リーダーに必要な4つのE(GE 元CEO ジャック・ウェルチの持論) #34

リーダーシップ

今回は「リーダーに必要な4つのE」について紹介します

 どんな仕事をしていてもそれなりの経験を重ねて中堅と呼ばれるような立場になると、職位にかかわらず、また好むと好まざるとにかかわらず、リーダーとしてメンバーを率いなければならない場面が出てきます。そのため、誰しも自分がリーダーシップを発揮する場面に備えて心の準備をしておくことが大事です。心の準備の仕方には色々ありますが、例えば次の方法は有益です。
◆自分が理想とするリーダーを見つけて、その手本となる人のレベルに近づけるように努力する
◆自分が理想とするリーダーに必要な資質(要素)を考えて、その資質(要素)のうち自分に足りない部分を向上させていく

 仮に上記方法をとるにしても、人によって目指しているリーダー像が異なります。そのため、理想のリーダーなり、理想のリーダーが持つ資質(要素)については、それぞれが試行錯誤しながら見つけていくものであり、誰かに強制されるようなものではありません。そうは言っても、私自身がリーダーシップを発揮する上でどのように考えていたのかを語ることも読者の方の参考にはなるかもしれません。
 そこで今回は、私がリーダーシップを発揮するうえで参考にしていた「リーダーに必要な4つのE」について紹介させてください。

「リーダーに必要な4つのE」とは?

 今回紹介したいリーダーに必要な「4つのE」(=4Es ➡ “フォーリーズ”と読みます)とは、GEの元CEO ジャック・ウェルチ氏が提唱している Energy、Energize、Edge、Executeのことです。全体像を示すと下記のようになります。4Esの中心には情熱(Passion)があることにもご注目ください。

【リーダーに必要な4つのE(4Es)】

 私自身はジャック・ウェルチ氏に特別な憧れを抱いているわけではないのですが、ウェルチ氏が提唱する「4つのE」(4Es)に関してはとても共感していますし、私もいつも心がけるようにもしていました。
 以下では4Esの各項目について順に説明します。

メモ

【私が憧れるリーダー像】
 本題に入る前に少し脱線します。記事本文では触れませんが、私が理想としているリーダー像について話しをさせてください。
 私が監査法人に勤務した34年間のうち2011年以降、私がパートナーとして監査責任者を努めた監査の仕事においては、多くの会計士が一生かけても遭遇しないような極めて深刻な危機案件に遭遇しました。守秘義務もあり詳細を語るわけにはいきませんが、たぶん日本の会計士の中でも数%の人しか経験しないような厳しい案件がなぜ自分に降りかかってくるのかというやりきれなさも感じました。しかしそれもきっと巡り合わせだったのでしょう。とにかく監査責任者としては、どんな深刻な状況であっても逃げ出すことはできません。最後までやりきることは当然なのですが、同時に、監査チームメンバーが1人たりとも精神的にも肉体的にも病むことなく共に乗り切れるようにすることも大事なことでした(結果としてチームメンバーから何人もの休職者と退職者が出てしまいましたが…)。
 私自身がそんな状況にあったため、その頃から理想として追い求めていたリーダー像は、危機に際してもメンバー全員を生き延びさせて連れ帰るように導く人です。私がライフワークとして関心を持っていたのは、極めて深刻な危機に直面した中でも生き残った人は何が違ったのか、そこで必要なリーダーシップとは何なのか、ということです。 
 極限状態に置かれながらも生き延びて生還した人のドキュメンタリー・自叙伝・解説本・自叙伝などは片っ端から参考にしました。その中で何人かの理想とするリーダーがいますが、特に私が尊敬するのが南極探検家として知られているアーネスト・シャクルトン氏です。南極探検家としてはアムンゼン氏とスコット氏の二人の名前がよく知られていますが、その二人と比べるとシャクルトン氏のことはあまり知られていないかもしれません。
 シャクルトン氏はアムンゼン氏やスコット氏と同時期に南極点を目指した探検家です。シャクルトン氏が率いた探検隊28名は、乗船していた船(エンデュアランス号)が南極上陸直前に流氷に阻まれ沈没したことにより遭難します。探検隊はいったんは流氷の上に逃れ、約半年間、流氷の上で過ごします。最終的には3隻のボートで南極海に漕ぎ出し、28名全員が生還するという信じられない苦難を乗り越えます。そのあたりの詳細は「エンデュアランス号漂流」という本に詳しく書かれていますので、関心のある方はぜひお読みください。

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 ところで、冒険家のガラード氏は、スコット、アムンゼン、シャクルトンの3氏を次のように表現しています。これを読むとシャクルトンが危機においていかに頼れるリーダーだったのかが推察されます。

探検に科学的な調査・発見を求めるならスコット。
スピードと効率を求めるならアムンゼン。
しかし、災難に見舞われ、絶体絶命の危機におちいったときには、ひざまずいて、シャクルトンが来てくれるように祈れ。

(アプスレイ・チェリー=ガラード(極地探検家・1922年))

 脱線が長くなりましたが、私にとって理想的なリーダーの一人がシャクルトン氏であるという話しでした。
 なお、シャクルトン氏のリーダーシップに関しては、2000年頃にアメリカでシャクルトン・ブームがあり多くの注目を集めました。この時にたくさんの関連本が出版されましたが、リーダーシップの在り方として特に参考になるのが次の本です。いずれ機会があれば当ブログでも紹介したいと思います。
◆「史上最強のリーダー シャクルトン ― 絶望の淵に立っても決してあきらめない」(マーゴ・モレル、ステファニー・キャパレル)

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脱線しましたが、本論の4Esの話しに戻ります。

EnergyとEnergize

 まずは4Esのうち Energy、Energizeの2つです。リーダーが暗い気持ちでいるとメンバーにもその気持ちが伝染してしまいます。先ほどメモ欄で紹介したシャクルトン氏の場合も、直面した状況などは南極海で流氷に挟まれ船が粉砕されて、普通ならとても助かるとは思えない状況です。明るい希望など決して持てる状況ではないのですが、それでもシャクルトン氏は終始楽観的な気持ちを保っています。さらに、自分だけが明るく振る舞うのではなく、メンバーみんなを鼓舞し続けています。リーダーがいつもエネルギッシュでハイテンションである必要はありませんし、仮にリーダーが一人だけ元気でも困ります。しかしながら、少なくても危機においては、リーダーは絶望せず、メンバーをつねに鼓舞するエルギーを持っているかどうかがチーム全体の士気に大きく影響することになるでしょう。要すれば、Energy と Energize が大事だということです。

Edge

 Edgeについて、ジャック・ウェルチ氏は「難しい問題でイエス、ノーをはっきりさせるだけの決断力」と言っています。もともとEdgeという言葉には、縁(ふち)・へり・際(きわ)という意味や、刃の鋭さ(ナイフやスキーのエッジ)という意味があります。その意味からイメージすると、リーダーに求められるEdgeとは、ぎりぎりの状況での決断力と言えるでしょう。言い方を変えると、迷いに迷って結局決断できないという態度は危機では絶対にあってはなりません。深刻な危機においてEdgeは特に重要なことです。

Execute

 ジャック・ウェルチ氏によると、リーダーに必要なEとして、当初は Energy、Energize、Edge の3つのEで足りると考えていたそうです。しかしながら、この3つのEだけではリーダーとしての成果を上げられない人が出てきて困惑したと言っています。何が欠けているのか模索した結果、それは実行力(Execute)だとの結論に至ったと説明しています。
 確かにリーダーは評論家とは違い、当事者として最後までやりきらなければなりません。いくら良いことを言っても、また重要な決断をしても、とにかく実行することが大事です。口先ばかりのリーダーがいたら、メンバーは誰だって「つべこべ言わずにやってくださいよ」と言いたくなります。実行力の伴わないリーダーは、早晩メンバーから見放されてしまうのです。この点はリーダーとして心しなければなりません。

 なお、実行力という点に関して、ついでの形で恐縮ですが、ある経営者の言葉を紹介させてください。ある経営者の方が次の4つの段階は大きく違うという主旨のことを言っていました。

①分かること(知っていること) ➡ 分かっていても実際には出来ない人がいる
②出来ること ➡ 出来てもやらない人がいる
③実行すること ➡ 1回は実行しても徹底(継続)しない人がいる
④徹底すること(続けること) ➡ ここまでやる人は少ない


 リーダーに求められるExecuteとは、上記の④だと理解しています。

今回のまとめ

◆リーダーに必要な「4つのE」(4Es)は次の図のとおり。
◆突き詰めると、リーダーに必要なことは次の4つ
 ①明るく元気で楽観的なこと
 ②メンバーの元気を引き出すこと
 ③決断力があること
 ④実行力(やり抜く力)があること

おすすめ図書

「リーダーシップ入門」(金井壽宏)

 本書では、リーダーシップの実践と理論に関してたくさんの考え方が紹介されています。今回の記事で書いたウェルチの4Esのことも説明されています。
 リーダーシップに関する本というと、とかく有名なリーダーが自ら実践している心構えや持論を説くような本か、または学者による純然たるリーダーシップ論の本が多いのですが、本書では、金井氏が実務家のリーダーシップも分かりやすく言語化し、実践の参考になるように易しくかみ砕いて説明してくれます。本書の中に「実践家のリーダーシップ持論」という章があるのですが、この章を読むだけでもこの本を買う価値はあります。

 なお、金井氏の書いた本の多くに共通することですが、テンポよく書かれているので比較的スラスラ読めますし、内容的にも良書が多いです。その点において金井氏の本でハズレにあたる可能性は低いと思われます。リーダーシップに関心のある方には金井氏の本を全般にわたってお勧めいたします。

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ハットさん
ハットさん

メモ欄で紹介したシャクルトンに関してはドラマ化もされています。「シャクルトン 南極海からの脱出」というドラマで、たまにBSなどで放映されています。見ごたえがあるドラマなので機会があればぜひ。

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