ロジカルシンキングの基礎(演繹法と帰納法)#24

論理的思考・議論術

ロジカルシンキングの基礎としての演繹法と帰納法について説明します

 仕事をするうえでは、筋道に沿った合理的な考え方(以下「論理的思考(ロジカルシンキング)」)が求められます。今回はその基礎として演繹法(えんえきほう)と帰納法について説明します。

演繹法(えんえきほう)

 演繹法(えんえきほう)は、三段論法などとも呼ばれ、二つの前提(大前提と小前提)から結論が導かれる論証形式をいいます。これだけの説明だと何のことやら分かりにくいので簡単な例で説明します。
 演繹法とは、例えば次のような推論をいいます。
  大前提:すべてのカラスは黒い
  小前提:この鳥はカラスだ。
  結論 :この鳥は黒い。

上記の推論を図で表すと次のようになっています。

 論理学の本などで演繹法に関する勉強をしようとすると、けっこうなボリュームの説明がされていてそれなりに面倒なのですが、推論の流れとして次の2つのパターンがあるということだけ理解しておけば十分です。

正しい推論のパターン1:前件肯定

1つ目のパターンが「前件肯定」という推論の形式で、次のような論理の流れになるものです
 AはBである
 Aである
 Bである

正しい推論のパターン2:後件否定

2つ目のパターンが「後件否定」という推論の形式で、次のような論理の流れになるものです
 AはBである
 Bでない
 Aでない

間違った推論の一例

 上記で紹介した「前件肯定」「後件否定」は正しい推論ですが、ここでは間違った推論も紹介しておきます。間違った推論として日常の議論でよく見かけるのが「後件肯定」で、次のような推論形式をとります。

 上記の場合には、色が黒いからといってカラスかどうかは分かりません。クロライチョウかもしれませんので、上記の推論は間違っています。

演繹法で注意すべきこと(前提が正しいかどうか?)

 演繹法の場合、大前提と小前提が正しい限り、結論は必ず正しくなります。
例えば、
 大前提:すべての人間は死ぬ
 小前提:ペッパー君は人間だ
 結論 :だからペッパー君は死ぬ
  ➡ 結論は論理的には正しい

という推論では、大前提と小前提が正しい限り、結論は論理的に正しくなります。ここで注意して欲しいのは、推論形式が「前件肯定」か「後件否定」の形なっている限り、推論としては正しい(つまり結論は論理的に正しい)のですが、前提が本当に正しいのかどうかによって、実際の結論が正しくないこともあり得るということです。上記例でいえば、「ペッパー君は本当に人間なのかどうか」ということを確かめてみたところ、ペッパー君は人間ではなくロボットでしたということになると、実際の結論は間違っていることになります。したがって、演繹法で考える際には、前提が正しいのかどうかを確認することは重要なポイントです。
 第6回目の記事(生産的な議論をするための「トゥールミン・モデル」)の中で、主張が成立するために前提が正しいのかどうかを確認することはとても重要との説明をしました。実際に議論をする際にはいつもこの点に留意しておくことが大事なのです。

帰納法

 上記で説明した演繹法とは別に、もう一つ知っておいて欲しい論証の形式があります。それが帰納法です。帰納法とは、個々の具体的な事例から一般的な結論を導き出す論証形式のことをいいます。例えば、次のような推論になります。

 ここで注目して欲しいのは、帰納法の結論は「~である」という断定形式ではなく「~だろう」という推測の形になるということです。上記の例でいえば、今回の集めた事例だけから「すべてのカラスは黒い」と断定することはできず、あくまで仮説にすぎないのです。つまり、結論が常に正しいとは限らないのです。
 そのため、第6回目の記事(生産的な議論をするための「トゥールミン・モデル」)の中での説明にもあるとおり、どれくらいの確からしさでその結論(主張)が成立するのかを確認することが重要です。

今回のまとめ

 演繹法と帰納法をまとめると次のようになります。

演繹法帰納法
結論が正しいかどうか次の推論パターンでは前提が正しい限り結論は常に正しい
<前件肯定のパターン>
 AはBである
 Aである

 Bである
 
<後件否定のパターン>
 AはBである
 Bでない
 Aでない
結論は仮説にすぎない(結論が常に正しいとは限らない)
留意点前提が正しいかどうかを必ず確認することどのくらいの確からしさでその結論が成立するのか確認すること

おすすめ図書

「論理的に考えること」(山下 正男)

今回の記事では簡単な説明にとどめた演繹法をはじめとする論理学についてもっと深く知りたい方には本書をお勧めします。本書は1985年の出版なので、発売からかれこれ約40年近く経ちますが、内容的にも古びたところはなく、また、岩波ジュニア新書として学生向けに書かれたものなので、説明もとても分かりやすいです。
 ただしご注意いただきたいのは、書名タイトルに「論理的に考えること」とありますが、近年ビジネスマンの間で浸透している、いわゆる「ロジカルシンキング」関係の本ではありません。論理学の初歩を真面目に教えてくれる本です。論理学と言っても、数式はほとんど出てこないですし、身近な例で説明してくれるので数学嫌いでも抵抗なく読めます。
今まで論理学を学ぶ機会がなかった方が社会人になってから論理学に触れるのにちょうど良い一冊だと思います。

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「入門! 論理学」(野矢 茂樹)

今回の記事で説明した演繹法の前件肯定、後件否定などをより深く学ぶことができる本です。先にお勧めした「論理的に考えること」(山下 正男)にチャレンジしてみて馴染めないようであれば、この本をお勧めします。この本も論理学の入門書で、数式を使わずに文章だけで説明してくれる本です。文章より数式で説明された方がかえって分かりやすいという理系の方は本書を読むとストレスがたまるかもしれませんが、文系人間の私にはこの程度の説明がちょうどよく理解できました。なお、入門書といっても注意点があります。著者の野矢氏が本書の「はじめに」で次のように書いています。

 私は、「入門書」というものには少なくとも二種類あると思っています。ひとつは、これからもっと進んで勉強していくひとのために、その第一段階の基礎を教える入門書。積み上げ型の学問の場合に多いタイプです。たとえつまらなくても、たとえいまは意味がよく分からなくても、ともあれまずはこれだけのことをマスターしといてくれないと、先に進めないからね、というわけです。この本はこういうタイプの入門書ではありません。
 私が考えるもう一つのタイプは、少し唐突な言い方ですが、「哲学」です。つまり、その学問の根本的なところ、その本質を、つかみとり、提示する。論理学ってけっきょく何なんだ。何をやっているんだ。禅坊主の言い方を借りれば、襟首をつかんで「いかなるかこれ論理学」とか「作麼生(そもさん)!」とか迫るところです。入門だからこそ、その根っこをつかまなければいけない。表面的なあれこれを拭い去って、根本を取り出そうとするその態度は、まさしく哲学です。

つまり入門書といってもいわゆる普通の入門書を想定して読み始めると、期待した内容と異なるかもしれません。お読みになる場合にはこの点をあらかじめ認識しておいてください。

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『「科学的思考」のレッスン 学校では教えてくれないサイエンス』(戸田山和久)

今回の記事で説明した推論のもう一つの方法である帰納法についてもっと深く考えてみたい方にお勧めです。今回の記事では説明を省略した「アブダクション」などについても説明されており、また、仮説の立て方・検証の仕方、サンプリングの考え方などもざっと知ることができます。
批判的に考える姿勢を身につけるうえでのヒントをもらえる本です。その点において論理的思考(ロジカルシンキング)の本というよりは、批判的思考(クリティカルシンキング)の実践を具体例で教えてくれる本といった方が適切でしょう。

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ハットさん
ハットさん

「AはBである、Aである、Bである」「AはBである、Bでない、Aでない」と覚えておくだけで、日常のおかしな論理のかなりの部分をすぐに指摘できるようになりますよ。

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