実態を問う質問(影響を問う)#11

質問力・コメント力

今回のテーマは「影響を問う」です

 今回は「影響を問う」ための質問について説明します(今回の記事は、前回記事「実態を問う質問(背景を問う)#10」の続きです)。

前回までのおさらい(当記事は#8からの続きです)

 まず前回までの内容を簡単におさらいしておきましょう。
 前回まで「実態を問う質問(どんな状況下で何が起きているのか)」を次の構造図に沿って掘り下げて説明しています。

 前回までは次のような説明をしました

<8回目の記事:「①それは何か?(定義)」>
①議論のスタート段階で「それは何か?」という定義を確認し、お互いの認識を合わせておこう。
②見慣れない言葉だけでなく、ありふれた言葉であっても、想定している意味は人それぞれで違うかもしれない。
③Aを定義するには、そっくりな非Aとを区別する基準が何かを問うてみよう。

<9回目の記事:「②何が起きたのか?何が起きていないのか?」>
何が起きたのかを質問するときには、次の4点に注意すること
①より具体的に聞くこと(ありありとした実際の状況を聞くこと)
②全体感をもって事実を収集すること
③何が起きていないのか(同時に起きていても当然なのに起きていないこと)を探ること
④「なぜ」という質問は初期段階では厳重に差し控えること

<10回目の記事:「背景を問う」>
起きたことの全体像を十分に理解するためには、背景・文脈の理解が欠かせない。そのため、前後の流れやそこに至るまでの経過を確認するための問いを決して疎かにしないように。

 今回は「影響を問う」ための質問について説明します。

現在与えている影響と将来考えられる影響の両方について確認すること

何かが起きた場合、その起きた出来事に関する理解だけではなく、①現在どんな影響を周辺に及ぼしているのか、②将来その出来事がどうなっていくのか、③将来その出来事が周辺にどんな影響を及ぼすのか、について確認(質問)すると、その出来事の意味合いや重要性がより的確に判断できます。
身近な例を挙げて説明すると、例えば、健康診断の結果、腫瘍ができていることが分かったとします。腫瘍が何であるかの定義に始まり、腫瘍がどのような状況でできたのか、そのきっかけは何だったのかが分かったとしても、その腫瘍が現在どんな影響を及ぼしているのか、また将来においてどんな影響を引き起こすのかが分からないことには、腫瘍ができたという出来事の持つ意味合いや重要性を判断するのは困難です。例えば「現在は放置しても影響ないが、近いうちに悪性化して命にかかわる」などと、腫瘍が及ぼす影響についての情報がないと何とも判断しようがないのです。
したがって、「実態を問う」質問では、その出来事そのものの現在の状況を確認することで満足するのではなく、現在の周辺に及ぼす影響と将来の影響をセットで確認(質問)するクセをつけるといいでしょう。なお、将来影響が出てくるのは遠い先かもしれません。長短の時間軸を意識的に区別して考えると、考え方の精度がより高まります。

影響のうちマイナスの影響(悪い影響)には特に注意すること

 現在周辺に及ぼす影響と将来の影響を確認(質問)するときに特に忘れてはならないのが、マイナスの影響(悪い影響)の有無です。プラスの影響(良い影響)は、仮に確認(質問)をし忘れても致命的なミスになることは少ないのですが、マイナスの影響(悪い影響)を知らずに決断すると、悔やんでも悔やみきれない事態になる可能性があります。そのため、何か事が起きた時には、次の質問を心がけることをお勧めします。

「それで、今後どのような問題が想定されるか?」

将来のことは誰にも分りませんし、このような単純な質問をしたからと言って、将来のマイナスの影響が正確に分かったり致命的な判断ミスを避けられる保証はありません。しかし、このように問いかけをすることで、それまで何も考えていなかった人も問題意識を持ち始めて、様々な観点で考えるようになります。そうすると、致命的な失敗を避ける確率は何も考えなかったときよりは確実に上がります。
「実態を問う質問(何が起きたのかを問う)#9」の記事「何が起きていないのか(同時に起きていても当然なのに起きていないこと)を探ること」の項でも説明したように、問題意識を持ちつつまだ起きていないこと(見えないこと)を探ることは、失敗を避けるためにとても重要なことです。
ついでに言えば、「想定外」という表現があるように、事前段階では想像もしていなかった領域で想像もしていないような影響が生じることは世の常ですが、だからこそ、知恵を振り絞って、事前に想像力を働かすことが大事です。
とにかく痛恨のエラーをしないためには、事前に必死に考えて少しでも確率をあげることが人生を生き延びる秘訣だと言えます。

将来の影響を考えるうえで参考になる考え方(システム思考)

 将来の影響を考えるうえで私が参考にしている考え方があります。それは「システム思考」という考え方です。

「システム思考」とは

 「システム思考」とは、物事の全体像を「システム」として捉えて、その問題が発生している要素を多角的な視点で分析し解決に向かうアプローチのことです。この考え方を実務で使い勝手良く工夫しているのが次に紹介する「システム思考家の習慣」(14個)です。
 私は出来事が及ぼす将来の影響を考える際に参考にしています。次の項でご紹介します。

システム思考家の14の習慣

 システム思考を実践する人たちのことを「システム思考家(Systems Thinkers)」といい、そのシステム思考家たちのものの見方・考え方・行動の仕方を「システム思考家の習慣」というそうです。
 この「システム思考家の習慣」(14個)が米国NPO<ウォータース・センター・フォー・システムズシンキング>のサイトでカード形式で分かりやすく紹介されています。サイトにアクセスすると14のカードを見ることができます。さらに、それぞれのカードの裏面には、考える際に問うべき質問が箇条書きで記載されています(サイトではカードを裏返してみることができます)。
 ここではカードの一覧だけ載せておきます(出典:「システム思考家の習慣」より)

(出典)システム思考家の習慣(Habits of Systems Thinkers)より

 とても参考になる考え方としてご紹介いたしました。

今回のまとめ

何かが起きた際には、次の事項を確認(質問)するよう習慣化すること
①現在どんな影響を周辺に及ぼしているのか?
②将来その出来事がどうなっていくのか?
③将来その出来事が周辺にどんな影響を及ぼすのか?

おすすめ図書

「入門! システム思考」(枝廣淳子+内藤耕)

本書に書かれている内容は当たり前といえば当たり前のことで、社会人としてそれなりの実務経験を経た人にとっては目新しいことではないかもしれません。しかし、そんな人でも、修羅場の渦中に突然引きずり込まれると、パニック気味になって我を忘れ、こんな当たり前の内容ですら見失ってしまうことはままあります。冷静さを欠いているそんな時に本書を読むとハッと我に返るでしょう。もちろん平時において初めてシステム思考を学ぼうという人にとっても格好のガイダンスになります。

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「システム・シンキング入門」(西村行功)

やみくもに、個々の要素が全体や将来にどんな影響を及ぼすのかを想像したところで、豊富なアイディアがいきなり浮かぶわけではありません。そんな悩みにこたえるために、システム思考の基本的な考え方を教えてくれる本です。手軽に読める本ですし、さっと目を通しておくと、それだけでも発想は広がります。

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ハットさん
ハットさん

会議等で質問を求められたら、実態を問う質問をするだけでも相当深い議論が可能になります。下記構造図と記事#8から記事#11を参考に、ぜひ実践してみてね。

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