら、自分の考えを言語化し、適切な意識決定を下せるようにする練習からスタートするのがいいと思います。私も選手たちに『パニックになったときこそ、言葉にしよう』と言い続けてきました。ミスが起きたときに、その原因を選手同士で言葉にできていないと、また同じミスを犯すことになります。『ミスした理由を言葉で確認し合おう』という指導を繰り返すうちに、それが自然と習慣となり、同じミスを繰り返さないチームへと変貌を遂げていきました」(中竹氏)
(出典)これからの強いチーム作りに欠かせない「自問」と「言語化」の文化(中竹竜ニ)SPORTS BULL パラサポWEB(2020/09/09)
今回の記事は以上で終わりです。一流のプロを目指すうえで考えるべきことは色々ありますが、一つの在り方として今回紹介した4つの属性を身につけるように意識すること。こうすることによりやるべきことが明確化されます。ぜひお勧めいたします。
今回のまとめ
◆一流のプロを目指すうえでサーバントリーダーの10個の属性のうちの4つが参考になる。
◆サーバントリーダーの10個の属性と、一流のプロを目指すうえで参考にして欲しい4つの属性の位置付けは下記のとおり
【4つの属性の相互の関係性】
おすすめ図書
「リフレクティブ・マネジャー 一流はつねに内省する」(中原淳、金井壽宏)
本書は立教大学教授で経営学習論・組織行動論などがご専門の中原淳氏と神戸大学名誉教授の金井壽宏氏が対談形式で記した本です。内容的には、リフレクション(内省)をキーワードにしてマネジャーがどのように学習すべきかが語られています。今回の記事でテーマとした一流を目指すうえで意識すべきことに関連していうと、本書で語られている学習の考え方は、今回の記事とは切り口は違えど参考になる点がたくさんあります。それゆえ、マネジャーはもとより自分を成長させたいと願っている人全般にお勧めですが、今回おすすめ図書として紹介する理由はもう一つあります。本書では企業が従業員の学びをどのように支えるのかという観点で人事部門の在り方についても言及しているのですが、その中でも下記記述についてどうしても紹介したかったのです。
奉仕型(サーバント)リーダーとしての人事部門
(出典)「リフレクティブ・マネジャー」中原淳、金井壽宏、
(中略)私自身は、人事部門にサーバントリーダー(奉仕型リーダー)の役割をもつことを勧めている。サーバントリーダーシップは、一見リーダーっぽくない、むしろその対極のようなサーバント(従者・召使という意味もあるけれど、ここでは「尽くす人」「奉仕する人」ととってほしい)が、実現を望むミッションを奉仕の名のもとに掲げ、自分についてくる人たち(フォロワー)に尽くす形をとる。
人材育成も含め人事部門の仕事は、働く人たちに最も近い事業部門のマネジャーがやってできるのであれば、それでかまわないのかもしれない。だが、そのやり方だと、社内のあちこちで不平等が生じたり、各組織がそれぞれ個別最適に走ってしまうおそれもあるから、人事部門は存在している。(中略)
サーバントリーダーに徹するとは、本気で相手の要望を聴けるということだ。「できるからする(ドゥアブル:doable)」の発想によってではなく、自分がいるおかげで「何がもたらされるか(デリバラブル:deliverable)」の発想で行動しなくてはならない。
サーバントリーダーシップを提唱したロバート・グリーンリーフの考え方を普及させる団体の中心人物、ラリー・スピアーズ専務理事は、サーバントリーダーの果たすべきデリバラブルな役割の特徴を一〇点に整理している。これをそのまま人事部門にあてはめると以下のようになる。
①傾聴…社内外の大事な声を積極的に聴く
②共感…社員の声を、傍観者としてではなく共感的に聴く
③癒やし…施策で人を疲弊させ傷つけるのではなく、世話をする
④気づき…従業員の意識を高め、倫理観・価値観に気づかせる
⑤説得…新施策について、その理由や効果をしっかり納得させる
⑥概念化…経営者とともに大きな夢を掲げ、わかりやすい言葉で浸透させる
⑦予見…変化の担い手として、将来を予見、構想する
⑧執事役…執事のように信頼され、目立たぬように日々の支え役となる
⑨人々の成長への関与…人間尊重に加えて人間成長をたえざるテーマとする
⑩コミュニティづくり…社内の人々がお互いを気にかける共同体をつくる
現実には、サーバントリーダーとして振る舞っている人事部門に出会うことはまだ少ない。
だが、人事部門の人たちが使命感に燃え、専門性を生かしつつ、ビジネスの問題にもきちんと理解を示して、事業部門を縁の下で支えることができれば、人事部門のサーバントリーダーシップは成り立つ。そう私は信じているし、そのような働きを人事部に期待している。
上記内容は人事部門だけに言えることではありません。企業のどの部門にも共通した問題認識として受け止める必要があるし、もっといえば、どんな部署でも上司という立場にある人にとっては意識しておくべき内容です。さらにいえば、一流を目指す人ならば若いうちから身につけておくべき考え方だと理解しています。そういう意味において今回の記事でサーバントリーダーシップに関心を持たれた方を始め、学びとかキャリアについて考え続けている方に本書をお勧めいたします。
4つの属性の中では「先見力・予見力(Foresight)」がもっとも難しいですけど、これが真の一流かどうかの分かれ目だと言い聞かせて精進し続けるしかないです。