分析における「全体の把握と絞り込み」#14

分析力・問題解決力

今回のテーマは分析における「全体の把握と絞り込み」です

 12回から「分析」を行う際に留意しておく考え方について説明をしています。今回のテーマは、分析における「全体の把握と絞り込み」という内容のお話しをします(なお今回の記事は、12回記事「分析を行う際の考え方(総論)」から続いています)。

前回までのおさらい

 まずは前回までの説明を簡単におさらいしておきましょう。
12回目から後正武氏の本(『意思決定のための「分析」の技術』)から分析のエッセンスを私なりに構造化した下記図に従って分析の考え方を説明しています。

前回までは次のような説明をしました。

<12回目の記事:分析を行う際の考え方の総論>
「分析」では考え方が大事です。全体がどんな要素から構成されているのか、核心となっている事は何なのか、それがどんな意味を持っているのか、のように根本的に考えること。

<13回目の記事:「①大きさの程度と重要度」を考える」>
分析に限らず何をするにしても、まずは重要性の高いものから優先順位をつけるクセをつけること。その優先順位に従って事を進めること。ゆめゆめ思いついた事から始めない。
重要性を判断する際には次の5つの観点を意識すること。
 ①量的重要性
 ②質的重要性
 ③広範性
 ④発生可能性(確率)
 ⑤緊迫度・緊急度

 今回の記事では、上記構造図の「②全体の把握と絞り込み」について説明します。 

分析は今後の有効な打ち手につながる意味合いを読み取れるものでなければならない

 前回の説明は、一言でいうと「分析する前に優先順位をつけて大事なことから分析を始めましょう」ということでした。もっとストレートな言い方をすれば、「やっても結果に影響しないような些末な分析なら初めからするな」ということでした。
 それではいよいよ分析開始ですが、その前にもう一つだけ留意しておくことがあります。分析をした結果として最終的に何を目指しているのかをきちんと把握しておくことです。言い換えれば、経営上意味ある分析をするということです。分析の中には、分析自体が目的というか、結果はともあれ、まるでアリバイ作りのように分析をしていることもあるかもしれませんが、それは本当にむなしいことです。分析する以上は「経営上どんな意味があるのか、そして今後どんな打ち手をとればいいのか」などを明確にすべきだし、分析結果の報告を受けるマネジメントもそれを期待しています。
 だから、分析の最終的な目的は何なのかということの十分な理解なしに、なんとなく分析を始めてはいけません。まずは関係者間で分析の目的についての認識合わせをしておくことが大事です。例えば、マーケットにおけるある環境変化について分析するなら、わが社にとってどんな影響があるのか、その影響に備えてどんな準備をすればいいのか、どんな改善策を検討すべきなのか、といった分析のゴールを関係者間で明確にしておくべきです。
 次の文章は後氏の本からの引用ですが、ぜひ何度も読み返して欲しい言葉です。

 現状の把握・分析が進むと、そこから経営上の意味合い(マネジメント・インプリケーション)を読み取り、現在の戦略や戦略のあり方についての、当否・改善の方向診断することが必要となる。(中略)
 経営における発見や分析は、それがなんらかの形で経営判断に役に立たない限り、無駄な作業として切り捨てるべきものである。逆に言えば、あらゆる発見・分析は、経営上の意味合い(マネジメント・インプリケーション)を導き出すために行われる。(中略)
 事実の把握・分析は、マネジメント・インプリケーションを読み取るために行うのでなければ意味がない。その上で、それらの発見を重要度の順に整理して正しく判断に導くことが重要であり、それ以外の発見は、いかに知的に面白くてもノン・イッシューである。優れた戦略家は、例外なく判断のための鍵となる事実を見極める能力を持ち、重要度の順に整理して、実用する能力に優れている。
 「診断をする」という行為は単に良い・悪いの批評することではない。何をなすべきか、マネジメント・アクションにつながる意味づけを内蔵したものでなければならない。そのような眼で事実を把握し、意味づけるための判断の枠組みが必要となる。

(出典)「経営参謀の発想法」(後正武)(注)ハットさんが一部太字にした。

 なお、分析というといつも思い出す言葉があり、長くなりますがどうしてもここで紹介させてください。元プロ野球監督の野村克也氏がとても考えさせることを言っています。

(途中省略)
 私はいつもスコアラーには「なるべく細かいデータを出してくれ」と注文している。「新聞社やテレビ局が出すようなデータはいらない現場に生かせるデータを出してくれ」と。
 例えば、私が必要としているデータはこういうものだ。 ボールカウントは十二種類ある。初球はどんな球種の球を、どこのコースに投げることが多いか。カウント○-一ではどうか。カウント○-二では……。 十二種類のボールカウントごとにそれを分類し、傾向を出してくれと依頼した。

(出典)「無形の力」(野村克也)(注)ハットさんが一部太字にした。

 ヤクルトの監督になったとき、スコアラー諸君が持ってくるデータは、たいがいが「このピッチャーは百球のうち、ストレートが何パーセント、カーブが何パーセント」「この バッターは右へのホームランが何パーセント、左へは何パーセント」といった類いのものだった。私は言った。
そんなものはテレビ局に持っていけ!
 私がほしいデータとは、そういうものではなかった。たとえば、「このピッチャーはストレートを何球続けて放るのか」「牽制(けんせい)は何球まで続けるか」 「ボールカウントごとの配球はどうなっているか」「こういう状況ではどんなボールを投げてくるのか」 「サインに首を振ったのはどんなときだったか」……というような、状況ごとのいわば「心理」に関する データがほしかったのである。
 状況によって、バッターの心理は変わる。
 ボールカウントには0-0からはじまって2-3(ツーストライク・スリーポール。 ボール カウントは、ボール、ストライクの順で表記するようになったが、本書ではストライク、ボールの順で統一させていただく)まで、十二種類ある。初球は、ピッチャーもバッターも五分五分だと言っていい。しかし、一球目がキャッチャーのミットに収まった瞬間から、状況は変わる。(中略)

(出典)「野村の遺言(野村克也)」(注)ハットさんが一部太字にした。

 私は、ヤクルトの監督になってすぐに、スコアラーのデータ改革に着手した。
 具体的にはスコアラーの提出するデータを細分化したのである。(中略)たとえば縦横各三マスの計九マスが当たり前だったストライクゾーンを(中略)合計八十一のマスをつくらせた。そして、この八十一のマスを使って、打者によっての 空振りゾーン(通常内寄りの高めボールゾーンへの直球)、ゴロゾーン(内外角、ベース上 の低めいっぱいへの変化球)、ファウルゾーン(ストライクゾーンからボール一個分内角へ の変化球)を分析させた。
 たとえば、A選手は、「(左打者の外角の))三十三〜三十七は手を出しませんが、ボールひとつ甘く入った四十三~四十七はホームランゾーンです」 というように、相手の選手ごとに分析するようにしたのだ。(中略)
 チェックするのは打者だけではない。 投手のピッチングの傾向、クセの発見、牽制球の傾向、たとえば、何球まで続けて牽制球を投げてくるかも調べ上げた。
 さらには捕手の配球の傾向 (クセや習性)も徹底的にチェックした。
 たとえば、配球にはカウント○-○から二三まで全部で十二種類あるが、ボールカウント別の配球にどんな傾向があるかを割り出した。 また、打者が大きく空振りしたときや甘いまっすぐを見逃した後、あるいは打者が思いきって引っ張ってファウルした後に、ピッチャーにどんな球を要求するかなどもチェックした。(以下省略)

(出典)「野村の実践『論語』(野村克也)」(注)ハットさんが一部太字にした。

 野村氏は「このピッチャーは百球のうち、ストレートが何%、カーブが何%」のような分析ならそんなものは要らない、「そんなものはテレビ局に持っていけ!」と言います。
 現場の人間は判断・決断・実行の連続で、最終的には自分の結果に対して全責任を負っています。だからこそ、自分がどうしたら少しでも良い結果を出せるのかに役立つ分析データを望んでいます。それなのに、結果責任を負わないお気楽な立場の人(この例では新聞社やテレビ局)が出すような分析データを提供されても、そんなの実戦では何の使い道もないと切り捨てられて当然です。リアルで具体的な状況を無視した一般論の分析など実戦では全く意味がないというこの野村氏の言葉は重いです。実務で分析に携わる者は常に心に留めておくべきです。

分析の作戦を考えるうえで重要な2つのこと(全体の把握と絞り込み)

分析の目的を理解したらいよいよ分析を開始です。作戦として次の2つのことが大事です。
 ①全体像の把握
 ②絞り込み(分けること)

以下で順に説明します。

全体像の把握

全体像を把握する意味

 何かを分析するには、まずは検討対象の実態(事実)把握が大事です。例えば、経理業務で起票ミスが頻発しているからこれを防止するためにどうすればいいのかを検討するための分析を開始するとします。この場合、起票ミスの具体的な実態把握、実際に起きている事象・現象の把握から始めます。つまり事実(ファクト、データ)の確認から始めます。しかし、事実(ファクト、データ)だけを単発でいくら集めても実戦で使える分析になりません。「このピッチャーの投げる球種の65%がカーブだ」という分析結果が現場ではあまり使えないのと同じです。
 事実(ファクト、個別データ)がどのような全体感の中で何を意味するのかということまで読み解いていないのであれば、実戦で役に立たないという意味でその分析は無価値です。
 事実(個別データ)は、全体像の中での位置づけや意味合いがセットで認識されて初めて実戦で役に立つ情報になるのです。具体的には、全体像(母集団全体)はどれくらいの大きさでどんな集団から構成されているのか、それに対して個別データはどの集団に属しているのか、個別データが属する集団は全体に対してどのような位置づけにあるのか、さらに個別事象(データ)はどんな状況下でどれくらいの割合で起きているか、そしてそれは何を意味するのか、などが分析されて初めて意味ある情報になるのです。

全体像をMECE(ミーシー)に把握する

 個別データが全体像の中でどんな位置づけになるのか、どんな意味合いを持つのかを認識するためには、そもそも全体像(母集団全体)を理解しなければなりません。つまり分析の早い段階において、検討対象が属する全体像(母集団全体)を把握することが重要になってきます。その全体像(母集団全体)を把握するときのポイントとしてよく言われるのがミーシー(MECE=Mutually Exclusive, Collectively Exhaustiveの頭文字の略)です。繰り返しますが、ミーシーとは
 Mutually(お互いに)
 Exclusive(重複せず)
 Collectively(全体に)
 Exhaustive(漏れがない)

のことで、要すれば「モレなく、ダブりなく」ということです。

 ところで全体像(母集団全体)をミーシーで把握するというのは、当たり前といえば当たり前です。例えば、「このピッチャーはストレートが何%、カーブが何%」というけれど、母集団となる全体の投球数のカウントでモレやダブりがあれば、ストレートが何%、カーブが何%という分析結果は間違ってしまいます。つまり、全体がミーシーで把握されていないと間違った分析結果が導かれてしまう可能性があります。それゆえ全体像(母集団全体)をミーシーで把握することが重要性と強調されるのは当然です。

全体像(母集団全体)を分解する「切り口」「軸」「着眼点」

 全体像(母集団全体)をミーシーで把握することが重要とはいうものの、それは言うほど簡単なことではありません。もちろん結果責任を負わないお気楽な立場で行う分析だったら簡単です。しかし、実戦で役に立つ分析をしようと思えば、リアルで具体的な状況を想定して全体像(母集団全体)を切り分けていかなければなりません。
 例えば、ピッチャーの全体の投球数ならミーシーに把握するのは簡単です。しかしながら、そんな冴えない分析結果では実戦での役に立ちません。実戦で役に立つためには、全体像(母集団全体)を、例えば、「ランナーがいる時」「ランナーがいないとき」とか、「ピンチのとき」「ピンチでないとき」とか、「強打者のとき」「強打者でないとき」、のようにリアルで具体的な状況に切り分けていかなければなりません。この全体像(母集団全体)を構成する集団に切り分けていく基準のことを「切り口」とか「軸」とか「着眼点」と呼びますが、とにかく実際に役に立つ「切り口」を考え抜かねばなりません。ここが実務の分析で最初にぶつかる大きな難関です。どんな「切り口」でもいいというのなら簡単に見つかりますが、キレのある切り口となるとそう簡単に思い浮かぶものではありません。本当に難しい問題です。
 この点に関してはコンサルタントの高田貴久氏は著書の中で次のように書いています。

「感度の良い切り口」で問題を絞り込むことが重要だと理解できたと思うが、では「感度の良い切り口」を探すにはどうすればいいのだろう。肝に銘じてほしいのは、「切り口探しに王道はない」ということだ。「感度の良い切り口」を見つける単純な公式などない。トライ&エラーを繰り返しながら発見していくしかないのだ。

(出典)「問題解決」(高田貴久+岩澤智之)

 高田氏の言う「感度の良い切り口」を見つけるだけでも一苦労ですが、それが首尾よく見つかったとしても分析の現場ではまだまだ困難が続きます。例えば、「感度の良い切り口」として「ピンチのとき」「ピンチでないとき」という切り口が見つかったとしても、「ピンチ」をどのように定義するのか、その定義に基づいて特定の事実(データ)を把握することができるのか、把握できたとしてもそれがミーシーになっているのかという問題があります。さらに苦労の末にそのようなデータを把握して分析できたとしても、最終的に意味ある分析結果が導かれるのかという別の問題もあります。今後の有効な打ち手に役立つような結果を導けなかったのなら、苦労して分析したところで「だから何だったの?」となりかねません。
 ところで、「切り口」をどうするかということは、次に説明する「絞り込み」と密接に関係しています。どのような切り口を設定するかによって、その後の問題点の絞り込みと分析結果のレベルに大きな影響を与えます。そのため「切り口」の考え方については、次の項で詳しく説明します。

絞り込み(「感度の良い切り口」で絞り込む)

 先ほどまでの説明のとおり、実戦で役に立つ分析結果を導き出すためには、「感度の良い切り口」を使って全体像(母集団全体)を切り分けられるかどうか、すなわち「絞り込み(分けること)」がポイントになります。そうはいっても、具体的なイメージがなかなかわかないかもしれません。そこでまず、「感度の良い切り口」で絞り込むことのイメージを持ってもらうために一つの例をお見せします。 下記マトリクスは、「重度度と緊急度のマトリクス」と呼ばれるもので、スティーブン・R・コヴィー氏のベストセラー「7つの習慣」の中で提唱されているタスクの優先順位を判断するためのフレームワークです。

 このマトリクスでは2つの切り口(軸)があります。「重要」と「緊急」という切り口(軸)です。この2つの切り口で絞り込んでみると、最優先で対応すべき重点領域が「重要かつ緊急」のエリアだと明確化されます。「感度の良い切り口」を使って全体像(母集団全体)を切り分けるというのは、このように切り口(軸)を考えだし、領域を絞り込むイメージです。

「切り口」で絞り込むことについての大雑把なイメージを持ってもらったうえで、今度は切り口探しのイメージを説明します。

 先ほどコンサルタント高田氏の著書から「切り口」探しはトライ&エラーを繰り返しながら見つけるしかない旨の言葉を紹介しましたが、そのことを簡単な設例を使ってイメージしてもらいます。

【設例】
全国的な総合レストランチェーンを運営している会社で次の分析を始める。 暑い夏場は食欲不振になりがちで来店客数が落ちる。それでもこの時期にできる対策がないかを考えるために分析を行う。

 この会社が和食・洋食・中華の3つのジャンルの料理を提供していたとして、和食だけでなく、洋食・中華といった料理全体のジャンルを対象(つまり対象をミーシー)に夏場の売上実態を分析したとします。確かに分析対象はミーシーなのですが「このピッチャーは全投球数のストレートが何%、カーブが何%」という分析と同じくらい現場では役に立たない分析結果になりました。

 他に何かよい切り口はないかと考えていたところ、夏祭りの屋台で冷やしきゅうりが人気なのを見て、もしかしたら材料によって差異があるかもしれないと思い立ちました。そこで、メインに使われている材料という切り口で分析することにしました。メイン材料という切り口で料理全体を区分してみると、肉と野菜くらいの大雑把な区分までは簡単でしたが、例えば野菜料理を野菜の種類ごとに細分化した単位でグルーピングして分析しようとすると、ミーシーにデータを把握することができずなかなか大変な作業になりました。苦労の末に分析してみたものの、これといって傾向は見つからず無駄骨に終わりました。

 次にたまたま冷製パスタや冷製スープが人気なのをみて、料理の温度という切り口を思いつきました。しかし、料理の温度という切り口で調べてみると、予想に反して熱々の料理の中にもカレーのように夏に人気があるものがデータではっきりし、必ずしも料理の温度という切り口で絞り込みができませんでした。

 これ以上の切り口が思い浮かばず八方塞がりになり、いったん頭をリセットしてリフレッシュしようと週末に高原に出かけてみました。そのとき爽やかな青空のもと心地よい風が吹くレストランで食事をしたところ、真夏の盛りにもかかわらず、どの料理も美味しく感じました。ふと、もしかしたら料理のメニューよりも食べる環境が大きく影響しているかもしれないと思い始め、試しに店のインテリアという切り口で調べることにしました。具体的には夏の高原をイメージしたインテリアの店と、年中同じ普通のインテリアの店という区分で分析してみました。すると、両者には際立った違いが認められたのです。インテリの違いという意外な切り口で絞り込むと、実態や傾向が浮かび上がってくることがやっとわかりました。

 以上はあくまで私が創作した架空例でした。切り口をトライ&エラーで探すのはこんな感じなのかということが何となくイメージできれば十分です。実際の分析でも難易度はともかくとして要領としては同じです。

 ただ、この例で薄々理解したかもしれませんが、切り口を探して絞り込むという作業は、一定の仮説を立て、その仮説が正しいかどうかを確かめる作業と同じことです。分析のスタート段階では実態を確かめることに重点が置かれますが、ある程度実態の把握が済んだ段階からは、仮説を作りそれを確かめる段階に移行します。ただただデータを調べ続けて一定の傾向などを把握したところで、いつまでたっても仮説がないのであれば、それは分析とは呼べないということなのです。
 この点についてコンサルタントの名和氏は自著の中でちょっと面白いエピソードを紹介しています。

私がマッキンゼーにいた頃、あるとき、非常に優秀な新人が入ってきた。かれは、新卒だというのに、「この課題を、どう分析する?」とこちらが尋ねると、「名和さん、それは質問が間違っています。どういう答えを出したいか言ってください」とくる。「イエスとノー、どちらの答えがいいですか? どちらでも分析してあげます」と。すごいやつが来たものだと思ったものだ。つまり、先に仮説を示せ、と言ったわけだ。分析の本質をはなからつかんでいたといえる。

(出典)「コンサルを超える 問題解決と価値創造の全技法」(名和高司)

 確かに分析では一定の仮説が必要ですが、少し注意して欲しいのは、予断を持って決めつけすぎるのも良くないということです。もちろん自分の仮説に固執して都合よくデータの解釈を歪めてしまうような分析も決してあってはなりません。仮説は必要ですが自分の仮説が違っていたら直ちに変更して新たな仮説を検証するような柔軟な姿勢が求められます。

 「切り口」探しに関するアドバイスとして、コンサルタントの高田貴久氏の著書からもう一つ考え方を紹介して、この項の説明は終わりにします。

一次分析をおこない、仮説を持って切り口を考える
 これまでは、より多くの切り口を洗い出し、その中で感度のよいものを選ぶという話をしてきた。ここで最後に、なるべく無駄なトライ&エラーをしないために、効率よく切り口を考えるためのコツをお伝えしよう。それは「一次分析をし、仮説を持って切り口を考える」ということだ(中略)
 問題を分析する切り口を出すとき、何の事前情報にも基づかず、思いつくまま洗い出していくと「感度の悪い切り口」になってしまうおそれがある。そうならないよう、一次分析、すなわち関係者へのヒアリングや文献情報の調査を踏まえたうえで「おそらく、このあたりに問題があるはずだ」と言うアタリをつけてから問題を切り分けると効率がよいと言うことだ。(中略)
 ただし注意したいのは、「仮説に頼りすぎない」ことである。仮説は、あくまで事前情報に基づいて推測した「仮の答え」に過ぎない。自分でゼロからいろいろな切り口を試してみることで、誰も気づかなかったような視点で問題ができることもある。
 最初に述べたように、切り口探しに「王道」はない。まずいろいろな視点で切り口を洗い出す。そして感度がよいかどうかを検討する。効率を上げるためには、一次分析を行い、仮説に基づいて検討することもよかろう。ただし最後は「トライ&エラー」の繰り返しで、本当に問題の絞り込みにつながる切り口を見つけてもらいたい。WHEREでうまく絞り込むことができれば、次に行うWHYやHOWの検討は格段にラクになる。

(出典)「問題解決」(高田貴久+岩澤智之)
「分ける」と言わずに「絞り込み」という言葉を私が好む理由

 分析をするうえでは「分けること(分解)」と「比べること(比較)」は2大手法であり、今回の記事では「分けること(分解)」について扱い、次回の記事で「比べること(比較)」について説明します。
 ところで、私は「分けること(分解)」というよりは「絞り込み」という表現を好んで使います。「分ける」でも「絞り込む」でも意味に違いはないのかもしれませんが、分析をするときの意識には大きな違いがあると考えています。「分ける」という行為は問題意識がなくてもできてしまうのですが、「絞り込む」という行為は何を絞り込もうとしているのかという明確な問題意識がないとできないことだと思うのです。「切り口探しに王道はない」と同じ発想かもしれませんが、実際の分析というのは考え抜いた末に「絞り込む」ものです。だから「分ける」ではなく「絞り込む」という意識を持った方が分析がうまくいく確率が高まると私は考えています。脱線しますが似たような理由から「選択と集中」という言葉も、私は「絞り込みと集中」といった方が良いと考えています。実戦ではトランプのカードを選択するように誰かが用意してくれた選択肢からただ選ぶだけでOKなんて状況はまず存在せず、必死に悩み抜いた末に絞り込んで自分で選択肢を用意するしかありません。だから軽々しく「選択」という言葉を使う気にはならないのです。

今回のまとめ

分析では、実態(現象・事象・事実・データなど)を把握するだけでなく、全体との関係性や意味合いを読み解き、実戦で役に立つ分析結果を導き出すことが重要です。ポイントは次の4点です。

①分析はなんらかの形で経営判断に役に立つ結果を導くこと
②分析は事実(データ)をスタートとすべきだが、その意味合いを全体像(母集団全体)との関係で読み解いて、経営判断に役立つ情報を提供すること
③全体像(母集団全体)から問題点を絞り込むためには、母集団を切り分ける「切り口」が重要になること
④よい切り口は見つけるためには、仮説が必要なこと

おすすめ図書

「問題解決」(高田貴久+岩澤智之)

今回の記事のテーマである分析とか切り口についてもっと深く研究したい方はぜひこの本をお読みください。この本を読むと、問題解決や分析というテーマについての経験に裏打ちされた知見が余すことなく開陳されています。この本が世に出版された今、これ以上新たに本を出すことの意味はないのではないかとさえ思えるほど素晴らしい本です。私もこのブログを書かずとも「この本を読んでください」と推薦するだけで事足りてしまうというのが正直なところです。
全くの素人が読むとピンとこない箇所もあるかもしれませんが、ある程度現場で苦労した人が読むと「そうそう」と納得することばかりです。プロが身に着けた技を言語化して体系化してくれたありがたい本です。

https://amzn.to/48vPXtC

「コンサルを超える 問題解決と価値創造の全技法」(名和高司)

名和氏はマッキンゼーとボストンコンサルティンググループのどちらも経験したコンサルタントとして、深いものの考え方を披露してくれています。個別のテクニック・単なるスキルを学ぶというよりも本質的なもの考え方や見方、マインドを学ぶという観点で読んでみると参考になるでしょう。どちらかというとベテランの実務家にお読みいただきたい本です。

https://amzn.to/3tG62hl

「仮説思考」(内田和成)

内田氏によるあまりにも有名なベストセラーなので、わざわざおすすめする必要はないかもしれませんし、内容について何か申し上げるのも野暮でしょう。
あえて一つだけアドバイスがあるとすれば、とても読みやすい本なのでさらっと読んで終わりにしてしまいがちな本ですが、自分の技として習慣化されるまで何度も読み返して欲しいです。

https://amzn.to/3SdJSMI
ハットさん
ハットさん

「切り口」で絞り込んだ結果を最終的にマトリクスなどで見える化してみましょう。絞り込みが冴えているか、冴えていないか、けっこう一目瞭然になります。

タイトルとURLをコピーしました