どんな会議でも通用する質問フレーズ4つ #38

質問力・コメント力

会議で一言も発言しない人にならないためには?

 今回の記事では、どんな会議でも通用する質問フレーズ(4つ)というのがあって、それさえ知っておけばどんな会議に出ても誰でもすぐに発言ができますよというお話しをします。
 ところで、なんでこんなことをお話しするのかという理由を先に説明させてください(長文になり恐縮ですが…)。
 私は長年公認会計士として大手監査法人に勤務するかたわら、大学等の教育機関でも約20年間近く講師をしています。私の講義は基本的にワークショップスタイルで行います。具体的には、あるテーマにつき学生に発表させ、その発表に対して出席している学生たちが相互に議論をするというスタイルで進めています。このスタイルで講義をしていて感じるのは、発表を聞いた直後の学生たちに「何か質問はないですか?」と尋ねても、「特に質問はありません」といった反応が圧倒的に多く、学生たちが質問や意見を言わないということです。
 私はこの現象を見て当初は、学生たちは問題意識が乏しいから質問を思いつかないのだろうと考えていました。しかしながらある時期から、学生たちが基本的な質問のやり方を知らないことも要因としては大きいのではないかと考えるようになりました。確かに最近の学生は中学・高校時代にディベートのような授業で相手の意見に対して反論や質問をするという練習を経験してきている者もいないわけではないのですが、多くの学生たちはあまりにも実践経験が足りないと感じるのです。そもそも質問の仕方などをきちんと学ぶ機会がなかったのかもしれない、だから他人の意見に対して直ちに質問できないのもある意味やむを得ないのかもしれないと考えるようになりました。
 そこで私が考えたのが質問のやり方を体系化して学生たちに身につけさせることでした。その内容は本ブロブの7回目の記事(どんな場面でも通用する質問(問い)の構造)から11回目の記事(実態を問う質問(影響を問う)に書いた内容で、この考え方を学生たちに植えつけようと試みました。ところが、7回目から11回目の記事内容を学生たちに身につけさせるには予定されたカリキュラム時間だけではあまりにも時間が足りなくて、身につけないうちに時間切れで卒業ということも間々ありました。そこで、もっと簡単に学生たちに質問のテクニックを身につけさせる方法をないかと摸索した結果が今回の記事で説明する「どんな会議でも通用する質問フレーズ4つ」なのです。学生たちにこの4つのフレーズだけを駆使して質問の練習をさせるようにしたところ、どの学生も見違えるように質問ができるようになりました。
 どんな仕事でもなにがしかの会議やミーティングに参加する機会は実に多いのですが、新人の頃は一言も発言しなくても許されます。しかし、ある程度経験を重ねるようになると、ミーティングに呼ばれているのに一言も発言しない人は参加してもしなくても関係ない人のように周囲から認識されてしまいます。そうならないために、今回の記事が本ブログの読者である学生や新社会人の方の参考になれば嬉しいです。

どんな会議でも通用する質問フレーズ4つとは?

 前置きが長くなりましたが、どんな会議でも通用する質問フレーズ4つは次のとおりです。

①具体的には?
②逆に言えば?(別の観点で言えば?)(言い方を変えると何?)
③要すれば?
④(この点が)よく分からない(のでもう一度詳しく説明して)

 相手のどんな意見に対しても、まずはこの4つの問い(質問)をするようにクセをつけてください。相手の意見に対して、極端に言えば何も考えずに条件反射的に口からこの4つの問い(質問)が出てくるように心がけるのです。これを身につけるだけで、「何か質問はありますか?」と聞かれてから初めて質問を考えるようなことはなくなります。

ただし、使用にあたっては次のような若干の注意点もあります。

 以下では順に補足をします。

「具体的には?」という質問はもっとも汎用性あり

 相手の主張に対して「具体的には?」とか「具体例をいくつか挙げてください」と問いかけるのは質問の王道です。この問いかけに対して、相手がより詳細な具体例を説明をしてくれればこちらの理解は一層深まります。さらに「こんな条件の時には具体的にどうなるのでしょうか?」のように次から次へと質問を重ねていけば、議論がどんどん広がっていきます。
 一方、この問いかけに対して相手が具体例を何も示してくれない場合には、「評論家ではないのだから一般論・抽象論で主張されても困ります。もっと具体論で主張してくださいよ」のように迫るべきです。
 いずれにしてもこの問いかけをきっかけに議論は深まりますから、まずは「具体的には?」という質問から始めることをお勧めします。

「逆に言えば?」という質問は視点を多面的にさせる

 相手の主張に対して、こちらの理解が正しいかどうかを確認するために「逆に言えばこのような理解でいいですか?」と質問したり、「別の観点でもう一度説明して欲しいのですが…」と問いかける方法も覚えておきたいテクニックです。たいていの場合、説明者は自分が思い入れのある一面ばかりを熱く語りたがるので、「別の観点も説明して?」と問い返すことは議論を多面的に展開させる上でも大事です。
 なお、これは本当に蛇足ですが、英語での会議だと単純にこちらのヒアリング能力に問題があり、相手の主張内容を聞き取れない(理解できない)ことがあります。その場合に「(聞き取れなかったから)もう一度言って?」とお願いするにも限度があります。そこで重宝するのが「別の観点でもっと知りたいのですが」などの言い方です。このように伝えると、相手は別の表現で詳しく説明してくれることになります。そういうやり取りを繰り返しているうちに相手の発言内容が理解できるようになり、ピンチを乗り越えたことが何度かあります。ぜひ覚えておくと役に立ちます。

「要すれば?」という質問の注意点

 相手がワーッとたくさんの主張をまくし立ててきた時など、聞いている側からすると相手の会話についていけなくなることがあります。あるいは、たくさんのことを言っていた割に結局のところ何が結論なのかよく分からないこともあります。そういうときに「要すればこういうことですか?」とか「一言で言うとどうなりますか?」のような質問は有効です。
 ただし、注意すべきなのは、相手からすると、今まで延々と説明してきたのに上から目線で「だから何?」と言い返されると不快に感じることです。まるで「あなたの説明は支離滅裂。だからよく分からない」と言われたように相手が受け止める可能性が高いです(もちろん本当に説明が支離滅裂だったのかもしれませんが…)。また、相手の立場になると、これだけ説明しても理解してくれないなんて「この人は頭悪いんじゃない?」のように思うかもしれません。したがって、「要すれば何?」という趣旨の問いかけをする場合には、相手に失礼にならないように表現などは繊細な気遣いをした方がいいでしょう。

「よく分からない」という質問は素朴であるが…

 相手の説明や主張を聞いたとき、一回ですんなり理解できることはむしろ稀で、たいていはよく分からないことの方が多いのでしょう。しかし、正直に「よく分からない」というと、せっかく説明してくれた相手に申し訳ないとか、さらに説明の時間がかかると面倒くさいとか、色々な理由からそのまま会話を流してしまうことは誰にでもよくあることです。そういう忖度をしない子供なら素朴に素直に「分からない」と言えるのですが、分別ある大人になるとそうもいきません。
 また、「よく分からない」にしても、どの点がどういう点で分からないのかを言わずに、単に「よく分からなかった」とだけ言ったら、相手によっては怒りますし、怒らないまでも当惑はするはずです。だから、「よく分からない」場合の質問の仕方としては、「ここまでは理解したが、ここから先の議論はこういう点で理解できなかった」のように、こちらが理解できない内容を明瞭に言語化して相手に誤解のないように伝えなければなりません。それが「よく分からない」という趣旨の質問をするときのコツです。この点をわきまえておけば、分からないことを質問することは議論の基本であり、とても大事なことです。

 この項の最後に、「よく分からない」という質問に関して、教育学者の宇佐美氏が自著の中でとても示唆に富むことを語っています。ぜひご参考にどうぞ。

◆(授業中)ときに、次のような発言をする学生がいます。「23ページの『経験』という言葉は、どういう意味だろうか。」こんな発言をするのは、たいてい、あまり準備をしてこなかった学生です。私は次のようにいます。君が23ページの『経験』という語をわからないらしいということは、分かった。しかし、どう分からないのか。それを言わなければ、この場でみんなの問題になりえない。(中略)分からなさ加減を言うべきなのだ。「自分は今まで『経験』という語の意味を○と思っていた。ところが23ページの『経験』という語をその意味に取ると、その一文(センテンス)がその直後の一文と矛盾する。だから、この『経験』という語は、別の意味にとるべきなのだろうか」あるいは「この『経験』という語は19ページの『経験』という語とは矛盾する。なぜならば○。みんなはそう思わないか。」
◆「わからなさ加減」を述べるのでなければ「問題」はいくつでもできる。質問はいくらでもできる。しかし、君の「わからなさ加減」を想像でおしはかって答えなければならない著者は迷惑だ。著者はこれでいいと思って書いているはずなのだから、問う者の方から、それは悪いという理由を積極的に示す形で「~はわからない」「~は何ですか」と問うのでなければ、著者も答えようがあるまい。
◆「わからない」とは、実はこのようにある程度、ある仕方で「わかっている」ことが何らかあるということなのだ。だから、その「わかっている」ものとの関連で「わからなさ加減」を言うべきなのだ。一歩つっこんで問わなければならないのだ。

(出典)「議論は、なぜいるのか」(宇佐美寛)

 「よく分からない」と発言するときには自分の分からなさ加減も併せてきちんと伝えること。いつも心がけておきたいことです。

コーヒーブレイク

「逆に言えば」という表現が口癖になっている人もいるが…
 今回の記事で紹介したように質問のテクニックとして「逆に言えばこのような理解でいいですか?」という問いかけの仕方があります。それとはあまり関係ないので完全に脱線するのですが、逆でもないことをいつでも「逆に言えば」と表現する人を見かけます。そんな人はあまり深く考えずに口癖になっているだけでしょうから目くじらを立てる必要もないのですが、論理を厳密に考えるうえでは言葉の使い方にもう少し繊細であるべきとの考えを私は持っています。「逆」という言葉に関していうと、論理的には「逆」「裏」「対偶」という概念があり、それぞれは厳密に区別されています。

 論理的に考えるうえでは演繹法による思考は欠かせん。この演繹的思考をする上での日常的な間違いの多くは「逆」を使った推論と「裏」を使った推論から生じていると言われており、24回目の記事(ロジカルシンキングの基礎(演繹法と帰納法))でも間違いの例として後件肯定を紹介しました。
 「逆」「裏」「対偶」でもないものを「逆に言えば」と無自覚に言うのではなく、日頃から厳格に言葉を使い分けるよう心がけることがその人の思考を論理的にしていくと考えます。安易に「逆に言えば」という表現を使っている人は、どうせ口癖にするなら「言い方を変えれば」という表現にした方がよいかもしれません。

今回のまとめ

どんな話題でも次の4つのフレーズを活用して積極的に問いかけ(質問)をするといいでしょう。

おすすめ図書

『「問う力」が最強の思考ツールである』 (井澤友郭 (著)、吉岡太郎 (監修))

 長年の社会人経験から自信を持って言えることですが、問い(質問)を投げかける能力さえあれば、どんな会議や議論の場であってもたいていは乗り切ることができます。知識や経験が足りない分野における議論をする場合でも、ポイントをついた質問ができれば相手とのやり取りは問題なく続けられます。さらに議論を深めたり広げたりすることも可能です。そのため私はかねがね問う力(質問力)のレベルを上げることがとても大事だと考えています。
 ただ残念なことに、この能力は各自が試行錯誤しながら俗人的に身につけていくことが多く、体系化された理論として教育される機会は少ないと感じています。そんな状況に対して、一定の解決策を提示してくれるのが本書です。質問のノウハウに関する書物はこれまでもたくさん出版されていますが、どちらかというと体系化されていないとの印象が強いです。これまでの質問力に関する本は、「具体例を紹介するからあとは読者の皆さん一人一人が考えてね」という色合いが濃かったように感じています。これはこれでもちろん参考にはなるのですが、自分でノウハウを体系化し再現性のある汎用的なテクニックにまで昇華させるのはそう簡単なことではありません。ところが本書は違います。
 本書はタイトルにもあるとおり「問う力」を汎用的なツールとして使えるように体系化しています。もちろん人によっては「こんなことなら昔から自分がやっていたことと同じだよ」との感想を抱くかもしれません。それはそのとおりなのですが、本書はそれを言語化して汎用性のあるツールとして提示してくれたところに意味があるのです。
 とにかく、本書では「問う力」に関する様々なノウハウを汎用性のあるツールとして構造化し、実践ですぐに使えるように工夫しています。すでに質問力が高いレベルにある方が読んでも気づきを与えてくれます。ぜひお勧めします。

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『「答え方」が人生を変える あらゆる成功を決めるのは「質問力」より「応答力」』(ウィリアム・A・ヴァンス (著), 神田房枝 (著))

 ここまで問う力(質問力)の大切さを力説してきましたが、正反対の考え方を主張する本も紹介しておきましょう。これからの時代、鍛えるべきはむしろ「答える力(応答力)」の方だと主張するのが本書です。著者のヴァンス氏は本書の中でユーモアたっぷりに次のように言っています。

フランスの哲学者ヴォルテール(1694-1778)は、「答えよりも質問で人を判断すべきである」という名言を残しているが、「四世紀も経つと、さすがに状況は変わりました」と彼に教えてあげたい。(中略)
ヴォルテールの想像をはるかに超えた現世で、質問で人間が判断されてしまうのはあまりにも酷だ。

 上記引用部分は著者一流のジョークですが、指摘する内容はもっともなことばかりです。本書は適切に答えるために必要なことを様々な観点から考えさせてくれます。「質問力」よりも「応答力」の方が大事かどうかはともかく、ヴァンス氏の指摘は示唆に富んでいます。私は仕事柄クライアントからの依頼に基づき問題解決のための調査報告書などを作成する機会も多かったのですが、本書で説明されているポイントがずいぶん参考になりました。「質問力」と対をなす「応答力」についても考えてみたいという方にぜひお勧めしたい良書です。

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ハットさん
ハットさん

今回説明した4つの質問のパターンを身につけたらそこで満足せずに7回目の記事(どんな場面でも通用する質問(問い)の構造)のレベルを目指して欲しいです。

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