問題解決に向けた議論の前にしておくべき2つのこと #72

論理的思考・議論術

今回は「問題解決に向けた議論の前にしておくべき2つのこと」という話しをします

 どんな職場でも改善しなければならない問題というのは多かれ少なかれ存在します。そのため、改善に向けて上司・部下・同僚などで議論する風景は珍しくもありません。今回はそんな問題解決に向けた議論をする前段階として、次の2つのことを明確にしておいた方がいいですよ、という話しをします。

定義と尺度・基準を明確にすること

まずは第27回目の記事(問題解決に向けた議論の前にまず行うべきこと(関係者の目線(認識)合わせ))の振り返りから

 今回の説明に入る前に確認しておきたいことがあります。第27回目記事で、問題解決に向けた議論の大前提として、関係者間で目線が合っていない状態でいくら議論をしたところで意味がないですよ、だから目線を合わせるところから始めましょう、という提案をしました。その時に説明したのが下記図です。

 問題解決のテーマが単純なもの、例えば「在庫受払ミスの撲滅」のような紛れがないテーマだったら、上記のように「現状・実態(AS IS)」と「あるべき姿(TO BE)」の目線合わせから始めて問題ありません。
 今回の記事で言いたいのは、上記よりもさらに前の段階の話しです。問題解決のテーマが少しでも複雑さを増したら上記目線合わせの前にもう一工夫したほうがいいですよ、と言いたいのです。

定義と尺度・基準を明確にすること

 問題解決のテーマが先ほど挙げた「在庫受払ミスの撲滅」のような単純なものであれば神経質になることもないのですが、改善すべきテーマが「品質」とか「創造性」とか「効率性」などの場合、関係者それぞれの認識が異なるために議論がかみ合わないといったことはよくあります。テーマに関するそもそもの認識が関係者間でズレているのです。そうなると、議論の前に、①定義と、②評価の尺度・基準、について目線合わせ(認識合わせ)をしておくが重要になります。

 この点について、松下通信工業の常務だった唐津一氏が自著の中でとても分かりやすい説明をしています。少し長い引用になりますが、参考になるので紹介させてください。

 上記で唐津氏が指摘するように、よくありがちな議論は「ただなんとなく解決を話しあっている」という進め方です。「●とは何かという原点」から議論することはよほど意識しない限りありません。この場合、どういう状態になったら●が改善したと言えるのかということもぼんやり認識しているだけです。
 例えば、「品質改善」に向けて議論しているときに、そもそも「品質」の定義が漠然としている(または定義がない)ので、「品質改善の程度」についてもどんな尺度で測定すべきかが明確になっていないなんてことは実務ではザラです。苦し紛れに「品質改善の程度」の尺度・基準を「内部監査室の監査による指摘の数」としていた実例を見たことがあります。
 そんなことにならないようにどんなテーマであっても改善に向けた議論をする前段階で、次の2点を明確にしておくことをお勧めします。
 ①定義
 ②評価の尺度・基準

KPIの議論も同じこと

 ところで、最近ビジネスの色々な現場では、業績管理評価のための重要指標である KPI(Key Performance Indicator)という概念を導入しています。この KPI として何が適切なのかという議論も今回の議論とまったく同じと考えています。英語で KPI(Key Performance Indicator)とか言われると何となく米国の知らないマネジメント手法のような印象を受けますし、いまひとつよく分からないけど当社も業績管理数値として KPI を決めなければいけないね、というような安直な考えを持つことは珍しくもありません。しかしながら、大事なことは、KPI という言い方をするかどうかはともかくとして、今回の記事で説明したように、本来的には①定義と②評価の尺度・基準について、関係者で入念に議論して共通認識を持っておくこと(目線を合わせをしておくこと)です。KPI を設定する際にはこの考え方を忘れないようにしなければなりません。

コーヒーブレイク

【今回の記事に関して読んで欲しい哲学の文献】
 今回の記事は、改善に向けた議論をする前段階で、①定義と、②評価の尺度・基準、の2点を明確にしておくべきだというものでした。この点に関していつも思い起こす考え方があります。土屋賢二氏の「ツチヤ教授の哲学講義」という本の中で紹介されている考え方です。実に示唆に富む内容なので、とても長い引用になって恐縮ですが、ぜひともお読みいただきたくここで紹介させてください。

 つまり、抽象的な概念になればなるほど定義(本質)を明確にしないまま議論することは意味がないし、また、定義(本質)を考えるということは、すなわち測定法もセットで考えることなのだと教えてくれます。
 この考え方は、私が会計士としてクライアントの業務改善の助言をする際にも大いに役に立ちました。皆様にも参考になれば幸いです。

今回のまとめ

問題解決に向けた議論をする前にして、次の2つのことを明確にしておくこと
 ①定義
 ②評価の尺度・基準

おすすめ図書

「ビジネス難問の解き方 壁を突破する思考」(唐津一)

 記事本文でも本書からの一説を紹介しましたが、それ以外にも問題解決に向けて参考になることがたくさん書いてあります。書名タイトルの「ビジネス難問の解き方」からも想像がつくと思いますが、本書がテーマとしているのは問題を発見し、それを解決する思考法です。2016年出版なので若干古い本ではありますが、著者が提唱する考え方そのものは今でも大いに参考になります。とはいえ、ものすごく斬新な内容のことが書いてあるわけでもないので、すでにたくさんのビジネス書を読んでいる人や実務で多くの困難を乗り越えてきた人にとっては目新しい内容は少ないかもしれません。いずれにしても、本書は堅苦しくなく簡単に読めますので、本屋で見つけたら手に取って中身を見て欲しい本です。

ビジネス難問の解き方 壁を突破する思考
【オンデマンド版は表紙以外はモノクロ印刷となります。ご了承ください】国際競争から組織内の利害対決まで、ビジネスの現場では、会社の浮沈にかかわる大小さまざまな難問に直面する。しかしどこかに必ず問題解決の糸口はあるものだ、いかに対策をたて、どう...
ハットさん
ハットさん

「本質(定義)と測定法は直結する」という考え方は大事ですね。

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