今回は「日記を書く」についてお話しをします(全6回の5回目)
63回から「怒りやイライラに対処して、いかにパフォーマンスを安定させるか」というテーマを取り上げています。今回はその5回目で「日記を書く」についてお話しします。
前回までのおさらい
63回では次のような説明をしました。
◆人間誰でも日々感情に左右されて生きている。
◆だからと言って仕事のパフォーマンスまで感情に左右されることは避けたい。
◆とはいえ感情は基本的にコントロール不能だ。
◆でも自分の「考え方・言葉・態度・表情」ならコントロールできる。
◆そうならば、パフォーマンスを安定させるためには「考え方・言葉・態度・表情」をコントロールできるように訓練すればいい。
◆その方法論の全体像が次のとおり。
64回では「感情に蓋をする(思考停止)」方法について説明しました。
◆急な怒りが沸き起こってきた時の緊急避難的な方法として「感情に蓋をする(思考停止)」方法は役に立つ
65回では「流れに身を任せること」について説明しました。
◆誰でもどうしようもなく深い悲しみや失望に打ちのめされることが必ずある。
◆そんなときの一つの対象法が「流れに身を任せること」
◆「流れに身を任せる」うえでネガティブ・ケイパビリティという考え方は参考になる。
66回では「呼吸法」について説明しました。
◆呼吸は高いパフォーマンスを発揮するために必須である心身の安定をもたらす
◆具体的な呼吸法として齋藤孝氏が提唱する下記「型」がお勧め。
①鼻から三秒息を吸って、
②二秒お腹の中にぐっと溜めて、
③十五秒間かけて口から細くゆっくりと吐く
◆上記「型」を基本形として、これに下園壮太氏の提唱する「DNA呼吸法」を加味するとよい
◆DNA(=「大丈夫(D)」「なんとかなる(N)」「諦めるな(A)」)は自分流の好きな言葉にアレンジしてもいい。
今回の記事で取り上げるのは「日記を書く」です
今回は「日記を書く」について説明します。
「日記を書く」という言葉だけ聞くと面倒なイメージがあり、続けるにはハードルが高そうにも感じます。でも心配不要です。詳細は後ほど説明しますが、やり方自体は実に簡単で、以下のようなものです。
以下では「日記を書く」ことの効用なども含め説明をしますが、そんなことよりも具体的なやり方さえ分かればよいという方はここで読むのを止めても何ら差し支えはありません。
日記を書く(一日を見つめ直す)ことを提唱する理由
生きていれば誰でもうまくいかないことや嫌なことに遭遇します。自己嫌悪に陥るような大失敗もするし、落ち込むようなことも日々こと欠きません。もちろん逆に良いこともたくさんあるのですが、その都度一喜一憂していたら心がもちません。パフォーマンスを維持するためにも心を安定させておくことは大事です。そのために効果があると言われるのが「内省」です。要すれば、心の中で振り返りをすることです。そして、第66回目の記事(怒りやイライラに対処していかにパフォーマンスを上げるか -呼吸法-)でも触れた「呼吸法」を活用しながら「内省」する方法もあります。ただそうなると、どうしても「瞑想」の世界に立ち入ることになります。「瞑想」を過度に警戒することはないし、マインドフルネス瞑想のように今流行りの方法もありますが、それでも精神世界の話しとなると一抹の不安を感じるのも確かです(この点は第66回目の記事(怒りやイライラに対処していかにパフォーマンスを上げるか -呼吸法-)に書いたとおりです)。
そこで、「内省」の別の方法として「日記を書く(一日を見つめ直す)」という方法を提唱したいのです。「瞑想」と違って簡単なので特別な訓練不要だし、何より誰でもすぐに始めることが可能です。
「日記を書く(一日を見つめ直す)」ことの具体的な方法(下園壮太氏が提唱する方法)
「日記を書く(一日を見つめ直す)」ことの具体的な方法としてご紹介したいのが下園壮太氏の提唱する方法です。下園氏は著作の中で下記のように説明しています。
なお脱線ですが、下園氏は元陸上自衛隊衛生学校心理教官であり、第66回目の記事(怒りやイライラに対処していかにパフォーマンスを上げるか -呼吸法-)で紹介した「DNA呼吸法」も同氏が提唱している方法です。
◆意識して昨日をポジティブに見つめ直すのだ。
(出典)「自衛隊メンタル教官が教える心の疲れをとる技術」下園壮太(注)ハットさんが一部太字にした。
◆昨日(今日)の「良いことを三つ、悪いことを一つ、改善策を一つ」という振り返りをすることを習慣にするといいだろう。(途中省略)人生や仕事には良い時も悪い時もある。それに一喜一憂して、過剰に喜んだり、逆に落ち込みすぎると、結局「感情のムダ遣い」となり、その分エネルギーを消費し(ムリの蓄積)パフォーマンスのムラへとつながる。(以下略)
下園氏の提唱する方法は「『良いことを三つ、悪いことを一つ、改善策を一つ』という振り返りを習慣にする」という方法で、実に簡単です。実践のハードルはかなり低いのですが、これでも面倒と感じる方もいるかもしれません。そのような方は、順天堂大学医学部教授・小林弘幸氏が提唱する3行日記から始めることをお勧めします。小林氏は下記のように書いています。
(中略)日記を書くことです。「今日、一番失敗したこと。今日、一番成功したこと。明日の目標」、たったこれだけの「3行日記」です。
(出典)「苦手な人への対処法は『攻めろ』 気分が乗らないときには『動け』」順天堂大学医学部教授・小林弘幸(2021年8/14 日経ビジネス)(注)ハットさんが一部太字にした。
最初の2行は、今日がどういう1日だったのか考える時間をつくってくれます。最後に明日の目標を書けば、明日に向けて何を準備すべきか、何か忘れていることはないかも確認できます。
3年日記とか5年日記もお勧めですね。去年の今日は自分がどういうことに失敗して、どういうことに感動し、どういうことを目標に立てたかが毎回分かります。ストレスの原因もはっきりし、すべては時間が解決してくれるということにも気づきます。これまで日記を書いてこなかった人は、書いたほうがいいと思います。(以下略)
以上を要約すると次のようになります。日々の暮しの中で一喜一憂しないためにぜひお試しください。
実例紹介(私の「ある日」の日記より)
私が伝えたかったことは以上なのですが、ご参考に、私が書いた「ある日」の日記を紹介します。下園氏の提唱する方法が簡単といっても、いきなり始めるとなると何をどのように振り返るのか戸惑うかもしれません。特にドラスティックな出来事が何もなかったような一日だと何も思い浮かばないかもしれません。そこで、大きな事件が何もなかった「ある日」の私の日記の実例をご紹介する次第です。
【私の「ある平和な一日」の日記(実例)】
①良いこと
(1)一日中家でのんびりしたこと
(2)本を読んだこと
(3)家族全員で夕食を食べたこと
②悪いこと
(1)一歩も外に出なかったこと
③改善策
(1)無理にでも用事を作ること
上記を見た感想として、「本を読んだこと」や「家族全員で夕食を食べたこと」が良いことなのかと呆れた方もいるかもしれません。ある意味、そんなこと良いことでも何でもなく普通のことですが、この時は直前まで連日連夜深夜まで残業で休みもなかった生活が続いていたので、久しぶりに平和な時間を心から味わった一日として本心から「良いこと」と感じました。逆に「一歩も外に出ないこと」が果たして本当に悪いことなんですかね?、というご意見もあろうかと思います。その直前までもっと悪いことが連続していた状況を考えれば、この日悪いことは特段何もなかったとも言えます。それでもとにかく「良いことを三つ、悪いことを一つ、改善策を一つ」を強引に挙げることがポイントです。もっといえば、ものすごく良いことも悪いこともない平凡な一日が連続していたとしても、毎日の出来事を具体的に振り返り、何かしら書き出すことが重要です。
これを習慣化すると、どんなに嫌な一日で良いことなんて1つも無いように思える日でも強制的に3つの良いことを挙げ、逆に悪いことが1つどころではないような悪いことの連続攻撃を受けた一日でも1つだけの悪いことを挙げるクセがつきます。そうすると、心の安定が図りやすくなります。もちろん稲盛和夫氏が言う下記境地に達するにはまだまだ修練が必要ですが、少なくても日々の心構えは変わってきます。
どんな時も「ありがとう」と言える準備をしておく。
(出典)「生き方」稲盛和夫
(中略)誰に対しても、何についても、いいときはもちろん、悪いときもありがとうと感謝する心を涵養し、できるだけ正しく生きようと努めてきたつもりです。
禍福はあざなえる縄のごとし。よいことと悪いことが織りなされていくのが人生というものです。だから良いにつけ悪いにつけ、照る日も曇る日も変わらず感謝の念を持って生きること。福がもたらされたときにだけではなく、災いに遭遇したときもまた、ありがとうと感謝する。そもそもいま自分が生きている、生かされている。そのことに対して感謝の心を抱くこと。その実践が私たちの心を高め、運命を明るく開いていく第一歩となるのだと、私は心に言い聞かせてきました。
しかし、言うは易く行うは難しで、晴れの日にも雨の日にも、変わらず感謝の念を忘れないということは人間にとって至難の業です。たとえば災難にあう。これも修行だと感謝しなさいといっても、なかなかそんな気にはなれません。むしろ、なんで自分だけがこんな目にあうのかと、恨みつらみの思いを抱くのが人間の性というものでしょう。
それなら、物事がうまくいったとき、幸福に恵まれたときには、ほうっておいても感謝の念が生まれてくるのかといえば、これもそうではありません。よかったらよかったで、それを当たり前だと思う。それどころか「もっと、もっと」と欲張るのが人間というものなのです。つい感謝の心を忘れ、それによって自らを幸せから遠ざけてしまう。
したがって、必要なのは「何があっても感謝の念をもつ」のだと理性にインプットしてしまうことです。感謝の気持ちがわき上がってこなくても、とにかく感謝の思いを自分に課す、つまり「ありがとう」といえる心を、いつもスタンバイさせておくことが大切なのです。
困難があれば、成長させてくれる機会を与えてくれてありがとうと感謝し、幸運に恵まれたなら、なおさらありがたい、もったいないと感謝する。少なくともそう思えるような感謝の受け皿を、いつも意識的に自分の心に用意しておくのです。(以下略)
稲盛氏の境地にまで達するかどうかはともあれ、とにかく「『良いことを三つ、悪いことを一つ、改善策を一つ』という振り返りを習慣にする」ということをお試しください。
今回の記事は以上で終わりです。心の安定さを維持するために今回の記事が参考になれば嬉しいです。
次回の予告
次回(68回)は、心に元気を与える方法として「フレーズを読む(本を読む)」がお勧めというお話しをします。本シリーズの最終回です。
今回のまとめ
◆人生では良いことも悪いこともあるので、いちいち一喜一憂しないことが大事
◆そのための方法として一日を振り返ることは効果的であり日記をつけるとよい
◆日記の書き方として下園壮太氏が提唱する方法が簡単で実践しやすい
おすすめ図書
「自衛隊メンタル教官が教える心の疲れをとる技術」(下園壮太)
第63回目の記事(怒りやイライラに対処して、いかにパフォーマンスを安定させるか)では、本書から怒りについて瞬発力があることを引用しました。その記事の中では省略しましたが、下園氏は本書の中で突発的に沸き起こってくる怒りに対する具体的な対処法も説明しています。またそれ以外にも、心が疲れ果ててしまった時の対処法をさまざま教えてくれます。今回の記事本文で紹介した「日記を書く」ことによる「一日を振り返る法」もその一つです。
私が下園氏の各種方法をお勧めする理由は実践的で分かりやすいからです。これは下園氏の経歴、すなわち元陸上自衛隊メンタル教官というお立場がその背景にあると推測しますが、なにしろ陸上自衛隊は東日本大震災のときはもとより、大災害時の緊急要請に応じて過酷な任務に従事します。そこでの任務は相当なストレスにあると思われ、隊員たちの心の疲労度は想像もつかないレベルにあるでしょう。そういう隊員たちを対象に実践している方法だからこそ机上の理論ではなく実践的かつ効果的なのだと私は受け止めています。なお、第66回目の記事(怒りやイライラに対処していかにパフォーマンスを上げるか -呼吸法-)で紹介したDNA呼吸法についての説明は本書の中にはありませんので念のため。
いずれにしても、心の疲れに対する実践的な対処法をお探しの方にはぜひ本書をお勧めします。気付きをもらえ参考になるはずです。
最近は便利な日記アプリがたくさんあります。自分に合ったアプリが見つかれば続けやすくなりますからぜひ探してみてください。ちなみに私は「瞬間日記」という無料アプリを利用しています。