今回は「悪い報告ほど早くしろ」という話しをします。
どんな分野で仕事をするにしてもたった一人で起業でもしない限り、組織として仕事をすることになります。その組織では上司または部下という立場に分かれて仕事をすることになり、部下は上司に対して適時適切に報告をすることが大事です。今回はこの報告に関するアドバイスの一つとして「悪い報告ほど早くしろ」という話しをします。
今回の記事で伝えたいことを先に要約すると…
今回の記事で伝えたいことを先に要約すると次のとおりです。
今回の記事でお伝えしたいことの概略は以上です。「なんだ、そんなことならすでに普段から実行している」という方はこれ以上読む必要はありません。「分かってはいるけど、実際にはなかなかできないんだよね」と悩んでいる方には、今回の記事がヒントになれば幸いです。
悪い報告ほど早くすること
まず報告に関する基本として、部下はどんな内容であれマメにそして早めに報告しておくに越したことはありません。この点についての異論はないでしょうが、実際にこの基本を徹底するのは困難です。なぜなら、たいていの場合、上司は上司の仕事で忙しくしており、その上司の手を止めてまで報告を聞いてもらうことはなかなか勇気がいることだからです。そのため、報告のチャンスを見計らっているうちにタイミングを逸してしまうなんてことはザラです。ましてや悪い報告ともなると、報告したらしたで上司から「なんでこんなことになってしまったのだ」と叱責されたり、「まったく忙しい時に面倒を起こしやがって」などのような嫌味を言われるかもしれないと思うとますます気が重くなり、結果として報告が後手後手になるのはよくあることです。
しかしながら、上司の立場からすると、こと悪い報告に関しては、とにかく早く一報を入れて欲しいとの気持ちが強いはずです。もちろんどんなことでも程度問題ではあるので、いくら悪い報告といっても緊急性が著しく低くいとか、重要性が乏しいと判断できるようなものまで、いちいち速報を入れろと言っているわけではありません。しかし、部下からすれば取るに足りないように見えるものでも、上司が見ると決定的に重大なこともあります。通常上司の情報量や経験値は部下よりもはるかに多く視座も高いので、部下が気がつかないことでも上司が見れば重大性に気がつくこともあるのです。したがって、危機を多く経験している上司であればあるほど、報告すべきか迷っているくらいならさっさと一報を入れて欲しい、というのが本音です。悪い情報でも早く報告してくれればいくらでも対処のしようがあったのに、今頃になって報告されても手の打ちようがないという痛い目に何度もあっているからそう思うのです。
ちなみに、あの有名なナポレオンは日頃次のような指示をしていたそうです。
「夜の間はできるだけ私の寝室に入らないでくれ。善い報せのきたときは決して起こさないでくれ。しかし、凶報の際は、必ず起こすように。なぜなら、そのときは一刻も猶予ができないにきまっているから」 (中略)
(出典)「危機管理のノウハウ PARTⅠ」佐々淳行
ということで、一刻を争う有事の状況はもとより、平時においても「悪い報告ほど早くする」というクセを徹底することをお勧めします。
緊急時の悪い報告は巧遅よりも拙速を旨とせよ
「悪い報告ほど早くする」にしても、どのくらいの精度で報告するのかは平時と有事で使い分ける必要があります。有事の場合には一刻の猶予も許されないことが多いので、報告内容の完全性・正確性にこだわるあまり報告が遅れてしまうような事態は避けなければいけません。仮に報告内容が不完全・不正確であっても迅速性を重視すべきです。
この点に関しては、危機管理のプロである佐々淳行氏の説明が実に含蓄に富んでいるのでここで紹介させてください。少し長い紹介になりますが、読んでおくと必ず役に立つ内容です。
巧遅より拙速
(出典)「危機管理のノウハウ PARTⅠ」佐々淳行(注)ハットさんが一部太字にするとともに、読みやすさを考慮して一部改行した。
危機管理上、たいせつな情報原則としてもう一つ、 《ベター・ザン・ナッシング Better Than Nothing》の原則がある。「なにもないよりまし」という発想である。さしずめ、“拙速”をむねとせよということだろうか。
さらにいえば、《ベター・レイト・ザン・ネヴァー Better Late Than Never》、つまり、「おそくても、なにもないよりまだまし」といえるからゼロよりも“巧遅”のほうがよいにちがいないが、修羅場における情報は絶対に“巧遅”よりは“拙速”でいいから迅速に報告させるよう、日ごろから訓練しておくことが望ましい。
非常事態における報告要領は、
「…以上、第一報。とりあえず聞きとりのまま」
「第二報、…。詳細はいまだ不明、わかりしだい続報します」
といった具合に、断片情報をそのまま速報させることである。(中略)
情報にはいわゆる《六何の原則》という、六つの要素が要求される。《5W・1H》ともいわれるが、情報報告の構成要件としては、
(1)何人(だれ)が(Who)
(2)何時(いつ)(When)
(3)何処(どこ)で (Where)
(4)何故(なぜ)(Why)
(5)何を (What)
(6)如何(いか)にして (How)
の六つがある。 この六何の原則を完全にそなえた報告にしようとして“巧遅”にこだわると、タイミングを失し、完璧な情報報告ではあったが、手遅れで役に立たなかったということになる場合がある。
危機にさいしては、最高指導者は部下が安心して “拙速”の第一報を報告できるような雰囲気をつくってやる必要がある。
そのための心得としては、「第一報の不完全さ、不正確さをけっして叱ってはいけない」ということがあげられる。
第一報というものは、まずまちがいだらけと思ってさしつかえない。不正確で、デマもまじるし、誇張もはいるものなのである。
だからといって、思わず舌打ちしたり、ないものねだりに等しい質問を浴びせたり、よかれと思って速報した、罪のない報告者を無能よばわりしたりすると、 こんどは報告者は、二度と叱られまいとして《六何の原則》にかなった完璧な報告をしようとするから、第二報以下はなかなか入ってこなくなるものなのだ。
それこそ≪ベター・ザン・ナッシング≫という考えで、よけいなことをいわずに黙って聞いておき、身がまえして第二報を待っているのが賢明のようだ。
危機での報告は「巧遅よりも拙速」であるべきという指摘は、報告をする側も受ける側も忘れずにいたいものです。
いち早く報告するにしてもクッション言葉を置くなど一工夫が必要
ところで、悪い報告を早くするにしても、その言い方とか伝え方にも配慮すべきです。誰でも悪い情報を言われるのは嬉しくないし、内容によってはかなり気分が沈みます。だからこそ次のような前置きをして、聞き手に心の準備をさせておくことが大事です。
<部下から上司に報告する場合の例>
◆申し訳ありませんが、今から耳に心地よくないことをご報告します。
◆先にお詫びしますが、申し訳ない事態になりました。
◆悪い事態が起きました。速報としてご報告させてください。
<上司から部下に伝える場合の例>
◆役目上これから嫌なことを伝えます。
◆これから厳しいことを伝えますが、どうか心を静めて聞いてください。
◆気分が暗くなるかもしれませんが、これから良くないことをお伝えします。
具体的な表現は、その時の状況や相手によってうまく工夫して欲しいですが、いずれにしても単刀直入に悪いことのみを伝えるのではなく、ワンクッションおくという配慮は大事です。
ちなみに、念のための報告をする場合にもクッション言葉として「ご承知かと思いますが、念のため再度お耳に入れておきます」のようなフレーズを言ってから報告すると、上司から「そんなことはすでに聞いている」などと嫌味な一言を言われる可能性は低くなります。
悪い報告を受けた上司は平静を保って聞くこと
悪い報告はなければそれに越したことはないのですが、やむを得ない場合には報告するしかありません。もちろん部下も言いたくて言っているわけではありません。どの上司もそれは十分理解しているのですが、これから悪い事態に立ち向かうことになると想像すると、正直なところ憂鬱な気分にはなります。上司によっては露骨に不機嫌になったり癇癪を起す人もいるでしょう。でもそういうことを繰り返しているうちに部下は上司に忖度するようになり、やがて悪い報告をしなくなります。上司の耳に心地の良いことしか言わなくなるのです。そしてついには裸の王様となります。
これに関する有名なエピソードを一つご紹介します。第二次世界大戦におけるノルマンディー上陸作戦での連合軍上陸の速報がヒトラーに届かなかったエピソードです。
ノルマンディ上陸作戦は、午前六時三十分に始まったが、これに先がけての空挺作戦の第一報がドイツ軍司令部に入ったのは、午前二時十一分だった。そして午前五時三十分頃、ヒトラー大本営にいた海軍副官、フォン・プトカーメル大将は、この「フランスに上陸らしきものが行なわれた」という空挺作戦開始を仄めかす第一報をうけとったが、ヒトラーを起こして報告すべきかどうか迷ったあげく、こんな時間に起こしでもしたら、いつもきまって気ちがいじみた決定を下されることになると考えて、午前中一ぱい待ってから総統に知らせることにした。なぜならヒトラーはいつものように主治医のモレル医師の処方した睡眠薬をのんで午前四時に愛人エヴァ・ブラウンと眠りについたばかりだったからである。
(出典)「危機管理のノウハウ パート1」佐々淳行(注)ハットさんが一部太字にした。
そして六時半頃、ヨードル大将も西部軍総司令官フォン・ルントシュテット元帥から、上陸作戦開始に関する公式報告とともに、総統直轄の予備機甲師団二個師団の出動許可を求められたが、「もう少し事態がハッキリするまで」といって、要求を却下した。九時三十三分、連合軍総司令部は全世界に向ってDデイ進攻作戦開始の公式コミュニケを発表した。ヒトラーを取り巻くおべっか将軍たちが総統を起こす決心をしたのは、この公式コミュニケが発表されたあとの午前十時頃のことだった。そして、これを知らされたヒトラーは興奮の極に達し、容易に信じようとしなかったといわれる。(『史上最大の作戦』ライアン著、近藤等訳 参照)
上記のような例は別に特別なことではありません。程度の差こそあれ、部下が上司に忖度して悪い報告をしないなんてことは日常茶飯事です。だから上司は、部下に悪い報告を迅速に気兼ねなくさせるために、日常から悪い報告を受けても決して不愉快な態度を表に出さないように努めなければなりません。むしろ悪い報告ほど「積極的にどんどんしてくれ」くらいのことを言い続けておくべきです。実際にはそれでも足りないくらいで、自分からちょっとした機会を見つけては部下に話しかけ「何か悪いことは起きていない?」と聞くような心がけでやらないと悪い情報はタイムリーに自分の耳に入ってきません。とにかく上司たるもの、悪い報告を受けた場合には平静を保って表情を変えないように訓練しておくことが大事です。
この項の最後に、東北楽天ゴールデンイーグルス元社長の立花陽三氏がリーダーのあるべき態度としてとても有益なことを言っていますので、紹介しておきます。
リーダーの資質が問われる瞬間とは?
(出典)「「よいリーダー」か「ダメなリーダー」か、誰の目にもはっきりする“決定的な瞬間”とは?」(立花陽三)2024/5/11 ダイヤモンドオンライン記事より
ネガティブ情報(お客様からのクレームや対外的なトラブルなどの情報)やがもたらされたとき、どのように対応するか? これは、リーダーの資質が問われる最も重要な瞬間と言っていいでしょう。
問題を引き起こした担当者を責めるのが論外なのは言うまでもありません。一刻も早くトラブルシューティングに着手するべきであって、そんなことをしている場合ではないからです。
また、それ以上に問題なのは、そんなことをすれば、叱責を恐れる社員がネガティブ情報をリーダーに伝えるのを躊躇することです。そのような組織文化をつくってしまえば、危機対応能力に欠けた脆弱な組織へと陥るからです。だから、そのような態度を取るのは「リーダーの資質」に決定的に欠けていると言うべきだと僕は思っています。
もちろん、トラブルが収束したあとに、そのような事態を招いた原因を明確にして、再発防止策を講じることは必要です。
しかし、ネガティブ報告を受けた瞬間は、それを冷静に受け止め、いや、むしろそのような報告をしてくれたことを評価(あるいは感謝)したうえで、即座に“火消し”に取り掛かることが大切。そして、リーダーの指揮のもとトラブルを無事収束させることができれば、「信頼できるリーダー」と認識されるでしょうし、それ以降、「ネガティブ情報はすぐに報告したほうが得だ」という意識が根付いていくはずです。つまり、「よいリーダー」として認められるようになるわけです。 (以下略)
以上、今回の記事では「悪い報告こそ早くしろ」という話しをしました。
今回のまとめ
おすすめ図書
「めざせ!CEO ビジネストップになる「自己実現」のカギ 74」(ジェフリー・J・フォックス、金井壽宏監修、馬場先澄子訳)
今回記事の中で本書からの引用をご紹介しましたが、これ以外にも参考になることがたくさん書かれておりお勧めする次第です。著者のジェフリー・J・フォックス氏は、マーケティング・コンサルティング会社の最大手、フォックス・ アンド・カンパニー社の設立者で、本書は、元CEOの父親が我が子に対して、自分の経験から導き出した仕事の秘訣をアドバイスするというコンセプトで書かれたものです。書名だけ見ると単に出世のノウハウを教えてくれるだけの本のようにも思えますが、そんなことはなく、仕事全般にわたるアドバイスに満ちています。
書名サブタイトルにもあるとおり自己実現のカギとなる項目を74個挙げて、1つの項目について見開き2ページくらいのアドバイスが書かれている本です。本全体のボリュームとしてはかなり少なく、本の厚さとしても相当薄い部類に入ります。そのため、簡単に短時間で読める本ですが、あえてゆっくり噛み締めて読んで欲しい本です。
なお監修者は、リーダーシップやキャリアの研究で有名な神戸大学名誉教授の金井壽宏氏であり、金井氏が書いた「監修者はじめに」を読むだけでも読書についての姿勢や生き方に関してヒントをもらえます。
出版が2000年なのでかなり古い本ではありますが、もし古本でも見かけたらぜひ手に取って欲しい本です。
上司が怖い感じの人だと話しかけるのも勇気が要りますが、とにかく早めの報告を心がけていれば事態は思っているよりもうまく着地するものです。