名著「失敗の本質」から学ぶ(チーム一丸で戦え。スタンドプレーは認めるな。)(全9回の7回目) #80

マネジメント

今回は「『失敗の本質』から学ぶ」の第7回目で「チーム一丸で戦え。スタンドプレーは認めるな。」という話しをします。

 第74回から「『失敗の本質』から学ぶ」というテーマで連載しており、私が「失敗の本質」を読んで肝に銘じていること(8つ)を順にご紹介しています。今回は6番目「チーム一丸で戦え。スタンドプレーは認めるな。」についてお話しします。

今回お伝えしたいことを最初に要約すると…

 今回お伝えしたいことを最初に要約すると、「失敗の本質」では日本軍の失敗要因として、次の点を指摘しています。
◆陸軍と海軍がバラバラで戦っていたこと。
◆後方支援・裏方(特に兵站)も軽視していたこと。つまり総合力で勝負していないこと。
◆人材登用では「語気荒く積極策を強く主張する人」が重用され、その人たちは失敗しても甘い評価だったこと。

 図にすると次のとおりです。

【威勢のいい人がまかり通る人事評価】

 以下では「失敗の本質」で書かれている具体的な指摘のいくつかを紹介します。

「失敗の本質」で指摘されている「総合力の欠如」

統合力の欠如

 日本軍では個人的なネットワークの下で属人的に統合された作戦を遂行することはあっても、組織として陸海空を統合して戦うという考え方は欠如しており、この点は総合力を重視していたアメリカ軍との違いであったと指摘されています。

 上記から分かるように日本軍は陸海空で作戦を統合するという発想が乏しかったのですが、さらに言えば、同じ陸軍内・海軍内にあっても後方支援・裏方(特に兵站)を軽視するという傾向が顕著でした。この点については、佐々淳行氏が的確に指摘しているので紹介させてください。

 結局のところ、陸海軍はバラバラで戦うどころか、同じ陸軍・海軍の中でも部隊が違えば面子やプライドが邪魔したり、コミュニケーションが不十分で、うまく連携していなかった様子が伺えます。

威勢のいい人がまかりとおる人事

 以上で説明した統合力の欠如に加えて、「失敗の本質」で指摘されている日本軍の失敗要因として、日本軍では「語気荒く積極策を強く主張する人」の意見が「慎重論を唱える人」の意見を押さえ尊重されたこと、またこの「語気荒く積極策を強く主張する人」は失敗しても責任追及されるどころか、むしろその後重要ポストに就いたことが挙げられています。たとえば、「失敗の本質」で何度も登場する陸軍参謀の辻政信やインパール作戦の牟田口司令官に関しては次のように指摘されています。少し長い引用ですがぜひ読んでください。

 真っ当な意見を述べれば「気が狂った」ことにされバカを見るなら、もう誰も本当のことなんて言いません。しかし、これでは最前線で戦う部下たちがあまりにも可哀そうで浮かばれません。
【威勢のいい人がまかり通る人事評価】

 ところで、元プロ野球監督の森祗晶氏は自著で次のように書いています。まったくそのとおりです。

 「後方支援・裏方(特に兵站)の軽視」や第77回目の記事で書いた「精神論」を戒めるために、佐々淳行氏の次の指摘をいつも気に留めておくべきです。

教訓としては「常にチーム一丸で戦うこと」

 結局のところ日本軍の失敗と同じ轍を踏まないための教訓としては「常にチーム一丸で戦うこと」が大事です。

コーヒーブレイク

【アメリカ海兵隊の友軍を見殺しにしないという精神】
 今回の記事テーマである「チーム一丸で戦え。スタンドプレーは認めるな」という考え方は私が仕事をするうえで特に大事にしていた価値観です。私は会計士という職業柄これまで34年間にわたって監査業務に従事してきました。監査業務に詳しくない方のために補足すると、監査業務は必ずチーム単位で行います。比較的規模の小さな会社を監査する場合には数人単位の監査チーム、大規模な会社を監査する場合には数十人、ケースによっては100人規模の監査チームを組成します。私の立場は監査チームの総責任者にあったわけですが、とにかくどんな規模の監査チームであったとしても例外なく徹底していたのが「チームワークで仕事をすること。スタンプレーは許さないこと」です。この点に関連して、私がとても共感しているのがアメリカ海兵隊の「友軍を見殺しにしない」「死傷者を戦場に放置しない」という価値観です。ここで紹介させてください。

 どんな仕事においても言えることですが、すべての仕事が日の目の当たる輝かしい業務ばかりではありません。誰の注目も浴びずに人知れず黙々と従事しなければならない裏方の仕事もあります。監査チームにおいてもそうです。誰だってスポットライトを浴びる立場にいたいものですが、そういうわけにはいきません。誰かが裏方となって支えなければいけないのです。だからこそ担当している業務内容や立場の違いにかかわらず監査チームに所属のどんな人でも仲間であることを認識し、お互いに信頼とリスペクトを欠かしてはいけません。もしそれを欠くことになれば、面倒な割に日の目を見ない裏方の仕事やリスクが高く高難易度の業務などを担当してくれる人なんていなくなります。そういう意味でも、アメリカ海兵隊が如何なる犠牲を払ってでも「友軍を見殺しにしない」「死傷者を戦場に放置しない」という精神を大切に守り抜いている気持ちがよく理解できます。
 以上、アメリカ海兵隊の友軍を見殺しにしないという精神は、どんな分野でもチームで仕事をする限り大切にしたい価値観だということをお伝えしたくて脱線しました。

今回のまとめ

◆日本軍は陸軍と海軍がバラバラで戦っていたこと。
◆後方支援・裏方(特に兵站)も軽視していたこと。
◆つまり総合力で勝負していないこと。
◆また人材登用では「語気荒く積極策を強く主張する人」が重用され、その人たちは失敗しても甘い評価だったこと。
◆その教訓として「総合力を重視してチーム一丸で戦え。スタンドプレーは認めるな。脇役を大切にしろ」ということ

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おすすめ図書

「知的機動力の本質-アメリカ海兵隊の組織論的研究」(野中郁次郎)

 著者は「失敗の本質」の共著者の一人である野中郁次郎氏です。野中氏は「失敗の本質」の中で日本軍失敗の本質は次の点にあると結論付けています。

 つまり、日本軍が「自己革新組織」ではなかったことが失敗の本質だという結論です。ところで、それでは「自己革新組織」のお手本は何かといえば、野中氏によればそれが「アメリカ海兵隊」なのです。「アメリカ海兵隊」こそが「自己革新組織」として稀有な存在であり、まさに「成功の本質」だというのです。その点を詳細に論述したのが上記「知的機動力の本質」です。      
 したがって、「失敗の本質」を読んで日本軍が「自己革新組織」になり得なかった背景などを理解したら、その次のステップとして、ではどうすれば「自己革新組織」になれるのかを考えるときに本書が大いに参考になるでしょう。失敗の本質ばかりでなく成功の本質を学ぶうえでぜひお勧めします。

Bitly
ハットさん
ハットさん

アメリカ海兵隊の「誰も置き去りにしない(No One Gets Left Behind)」という言葉は、映画「ブラックホークダウン」の中のセリフにもありました。

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