今回は「説得をする際の3つのアプローチ」について紹介します
今回は人を説得する際の3つのアプローチについて紹介します。
ところで、誰にとっても人生は説得の連続です。ロビンソン・クルーソーのように無人島にたった一人で生活するような環境にでも暮らしていない限り、他人を説得するという行為は避けては通れません。もちろん独裁国家の君主やワンマン会社の社長だったら説得なんか不要で、命令で足りるかもしれません。しかし、たいていの人にとっては、家庭でも職場でも学校でも他人を説得してお願い事をやってもらうしかありません。したがって、日々を生き延びるうえで説得に関する様々な技法を身につけておくことはとても大事なことです。
今回の記事で紹介する3つのアプローチは、スキルというほどの技法ではありませんが、誰かを説得する際の作戦を考えるうえでとても参考になるものです。もちろん3つのアプローチはどれも多くの人にとっては無意識に普段から試みているものでしょう。ただ重要なことは、説得をする際どのアプローチで進めるのかということを作戦として明確に意識しておくことなのです。そのため説得の作戦を考えるうえでは3つのアプローチを体系的に整理しておくと必ず役に立ちますよ、という意図で今回の記事を書いています。
説得をする際の3つのアプローチ
人を説得するには大きな作戦が必要です。その作戦を考えるうえでは、相手の何に訴えれば相手に響くのかという観点はとても重要です。この観点でアプローチを考えると、次の3つの型(パターン)に分類できます。
①メリット型
②規範型
③情緒型
それぞれを簡単にまとめると次のようになります。
相手の何に訴えるか? | ポイント | 備 考 | |
---|---|---|---|
メリット型 | 相手の利己心・利益(メリット)に訴える。なお利益にはマイナスの利益、すなわちデメリットも含む。 | 求める行為が相手にとっての利益(メリットまたはデメリット)となるかどうか? なったとしてもそれが重要なのか? | 説得ではまずはこのアプローチで考えるとよい。 |
規範型 | 相手の義務感・規範意識に訴える。 | 求める行為が相手にとって義務になるかどうか? | 法律・規則のように強制力が強ければ説得力を持つが、強制力がない場合には説得に苦労する。 |
情緒型 | 相手の感情に訴える。 | 相手の感情をどれだけ揺さぶることができるか? | このアプローチ単独では弱いため、通常はメリット型または規範型との合わせ技で使う。 |
上記3つの型を意識して説得のための作戦を具体的に検討すれば、説得の成功率は無策で臨むよりは高まると認識しています。もちろんそうは言っても、3つのどのアプローチを使っても説得が非常に難しい案件というものはあります。例えばイスラエル軍によるガザ地上侵攻を中止させるための説得などは、どのアプローチでの説得を考えても無力感を抱きます。それでも無策で説得をするのではなく3つのアプローチを総動員して作戦を練るということが大事なのです。
いずれにしても、今後重要な色々な説得をする際には、ぜひ3つのアプローチを思い浮かべて作戦を考えてみてください。
今回のまとめ
◆説得の作戦を考える時には次の3つのアプローチを想定して検討することが効果的。
◆「メリット型」アプローチでは、相手のメリット・デメリットにうまく訴えることができれば相手が受け入れてくれる可能性が高くなる。
◆「規範型」アプローチでは、法令・規則などで相手に強制できれば説得力を持つが、強制力はなくて単に相手の規範意識だけに訴えるのであれば説得力は限定的。
◆「情緒型」アプローチでは、いかに相手の感情に響くかがポイント。どんな雄弁家をもってしても感情に訴えるだけだったら相手は動かないかもしれない。
おすすめ図書
今回の記事は本書をベースにしています。具体的には、本書で提案している3つの技法を記事本文では「3つのアプローチ」として簡単に整理して図示しました。ただ今回の記事本文はあまりにも簡潔な説明でとどめ、本書で書かれている様々な説得に関する知見についてはまったく紹介していません。なぜかというと、本書で書かれている説得に関する内容が充実しすぎているので、もしも本ブログで紹介しようとすると何回かの連載物の記事になってしまうからです。そうなると長い記事となって本ブログを読む人の負担も増すので、今回は簡潔に「3つのアプローチ」だけを整理して紹介した次第です。
仕事などの現場においては、今回記事本文で紹介した「3つのアプローチ」を頭に入れておくだけでも十分に役に立ちますが、説得に関してもっと学びたいという人には本書を強くお勧めします。著者の草野氏は弁護士ですが、本書で書かれている説明はいかにも法律家らしく、法廷や交渉で培った切れ味鋭いものになっています。
ところで、本書の中に「事実の証明」という章があるのですが、法律に少しでもかかわりのある仕事をしている人にはこの章だけでも読んで欲しいです。また、「結果責任論と過失責任論」、「経営判断の原則」などの説明も経営者や取締役などの立場にある方には大変参考になります。表現も内容も若干堅めなので万人受けする本でないかもしれませんが、ロジカルにものを考えるのが好きな方で、かつ、日々厳しい説得に直面して何かヒントを求めている方にはぜひお勧めしたい本です。
①「影響力の武器 : なぜ、人は動かされるのか」(ロバート・B・チャルディーニ)
②「PRE-SUASION :影響力と説得のための革命的瞬間」(ロバート・チャルディーニ)
今回の記事では説得に関する大きな作戦を立てるうえでのアプローチを紹介しましたが、説得に関してまったく異なる側面から研究している本も紹介しておきます。
人はそもそもどんなことによって影響されるのか(その結果として説得されてしまうのか)を様々な実証実験で研究したのが上記の本です。上記のうち①「影響力の武器」はあまりにも有名な本なのでこのブログの読者なら知らない人はいないかもしれません。営業職にあるなど対人関係を専門に仕事をする人はもとより、どんな職業の人が読んでも対人関係面で必ず役に立つ内容が満載です。人の行動全般に関心がある人にお勧めします。
なお、今回の推薦にあたってはこの程度の紹介でとどめますが、もう少し知りたければ試しにAmazonの口コミの数とコメントを見てください。大絶賛されているのですが、それだけの価値がある本です。
メリット型の説得は、ワザが決まれば強力なのですが、困ったことにこちらが呈示したメリットに魅力を感じてくれないことも多いんですよね。
だからこそ「影響力の武器」で学ぶ必要があります。