説得したいなら反論せずに質問しろ #86

交渉術・説得術

今回は「説得したいなら反論せずに質問しろ」という話しをします。

 誰でも他人と一緒に暮らしている限り説得という行為は避けられません。家族に対しても、顧客に対しても、上司・同僚・部下に対しても、何らかの依頼や提案をしようとした場合には、多かれ少なかれ、説得という行為が必要になります。だから、説得のスキルを高めておくに越したことはありません。
 今回の記事では、その説得を行う場合の鉄則ともいえる「説得したいなら反論せずに質問しろ」についてお話しします。

今回の記事で言いたいことを要約すると…

 今回の記事で伝えたいことを先に要約すると次のとおりです。

 今回の記事で言いたいことは上記のとおりです。ところで、こんなことは改めて言われなくもすでにやっているという人もいるかもしれません。例えば、家族の誰かに『牛乳を買って来て欲しい』と説得する場合でも、ストレートな言い方で「牛乳が残り少なくなっているので本日中に買っておくべきだ」のような自分の意見を押し付ける形での説得をする人は少ないでしょう。大抵の場合、「あっ、牛乳ってまだ残っていたっけ?」とか「牛乳ってそろそろ買う時期だっけ?」のようにあたかも独り言のように、しかし相手に聞こえるようにつぶやきながら問いかけます。すると、それを聞いていた家族の誰かが「あ、帰りに買ってこようか?」のように説得に応じてくれる、などというやり取りは誰しも経験していることです。
 しかし、仕事などのややこしい説得になると、この簡単なやり方が意外と意識されていないとの印象を持っています。そのため下記で具体的な注意点をアドバイスをしたいのです。

大前研一流の説得の仕方

 説得内容が先ほど例で挙げた「牛乳を買って来て」くらいの軽い説得だったらいいのですが、重大な決断を思いとどまらせるような説得となるとそう簡単ではありません。多くの場合、各々の意見が真っ向から対立するようなやり取りとなります。そうなると、説得対象の相手からすれば、自分の意見が否定されたように感じたり、自分の意見とは異なる意見を強引に押し付けられたように感じます。ますます意固地になり、感情的に説得を受け入れがたくなります。そうならないためにどのように説得したら良いのかということですが、この点について大前研一氏は次のような例を挙げてアドバイスをしています。架空の事例ですが大変参考になるので、ぜひ紹介させてください

 確かに大前研一氏が言うようにいきなり反論したり相手の意見とは異なる意見を押し付けるのは得策ではありません。ましてや、相手を論破したりすれば事態はさらに最悪します。だから「質問するのが効果的」というのはそのとおりなのですが、注意すべきことがあります。それは、質問する(問いかける)にしてもこちらの意見を押しつけるためにしていることが見え見えな質問(問いかけ)は絶対に避けなければいけないということです。上記大前氏の設例を使って言えば、お父さんが子供に次のような質問(問いかけ)をするのは避けるべきです。

 質問がいくら効果的といっても上記のような質問だったら逆効果になります。そうならないためには、より具体的な事実を提示して丁寧に質問を重ね、本人によくよく考えさせることが大事です。
 この点に関しては、第31回目の記事(プレゼンなどに向けたストーリー作成に際して考慮すべき6つのこと)で説明した下記記述も参考にして欲しいです。

 具体的なデータ・状況などを提示して社長ご自身に考えてもらうように仕向けると、こちらから説得しなくても社長自身で「そろそろ評価減しないといけないなぁ」と言ってくれることが多いのです。しかし、この点を意識していないためにクライアントの社長の説得に苦労する部下をたくさん見ました。他人を説得するときにぜひこの点を意識しておくことをお勧めします。

説得で大事なことは相手が自ら気づいて決断するように仕向けること

 説得で重要なことは相手の納得感です。本人が納得してくれることが一番大事です。仮に説得に応じたとしても、実は本人は納得していないとか嫌々受け入れているだけだったら、後々トラブルになる可能性が高いです。そういう意味で、次の指摘は常に心にとめておくべきです。

 説得していることを少しも悟られないようにしつつ、相手が自ら思いついて決断するようにし向ける。そのために質問する。これは説得における鉄則です。

今回のまとめ

◆相手を説得したければ相手が自ら思いついて決断したようにし向けろ。
◆とにかく相手の納得感が大事。
◆そのためには具体的な事実・状況についての認識を問いかけて、相手がその気になるように考えさせろ。

おすすめ図書

「『いい質問』が人を動かす」(谷原誠)

 本書は、弁護士である著者が人を動かすために実際に使っている質問術をまとめた本です。すでにこの手の本(例えば「影響力の武器」とか「人を動かす」など)を何冊も読んでいる人にとっては物足りない内容かもしれませんが、本書はなんといっても記述が分かりやすいし具体例なども豊富です。その割に本のボリュームはそこそこなので簡単に読むことができます。説得や交渉に関する入門書としてお勧めします。特に説得を「質問」という切り口で学ぶ場合の最初の1冊としてお勧めしたい本です。
 ちなみに、本書で紹介されていた「弁護のゴールデンルール」(キース・エヴァンス)のことは本書で初めて知りました。同書は、もしかしたら弁護士の間では有名な本なのかもしれませんが、私は本書で知るまで存在すら知りませんでした。この本を教えてもらえただけでも本書を読んだ甲斐がありました。

Bitly

「心を動かす話し方」(堀紘一)

 著者の堀氏はコンサルタントとして有名でドリームインキュベータを起業した方でもあります。今回の記事本文で紹介した「『説得』するのではなく『納得』してもらう」という考え方は、先ほど紹介した弁護士の谷原氏の本でも一貫している大事なポイントです。著者の堀氏や弁護士の谷原氏のように外部の専門家としてクライアントに接している人は、常にこの観点を忘れてはなりません。弁護士・会計士・著名コンサルタントなどの専門家はとかくクライアントから「先生」などと呼ばれることも多く、経験を重ねるごとに自分の意見をクライアントに押し付けることについつい鈍感になってしまうものです。本書はそんな人を初心に戻らせてくれる本でもあります。もちろん「話し方」の教科書としてもお勧めします。社会人になりたての人にもベテランの人にもお勧めしたい本です。

Bitly
ハットさん
ハットさん

相手をその気にさせるためにはこちらがどれほど真剣に考え抜いたのかも大事です。自分が心底納得していないと修羅場で相手を説得することなどできません。

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