今回のテーマは「分かりやすい説明のための心構え」です
今回はプレゼンテーションに向けた第一歩として、分かりやすい説明のための心構えというテーマでお話しします。お伝えしたいことを最初に整理しておくと次のようになります。
【分かりやすい説明のための心構え】
分からない説明に共通していることとは?
会話でも文章でも、何度聞いても読んでも何を言っているのかさっぱり分からない説明がある一方で、一度でスッと理解できる分かりやすい説明もあります。両者の違いがどこにあるのかを突き詰めて考えてみると、次の2つ状態の違いにあるのではないでしょうか。
①説明者の説明のレベルと受け手(聞き手・読み手)のレベルが合っているか?
②説明の全体像や現在地が分からず、受け手(聞き手・読み手)が迷子になっていないか?
受け手のレベルに合っていない説明をしてしまう具体例としては、例えば会計学を全く学んだことのない人に対していきなり「税効果会計の回収可能性についてですが…」のように説明して何のことやらチンプンカンプンに感じさせてしまうようなケースです。
また、受け手(聞き手・読み手)を迷子にさせてしまう説明の具体例としては、これから伝えたい内容の全体像・全体地図・目次のようなものを最初に示しておかないために、現在説明している内容がどの段階の話しなのか(現在地)、説明の最終ゴールがどこなのか(目的地)などがさっぱり分からなくなってしまうようなケースです。
分かりやすい説明のための心構え
結局のところ、分かりやすい説明をするためには最低限、次の2つが必要ということです。
①受け手(聞き手・読み手)のレベルに合わせた説明をすること
②伝えたい内容の全体像・全体地図・目次のようなものを最初に示しておき、受け手を迷子にさせない工夫をすること
この2点にもう少し項目を追加して整理すると、冒頭でも紹介した次の図になります。
以下では、上記図の項目ごとに順に補足説明します。
説明者のおもてなしの心
分かりやすく伝えようと思ったら、説明者は受け手に対して親切心・おもてなしの心を持つということが大原則でしょう。上から目線な気持ち・態度で説明したら伝わるものも伝わりません。この点は分かりやすく説明する際の心構えの大前提として強調しておきます。
構造化と視覚化
構造化に関しては17回目の記事「分析のゴール(メカニズムを明らかにして構造化する)」で分析の観点からすでに触れましたが、人に分かりやすく説明をする際にも重要になります。情報が次のように構造化されていれば、受け手の理解が容易になるからです。
①全体像(全体地図・目次など)
②登場する要素の関係性
③優先順位など
なお、構造化は、文章・数値・数式・表などでも表現できますが、パッと見にわかるような図解として視覚化されていることが理想です。
構造化と視覚化の有無によって、情報の分かりやすさは次のように分類されます。
説明者が自分で理解するためにも構造化は大事ですが、分かりやすく説明するためにも、その構造化した情報を最初に見せながら説明することが大事です。しかし、これを実際にやるとなるとかなりハードルが高いです。なぜなら、構造化できるほど説明者が本質的な部分まで解明・理解しているのかというと、そうではないことも多いからです。しかし、たとえ説明者が十分に理解していない場合であっても、分かりやすく伝えなければならない場面も実務では多々あります。
そういう場合には、構造化まで至らなくてもいいので、せめて図解のように視覚的に表現するよう工夫することです。例えば、とりあえずホワイトボードに絵を描いて説明するなどをすれば、説明の分かりやすさは格段に増します。こんな言い方をしたら不誠実に聞こえるかもしれませんが極端に言えば、図解で何となく分かった気にさせて当座をしのぐ説明のやり方もありうるのです。だから、分かりやすい説明をするために、常日頃から図解化の技術を磨いておく必要もあります。
意味(内容)の目線合わせ
何かを説明するときだけではなく、コミュニケーション全般に言えることですが、会話をしているときに、暗黙の前提や使っている言葉・用語に関してお互いの認識が一致していることはまれです。むしろ同じ言葉・用語を使っていても、お互いが想定している意味に微妙なズレがあると思った方が安全です。したがって、分かりやすい説明を心がけるうえでは、お互いが想定している議論の前提や言葉の意味にズレがないか、どこかで目線を合わせておくことが望まれます。
本来であれば説明の最初に目線合わせをするのが好ましいのですが、実務上難しい面もあります。丁寧な目線合わせから説明を開始すると、話しがどうしても冗長になります。そうすると、説明のスタート段階で話しについていけなくなり、脱落する人も出てきかねません。そのため状況によっては、大前提・言葉・専門用語などに関する認識のズレを承知のうえで説明を先に進め、大筋の分かりやすさを優先するという作戦も有力です。それが次の項の「説明の工夫」です。
説明の工夫
とかく専門家の説明にありがちなことですが、最初から細かいミクロ部分についての厳格な正確性にこだわって説明を始める人がいます。しかし、受け手の知識レベルが説明者のレベルにまで至っていない場合には、その説明ではすぐに何の話しをしているのか受け手はついて行けなくなります。
そうならないためには、まずは大きなマクロの話しをして、「大雑把に言えばこういうこと」という一定のイメージを受け手に抱かせることが大事です。その段階では、厳密に言えば少々正しくない説明になることもあるのですが、正確性を放棄してでも大筋の理解のしやすさを優先した方が結果的に分かりやすい説明になることが多いとの印象です。
大筋のイメージを抱かせることができれば、そのあとに徐々に詳細かつ厳密な説明をしていけばいいし、目線のズレも少しずつ合わせていけばいいのです。
この大筋で理解させる説明方法では、次のやり方の巧拙が重要になります。
①分かりやすい身近な事例にたとえながらイメージを抱かせる(比喩表現)
②受け手のレベルに常に合わせて比喩を考えていく
③説明のストーリーを工夫する(具体性、意外性、感情移入)
上記①から③についての具体的な方法については、今回の記事で説明する余裕がありません。今回はおすすめ本を紹介するにとどめますが、いつか独立したテーマとして説明予定です。
なお、たとえ話や具体的なストーリーにそって大筋を理解させようと工夫するのは、ちょっと乱暴な言い方をすれば、素人相手に難しい説明を厳密にしたところでどうせ分かってもらえないからです。ということは、逆に言うと、相手がその道の専門家・玄人の場合には、大筋の分かりやすさを優先して厳密に言えば正しくない説明をすると、ものすごく反発を買ったり、その説明には同意できないとか、説明がよく理解できないとか、こきおろされることがあります。このあたりの見極めと使い分けをうまくするにはそれなりの経験が必要です。
この点に関して、野口氏の本にも似たような文脈で面白いことが書いてありました。それを最後に紹介して、この項を終わりにします。
抽象化とモデル化
(出典)『「超」文章法 伝えたいことをどう書くか』(野口悠紀雄)
具体例で示すのは、抽象的概念が一般にはわかりにくいからである。しかし、数学の専門家と話していると、「あなたの話は具体的すぎてわからない。もっと抽象的に話してください」と言われることがある。たしかにそうだ。抽象概念のほうが適用できる範囲が広く、そして論理のつながりも明瞭なのである。(以下略)
今回のまとめ
【分かりやすい説明のための心構え】
おすすめ図書
①『「分かりやすい表現」の技術 意図を正しく伝えるための16のルール』(藤沢晃治)
②『「分かりやすい説明」の技術 最強のプレゼンテーション15のルール 』(藤沢晃治)
①の本では、「分かりにくい表現」とは具体的にどんな表現なのかを世の中で見かけるたくさんの実例で示してくれます。さらにこれらがなぜ分かりにくいのかの理由を解き明かしてくれ、ついでにこのように改善すれば分かりやすくなるという手本まで見せてくれます。こうやって「分かりやすい表現」にするために必要なことをしつこく考えさせてくれる良書です。最終章では、分かりやすい表現のルールを16個にまとめ、それぞれのルールごとにチェックすべきポイントを挙げチェックリストのように活用できるようになっています。文章を書いたりプレゼンをしたりする際に、無駄に分かりづらい資料を作らないためにぜひ参考にして欲しい本です。
また②の本は、口頭での説明を想定して、分かりやすくするための具体的な方策を教えてくれます。たとえば、「『間』を置きながらしみ入るように話せ」とか、「聞き手の注意を操作せよ」のような実践的なアドバイスもあり、①の本と併せて読むと参考になるでしょう。
「なんでも図解 絵心ゼロでもできる! 爆速アウトプット術」(日高由美子)
情報を図解化することに不慣れな人が図解化のための基礎を学ぶのに適している本です。一見すると単に絵心を学ぶだけを目的とした本のようにも見られがちですが、登場人物・構成要素の関係性の表現方法・キーワードの拾い方など、構造化を考える際に役立つちょっとしたヒントも教えてくれます。
しっかりした会社で仕事をしている人であれば本書に書いているようなテクニックは先輩たちの立ち居振る舞いをみて自然に盗んで身に着けていくのでしょうが、必ずしもそのような環境にいなかった人にとっては、とても参考になるでしょう。本書に書いているようなテクニックを身に着ければ、打ち合わせ中にホワイトボードを使ってサッと図解するようなこともそれほど苦手意識なくできるようになると思います。
人に何かのメッセージを伝える時のアイデアを生み出すために大変参考になる本です。私は、仕事でのプレゼンでも、部下の結婚式で主賓スピーチを依頼されたときでも、講演会で講演をするときでも、とにかくストーリーを考えるときに、いつもこの本からヒントをもらいました。今回の記事のテーマである「分かりやすい説明の心構え」という観点でいうと、説明の工夫という面でも本書からは大いに学ぶべきことがあります。今回の記事で私が図式化した「ストーリー性(具体性、意外性、感情移入)」という考え方も、実は本書のアイデアから拝借したものです。
本書では、人を行動に駆り立てるようなメッセージに共通する要素として、以下の6つを挙げています。
(1)単純明快である(Simple)
(2)意外性がある(Unexpected)
(3)具体的である(Concrete)
(4)信頼性がある(Credible)
(5)感情に訴える(Emotional)
(6)物語性(Story)
上記6つの考え方は、メッセージを考えだすうえでとても参考になります。スピーチやプレゼンを目前にしてワラにもすがるように何かのヒントを求めている方にはぜひ読んで欲しい本です。
プレゼンをする際の有名なテクニックとして、例えば、PREP法(Point → Reason → Example → Point の順で発表する方法)とか、SDS法(Summary → Details → Summary の順で発表する方法)があります。
これらはある意味小手先のテクニックなので、簡単に覚えられます。それよりは、今回の記事で説明した「分かりやすい説明の心構え」を頭に刻み込んでいた方が応用が利き、ゆくゆくは自分を救ってくれることになるはずです。
ただ、PREP法とか、SDS法といった方法も即効性のあるテクニックとして役に立ちますから、そのコツなどを第44回目の記事(説明・プレゼンで使える4つのフレームワーク)で取り上げました。こちらもぜひ合わせてお読みください。