信頼の方程式(信頼を勝ち取るための4つの要素) #52

リーダーシップ

今回は「信頼の方程式」に基づいて信頼を勝ち取るための4つの要素についてお話しします

 どんな仕事をしていても、お客様・取引先・上司・同僚・部下などから深く信頼されたいと思うのは誰でも同じでしょう。信頼を勝ち取るためには地道に誠実に頑張って結果を積み重ねていくしかないのですが、それをするにしても作戦は必要です。その作戦を考えるうえでとても役に立つのが今回お話しする「信頼の方程式」です。
 詳細は次項以下で説明しますが、簡単にいうと「信頼」の構成要素は4つからなるという考え方に基づいたフレームワークです。「信頼の方程式」は、信頼を得るためにどんなことに考慮すればいいのかのヒントを与えてくれます。

「信頼の方程式」とは?

 「信頼の方程式」とは、「信頼」を勝ち取るために必要な要素を4つに分類し、各要素間の相互関係を分かりやすく方程式の形で示したものです。

(出典)「プロフェッショナル・アドバイザー 信頼を勝ちとる方程式」(デービッド・マイスター、ロバート・ガルフォード、チャールズ・グリーン)をもとにハットさんが改変

 「信頼の方程式」は、「プロフェッショナル・アドバイザー 信頼を勝ちとる方程式」(以下「同書籍」という)で考案されている考え方として有名です。コンサルタントなどプロフェッショナル・アドバイザーの方ならおそらく一度は目にしたことがあるでしょう。
 ところで、この「信頼の方程式」は、コンサルタントにとっては耳の痛い指摘です。第50回目の記事(「空雨傘紙」の4つの要素で徹底的に考える)でも書いたのですが、コンサルタントは「空雨傘」までは確かに素晴らしいアドバイスをするかもしれません。しかし、「空雨傘紙」の「紙」すなわち行動・実行面だったり、寄り添い方(親しみやすさ)だったり、動機だったりで、イマイチ信用できないんだよね、のようなことはクライアントからよく聞く話です。さらに悪いことに、その割にそのことに気がついていないコンサルタントが多かったりもします。
 したがって、上記「信頼の方程式」は、コンサルタントをはじめとするプロフェッショナル・アドバイザーにとってはいつも念頭においておくべき注意事項ですが、それ以外でも信頼を勝ち取りたい全ての人にとって大事なことだと考えます。

「信頼の方程式」で注目して欲しいこと

 「信頼の方程式」で注目して欲しいは次の2点です。
①信頼(Trust)のこととなると、とかく専門知識や経験値など(Credibility)の面ばかりに着目しがちだが、実は行動面(Reliability)や親しみやすさ(Intimacy)も大事であること。
②4つ目の要素である自己中心的(自分本位)な動機(Self-orientation)は、信頼を得るうえでマイナス効果が著しく大きいこと(➡方程式が逆数の掛け算になっていることに注目)

 上記2点に注目したうえで、以下では「信頼の方程式」の各項目について簡単に説明させてください。

Credibilityの面

「信頼の方程式」の中の Credibility については、同書籍の中では「信憑性」と訳されていますが、要すれば、専門性や経験値の高さからくる頼りがいのことです。Credibility に関しては、同書籍で指摘している次の点に注意するといいでしょう。

◆信憑性は、単に専門知識の内容のことだけではない。それはコンテンツの専門知識に加え、どのように見えるか、行動するか、反応するか、あるいはコンテンツを話すかといったことに関係する「存在感」が加わったものである。これはアドバイザーの専門知識の本質的な実体だけでなく、それを理解する側の経験によっても左右される。関係の構築に関する章(第5章)のように、信用されるようになる方法だけでなく、クライアントに自分たちが信憑性を有していると感じてもらえる方法を見出さなければならない。行動で示すことが必要なのであって、言葉で主張するだけでは不十分なのである。
◆第一に、大半のプロバイダーが技術的な能力を根拠として売り込みを行うのに対し、買う側は感情面を重視する。(中略)
 もちろん(中略)正確なコンテンツをつかみ、自分たちがいかに優秀で、クライアントが求めている指導の中でどれだけ考え抜いてきたかという部分を伝達することは重要である。(中略)これらすべては理性面に直接的に訴えかけるのである。
 逆に信憑性の感情面の強化はあまり行わない傾向にある。たとえば誠実な印象を伝達し、不完全さに対する意識していないいかなる疑念をも緩和したりすることである。最高のサービス・プロフェッショナルは信憑性を伝達するにあたって、二つのことに秀でている。ニーズを予測することと一般的には明確にされていないニーズに関しての話をすることである。

(出典)「プロフェッショナル・アドバイザー 信頼を勝ちとる方程式」(デービッド・マイスター、ロバート・ガルフォード、チャールズ・グリーン)

Reliabilityの面

「信頼の方程式」の中の Reliability については、同書籍の中では「信頼性」と訳されていますが、要すれば、約束したことをきちんとやってくれるので頼りになるねということです。Reliability について同書籍では具体的に次のように説明しています。

信頼性(Reliability)を信憑性(Credibility)と区別するのはその行動思考である。
(中略)信頼性は、約束と行動との間のつながりの繰り返しの経験である。われわれは人の信頼性を期日の正確さと質の水準で判定する。「期日どおり、仕様どおりに仕上げること」である。もう少しやわらかくいえば、人が電話を返してくる時間、会議が中止されるか予定どおりか、あるいはTo-Do リストが完全に終わっているかによって、私たちは他者の信頼性を判断している。

(出典)前掲書

 なお、同書籍の中で面白いことを言っていています。信頼性(Reliability)というのは「期日どおり、仕様どおりに仕上げること」という理性面だけではなく、クライアントが好んだり慣れ親しんだかたち(例えば、洋服とかスピーチの言い回しとか)で遂行するという感情的な側面もあるというのです。確かにそういうことを繰り返していくうちに信頼性が構築されるというのはそのとおりです。

 ところで、信頼性(Reliability)に関して同書籍では次のようにも言っています。

優れたアドバイザーは、暗に陽に約束をし、それを果たすことによって、理性面および感情面での信頼性を実証するための機会を多く見出す(あるいは創り出す)。

(出典)前掲書

 結局のところ、言ったこと・約束したことをきちんとやり切るということが信頼を得る基本であり、これを地道に続けていくしかありません。

親密さ(Intimacy)

 「信頼の方程式」の中の親密さ(Intimacy)というのは、単に愛想がいいことをいうのでもないし、いつもいつもウェットな人間関係で接するということでもありません。親密さ(Intimacy)とは、相手に寄り添う共感力であり、大事なことは、相手に対する思いやり・リスペクト・共感などの気持ちがあるかどうかでしょう。親密さ(Intimacy)を欠いていれば信頼を得るのは難しいです。
 なお、同書籍の中では次のような注意点も挙げられています。

◆必ずしもこの親密さを通じて私生活まで共有すべきだと言っているわけではない。直近の課題に関係する個人的な事象を共有すべきだと言っているのである。
◆親密さとは、身近な問題に関係した「感情面での距離の近さ」のようなもの(以下略)
◆このような勘違い(必要以上の親密さを想定する)を犯してしまうという恐れを非常に多くのサービス・プロフェッショナルたちが抱いている。親密さとは非常に繊細なものである。(中略)
親密さは、もし悪い方向に向かえば、その影響は甚大だと思われる一要素である。

(出典)前掲書

 確かに「親密さとは非常に繊細なものである。親密さは、もし悪い方向に向かえば、その影響は甚大だと思われる一要素」という点はそのとおりであり、常に気をつけておかなければいけません。しかし一方で、親密さが全く欠けた対応も大いに問題です。要はそのバランスが大事だということです。

Self-orientationの面

 「信頼の方程式」の中の Self-orientation については、同書籍の中では「自己志向性」と訳されていますが、要すれば、自己中心的かどうかということです。同書籍では次のように説明しています。

クライアントのために働こうとするより、自分自身に対する関心が強いように思われるアドバイザーほど大きな不信の源となるものはない。(中略)
自己志向性のもっとも強いかたちがもちろん「お金のことだけ考えている」という単純な利己主義である。

(出典)前掲書

 誰のためにやっているのかと問われて、自分の「お金のため」「名声のため」「地位のため」「プライドのため」、などと言われたら、誰だって残念な気持ちなり、その人のことを心底尊敬し信頼する気など起きません。だから、Self-orientation 以外の3つの要素(Credibility、Reliability、Intimacy)がどんなに素晴らしくても、Self-orientation の内容がひどいものだったら、信頼を大きく毀損することになるのです。
 逆に、自分のことを熱心にサポートするためにやってくれたり、もっと言えば、高い志のためにやっているのなら、その人を応援もしたくなるし、信頼もしたくなります。それが人情というものです。
 第37回目の記事(ビジネスモデルキャンバス(事業の今後を考えるうえでも、個人のキャリアアップを考えるうえでも有効なツール))の中でも紹介した下記の話しを読んで、どの石工を信頼したくなるかは自明でしょう。

(中略)何をしているのかを聞かれた3人の石工の話。
 1人は「これで食べている」と答え、
 1人は手を休めずに「国でいちばん腕のいい石工の仕事をしている」と答え、
 1人は目を輝かせて「教会を建てている」と答えたという。(注1)
すると、最後に奥にいた四人目の男が答えた。
 「私は皆の心のよりどころを作っている」と。(注2)

(出典)
注1:「現代の経営(上)」(P.F.ドラッカー、上田惇生(翻訳))を改変。
注2:「実践するドラッカー【思考編】」佐藤等[編著] 、上田惇生[監修]より。
なお、いずれもハットさんがオリジナルにはない改行を追加している

 なお、高い志といえば、名経営者と謳われた稲盛和夫さんの次の精神も常に忘れずにいたいものです。

◆おのれのことは脇に置いて、まず他人を思いやる、あたたかな心の発露(中略)、「利他」の心とは、仏教でいう「他に善かれかし」という慈悲の心、キリスト教でいう愛のことです。もっとシンプルに表現するなら「世のため、人のために尽くす」ということ。(以下略)
◆人にもよかれという「大欲」をもって公益を図ること。その利他の精神がめぐりめぐって自分に利をもたらし、またその利を大きく広げもするのです。(以下略)
◆感謝や誠実、一生懸命働くことや素直な心、反省を忘れない気持ち。恨んだり、妬んだりしない心、自分よりも他人を思いやる利他の精神(以下略)

(出典)「生き方」(稲盛和夫)

 「そもそも何のためにやっているのか?」ということを利他の精神でとことん考えておくこと。今流行りのパーパス経営でも同じです。

今回のまとめ

「信頼」を勝ち取るためには「信頼の方程式」に基づいて考えること。

おすすめ図書

「プロフェッショナル・アドバイザー 信頼を勝ちとる方程式」(デービッド・マイスター、ロバート・ガルフォード、チャールズ・グリーン)

 今回の記事で紹介した「信頼の方程式」のみならず、クライアントからの信頼を得るために必要な基本的な考え方を学ぶことができます。本書の原著タイトル「The Trusted Advisor」(「信頼されるアドバイザー」)から想像できるように、本書でターゲットとしている読者は専門家としてコンサルサービスを提供しているような立場にある方です。私は会計士という立場で長年仕事をしてきましたが、本書の内容はとても有益でした。もちろん長年仕事をしてきた人が読むと、新しい発見があるというよりも俗人的に身につけてきた仕事のやり方を体系的に整理してくれたというような印象を受けるかもしれません。それはそれで意味あることだし、まだ新人レベルにある人が読めば基本を学べます。いずれにしても一読をお勧めします。

 なお、本書の翻訳はあまりこなれていなくて若干読みづらさを感じるかもしれません。その点は残念な点ですが、一方で、すごく難しい内容の本でもないので、あまりに気にせず、まずは読み通すことを優先した方がよいでしょう。

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ハットさん
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