再現性を高めるため、コツは必ず言語化すること #92

全般

今回は「再現性を高めるため、コツは必ず言語化すること」という話しをします。

 スポーツでも仕事でもうまくやるためにはちょっとしたコツがあります。だから、どんな分野でも上達しようと思えばそのコツを身についておく必要があります。そんなことはわざわざ言われなくても分かっていることなのですが、厄介なのは本人もそのコツに気がつかずに成功している場合があるということです。コツが体に染み込んでいて、いつでもどこでも無意識に発揮できる人ならばそれでもいいのですが、そうでないのであれば、つねにコツを意識すべきです。そうしないとその日の調子や偶然に左右されかねず、高いレベルでの安定したパフォーマンスを実現できないからです。
 それゆえ今回の記事では、技の再現性を高めるため、コツは必ず言語化しましょうと提案したいのです。

今回の記事で伝えたいことを要約すると…

 今回伝えたいことを先に要約すると次のようになります。

 今回お伝えしたいことの大筋は以上です。以下では私が強調したい点に絞って補足説明をさせてください。

どんなことでもコツを覚えると楽になる

 まずは当たり前の話しから始めさせてください。スポーツをするにしても、絵を描くにしても、料理をするにしても、仕事をするにしても、介護をするにしても、とにかくどんなことをするにしても、ちょっとしたコツを知っているだけでそれを知らないよりかは楽に早くうまくできるようになります。あまりにも当然のことなのですが、いざ何かを実行する段になるとあまり意識されずに素通りしてしまうことも多々あります。なぜなら、何をするにしても不慣れな作業をする場合にはまずは手順の方にばかりに気をとられてしまうし、手順を覚えた後は闇雲に練習することに集中してしまい、コツにまで思い至らないことも多いからです。だからこそ私は次のように提案したいのです。

◆何かをするときには常に「コツは何だろうか?」と自問し続けよう。

 この点に関連して、私が社会人になりたての頃に読んだ本で、その後ずっと記憶に残っているフレーズがあります。ここで紹介させてください。

 「コツは何だろうか?」と自問したところでコツが見つかるかどうかは分かりませんし、コツが分かったとしても自分が出来るかどうかは別問題です。それでも、闇雲に力任せで試みるよりは成功の確率が上がります。最近ではありがたいことにSNSなどで分かりやすいコツを発信してくれている場合も多いので、以前のように盲目的な猛特訓の末に何とかコツを見つけ出すという苦労もしなくて済むようになりつつあります。いずれにしても常に「コツは何だろうか?」と意識し続けることが大事です。

身につけたコツは言語化すること

 どんな分野でも熟練者になるとコツや工夫を身につけています。ただ、とかくありがちなのは長年の鍛錬で自然に身につけたものであるだけに、身につけた本人が自覚していないことも多いのです。もちろん達人の域になれば無意識でも常に出来るようになっているので問題ないのですが、熟練者ではあるけれどまだ達人のレベルにまでは至っていないという人の中には漠然と感覚に頼っている場合も多いと推測します。
 漠然と感覚に頼っている場合、成功の確率、言い換えると高いパフォーマンスをいつでもどこでも再現できるかという再現性が安定しません。再現性を高めるためには身につけたコツを言語化することお勧めします。
 この点に関しては、オリンピックのような最高峰の舞台を目指して日々精進しているスポーツ関係のコーチの考え方が参考になります。ここでは三つの記事を紹介させてください。

身につけときには「からだで覚えた」としても、後で言語化しておくこと

 前項の最後で紹介した吉村祥子氏の解説記事に「かつて当たり前だったスパルタ指導では選手はついてこない」とあります。そのとおりでしょう。しかし、かつて職人の世界では「からだで覚える」式の指導は当たり前のことでした。たとえば、次のような具合です。

 確かに、技が高度なレベルになればなるほど言葉で単純に教えられるものではなくなるし、繰り返し繰り返し試行錯誤のうえひたすら修練を続けて体で覚えるしかないというのも事実です。ブルース・リーの有名なセリフ「Don’t think! Feel.(考えるな!感じろ)」のとおりかもしれません。それでも、教育学者の齋藤孝氏の次の主張は心にとめておくべきと考えます。

 齋藤氏が言うような教育的な意味合いだけではなく、言語化しておかないとその技術は門外不出として永遠に埋もれるか、一子相伝などで口伝で伝承するしかなくなり、いずれは途絶えてしまうことを危惧します。それはあまりにも残念なことです。

 今回の記事で伝えたかったことは以上で終わりです。

コーヒーブレイク

【弓聖・阿波研造氏に師事したドイツ人オイゲン・ヘリゲル氏の修練】
 最初に申し上げますが、このコーヒーブレイクで書く内容は雑談のようなものです。時間がないとか関心のない人は読み飛ばして構いません。
 今回の記事本文では、技を習得するうえではコツを言語化し再現性を高めることが重要だという趣旨を申し上げました。一方で、職人の世界では「からだで覚える」式の指導が行われていたことにも触れました。実は武道の世界ではもっと神秘的な世界がありますよという話しをさせてください。
 弓道経験者には馴染みがあるかもしれませんが、ドイツの哲学者オイゲン・ヘリゲル氏によって書かれた「弓と禅」という著名な本があります。ヘリゲル氏は1924年5月に東北帝国大学に招かれて来日し同大学で1929年10月まで哲学を担当しました。その間、弓聖と謳われた阿波研造氏から弓の指導を受けました。ここではその指導の一端をご紹介したいのです。

 「心で引く」「考えずに無になる」「的を狙ってはいけない」と指導されるくらいなら、むしろ理屈抜きで「体で覚えろ」とか「考えるな、感じろ」と指導された方がまだ拒絶反応が少ないかもしれません。言語で考えることが専門の哲学者ヘルゲル氏はそれでも最終的に五段の免状を手にしました。そういう世界もあるということです。
 ところで脱線ついでに申し上げると、名人と呼ばれる域に達することの意味について様々な考えを促してくれるのが作家・中島敦氏の小説「名人伝」です。学生時代に教科書などで目にした方もいるかもしれません。学生時代に読んだことがあっても社会人になり年齢を重ねてから読むとまた感想も変わります。仕事術として役に立つかどうかは別として、興味があればぜひお読みください。
 以上、完全な脱線でした。

今回のまとめ

◆技の再現性を高めるため、コツは必ず言語化すること

ハットさん
ハットさん

野球のバッターは打率3割を超えれば立派なものですが、仕事では100%の再現性を目指さないといけないのが辛いところです。

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