怒りやイライラに対処して、いかにパフォーマンスを安定させるか -感情に蓋をする-(全6回の2回目) #64

全般

今回は「感情に蓋をする」という話しをします(全6回の2回目)

 前回(63回)から「怒りやイライラに対処して、いかにパフォーマンスを安定させるか」というテーマを取り上げています。今回はその2回目で「感情に蓋をする」というお話しをします。

前回までのおさらい

 前回(63回)は次のような説明をしました。
◆人間誰でも日々感情に左右されて生きている。
◆だからと言って仕事のパフォーマンスまで感情に左右されることは避けたい。
◆とはいえ感情は基本的にコントロール不能だ。
◆でも自分の「考え方・言葉・態度・表情」ならコントロールできる。
◆そうならば、パフォーマンスを安定させるためには「考え方・言葉・態度・表情」をコントロールできるように訓練すればいい。
◆その方法論の全体像が次のとおり。

今回の記事で取り上げるのは「感情に蓋をする」方法

 今回は「感情に蓋をする」方法について説明します。この「感情に蓋をする」方法は、ラグビー日本代表チームのメンタルコーチを2012年から2015年まで務めていた荒木香織氏が著書「ラグビー日本代表を変えた『心の鍛え方』」で提唱している方法です。

「感情に蓋をする」とは?

アンガーマネジメントで推奨する「6秒待つ」は私にはできなかった

 前回の記事でも書きましたが、私は、感情をコントロールするのは無理との考えを持っています。ところで感情の中でも特に厄介なのが怒りの感情です。自分がどんなに気をつけていても、ふとしたきっかけでスイッチが入るし、あっという間に沸点まで達してしまいます。アンガーマネジメントでは、一般的に、怒りを「6秒」そらすことができればどんな怒りでもある程度治まると言われています。また別の方法として、物理的に距離を置く、例えばトイレに立つとか、部屋を出るとか、とにかく理由をつけてその場から離れることも怒りを治める方法として推奨されています。確かにそのとおりですが、現実にはそれができない状況・場面も結構あるのです。一瞬で怒りが沸点まで達し状況が刻々と流れている最中に、たとえわずか6秒間とはいえ深呼吸をしてやり過ごす余裕などまったくない場面や、いったんその場を離れることなどできない場面もあるのです。そんな理由から他に方法がないかを探していた時に知ったのが荒木香織氏の提唱する「感情に蓋をする」方法です。

荒木香織氏の提唱する「感情に蓋をする(思考停止)」のやり方

 荒木香織氏の提唱する「感情に蓋をする(思考停止)」方法を知ってもらうには、まずは荒木氏が著作の中で説明している箇所を読んでもらうのがいいでしょう。荒木氏の著作から抜粋して紹介します。

 上記説明にあるとおり、思考を停止する際には自分が決めておいたツールを触るなり見るなりするのですが、そのツールの具体例として、荒木氏は下記のような例を紹介しています。

 以上が「感情に蓋をする(思考停止)」方法の概要です。なお、思考停止のメカニズムについての学術的な根拠や説明については詳しく知りませんが、私が勝手に推測するに「パブロフの犬」と同じ原理と考えています。訓練するうちに、あるサインに対して脳が条件反射的に反応するようになると思われます。荒木氏の著作にも次のように書かれている箇所があります。

 荒木氏の提唱する「感情に蓋をする」方法は、衝動的・瞬間的に湧き上がってくる怒りにとても有効だと感じています。なにしろ何かを触ったり見たりしたら理屈抜きで脳が思考停止するよう訓練しておくわけで、そこには「6秒待つ」のような理性や忍耐力は一切求められません。もちろん荒木氏が注意しているように、何でもかんでも思考停止に頼るのは危険ですが、緊急避難として使用するのは大いにありでしょう。

(ご参考)私がやっている方法のご紹介

 荒木氏の方法を知ってからは、私もこのやり方を利用しています。ちなみに私がツールとしているのは左手薬指にはめている結婚指輪です。カッと怒りが湧いた瞬間に、左手親指の先端で左手薬指にはめている結婚指輪を触り瞬間的に思考停止する訓練をしています。
 なお蛇足ですが、このとき注意しているのが誰にも気がつかれないようにこっそり触るという点です。こちらが怒り狂っていることを対峙している相手に見透かされるとその後のやりとりが著しく劣勢に回るので、相手に少しでもその兆候を見せないようにすることは重要と考えています。私の経験で言うと、極限まで激怒している人は、手(または指先)が震える、親指と人差し指でつまむようなしぐさを頻繁に繰り返す、手のひらを開いたり閉じたりを繰り返すなど、なにがしか手にいつもと違った動きが現れることが多いと感じています。私はそれを見抜かれたくないので、思考停止ツールを発動するときには手の動きを悟られないようにするための訓練をあらかじめしています。
 いずれにしても、「感情に蓋をする」方法は、事前に十分な訓練さえしておけば自分を助けてくれます。ぜひお試しください。

 以上、急な怒りが沸き起こってきた時の緊急避難的な方法として「感情に蓋をする(思考停止)」のやり方をお話ししました。今回の記事はこれで終わりです。

次回の予告

 次回(65回)は感情に悩まされているときに、あえて「流れに身を任せる」ことでやり過ごすというやり方をご紹介します。

今回のまとめ

◆急な怒りが沸き起こってきた時の緊急避難的な方法として「感情に蓋をする(思考停止)」方法は役に立つ
◆具体的には次のとおり

おすすめ図書

「ラグビー日本代表を変えた『心の鍛え方』」(荒木香織)

 今回の記事本文で紹介した「感情に蓋をする」方法だけでなく、パフォーマンスを発揮するためのメンタルスキルがたくさん書かれています。著者の荒木香織氏はラグビー日本代表のヘッドコーチだったエディ・ジョーンズ氏からの要請で日本代表チームのメンタルコーチを務めた人です。そのような立場にあったため、この本で紹介されている具体例も五郎丸選手とのやり取りなどワールドカップに向けて選手たちと共に行ったプロセスが多く紹介されており、どのような状況の時にどのようなメンタルスキルが必要になるのか、そのためにどんな準備や心構えが必要になるのかなどが分かりやすく理解できます。
 どんな領域においてもプロと言われる人に共通していることではありますが、特に日の丸を背負ってワールドカップやオリンピックで勝負をするようなトップレベルのスポーツ選手たちは、普段から凄まじいプレッシャーにさらされています。そのような状況下で心の状態を安定的に保ちパフォーマンスを出すことは容易なことではありません。そのために荒木氏のような専門家がメンタルコーチとして選手を支える必要があるのです。そのような最前線で考え実践してきた荒木氏の主張には大いに参考になる点があります。心を鍛えたいと願っているすべての方にお勧めいたします。

Bitly
ハットさん
ハットさん

「感情に蓋をする」方法は、例えて言えば、マニュアル車でクラッチを踏むようなものだけれど、オートマ車全盛の今ではマニュアル車の運転経験のある人も少なくなっているだろうから、その例えだとイメージ湧かないだろうなぁ。

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