「本当の自分」探し(リーダーシップへの旅の第一歩)#21

リーダーシップ

今回はリーダーシップの第一歩として「本当の自分」探しという話しです

 今回はリーダーシップがテーマです。とはいうものの、通常のリーダーシップ論とはかなり異なり、「本当の自分」の発掘という一見するとリーダーシップ論とは何の関係もないような話しをします。タイトルに「リーダーシップへの旅の第一歩」という言葉があるのを見て、リーダーのあるべき姿のことを説明した記事のように想像して読み始めると、そうとう戸惑うことになると思われます。
 したがって最初に宣言しておくのですが、今回の記事はリーダーが備えておくべき要件のような類の内容ではありません。言いたいのは次のことです。
 ◆何が、自分を生き生きとさせますか?
 ◆自分の心が「そうしなさい、そうありなさい」と呼びかけるものは何ですか?
 ◆心の底から自分を突き動かすものは何ですか? あなたの「志」「夢」は何ですか?
 ◆それらを深く真摯に考えるにまずは「本当の自分(Authenticity)」を見つけてください
 ◆これらを節目、節目で問い続けてください

 ところで、上記がリーダーシップ論と何の関係があるのだとお叱りを受けそうですが、今回の考え方の前提には次のような想いがあり、リーダーシップを語るうえで省くことができないとの認識です。
◆心の底から自分を突き動かす熱い衝動こそが一歩を踏み出す源になり、さらに行動を続けていく原動力になる。だから「志」とか「夢」が大事。
◆継続した行動の過程で、あなたについていく人(フォロワー)が生み出される。
◆その結果としてあなたはリーダーになる。

【参考】一般的なリーダーシップ論・リーダー論もいずれ別の記事で取り上げます

 すでに宣言したとおり、今回の記事はおよそリーダーシップ論とは思えないような内容になります。一般的なリーダーシップ論やリーダー論というと、優れたリーダになるための要件は何か、尊敬されるリーダーが兼ね備えておくべき資質にはどんなものがあるか、リーダーの立ち居振る舞いはどのようにあるべきか、などが中心テーマになります。例えば、次のような感じです。

イタリアの普通高校で使われている、歴史の教科書。「指導者に求められる資質は、次の五つである。知性。説得力。肉体上の耐久力。自己制御の能力。持続する意志。カエサルだけが、このすべてを持っていた。(注)

(出典)「ローマ人の物語8(ユリウス・カエサル ルビコン以前)」(塩野七生)
(注)「決断力については、塩野氏はリーダーとして求められる資質として当然過ぎるから、あえて触れる必要はないとしている。
つまり、「決断力」はリーダーに求められる最低条件ともいえる。古代ローマ時代からリーダーに求められていた普遍的な条件であるといってもいいだろ。」(出典)「OODA  危機管理と効率・達成を叶えるマネジメント(小林宏之)より

 上記のようなリーダーに求められる資質とは何かという議論もいずれ独立した記事で取り上げる予定です。ご期待ください。

 なお、塩野七生氏が上記で書いている指導者の5つの資質のうち「持続する意志」が今回の記事で説明する内容と密接に関係しています。

一人一人に自問して欲しいこと

 今回の記事は私が説明するというよりも、みなさま一人一人に下記のことを振り返って自問してもらうことを想定しています。

 普段は日々の仕事や目の前の生活に追われているし、また社会人として一定の経験を経てくると、実際問題、毎日が惰性で過ぎてしまうこともあり、上記のようなことを改まった形で自問する機会を持つのはとても難しいと承知しています。それでも、ある時期立ち止まって自分の来た道を振り返り、深く真摯に考えることに大きな意味があると私は考えています。
 今回の記事をお読みいただいた方はこれも何かのご縁でしょうから、立ち止まって自分をじっくり見つめ直して欲しいと思います。

「本当の自分」って何ですか?(「本当の自分」探し)

 今回の記事はリーダーシップ論の入り口で、最終的には自分の持続する行動がフォロアーを生み出し、結果として自分がリーダーになる、という道筋を想定しています。その第一歩に入る前に「本当の自分」を探すことから始めるのですが、正直なことをいえば、結果としてリーダーになるか、ならないかはどうでもいいと思っています。それよりは、自分らしく人生を全うできるか、毎日生き生きと輝いて過ごせるか、を考え実践することの方がはるかに大事です。つまり、最終的にリーダーになることが目的ではありません。心の底から自分を突き動かす衝動に従って、「今」という時間と「ここ」という場を生き生きと過ごすことを目指しましょう、というのが本記事の主旨です。

 とにかく、まずは「本当の自分」を発掘することからスタートしましょう。

「本当の自分(Authenticity)」を生い立ちまでさかのぼって振り返る

 「本当の自分(Authenticity)」を理解するためには、生い立ちまでさかのぼり、例えば、次のようなことを中心に振り返ってみてください。
 ◆どんな価値観を大切にしているか?
 ◆自分のこだわりは何か?
 ◆自分らしさとは何か?

上記と同じ内容ですが、金井壽宏氏の著作の中からご参考になる文章を紹介しておきます。

◆リーダーシップを身につけ成長していくためには、今の自分をできるだけ正確に知る「自己理解」と、その自分を受け入れる「自己受容」が欠かせない。(中略)自分は何者であるか、どんな価値観をもつ人間なのかということを、自分の生い立ちまでさかのぼってじっくり振り返るのも一つの方法です。(以下略)

◆何を大切にして生きているのか。(中略)自分らしさやこだわりはあなたのリーダーシップの核となる。(中略)あなたにとっての自分らしさやこだわりを周りの人に伝えられるフレーズは何でしょうか。(以下略)

(出典)「リーダーは自然体」(増田弥生、金井壽宏)

 上記以外にも「本当の自分(Authenticity)」を考える際に、より具体的なとっかかりがあった方がいいかもしれません。ここで面白い文章を紹介します。次の文章を参考にして、みなさんも「あなたは誰ですか?」と質問されたら何と説明するかを考えてみてください。

本当の自分(Authenticity)
あなたは誰か
 最初のクラスで、私は学生たちに一見単純だが複雑な質問している。それは「あなたは誰ですか」という質問だ。そして意見が出やすいように、『Anger Management (邦題:NY式ハッピー・セラピー)』という人気のコメディー映画の一場面を見せる。怒りの抑制を学ぼうとするセラピーグループの中で以下の会話が行われるシーンだ。ファシリテイターは新しくメンバーとなった男に、一見簡単そうな、こんな質問を投げかける。

「それじゃあデイヴ、話してくれ。君は誰だね」
デイヴが答える。「僕は大手ペット製品会社の課長代理で…」
ファシリテイターは話を遮る。「何をしているかを聞いているんじゃないんだ。君が何者かを話してくれ」
デイヴは言う。「あぁ、では、僕は少々テニスをするのが好きで…」
ファシリテイターが再び彼を止める。「君の趣味じゃないんだよ、デイヴ。私が知りたいのは、君が誰かってことさ」

窮地に立たされた様子のデイヴ。「わかりません。質問に答えようとしているんだけど、どうやったらいいかわからないんです。よかったら良い答え方の例をもらえませんか」と言うと、グループの他のメンバーを見て尋ねる。「君は何と答えたんだい?」
ファシリテイターはあざ笑う。「君はジョーに、君が誰なのかを教えてもらおうっていうのかい」すると、みんなが笑う。

デイヴは目に見えて動揺する。「いえ、僕はその…、のんびりしたいいやつで、ときには冷静さを失うこともあるかもしれないけど」
だが、ファシリテイターはまたもや彼を遮る。「デイヴ、君がしているのは君の性格の説明だ。私が知りたいのは、君が誰かということなんだよ」

 ついにデイブは怒りを抑えきれなくなって感情を爆発させる。「あんたが何を言わせたいのかわからないんだよ!」

(出典)「スタンフォード大学マインドフルネス教室」(スティーヴン・マーフィ重松)

 改まって「あなたは誰ですか?」と問われると、デイブのように途中で混乱してしまうのも当然です。実際のところ自分でもよく分からないのですから。
 ゲーテも次のように言っています。

「いつの時代にも繰り返し言われてきたことだが、」とゲーテはつづけた、「自分自身を知るように努めよ、とね。しかしこれは考えてみると、おかしな要求だな、今までだれもこの要求を果たせたものなどいないし、もともと、誰にも果たせるはずはない。(以下略)」

(出典)「ゲーテとの対話(中)」(エッカーマン)

 結局「本当の自分(Authenticity)」を理解するためには、深く真摯に自問を続けるしかありません。

次に「自分はどうありたいのか」「自分はどのように生きたいか?」を問いかける

 これまで特別に意識していなかったかもしれませんが、自分の価値観・大切にしているもの・こだわり・自分らしさなどが意識されるようになると、ある程度「本当の自分(Authenticity)」が浮き彫りになってきます。そこで次に考えて欲しいのが下記事項です。
 ◆自分はどうありたいのか?
 ◆自分はどのように生きたいか?

 上記の問いは、少し大げさな言い方をすれば、自分の「志」「夢」を問われていることと同じかもしれません。あなたは何を志していて、将来どんなふうになっていたいですか?
 ここでのポイントは、何をやりたいかではなく、どういう状態になっていたいのかを考えることです。生涯が終わりに近づいたとき、自分の人生を振り返って、どういう状態だったら満足だと感じるでしょうか?
 このことを考えるうえで参考になるのが、アップルのスティーブ・ジョブズ氏が2005年のスタンフォード大学の卒業式で行った伝説のスピーチです。あまりにも有名なスピーチなのでご存じの方も多いかもしれませんが、ここでは本記事に関係するところだけ抜粋して紹介しましょう。

3つ目の話は死についてです。
 私は17歳のときに「毎日をそれが人生最後の一日だと思って生きれば、その通りになる」という言葉にどこかで出合ったのです。それは印象に残る言葉で、その日を境に33年間、私は毎朝、鏡に映る自分に問いかけるようにしているのです。「もし今日が最後の日だとしても、今からやろうとしていることをするだろうか」と。「違う」という答えが何日も続くようなら、何かを変えなければならない時期にきているということです。
 自分はまもなく死ぬという認識が、重大な決断を下すときに一番役立つのです。なぜなら、永遠の希望やプライド、失敗する不安…これらはほとんどすべて、死の前には何の意味もなさなくなるからです。本当に大切なことしか残らない。自分は死ぬのだと思い出すことが、敗北する不安にとらわれない最良の方法です。我々はみんな最初から裸です。自分の心に従わない理由はないのです。(中略)

 誰も死にたくない。天国に行きたいと思っている人間でさえ、死んでそこにたどり着きたいとは思わないでしょう。死は我々全員の行き先です。死から逃れた人間は一人もいない。それは、あるべき姿なのです。(中略)

 あなた方の時間は限られています。だから、本意でない人生を生きて時間を無駄にしないでください。ドグマにとらわれてはいけない。それは他人の考えに従って生きることと同じです。他人の考えに溺れるあまり、あなた方の内なる声がかき消されないように。
 そして何より大事なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことです。あなた方の心や直感は、自分が本当は何をしたいのかもう知っているはず。ほかのことは二の次で構わないのです。(以下省略)

ハングリーであれ。愚か者であれ(Stay Hungry. Stay Foolish.)

(出典)2005年6月12日スタンフォード大学の卒業式で行ったスティーブ・ジョブズ氏のスピーチより抜粋

 スティーブ・ジョブズ氏のスピーチを読んでみて、みなさまはどのように考え直したでしょうか。

「自分はどうありたいか」が明確になれば「何をやるべきか」は絞られます

 ここまで、「本当の自分」とは何か、「自分はどうありたいのか」を考えてもらいました。この段階まではっきりすれば、「何をしたいか」「何をすべきか」も絞られます。ここで大事なのは、心の底から突き動かされるような衝動によってやりたいことは何なのか、それをやっていて生き生きと輝いているのか、ということです。
 確かに現実はそんなきれいごとばかりでないことは承知しています。「心の底からやりたいことをやれる人生なんてほとんどないよ、そんな人はごく一握りの幸せ者だよ」という意見も、この年齢になるとよくわかります。それでも、これから人生を生き抜く若い方に対して、私は次のことを強く呼びかけたいのです。


 「自分が生き生きとするために、心がそうしなさいと呼びかけるものは何ですか」と。


 日常の雑務に流されて毎日を過ごしてもいいですが、人生の節目、節目では立ち止まって考えてきてください。人生に対する考え方が変わるはずです。

 ちなみに私が生き生きとしているのは読書をしたり、文章を書いたり、人にものを教えているときです。このブログ記事を書くことも、自分が生き生きと過ごしていくためにしていることです。


 「心の底からやりたいことをやる」ということに関して、私がいつも思い出す言葉があります。明治から昭和にかけて活躍した日本画家・木島櫻谷(このしまおうこく)氏の言葉です。木島氏は自分の作品を夏目漱石に酷評されたことがあるのですが、それを意識してのことなのか、木島氏は晩年こんなことを言っていたそうです。

絵を描く時は のっぴきならぬ やむにやまれぬ 心からの欲求で 思うだけ 腹のふくれるだけ 描けばそれでよい。人が褒めても 笑っても どうでもよい。
世間の毀誉褒貶を心外に置くこそ 作画の本意であろう。

(出典)NHK日曜美術館 2017年11月19日「漱石先生 この絵はお嫌いですか~孤高の画家 木島櫻谷~」より

 のっぴきならぬ、やむにやまれぬ心からの欲求で、本当にしたいことは何なのか。何かをする際に常に自問したい言葉です。

「今」「ここ」をどれだけ大切に生きるか

 最後に、「今」という時間と「ここ」という場所をどれだけ大切に生きるかということになります。人生を生き抜くコツはひたすらそれを続けていくことだと思います。

 ここまで深く自問したうえで、とにかく行動を起こしてください。自分では気がついていないかもしれませんが、そうすることによって、あなたはリーダーになるための一歩を踏み出したことになります。

今回のまとめ

◆「本当の自分(Authenticity)」って何ですか?(価値観・こだわり・大切にしているもの・自分らしさなど)
◆心の底から自分を突き動かすものは何ですか?「志」「夢」は何ですか?
◆やむにやまれぬ心から衝動で突き動かされて、将来どうなっていれば、生き生きと過ごせていますか?
◆自分の心が「そうしなさい、そうありなさい」と呼びかけるものは何ですか?
◆それらを意識して一歩を踏み出し、さらに行動を続けていくことです。
◆継続した行動の過程でフォロワーが生み出されます。
◆その結果としてあなたはリーダーになるのです。

 次のように自問してみましょう。

おすすめ図書

「リーダーシップの旅 見えないものを見る」(野田 智義、金井 壽宏)

 今回のブログ記事の考え方は本書から大いに影響を受けています。この本ではリーダーシップをリーダーに求められる資質とか能力に求めるのではなく、リーダになるまでの成長プロセスとしてとらえています。リーダーになるためには次の3段階のプロセスがあると考えています。
①リード・ザ・セルフ(自らをリードする)
②リード・ザ・ピープル(人々をリードする)
③リード・ザ・ソサエティ(社会をリードする)

 今回の記事では、記事のボリュームの関係上「①リード・ザ・セルフ(自らをリードする)」に内容を限定しましたが、リーダになるまでの成長プロセスという観点でリーダーシップを一貫して考えるためには、ぜひ全編を通してお読みいただきたい本です。
 本書は野田氏と金井氏の対談形式で書かれており、難しい箇所もなく簡単に読み通せます。そんなこともあり、本書にサッと目を通しただけで表層的な理解で終わってしまう人もいるかもしれませんし、人生に冷めた見方をするような人にとっては「それなりにいいこと言っているけど、世の中そんなに甘くないよ」のようなドライな感想を抱く人もいるかもしれません。感想は人それぞれで構いませんが、私は本書から大いに元気をもらえました。何かを始めようという気にさせられます。若くて純粋な人ほど感化されるところがあるでしょう。
 ただ気を付けなければいけないのは、読んだ直後はやる気になっても、健康ドリンクとして同じでその効き目が一過性で、しばらくすると元に戻ることがないようにしなければなりません。そうならないためには、時折読み返して初心に帰るのがいいでしょう。
 いずれにしても、まだ読んでいない方はぜひ一度お読みください。元気が出ます。

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ハットさん
ハットさん

人生、自分らしく生きたいですよね。

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