アラン「幸福論」は自分次第で幸福感が変わることを教えてくれる #87

座右の名著(いつかあなたを救う本)

今回は名著で名高いアランの「幸福論」を紹介します

 今回はフランスの哲学者アランの名著として有名な「幸福論」を紹介します。

 アラン「幸福論」は第68回目の記事(怒りやイライラに対処していかにパフォーマンスを上げるか -フレーズを読む-)でもお勧め図書として紹介しました。本書のメッセージはシンプルです。「ネガティブな感情・気分(➡アランをこれを「情念」と呼んでいる)に左右されて不幸(不機嫌)になるなんてバカバカしいよね」ということです。これだけの内容をあの手この手で表現を変えて書かれています。

アラン「幸福論」はどんな本か?

 アランは、ネガティブな感情・気分に左右されて不幸(不機嫌)にならないためにどうすればいいのかを一種のエッセー(正確には「プロポ(語録)」という)という形式で新聞に連載しました。この連載93回分をまとめたのが本書です。したがって、書名は「幸福論」となっていますが「論」というような大袈裟な内容ではありません。1章が文庫本で3ページくらいの短いものであり、また、どの章から読み始めても問題ないため、とても気安く読める本です。

アラン「幸福論」の特筆すべき点

 アランが一貫して書いているのは、人は必ずと言っていいほどネガティブな感情・気分に左右されてしまう、そうならないためには自分で自分を律することが大事だし、もしそれができないならむしろ何も考えずにとにかく行動するか、または身体をリラックスさせればいいよ、ということです。乱暴な言い方をすればこれだけのことです。
 本書が特筆すべきは、感情・気分なんて簡単にコントロールできないし出来事にいちいち一喜一憂すべきではない、むしろ行動や動作の方を制御すればそれに付随して感情・気分も良くなる、そして結果的に幸福になる、と説いているところです。つまり最初から感情・気分を直接的にコントロールしようという発想はありません。この点は私にとっては新鮮でした。多くの書物では、とかく心(精神)が大事ということを強調しているものの、その方法論はとなると具体的に書かれていません。そのため、心(精神)の安定に必須となる感情のコントロールをどうするのかは各自が試行錯誤して追い求めることになりますが、結局のところ開眼せずに終わってしまいがちです。例えば、宮本武蔵「五輪書」沢庵「不動智神妙録」などを読んでも今一つ腑に落ちずに終わります。しかしながら本書は違います。気分がどうあれ、プラスの行動や動作を強制的にして習慣化すればいいのだ、というのがアランの主張です。例えば次のような主張です。

 アランは「人ごみでぐいと押されたぐらい、笑って済ませたらよい」と言いますが、実際に朝の殺気だった通勤電車の中でこれができるかどうかは意志力が問われます。それでも、一つの方策としてアランの言わんとしていることは理解できますし、一つの理想としてこういう状態を目指せば幸福になれるということも理解はできます。

アラン「幸福論」はどんなときに読むと心に響くか?

 アランのアドバイスはその気になれば実行可能なものばかりですが注意も必要です。というのも、アランのアドバイスはすごく深刻な状況を想定しているわけではないので、日常のありきたりな場面では有効でも、本当に危機的な状況では無力だからです。この点については、アラン自身も次のように書いています。

 そういう意味において、本書は、ごくありきたりな日常生活の中で、これといった理由もなく気持ちが荒んでいるときや落ち込んでいるときなどに読むと心に響くのですが、重い病気に直面しているときや有事などの深刻な場面においては、心に響かないどころか、反感させ抱くことがあります。この点は注意が必要です(ただし、これは私の個人的な意見です)。
 なお、有事における危機的な状況下で何とか乗り越えたいと藻掻いているときには、「自省録」や「道は開ける」をお勧めします(「自省録」は第36回目の記事で、「道は開ける」は第45回目の記事で紹介しました)。

読み方に関するアドバイス

 アラン「幸福論」を読むうえであらかじめ了解しておいて欲しいことがあります。それはアランの書いている文章が意味不明というか、何を言いたいのかよく理解できない文章がかなり頻繁に出てくるということです。イメージしてもらうために実例を紹介します。本書の1番目に登場する「名馬ブケファルス」の出だしを紹介するとこんな感じです。

 読み始めて最初の3つ文が上記ですが、3つ目の文章にあるような「ほんとうの原因、つまりピンを見つけるのである」と言われても唐突過ぎて「ピン」が何を指しているのか意味不明です。おそらくアランの書いたフランス語の文を日本語に正確に訳すと上記のとおりなのでしょう。しかし、こういう意味不明な文章がけっこう頻繁に出てくるので、人によっては読むのが苦痛になり途中で読むのを断念してしまう可能性があります。ちなみに、アラン「幸福論」は複数の出版社から訳者が異なるバージョンが多数出版されています。訳者によって文章の分かりにくさは若干変わってきますので、自分が分かりやすいと感じるバージョンを選ぶのも一法です。例えば、上記と同じ個所でも訳者が違うと日本語も下記のように異なります。

 上記を読み比べて、読みやすさはどれもそれほど変わらないと感じた人はどのバージョンで読んでも問題ありません。私のお勧めは最後に紹介した日経BP社の村井章子訳バージョンです。
 ただし、比較的分かりやすい村井章子訳バージョンですら意味不明な文や脈絡不明な文が出てきます。そこで、もう一つ読み方のアドバイスとして申し上げたいことがあります。それは、本書を読むときは気に入ったフレーズまたは単語だけを拾っていくという読み方をすることです。1つの章や複数の文章の流れ(文脈)の中で意味合いを読み取ろうとすると、アランの言っていることが唐突で意味不明だったり支離滅裂に感じることもあるのですが、そうではなくて、印象に残るキーワードやキーフレーズが見つかればそれでよしという読み方をすると、本書はがぜん読みやすくなるし有益に感じるようになります。例えば、「幸福になろうという強い意志」というフレーズが出てきたら、このフレーズだけに注目してアンダーラインを引くというような読み方をすればいいのです。
 なお参考として、このような読み方をして私が気に入ったフレーズを後ほどいくつかご紹介しておきます。

アラン「幸福論」から私がお気に入りのフレーズをご紹介

 以下ではアラン「幸福論」から私が気に入ったフレーズのほんの一部を紹介します。出典はすべて日経BP社の村井章子訳バージョンです。なお、分かりやすいように次の9つの観点に分類してご紹介します。
 ①幸福になるかどうかは自分次第
 ②幸福になるためには意志と自制が大事
 ③気分任せにすると必ず悲観的になる
 ④まずは行動しろ
 ⑤身体を動かせば気分が変わる

 ⑥不平・不満・愚痴はやめよう
 ⑦上機嫌(笑顔)でいよう
 ⑧絶体絶命の危機に直面したときに勇気をもらえる言葉

 ⑨その他心に響いた言葉

幸福になるかどうかは自分次第

幸福になるためには意志と自制が大事

気分任せにすると必ず悲観的になる

まずは行動しろ

身体を動かせば気分が変わる

不平・不満・愚痴はやめよう

上機嫌(笑顔)でいよう

絶体絶命の危機に直面したときに勇気をもらえる言葉

その他心に響いた言葉

 アラン「幸福論」を読んでみたくなるように具体的なフレーズを紹介してみました。今回紹介しなかった中にも名言がたくさんあります。原書を読めば自分だけのお気に入りフレーズが必ず見つかるはずです。

コーヒーブレイク

【過剰なポジティブ思考は戒めること】
 アランの「幸福論」は、ともすれば「上機嫌にして笑顔を作ってさえいれば状況が好転する」というメッセージを発信しているかのようにも読めてしまい、過剰なポジティブ思考を推奨しているように思えるかもしれません。しかしながら、私はそのようには理解していません。アランの主張の前提には次の2点があると私は考えています。
①物事にはネガティブなこともポジティブなこともない(つまり事象そのものは中立だということ)
②それなのにあえて物事のネガティブな面にばかり注目する必要はない(かといって過剰にポジティブになる必要もない)

 上記のような前提は、アラン「幸福論」の中にある下記記述からも垣間見えます。

 アランの「幸福論」を読んで触発され、何でもネガティブに受け止めるクセを脱するのはいいことですが、一方で、過剰にポジティブになることは戒めなければいけません。
 ポジティブ思考の危険性については、精神科医の樺沢紫苑氏は次のようなことを言っていますが、私も樺沢氏の意見に大賛成です。

 アランの「幸福論」は素晴らしい本ですが、上記のような理解のもとで味わいたいものです。

今回のまとめ

◆気分に左右されずに呑気に過ごすためにアラン「幸福論」を読んで欲しい。
◆イライラしているときにアランの優しい言葉がホッとします。

ハットさん
ハットさん

アランは「幸福論」の中で、占いを決して信じないように力説しています。この章を読んでから私も「おみくじ」などの運勢占いについては、いっさい気にしないようにしています。

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