クリティカルシンキングの基礎(四分割表で考える)#25

論理的思考・議論術

今回は「四分割表で考えること」を提案します

 今回は、クリティカルシンキング実践の具体的なテクニックの一つとして「四分割表で考える」ことを提案します。

「四分割表で考えること」と「クリティカルシンキング」との関係性

 「四分割表で考えること」の説明の前に、そもそもクリティカルシンキングとは何か、そして、「四分割表で考えること」とクリティカルシンキングとはどんな関係があるのか、を説明させてください。

クリティカルシンキングとは

 20年くらい前からビジネス書を中心にクリティカルシンキングという言葉が登場するようになり、最近ではビジネスに必須の考え方としてすっかり定着した感があります。このクリティカルシンキングというのは、「何事も無批判に信じ込んでしまうのではなく、推論の仕方は妥当か、根拠は正しいかなど慎重に考えて判断する考え方」のことです。簡単に言えば「ものごとをきちんと考えて判断しましょう」ということです。

クリティカルシンキングの必要性と「四分割表で考える」テクニック

 クリティカルシンキングとは「何事も無批判に信じ込んでしまうのではなく、きちんと考えて判断すること」ですが、そうと聞くと「なんだ、それだけのことか。それなら簡単」と思われるかもしれません。しかし、日常の中でクリティカルシンキングを実践することは言うほど簡単なことではありません。なぜなら、忙しい日常の中でいちいち立ち止まってじっくり考えることは手間も時間もかかり、とても面倒なことだからです。どんなときでもクリティカルシンキングの徹底が必須というわけではないのでその点は気が楽なのですが、逆に気を付けなければいけないのは、何でもかんでもすべて無批判に信じ込んでしまう姿勢も問題であるということです。言われるがまま何も疑わずに信じていたら、詐欺まがいな主張やとんでもないウソに騙されてしまう可能性もあり、致命的な失敗をしかねません。そのため重要な場面ではクリティカルシンキングでじっくり考えることが必要です(もちろんメリハリも考慮すべきですが…)。
 ところで、じっくり考えるためにはどうしたらいいでしょうか。それにはちょっとしたテクニックさえ身につけておけば問題ありません。その一つとして「四分割表で考える」テクニックを紹介させてください。クリティカルシンキングを実践する際には知っておきたいテクニックがいくつかありますが、その中でも「四分割表で考える」テクニックはとても役に立ちます。

四分割表で考えるテクニック

 ここからは四分割表で考えるテクニックを簡単な例でご紹介します。
例えば、次のような主張があったとします。

◆見た目が汚らしい店ほど実は料理の味が美味い。

 この主張に対してあまり深く考えないと「ああ、なるほど」などと思ってしまうかもしれません。しかし、四分割表で考える人は冷静に次のような表を頭に思い浮かべて、主張が正しいかどうかを考えます。

【表1】

 上記の表1のようになっていたら、店の見た目の汚さ加減とその店の料理の味とは何の相関関係がないことが分かります。
 逆に次のようになっていたとしたらどうでしょうか?

【表2】

上記の表2の場合には次の2つのことが分かります。
 ①見た目が汚いお店よりもきれいなお店の方が料理の味がおいしい可能性が高い。
 ②見た目が汚い店の中で選ぶと料理の味がおいしくない可能性の方が高い。

 上記は架空例なので主張内容が本当かどうかはここでは無視してください。ここで注目して欲しいのは、とかく実際の議論の際には四分割表のA欄だけに焦点を当てて議論していることが多いということです。しかし、A欄だけで議論してもその議論が正しいのか間違っているのかは判断しようがありません。
 上記の架空例でいえば、たまたま汚らしいお店に期待せずに入ったら、期待に反してその店の料理が美味しかったことを理由に、「見た目が汚らしい店ほど実は料理の味が美味いんだよね」という主張をされても、その主張が正しいのか間違っているのかはなんとも言えないということなのです。C欄の「見た目が汚くて、味もまずい」ケースや、B欄の「見た目がきれいで、味もおいしい」ケースがどれくらいあるのかを併せて示してくれないと、「汚い店ほど料理の味がおいしい」かどうかは分からないのです。

 ここでもう一つ例を挙げます。相手が次のような主張をしてきたとします。

◆(X大学出身者のあなたに対して)X大学出身者にはロクでもない奴が多いんだよね

 このような主張に対しては感情的になってすぐに反論したくなるのは山々なのですが、その気持ちをぐっと抑えて、頭の中で次のような四分割表を思い浮かべて考えることが大事です。

【表3】

 上記の表3のB欄・C欄はどのようになっているのかを冷静に考えてみましょう。場合によっては相手にも問いかけてみましょう。そうしてB欄を確認すれば、その他の大学出身もロクでもない奴ばかりかもしれないし、あるいは、C欄を確認すれば、X大学出身者は実は「ロクでもない奴」以外の人の方が多いかもしれない、ということが判明するかもしれません。
 このように四分割表で考えてみると、考えるべきポイントが明確になり、どういう状態なら主張が正しいのかの判断がしやすくなります。

 繰り返しになりますが、ポイントは「(A欄について)~だ」という主張に対して、四分割表を直ちに頭に思い浮かべ、B欄・C欄の可能性も考えてみたうえで主張の正当性を評価することです。このことを習慣化するだけで、クリティカルシンキングで考えられるようになり、調子のいい宣伝文句などにも騙されにくくなります。
 最後に練習問題として、次のような主張に対して各自が四分割表で考えて、突っ込みを入れてみてください。
 (練習問題)
 ◆成功した人はみなこの神様に拝んでいました。

 四分割表で考えると、突っ込みどころ満載な主張ですよね。

今回のまとめ

◆クリティカルシンキングとは、何事も無批判に信じ込んでしまうのではなく、きちんと考えて判断すること。
◆クリティカルシンキングを実践する一つのテクニックとして、四分割表で考えるクセをつけること。

おすすめ図書

『クリティカル進化(シンカー)論―「OL進化論」で学ぶ思考の技法』(道田泰司、宮元 博章)

今回の記事でも説明したとおり、クリティカルシンキングとは「何事も無批判に信じ込んでしまうのではなく、推論の仕方は妥当か、根拠は正しいかなどを慎重に考えて判断する考え方」のことです。これは理屈っぽい人にとっては目新しいことではないのですが、今まで深くものを考える習慣の乏しかった人にとっては、ちょっとした訓練が必要になります。その訓練に最適なのが本書です。
本書はクリティカルに考えるとはどんなことをいうのか、易しく丁寧に段階を踏んで教えてくれる良書です。クリティカルシンキングに馴染みのない人が入門書として勉強するには最適ですし、この一冊を理解しておけばクリティカルシンキングの基礎として十分です。
本書の巻末に「今後の読書案内」として何冊かの推薦図書が載っていますが、それらも良書であり、ぜひ読んで欲しいです。

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①「クリティカルシンキング 入門篇:あなたの思考をガイドする40の原則」(E.B.ゼックミスタ、J.E.ジョンソン)

②「クリティカルシンキング 実践篇:あなたの思考をガイドするプラス50の原則」(E.B.ゼックミスタ、J.E.ジョンソン)

上記で紹介した『クリティカル進化(シンカー)論―「OL進化論」で学ぶ思考の技法』の巻末の推薦図書の中でも紹介されているのがこの2冊の本です。もともと原著は1冊の本ですが、紙数の都合などで入門篇と実践篇の2冊に分けて出版されています。できれば入門篇と実践篇の両方とも読むことをお勧めします。

ところで、クリティカルシンキングというと何か特別な考え方に関する方法論を指していると誤解している人がいるようなのですが、そうではなくて、「なんでも無批判に鵜呑みにするのではなく、筋道だってきちんと考えましょうね」というだけのことです。論理学のように1つの学問体系のように誤解してしまうかもしれないのですが、繰り返すと、筋道だって考えましょうというだけのことです。
 もちろん筋道だって考えるには、本ブログの第14回目の記事(ロジカルシンキングの基礎(演繹法と帰納法))のように論理的(ロジカル)に考えること(ロジカルシンキング)も必要ですし、第6回目の記事(生産的な議論をするための「トゥールミン・モデル」)でも説明したような「トゥールミン・モデル」のような考え方や、第11回目の記事(実態を問う質問(影響を問う))で紹介したような「システム・シンキング」のような考え方も必要になります。つまりクリティカルシンキングを実践するためには、例えばロジカルシンキングなどが必要になるということです。しかし、このあたりのことをよく理解していないために、クリティカルシンキングとロジカルシンキングの違いや関係性が分からないという人が出てくるのかもしれません。
 いずれにしても、上記2冊の本では合理的なものの考え方について、様々な事例をもとに具体的に説明してくれます。それらは「ロジカルシンキング」や「トゥールミン・モデル」といった考え方とも大いに重なる内容となっています。
 ただし、上記2冊の本は、心理学をベースに説明が進み「ロジカルシンキング」や「トゥールミン・モデル」といった切り口で説明されていないこともあってか、一見すると「ロジカルシンキング」や「トゥールミン・モデル」とはまったく無関係な本として認識されてしまうかもしれません。しかし、本書が終始一貫説明しているのは、合理的にものを考えるとはどういうことかということであり、その意味において、本書の説明の一部において、ロジカルシンキングやトゥールミン・モデルと実質的に同じ内容のことが出てくるのは当然です。
 このあたりのことまで読み取って欲しいのですが、さすがに初心者では難しい面もあるかもしれません。とにかく繰り返し読んで欲しい本です。間違いなく学びが得られます。

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ハットさん
ハットさん

「四分割表で考える」ということに関連していうと、以前の記事で何度か登場した「マトリクス」も発想は同じです。

例えば、第14回目の記事(分析における「全体の把握と絞り込み」)で説明した「感度の良い切り口で絞り込む」ときのマトリクス(四分割表)や、第20回目の記事(分かりやすい説明のための心構え)の「構造化と視覚化」で使ったマトリクス(四分割表)も、思考を整理するという点での発想は同じです。
四分割表(マトリクス)の考え方は応用範囲がとても広いので、ぜひ自分の技として磨きをかけてください。

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