今回は「成果物をイメージするときに大事なのはデリバラブルな視点を持つこと」という話しをします。
第33回目の記事「最初にアウトプット(成果物)を想定すること」で、どんな仕事をする場合でも作業開始前にアウトプット(報告書などの成果物やゴール)をイメージするクセをつけましょうという趣旨のことを書きました。事前に成果物を想定しておくことの大切さについてはいくら強調しても強調しすぎるということはありません。ただ、今回の記事では、第33回目の記事とは切り口を変えて成果物を「アウトプット」ではなく「デリバラブル」と呼び、心構えについてのアドバイスをしたいのです。今回は精神論の話しにはなりますが、どんな分野においてもプロフェッショナルな人が肝に銘じておくべきことだと考えています。
今回の記事で伝えたいことを先に要約すると…
今回の記事で言いたいことを要約すると次のようになります。

第33回目の記事「最初にアウトプット(成果物)を想定すること」でも書いたとおり、どんな仕事でも最初に成果物(アウトプット)を想定しておくことはとても大事です。しかし、ともすると事前に想定する成果物(アウトプット)を形式面(例えば報告書のフォーマットなど)だけで考えてしまう可能性もあるし、そうでないとしても提供する付加価値(例えば提供する成果物が相手にとってどんな役に立つのか)という観点まで考えが及ばない可能性もあります。つまり、成果物(アウトプット)からデリバラブルな視点が抜け落ちてイメージしてしまう可能性を心配しているのです。そのため今回の記事では「成果物を想定するときにはデリバラブルな視点を忘れずに」と強調したいのです。
今回の記事で言いたいのはこれだけなので、時間のない人はここまで読んで終わりにして問題ありません。ただし、「デリバラブル」という表現についてはなじみが薄いと思われるので、以下で補足しておきます。
まず紹介したのはドラッカー氏の言葉
「デリバラブル」という表現の説明をする前に紹介しておきたい言葉があります。あの有名なドラッカー氏の次の言葉です。
仕事からスタートしてはならない。(中略)「期待されている成果は何か」と自問することからスタートしなければならない。
(出典)「経営者の条件」P.F.ドラッカー
ドラッカー氏の上記言葉は、当たり前と言えば当たり前すぎて「ふーん、だから何?」という感じもしないではないのですが、実際の仕事の現場では意外とこの当たり前のことを実行するのはかなり難しいです。なぜなら、仕事の現場では何も考えずに、まずできることから手をつけたくなる状況が多いからです。何をすればいいのかよく分からない混沌とした状況というのはよくあって、そんなときには、とにかく仕事をしているそぶりだけでも見せたくなることは日常茶飯です。特に仕事の経験値が低い頃はそうです。また逆に、仕事の経験を積み重ねてベテランと言われるレベルになればなるほど、なにも考えずに仕事ができてしまうため、とかく仕事が作業としてルーティン化してしまうことも多いのです。
だからこそ仕事を開始する前に冷静に立ち止まって「期待されている成果(物)は何か」と自問することからスタートしなければならないのです。とはいえ、「期待されている成果(物)は何か」と自問するためにどうすればいいでしょうか。そこでポイントとなるのが「デリバラブルな視点」です。
「期待されている成果(物)は何か」と自問するときにポイントとなるのが「デリバラブルな視点」で考えること
どんな仕事をするにしてもまずは「期待されている成果(物)は何か」と自問することからスタートさせるべきですが、ここでポイントになるのが「デリバラブルな視点」です。この「デリバラブルな視点」については、神戸大学教授の金井壽宏先生の次の説明がとても分かりやすいのでここで紹介させてください。
テリバラブルを考える大切さ
(出典)「過剰管理の処方箋」金井壽宏、岸良裕司(注)ハットさんが一部太字にした。
ちなみに、というよりちょっぴり脱線なのだが、ODSC(ハットさん注:ODSCとは、Objectives(目的)・Deliverables(成果物)・Success Criteria(成功基準)の略称でプロジェクトや事業のゴールを明確にするための3つの要素をいう)のすばらしさのひとつは、デリバラブル (D:Deliverables、成果物)をみんなで考えることだ(中略)。
読者のみなさんは、「あなたの仕事は?」と聞かれて、何と答えるだろうか。たとえば人事のひとなら、「採用です」「給与関係です」「組合対策です」などと答えるのではないか。しかし、これらはどれもデリバラブルではなく、ドゥアブル(doable)、つまり「できること」か「やっていること」だ。
大学の教員でも、仕事の内容を聞かれて、「授業とゼミをやっている」「教授会に出ている」「政府の委員会に出ている」「(誰も読んでないけど)論文を書いている」などとうかつに答えてしまったら、ドゥアブルを並べているだけで、デリバラブルを何ひとつ語っていないことになる。もっというと、それを口にすれば、働いているふりがなんとなくできてしまうのが、ドゥアブルの困ったところだ。
デリバラブルは、「もたらすもの」「お届け物」ともいい換えられる。だから人事のひとには、その仕事を通じて、社員のひとたちにどういうプラスをもたらしているのか、どのようにひとが育っているのか、会社の戦略にどう役立っているのかなどをぜひ考えていてほしい。
私自身も、授業を通じて学生さんに体系的な知識が身につく、ゼミでは学生さんが自分の頭で考えたり議論する力がつくというようなデリバラブル発想で答えたい。ODSCをゼミ生と議論することも自己原因性(自分たちが主役という意識)の高揚のために大切だろう。誰かに何かいいものを届けているかどうか、これはプロジェクトに限らず、あらゆる場面で大切にしたい発想だと思う。
つまり、自分の生み出す成果物は、誰を対象にしたものであり、その人にどんな価値をもたらすのか、というデリバラブルな視点を常に持って仕事をしましょうね、ということです。単に成果物(アウトプット)をイメージするというだけだと本来成果物が持つべき提供価値は何かというデリバラブルな視点が欠落しかねません。自分の成果物が誰にどんな価値をもたらしているのかという視点を常に持って仕事をしたいものです。
【ODSCという考え方に関する注意点】
今回の記事本文で紹介した神戸大学教授・金井壽宏先生の説明の中に「ODSC」という言葉が出てきます。ここでは「ODSC」について若干の補足をさせてください。
「ODSC」というのは、次の単語の頭文字を略したものです。
・Objectives:目的
・Deliverables:成果物
・Success Criteria:成功基準
ODSCはプロジェクトなどを成功させるために重要な3要素として、計画段階において関係者間で認識を共有しておきましょうねという考え方です。ネットで「ODSCとは」のように検索すれば、解説記事・解説動画がたくさんヒットしますので詳細はそちらを見て欲しいのですが、今回の記事本文との関連で注意点を1つだけ書かせてください。それはODSCの2つ目の要素「Deliverables:成果物」についてです。ODSCについての解説記事を見ると、異口同音に「Deliverables:成果物」とは例えば「〇〇システム」とか「〇〇報告書」とか「〇〇マニュアル」のように具体的なアウトプットとして説明されています。これらは確かに成果物であることに間違いないのですが、単なるアウトプットではありません。デリバラブルズ、すなわち価値を提供する物なのです。この視点は欠落しがちです。この点を忘れずに関係者間で共有して欲しいです。
記事本文で紹介した金井先生の説明もそのような意味合いで読み直すと、より理解が深まると考えています。
以上補足でした。
今回のまとめ
◆どんな仕事をするにしても、自分の仕事(成果物)が、誰に、どんな価値をもたらすのかを考えておくことが大事。
◆つまり、「何をしているか・何をできるかという視点(ドゥアブル(doable)視点)」ではなくて、「何をもたらしているかという視点(デリバラブル(deliverable)視点)」を持つことがポイント

「リーダーは自然体 無理せず、飾らず、ありのまま」(増田弥生、金井壽宏)
今回の記事本文では金井先生の本から「デリバラブルな視点」で考えることの大切さを紹介しました。この際に引用した文献とは異なる別の本ではありますが、デリバラブルな視点の大切さを説いた本という意味で紹介するのが上記本です。
共著者は、ナイキのアジア太平洋地域人事部門長だった増田弥生氏と金井壽宏氏です。この本は一見すると人事業務に携わる人を読者として対象にしたようにも思えますが、そんなことはありません。どんな仕事においてもプロを目指す人には参考になる本です。特にプロでも、リーダーとして多く人を束ねる立場にある人にはぜひ読んで欲しい本です。
共著者の一人である増田弥生氏は、リコーやリーバイスを経たのちナイキでリーダーシップ開発・組織開発に従事した方です。本書で披露される増田氏の経験談や考え方は示唆に富むものですし、またこれをかみ砕いて解説してくれる金井氏の説明も大変勉強になります。
自分の仕事がいつも付加価値を生み出すようなレベルでありたいと思わせてくれる本です。


自分の仕事をデリバラブルと言えますか?

