今回は大前研一氏が電車の中でやっていた頭の訓練法を紹介します
多くの人にとって毎日の通勤時間は一日のうちの結構な時間を占めます。これが長年積み重なると社会人人生を通して無視できないほど大きな時間になります。2020年のコロナ禍で在宅勤務も広がり、通勤の機会そのものは以前よりも減ってきているかもしれません。それでもまだまだ通勤時間はバカになりません。そのため、誰しも通勤時間を有効に活用したいと思うのは当然でしょう。最近ではスマホの登場もあり、電車の中で出来ることの選択肢は以前よりも格段に多くなっていますが、それでも時間が細切れだったり、混雑した電車の中という環境の中で出来ることに制約があるのも事実です。
そんな背景のもとで、私がお勧めしたいのは大前研一氏が電車の中で実践していた頭の訓練法です。アナログな方法ですが、手軽に頭を鍛えることができるので、私はもっぱら30代の頃この訓練方法でずいぶんお世話になりました。ぜひ若手ビジネスパーソンの方々の参考になれば嬉しいです。
大前研一氏が電車の中でしていた頭の訓練法とは?
大前研一氏は、電車の中で次のような訓練をしていたそうです。
電車の中でも、頭の中で意見をまとめる
(出典)「サラリーマンサバイバル」(大前研一)
(中略)毎朝の通勤電車の中では、短時間で問題を分析して解決策を提案する練習をした。電車に乗って最初に見た広告でその日のテーマを決め、横浜駅から東京駅までの28分間に窓の外を眺めながら問題を解決する方法を考えるのだ。
たとえば、その日最初に見た広告がケチャップの広告だったら、自分がケチャップメーカーの社長から「もっと売れるようにしてほしい」と頼まれたと仮定する。そして、あの宣伝の仕方で売れるのだろうか、ケチャップとトマトジュースは同じ売り方でいいのだろうか、といった問題について、東京駅に着くまでに頭の中で自分の意見をまとめるのだ。
段々慣れてきたら、一日一テーマではなく、一駅毎に別な広告に目をやって、次の駅に着くまでにその問題解決方法の組み立て、仮設、やらなくてはいけない分析などをすぐに頭の中で組み立てる練習をした。たいていの問題には3分でどう取り組めばいいのか、頭の中でその図(マッキンゼーではこれを「自己無撞着(じこむどうちゃく)の論理」と呼んでいた)ができるようになった。このトレーニングによって、 1年で頭がパッパッと動くようになり、お客さんが何かひとこと言えば、その解決策が瞬間的に頭の中で組み立られるようになった。(以下略)
私は30歳になりたての頃にこの文章を読んで触発され、大前氏に真似て通勤電車の中で次の訓練をするようになりました。
訓練を始めた最初の頃はぎこちなくて、ちょっと考えている間に電車が次の駅に到着してしまうことがままありました。しかし毎日毎日繰り返しているうちに、どんなものを見てもパッと質問(問い)が思い浮かぶようになり、さらに論点に関する検討の道筋のようなものも短時間で思いつくようになりました。この練習法には次のような利点がありました。
①強制的に問いを生み出す練習になる
②短い制限時間の中で頭をフル回転させて考えるクセがつく
③題材は無数にある
④電車が次の駅に着くまでの時間は短いこともあれば長いこともあるが、とにかく制限時間があり、その間で思考が完結するクセがつくこと
この訓練をしつこくやったおかげで思考の瞬発力も磨かれました。その能力のお陰で仕事で何度助けられたか分かりません。私は会計士として長年仕事をする中で、クライアントとのミーティングなどでその場で配布された資料や数値に対していきなり論点や課題を指摘してくれと依頼されることも多かったのですが、この訓練をするようになってからはそういう場面でも困ることはなくなりました。
とにかく訓練を続けるということが大事です。大前研一氏も次のように書いています。
◆私が強調したいのは、頭というのは訓練しなければだめだということだ。(中略)
(出典)「サラリーマンサバイバル」(大前研一)
◆このプロセス(ハットさん注:頭の訓練のこと)は、私の経験から言うと、不思議なくらい剣道や柔道や音楽に似ている。つまり、練習しなければだめなのだ。たとえば、剣道では100回、200回と素振りを繰り返しているうちに、だんだん剣が止まって見えるようになってくるという。頭の訓練でも、それと同じことが言えると思う。
練習方法については各自に合った方法で実践すればいいのですが、大事なことはとにかく継続することです。その点、通勤時間を利用した訓練ならば、なにしろ毎日のことなのでその積み重ねによる効果は絶大です。ぜひ試してみてください。
今回のまとめ
◆通勤時間を利用した電車の中での頭の訓練法は思考の瞬発力を高めるうえで大いに役立つ。
◆訓練のやり方は自分なりに工夫すればいい。
◆参考として私が実践していた方法は下記のとおり。
おすすめ図書
言わずと知れた大前研一氏の本ですが、出版は1999年で出版から24年も経過した本です。しかし、今読み返しても新鮮です。大前節炸裂で、ごもっともな主張が小気味よく書かれています。今回記事本文で紹介した内容だけでなく、どんな時代でもプロフェッショナルを目指す人にとって参考になるアドバイスが満載です。ここでは新社会人の参考になりそうな内容の一部を紹介しておきます。少し長くなりますが、とても有益なアドバイスなのでぜひお読みください。
◆今日の仕事は明日に残すな。
(出典)「サラリーマンサバイバル」(大前研一)
(中略)何日までにやらなければいけないと思った仕事は、必ずその日までに完成させる力を磨かなければならないのだ。ただ(中略)仕事は自分一人でやるものではないから、この仕事を何日までに完成させると決めたら、他の関係者もその日までにその仕事を終えるように仕掛けなければいけない。
◆最後の最後に、徹夜で帳尻を合わせて「ああ、何とかレポートだけは間に合った」という仕事のやり方をする人がいるが、徹夜というのは(おそらく麻雀などのギャンブル以外では)人生のうちにそれほど何度もできるものではない。しかも、そういう仕事のやり方をしていると、今度は逆に普段でも漫然とした徹夜のクオリティーしか出せなくなる。キレのあるクオリティを出そうと思ったら、最後に徹夜をしなくても完成させられるように努力しなければならない。(中略)
◆(中略)今30歳の人が40歳になったら、何人、何十人という部下を使わなければならない。上司になるというのは、その人たちを効率よくフルに働かせ、自分の持っているターゲットの日にちに、充分な品質でもって着地させなければならないということだ。これを“知的付加価値”というのである。仕事に知的付加価値を与えるための仕事のやり方は、泥縄式にやっていたら、絶対に身につかない。(中略)
◆ほとんどの人の仕事のやり方を見ていると、そのあたりの手順・段取りが非常に悪い。だから結局、知的付加価値のある仕事ができないのである。
◆(中略)すべての人はアウトプットのイメージを持っていないといけないわけで、それがなくて作業だけをやっている人は、その道のプロフェッショナルにはなりえないのである。
◆絶えず自分に質問する
◆今日やるべきことは、明日に延ばさない
(中略)今日やらなければいけないことは、どれだけしんどくても必ず今日やってしまう。絶対、明日に延ばさない。この執念が重要なのだ。
◆常に自分よりも2階級上の人の立場だったらどうするかを考える癖をつけるべきだと思う。1階級上の直属の上司だとコンフリクトがあるから、2階級上がちょうどいい。自分がヒラなら部長の立場だったらどうするか、課長なら専務や社長の立場だったらどうするかを考える。その癖をつければ、絶対に同僚より早く力がつくし、5年、10年経って、実際に2階級昇進した時には、必ずいい仕事ができるはずだ。
◆(中略)どこの会社でも、トップの人は「あいつは役に立つ」とか「こいつは役に立たない」という言い方をする。しかし本来、役に立たない人間というのは一人もいないのだ。面白い仕事のやり方と面白くない仕事のやり方があるのと同じで、役に立つ人間の使い方と役に立たない人間の使い方があるだけなのである。
役に立つ人間の使い方のコツは、部下が3しかやらなかった場合に、自分が残り97をやる準備をしておくということだ。なぜなら、その部下がギブアップしたのは上司である自分に責任があるからだ。最後は徹夜をしてでも自分でやる覚悟と能力が上司になかったら、その仕事は受けるべきではないのだ。自分が97をやる覚悟をしていて、部下を指導すれば、短期間で有効な指導ができる。方向が分かっていて、ある程度勘どころも分かっているからである。
◆100を定義できない上司は役立たず
(中略)会社というのはチームワークで仕事をするための組織である。チーム全員を足して100の仕事ができればいいのである。重要なのは、その100を上司が定義することだ。それが定義できなければ、上司の役割は果たせないし、プロフェッショナルとも言えない。
100が定義できれば、チームとしてそれを達成するためにどういう役割分担をしていくかという話になってくる。三人で仕事をする場合なら、上司は定義した100のうち自分が70やれると思えば、あとのニ人の部下には、30を任せればいいわけだ。また、上司が定義した100を理解して、自分がやるべき仕事を完遂できる部下はいい部下だ。100を定義できる上司、その100に対する自分の役割分担をきちんとこなせる部下は、どこの会社に行っても通用するし、独立しても成功する可能性が高い。
◆社内評論家になるな
(中略)大切なのは、“社内評論家”になってはいけない、ということだ。会社のここがいけない、あいつが悪いと言っている人間は負けなのである。(中略)むしろ逆に、自分が会社を良くするアイデアを持っているなら具体的な企画書を作り、昼間、会社にいる時に提出して、正面から上司と議論をすべきである。それが受け入れられなかったら、会社を辞め、その企画書に基づいて自分で会社を作ればいいだけの話だ。
◆解決案を常に懐に温めろ
新入社員であっても、いや新入社員だからこそ「会社を良くするためにはどうすればいいか」ということを入社初日から考え始め、機会があるかどうかは別として、3か月後にはトップにプレゼンテーションできるだけの企画書を作ってみてほしい。
◆会社のグチをこぼしたり、上司の悪口を言ったりせず、「自分だったらどうするか」という解決案を常に考えていた。そして、まさに、織田信長の草履を温めた豊臣秀吉のように、今5分だけ社長と話すチャンスがあったら何を言うか、それを常に懐に温めていたのである。そういう努力をしないで、自分の仲間や直属の上司に、会社への不平不満を言っているだけの人は救い難い。それは自分の気持ちを良くしているだけで、会社を良くすることはできないし、「それなら、あんたが自分でやってみれば?」と言われても、その人がやれるはずもないからだ。
◆入社当日から企画を作れ
組織というものは必ず悪いところがある。どんな組織でも悪い点を探すと必ず山のように出てくる。しかし、悪い点をなくすのは意味がない。それで良い会社を作れた試しがない。良い会社を作るためには、積極的に将来の価値観に向かって会社を作り直していかなければならない。実際、良い会社を作っている経営者や、大きな改革を断行した人は、みんな、悪い点を直したり、なくしたりするのではなく、良い点を作ろうと努力している。私は、新入社員でもトップの立場に立って考えることを心がけるべきだと思う。(中略)「常にその会社のトップになりきって自分だったらどうするかを考えろ」と言うトップマネージメント・パースペクティブが『マッキンゼー』の世界的な教育方針になっている。その前提としては、批判力が必要だ。なぜかというと、批判力のない人は問題があっても、それをあまり気にしない。だから、長いものに巻かれてしまうか、朱に交わって赤くなる。そういう人は破壊力がないから、現在のような時代には大きな変化に貢献できないのである。
ただし、批判力があっても、問題を解決するアイデアがないと、その人は破壊するだけで終わるか自滅する。(中略)まず批判力ありきではあるが、その批判力をポジティブな方向に持っていくことができなければ、それは“社内評論家”に過ぎない。問題点を指摘するだけで何も生まれてこないのであり、批判力をばねに提案ができる人が会社を変化させる建設的な人になりうるのだ。
◆「So What?(それでどうなんだよ)」と言われたときに、ニの句が継げないようでは話にならない、ということを身をもって学んだ。(中略)これは考え方の癖であって、持って生まれたものではない。したがって、問題の解決案を考える癖をつけられるかどうかが問題なのである。
◆「So What?」で考えられるか
自分の所属部門の立場だけで考えて、他の部門は敵だと思うようになったら、トップとしては不適格。部門別に考えてしまう。悪い癖をつけず、本当の問題は何なのか、それを解決するにはどうすればいいか、すなわち「So What?」を、自分よりも上の人の立場、できれば社長の立場から考える癖をつけるべきなのだ。そして(中略)その癖は入社初日からつけるようにしないといけない。(中略)入社して最初の数年が非常に大切なのだ。批判力を失わないうちに解決力まで身に付けた人は極めて将来有望になってくる。へたな知識より「So What?」と考える癖と力をつけ、会社を良くするための企画書を作ること。それがフレッシュマンにとって最も重要な心得だと思う。
上記以外にも大前さんらしいハッとするようなことが書いてあります。チャンスがあればぜひどうぞ。
電車の中の訓練、自分なりの方法を編み出して、ぜひ試してみてね。